ロードス戦記のロードス島を舞台にした二次創作小説 作:シットライヌ
「帰らずの森」の鬱蒼とした木々をようやく抜け出た時、五人の体力は既に限界に達していた。視界の開けた先に現れたのは、重厚な石造りの建築群と運河が交錯する巨万の富の都——ライデン自由都市国家同盟である。
「帰らずの森」でうっかりと、妖精界に足を踏み入れてしまい,何とか物質界に戻る事が出来たが、戻る際に妖精界と物質界を繋ぐ門がライデン近郊の森に繋がってしまったようだった。
「やっと……やっとまともな町に着いたわ……」
リアナが泥のついたローブの裾を引きずりながら、街の石畳に倒れ込みそうになる。
「喉がカラカラだ。美味い酒と肉を寄こさねば、俺の斧が暴れ出すぞ」
ドワーフのバルゴも満足に口が回らないほど疲弊しきっていた。
弦九郎も無言のまま兜の庇を上げ、街の喧騒を睨むように見据える。精霊使いのフィリアと斥候のリュートも、一歩歩くごとに重い溜息をつく有様だった。
一行が吸い寄せられるように足を踏み入れたのは、港近くにある活気にあふれた大きな酒場だった。
「いらっしゃい! 森帰りの冒険者さんかい? いやあ、大変だったねぇ!」
気さくな笑顔を浮かべた丸顔の主人は、注文もしていないのに並々と注がれた麦酒と、香ばしい肉料理を大皿で運んできた。
「長旅の疲れにはこれが一番だ。ライデンの歓迎ってことで、この分はサービスにしとくよ!」
「親父、気が利くじゃないか!」
飢えた狼のように食らいつくバルゴに続き、空腹に耐えかねたリアナやリュートたちも次々と料理に手を伸ばした。弦九郎もまた、差し出された盃を静かに干した。
しかし、その直後——。
視界が強烈に歪み、手足から一瞬で力が抜けていく。
「なっ……これ、は……」
リアナが伸ばした手が盃を倒し、酒がテーブルに広がる。
「薬……だと……!?」
リュートが槍に手を伸ばそうとするが、指先一つ動かない。大笑いしていたバルゴがドスンと大きな音を立てて床に崩れ落ち、弦九郎もまた、意識の闇へと沈んでいった。
次に五人が目を覚ましたのは、湿っぽく冷たい石造りの地下牢の中だった。
全員の武器や魔法の道具は全て奪われ、手足には頑丈な鉄枷が嵌められている。
「やあ、お目覚めかい? 冒険者諸君」
牢の格子の向こうで、あの愛想の良かった酒場の主人が、豪奢な服を着た太った男——ライデンの豪商の傍らで下品な薄笑いを浮かべていた。
商人風の男は、枚数の多い羊皮紙を気取った動作で広げて見せる。
「君たちは昨夜、我が店の超高級酒『竜の血』を千瓶も飲み干し、店内で大暴れして壊したのだよ。これがその損害賠償と借金の契約書だ。君たちの手形と署名も、しっかりと残っている」
「ふざけるな! 騙し討ちにして勝手な書類を捏造したくせに……!」
リアナが怒りに震えて叫ぶが、豪商は嘲笑うように鼻で鳴らした。
「ハッ! このライデンでは契約と法が全てなのだよ。返せぬ莫大な借金は……身体で払ってもらう。自由都市が誇る公的娯楽、円形闘技場(コロッセオ)の『剣奴』としてな!」
重い鉄格子が開き、武装した警備兵たちが一行を引きずり出しにかかる。着々と張り巡らされた悪辣な罠の中、五人は熱気に満ちた大闘技場の地下控え室へと連行されていくのだった。