ロードス戦記のロードス島を舞台にした二次創作小説 作:シットライヌ
静寂に包まれていた大闘技場が、一瞬ののち、地鳴りのような大歓声に揺れた。
「すげえ! 誰も殺さずに勝っちまったぞ!」
「あいつら、ただの剣奴じゃない!」
観客たちは血みどろの惨劇ではなく、絶望的な状況下で見せつけられた圧倒的な実力と、誇り高き冒険者たちの姿に熱狂していた。
だが、貴賓席から見下ろす豪商と酒場の主人は、顔面を土気色にして立ち上がった。
「ば、馬鹿な! ええい、何をしている! 弓兵部隊、あいつらを射殺せ! 契約違反で処刑しろ!」
闘技場の縁にずらりと並んだ警備兵たちが、一斉にクロスボウを構える。
「リアナ、目眩ましを!」
弦九郎の鋭い声が響いた。
「言われなくても! 『閃光(ホーリー・ライト)』!」
リアナの杖の先から強烈な光が弾け、闘技場を真っ白に染め上げる。警備兵たちが「目が!」と悲鳴を上げて射撃を乱す中、フィリアが両手を広げて風の精霊に呼びかけた。
「精霊さん、私たちを守って!ミサイル・プロテクション」
突風が巻き起こり、五人の体を飛び道具から、守る。
「おおおっ、そらよっと!」
リュートが槍の石突を闘技場の壁に突き立て、棒高跳びの要領で軽やかに宙を舞う。そのままバルゴの肩を足場にして跳躍し、見事に貴賓席のバルコニーへと飛び込んだ。
「ひぃっ!?」
腰を抜かす豪商と酒場の主人の前に、漆黒の兜を被った弦九郎が、音もなく現れる。
その手には冷たい光を放つ刀が握られ、切っ先は寸分違わず豪商の太い喉元に突きつけられていた。
「け、契約書が……! ライデンの法が……!」
「法だと? 毒を盛り、偽の借金をでっち上げるのが貴様らの法か」
兜の奥で光る弦九郎の冷徹な眼差しに、豪商は歯の根が合わないほど震え上がった。背後では、バルゴが護衛の兵士たちを素手の投げ技で次々と放り投げている。
「さあ、その汚い羊皮紙を破り捨ててもらいましょうか。それと……私たちが被った精神的苦痛と不当な拘束に対する正当な『慰謝料』もね」
リアナがツカツカと歩み寄り、にっこりと極上の笑顔を浮かべた。その手には、しっかりと豪商の金庫の鍵が握られている。
数時間後。
ライデン自由都市国家同盟の裏口から、逃げるように街道を歩く五人の姿があった。
「あーあ、せっかくの豪商の街だったのに、結局ふかふかのベッドで眠ることもできなかったわ!」
リアナが膨れっ面で文句を言う。
「まあいいじゃねえか。あの悪徳商人からふんだくった……いや、正当に頂いた慰謝料で、当分の旅の資金は潤ったんだからよ」
リュートが重くなった革袋をチャリンと鳴らす。
「全く、次から次へと厄介事ばかりだ。大将、次はどっちへ向かうんだ?」
バルゴの問いに、弦九郎は兜を脱いで夕日を見つめた。
「風の吹くまま、気の向くままだ。我らの征く道に、平穏など最初から用意されてはおらんのだからな」
「もう! そういう脳筋なところが一番厄介なのよ!」
リアナの呆れ声とフィリアの笑い声が、夕暮れの空に響き渡る。
彼らのの果てしない珍道中は、まだまだ終わる気配を見せなかった。