ロードス戦記のロードス島を舞台にした二次創作小説 作:シットライヌ
ズン、ズン……と、大地を揺らすような低い足音と禍々しい詠唱が中庭を包み込んだ。
先ほどまで目を回していた四人の神官戦士たちも、その邪悪な気配に弾かれたように立ち上がる。
館の塀を蹴り破り、黒い法衣を纏った邪教徒たちを引き連れて姿を現したのは、他でもない幻蔵だった。その手には、先ほどのしおらしい弟の顔からは想像もつかない、赤黒い光を放つ邪教の杖が握られている。
「チッ……小賢しい冒険者どもめ。あの馬鹿な神官どもを嗾けて、混乱に乗じて兄上とあの女を始末するはずだったものを!」
幻蔵の顔は、どす黒い欲望と暗黒神ファラリスへの狂信で醜く歪んでいた。
「次期領主などと生温い! 我がファラリスの力をもってこの領地を血で洗えば、我こそが絶対の支配者となれるのだ! あのダークエルフの女は、この石頭どもを暴れさせるための丁度いい口実だったというのにな!」
その身勝手極まりない告白に、真っ先に反応したのはファリスの聖騎士だった。
「なっ……貴様、正真正銘の邪教徒であったか! よくもこの私を騙したな!」
「騙される方が馬鹿なのだ、光の狂信者め! やれ、我が下僕たちよ!」
幻蔵の号令と共に、邪教徒たちが一斉に襲いかかってくる。
「おお、迷える魂よ! 今こそ悔い改め……ひっ!」と逃げ惑うマーファの司祭。
「素晴らしい! 妖魔より邪神の使徒の方が手応えがありそうだ!」と特攻していくマイリーの神官戦士。
「お待ちを! 邪神討伐の特別手当を請求させていただきますよ!」と叫んでそろばんを弾くチャ・ザの神官。
相変わらず大混乱の神官たちを横目に、リアナは深いため息とともに杖を構えた。
「フィリア、リュート! あの面倒な人たちの援護を!」
「はーい! 風の精霊さん、お願い!」
「まったく、安請け合いしやがって……!」
フィリアが呼び出した風の刃が邪教徒たちの足を止め、リュートの正確な槍捌きが次々と彼らの杖を弾き飛ばす。
「バルゴ、道を空けろ!」
「おうよ! 大将の晴れ舞台だ、邪魔する奴は俺の斧が叩き割るぜ!」
豪快に笑うドワーフが、突進してくる邪教徒の陣形を重い一撃で粉砕する。ぽっかりと空いた直線の道の先には、忌々しげに舌打ちをする幻蔵の姿があった。
「おのれ、マーモの黒騎士ふぜいが……! 闇の炎に焼かれよ!」
幻蔵が杖を振り上げ、漆黒の炎を放とうとした瞬間——弦九郎は既にその懐へと踏み込んでいた。
「我が故郷の闇は、貴様のような小悪党が語るほど軽くはない」
静かな、しかし確かな怒りを込めた一閃。
漆黒の甲冑が風を切り、鞘から放たれた白刃が幻蔵の杖を真っ二つに両断し、そのまま彼の胸元を浅く、しかし確実に斬り裂いた。
「がはっ……!」
血を吹き出し、その場に崩れ落ちる幻蔵。主を失った邪教徒たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、それをマイリーの神官戦士が嬉々として追いかけていく。
「……終わりましたね」
リアナがホッと息をつくと、領主とダークエルフの妻が身を寄せ合いながら歩み寄ってきた。
「冒険者の方々、何と礼を言えばよいか……。まさか実の弟が、あのような邪教に染まっていたとは」
「気に病むことはない。我らはただの通りすがりだ」
弦九郎は刀の血振るいをして、カチャリと鞘に収めた。
「さあ、見届けたな神官殿たち!」
弦九郎が振り向くと、残された三人の神官たちは気まずそうに視線を逸らした。
「う、うむ。邪神の徒を討ち果たしたファリスの栄光に免じ、今回はこれにて……」
「やはり愛は全てを救うのです……」
「あの、壊れた門の修理費と討伐報酬なんですが……」
「いい加減にしなさーい!!」
再びリアナの怒号が中庭に響き渡り、バルゴが腹を抱えて大笑いする。
マーモ黒騎士団領の空に、今日もまた平和と、少々の頭痛が戻ってきたのだった。