ロードス戦記のロードス島を舞台にした二次創作小説 作:シットライヌ
赤い砂は容赦なく降り注ぎ、瞬く間に腰の高さまで到達した。
「くそっ、このままじゃ……!」
リュートが槍の石突で必死に扉を突くが、びくともしない。バルゴの豪腕も砂に足を取られて振るえず、弦九郎の兜の隙間にも細かい砂塵が入り込み、呼吸を奪っていく。魔法を封じられたリアナとフィリアは、互いに身を寄せ合って砂の重圧に耐えていた。
死の足音が目前に迫る中、エリアスの心に去来したのは、次期教皇としての重圧でも、奇跡を起こせぬ己への絶望でもなかった。
(彼らは、この危険な任務の中で見ず知らずの私を庇い、血を流して戦ってくれた。それなのに、私は己の保身や権威のことばかりを……!)
真の正義とは何か。至高神ファリスが求めるものとは何か。
それは、力や奇跡を見せつけることではない。他者を救い、正しき道を切り拓こうとする純粋な魂の在り方そのものではないか。
エリアスは、砂に埋もれながら静かに膝をつき、両手を強く組んだ。迷いは完全に消え去っていた。己がどうなろうと構わない。ただ、この気高き冒険者たちを救いたい。
「おお、至高なるファリスよ! 奇跡を知らぬ我が身など、どう引き裂かれても構いません! 願わくば、この勇敢なる者たちを救い給え!」
無私の祈りが石室に響き渡った瞬間だった。
エリアスの組んだ手から、太陽のような眩い白光が爆発的に迸った。魔力を封じるはずの赤い砂が、圧倒的な神の威光の前に浄化され、さらさらと無害な白砂へと変わっていく。
光はさらに激しさを増し、神聖な衝撃波となって重厚な鉄扉を内側から木端微塵に吹き飛ばした。
「今だ、出ろ!」
弦九郎の一喝と共に、五人と一人の神官は崩れゆく石室から脱出した。後には、神聖な光の余波によって燃え上がり、灰となっていく先代ギルドマスターの『遺言状』だけが残されていた。
館の外に出ると、フレイムの広大な砂漠を赤く染める夕日が彼らを照らしていた。
「すげえ……大魔法使い顔負けの光だったぜ。さすがは最高位の神官様だ」
息を整えながら感嘆するバルゴに、エリアスは静かに首を振った。
「いいえ。私が神の御業に触れたのは、生涯でこれが『ただひとたび』きりです。そして……きっと、もう二度と奇跡を頼ることはないでしょう」
しかし、その横顔にもう翳りはなかった。奇跡を振るう力がなくとも、人を導き、己の正義を貫くことはできる。その確信を得たエリアスの瞳は、祖国ヴァリスの教皇という重責を真っ直ぐに見据えていた。
「……良い顔になったな。その分なら、立派に務めを果たせるだろう」
弦九郎が静かに頷く。
「ええ。あなた方に出会えて良かった。この『ただひとたびの奇跡』は、私の生涯の誇りです」
風と炎の国で果たされた密かな依頼。冒険者たちは、また一つ奇妙な伝説を見届け、新たな旅路へと歩み出すのだった。