ロードス戦記のロードス島を舞台にした二次創作小説 作:シットライヌ
広場での言い争いは、収束するどころかますますエスカレートしていく。
リアナは知識神ラーダの教義に従い、理知的に場を収めようと彼らの間に歩み出た。
「皆様、どうか落ち着いてください。そもそも『妖魔にすり替わった』という情報の出処はどこです? 客観的な証拠や魔力的な裏付けもなく剣を抜くなど……」
「知識神の徒よ! 悪しき闇の気配を感じ取るのに理屈など不要!」
鼻息を荒くするファリスの聖騎士。
「証拠がなくとも、相手が妖魔ならばまずは保護し、更生への道を……」
譲らないマーファの司祭。
「小難しいことはいい! 強き敵との戦いこそ我が無上の喜び!」
「戦いで建物が壊れた場合の賠償金について、先に契約書を……」
リアナの正論は、四人の狂信と熱意の渦に呆気なく呑み込まれた。
「……駄目だわ。誰一人として他人の話を聞いていない」
リアナが頭を抱えてうずくまったその時、「静まれい!!」と腹の底に響くような一喝が広場を震わせた。
弦九郎である。彼は黒漆塗りの胴丸の感触を確かめると、威風堂々と神官たちの間に割って入った。
「武家たる領主の御膝元で騒ぎを起こすなど、言語道断。事の次第は、遍歴の徒であるこの弦九郎が見極めてくれよう」
「おっ、大将がやる気だ。こりゃあ一暴れできそうだな」とドワーフのバルゴが髭を撫で、リュートが「また面倒なことに首を突っ込んで……報酬は出るんだろうな」と呆れたように肩をすくめる。精霊使いのフィリアは「わーい、お城に行けるの?」と呑気なものだ。
その時、広場の奥から数人の護衛を連れた男が現れた。
「おお、静寂をもたらしていただき感謝する。黒騎士殿、それに諸国を旅する歴戦の冒険者の方々とお見受けする」
上質な絹の着物に陣羽織を羽織ったその男は、現領主の実弟・幻蔵(ゲンゾウ)と名乗った。彼は悲痛な面持ちで、一行と神官たちに向かって深く頭を下げた。
「恥を忍んで申し上げる。我が兄、すなわちこの地の領主は、恐ろしき魔の者にたぶらかされているのだ。妻を名乗るあの女の正体は、忌まわしき『ダークエルフ』。兄上は邪悪な呪術をかけられ、もはや正気を失っておられる。どうか皆様のお力で、兄上を救い出してはいただけないだろうか!」
「ダークエルフ……?」
リアナは怪訝に眉をひそめた。
「お待ちください、幻蔵様。ダークエルフは森の妖精族であり、性質に差はあれど人を食らう『妖魔』ではありません。それに、人をたぶらかすような精神魔法を種族全体が当たり前のように使えるわけでも……」
「ええい、ラーダの神官殿は理屈がお好きらしい! 黒き肌を持つエルフなど、邪悪の象徴ではないか! それに兄上があのような女にうつつを抜かすなど、術に掛けられている以外の何物でもない!」
幻蔵が大声で遮ると、ファリスの聖騎士が我が意を得たりと剣を天に掲げた。
「その通り! 闇に属する者は光をもって即座に浄化せねばならん! いざ、領主の館へ!」
「お待ちを! まずは説得を!」
「一番槍は俺がもらう!」
「あっ、報酬の交渉がまだ……!」
四人の神官戦士たちは、またしてもバラバラの思惑を叫びながら、領主の館へ向かってドタバタと駆け出していってしまった。
再び残されたリアナは、深い、深い深い溜息をついた。
(……どうしてこう、極端な人たちばかりなの……)
一方で、ハーフエルフのリュートだけが、ふと目を細めた。悲痛な顔を作って神官たちを見送る幻蔵の瞳の奥が、一瞬だけ、冷酷な嘲笑の光を帯びたのを見逃さなかったのだ。
「いいだろう、幻蔵殿」
弦九郎が刀の柄を軽く叩き、静かに、だが力強く宣言する。
「我ら一行も館へ向かおう。兄君が真に魔の者にたぶらかされているのか、それとも……別の『闇』が潜んでいるのか。この目でしかと見極めて進ぜよう」
こうして、「羽根頭」ならぬ五人の冒険者たちと、全く噛み合わない四人の神官戦士たちによる、大混乱の館への突入が幕を開けた。