ロードス戦記のロードス島を舞台にした二次創作小説 作:シットライヌ
街の喧騒から遠く離れた岩山の麓に、先代ギルドマスターが遺した石造りの館は静かに佇んでいた。
「……いやらしい作りだ。鍵穴の罠を解除しようとすれば、足元の床が抜ける仕掛けになってる」
扉の前に立ったリュートが、十分な距離を取ると、長柄の槍を鋭く突き出して扉の蝶番を正確に打ち砕いた。鍵穴から猛毒の針が飛び出したが、誰にも当たらずに虚しく床へ落ちる。
しかし、扉の奥に待ち受けていたのは、機械仕掛けの罠だけではなかった。
「ギィィ……」と乾いた音を立てて暗がりから這い出してきたのは、錆びた曲刀を握る骸骨(スケルトン)や、腐肉をぶら下げた動く死体(ゾンビ)、そして乾いた包帯を巻かれた砂漠のミイラ(マミー)の群れだった。先代マスターが館の防衛のために配置した、不死の番人たちである。
「チッ、死人どもか! 骨は俺に任せな!」
バルゴが豪快に踏み込み、愛斧でスケルトンの頭蓋を粉砕する。
「近づけさせるか!」
リュートが槍の鋭い刺突でゾンビを壁に縫い止め、その横をすり抜けたマミーを、漆黒の兜を被った弦九郎が冷徹な一閃で両断する。
その見事な戦いぶりを背後で見つめながら、エリアスは自らの無力さに強く唇を噛み締めていた。
(本来であれば、ファリスの神官たる私が祈り一つで浄化すべき不浄の者たち……。だが、奇跡を起こせぬ私には、剣を振るう彼らの背中に隠れることしかできない。こんな私が、祖国の民を導く教皇などと……)
自己嫌悪に押し潰されそうになる神官の肩を、敵の血を払った弦九郎が通りすがりに軽く叩く。
「心ここにあらず、だな。迷いは自らを縛る檻となるぞ、神官殿」
館の内部は、まさに盗賊の裏をかく悪意の展覧会だった。宝箱に見せかけただけの起爆装置、正しい手順を踏むと逆に起動する毒矢。しかし一行は、バルゴの怪力で壁ごと仕掛けを粉砕し、フィリアの風の精霊で毒煙を吹き飛ばし、盗賊の理屈が通じない「力技」で次々と罠を突破していく。
一行はついに館の最深部——中央に羊皮紙の置かれた石室へと足を踏み入れた。
だが、最後尾のエリアスが敷居を跨いだ直後、背後の重厚な鉄扉が地響きと共に落下した。
「閉じ込められた!? しまった、罠よ!」
リアナの叫びと同時に、天井に穿たれた無数の孔から、サラサラと赤い砂が滝のように降り注ぎ始めた。
「だめ、ただの砂じゃない……魔力を吸い尽くす『封魔の砂』だわ! 精霊も魔法も呼び出せない!」
フィリアが顔を青ざめる。バルゴが渾身の力で斧を叩きつけ、弦九郎が長刀を振るうが、呪符の刻まれた分厚い鉄扉は傷一つ付かない。
急速に膝の高さまで砂が積もっていく。呼吸を奪う細かい砂塵が密室に充満し、一切の武器も魔法も封じられた死の砂室の中で、五人と一人の神官は完全に退路を断たれていた。