ロードス戦記のロードス島を舞台にした二次創作小説   作:シットライヌ

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第7話

古代語の碑文を読み終えたリュートの言葉に、リアナが悲痛な顔で補足した。

「……カストゥールの古代魔法『時間停止(タイム・フリーズ)』ね。でも、術者自身の生命力を動力源にするなんて無茶な使い方をすれば、当然術者は……」

 

「ヴェイン様……!」

背後から悲痛な叫び声が響いた。いつの間にか、広間に残っていたはずのセシルの生霊が、彼らの後を追ってきていたのだ。

彼女はすがるように水晶の柱に取りすがり、半透明の涙を流した。

「ああ、なんて馬鹿な人……。私だけを生きながらえさせるために、ご自身の命を投げ打つなんて!」

 

「……逃げたわけではなかったか。見事な覚悟だ」

弦九郎は兜を深くかぶり直し、静かに同情の意を示した。

「だが、このままではお前たちは永遠にこの冷たい迷宮に囚われたままだ。リアナよ、この術を解く手立てはあるか?」

 

「ええ。この中央の水晶を破壊すれば、彼女に掛けられた時間停止の魔法も、迷宮の封印も解けるはずよ。でも……」

リアナが言い淀んだ瞬間、地響きと共に部屋の奥の壁が崩れ落ちた。

濛々たる土埃の中から現れたのは、ミスリル銀で装甲された巨大な古代の鉄巨人(アイアンゴーレム)だった。

 

「やっぱり! 動力炉を破壊しようとすれば、防衛機構が作動するに決まってるわ!」

「おいおい、あんな硬そうなバケモノ、俺の斧でも歯が立たねえぞ!」

バルゴが焦りの声を上げるが、鉄巨人は容赦なく巨大な拳を振り下ろしてきた。

 

「フィリア、精霊の力で巨人の足元を崩せ! リュートは関節の隙間を狙え!」

弦九郎の的確な指示が飛ぶ。

「はーい! 大地の精霊さん、お願い!」

フィリアの呼びかけで石畳が波打ち、鉄巨人の姿勢が大きく崩れた。そこへリュートの投げ放った槍が、装甲の隙間にある魔法の伝導線を正確に撃ち抜く。

 

「今だ、大将!」

バルゴの合図とともに、弦九郎が地を蹴った。

「我が太刀筋、古代の鉄とて断ち斬らん!」

黒騎士の刀が青白い魔力を帯びる。リアナの魔力付与の魔法の効果だ——弦九郎の一閃が、巨人の胸部にある魔力中枢を見事に一刀両断した。

 

鼓膜を破るような轟音と共に鉄巨人が崩れ落ちると同時に、巨大な水晶の柱にひびが入り、粉々に砕け散った。

 

眩い光が部屋を包み込む。

光の中から、一人の青年の幻影がふわりと浮かび上がった。ヴェインの魂である。

六百年の時を経て、ついに二つの魂が向き合った。

 

『セシル……すまない。君をこんなに長く待たせてしまって』

『ヴェイン様……いいえ、貴方こそ、私のためにずっと……』

二人の生霊はしっかりと抱き合い、そして弦九郎たちに向かって深く、深く頭を下げた。

『名も知らぬ冒険者の方々。貴方たちのおかげで、私たちはようやく共に光の中へ還ることができます。心からの感謝を……』

 

優しい微笑みを残し、二人の魂は光の粒子となって、迷宮の天井へと吸い込まれるように消えていった。

それと同時に、迷宮全体が激しく揺れ始める。主を失った古代遺跡が崩壊を始めたのだ。

 

「脱出するわよ! 走って!!」

リアナの絶叫とともに、五人は元来た道を全速力で駆け抜けた。背後から迫る崩落の波を間一髪で躱し、開かれた入り口から外へとダイブする。

 

ズドオォォォン……!!

けたたましい音と共に、遺跡は完全に土砂の下へと埋もれ、ただの小高い丘へと姿を変えた。

 

「ゲホッ、ゴホッ……死ぬかと思ったわ……」

煤だらけになったリアナが地面に突っ伏す。

「全くだ。ロマンチックなのはいいが、結局、財宝の欠片も手に入らなかったじゃねえか」

バルゴが兜の砂を払いながら盛大にぼやき、リュートもやれやれと肩をすくめる。

 

弦九郎は静かに立ち上がり、崩れ去った遺跡に向かって一礼した。

「六百年の愛を成就させたのだ。武士の情けとして、無報酬でもよしとしよう」

「かっこつけてるけど、弦九郎の鎧、泥だらけだよー」

フィリアの無邪気なツッコミに、黒騎士は僅かに肩を落とした。

 

「……で? ここからどうやって森を抜けるのよ」

リアナの冷たい声が響く。周囲を見渡せば、相変わらず方向感覚を狂わせる鬱蒼とした「帰らずの森」が広がっているだけだ。

五人の冒険者たちの、迷子を抜け出すための果てしないドタバタ劇は、まだまだ続くのであった。

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