ロードス戦記のロードス島を舞台にした二次創作小説 作:シットライヌ
大闘技場の地下控え室の巨大な鉄格子が軋んだ音を立てて持ち上がり、耳を割んばかりの歓声と興奮の熱気が五人を包み込んだ。
すり鉢状の巨大なグラウンドを見下ろす観客席は、血と刺激を求めるライデン市民や豪商たちで埋め尽くされている。
「見栄えのいい奴らには、自慢の獲物を持たせた方が客も喜ぶというものだ」
牢番たちから返却された愛用の装備——漆黒の大鎧に兜を被った弦九郎、重厚な斧を担ぐバルゴ、鋭い槍を手にしたリュート、そして杖を握るフィリアとリアナ——五人は堂々と陽の当たる闘技場の中央へと足を踏み出していた。
「薬で眠らせて借金漬けにした挙句、見世物小屋で戦わせるなんて……ライデンのやり方には反吐が出るわね」
リアナが愛用の杖を固く握りしめ、貴賓席を見上げて眉をひそめる。
「まあ待て、ラーダの神官殿。自分たちの獲物を手元に取り戻せたんだ、いくらかマシだろ?」
バルゴが慣れた手つきで愛斧の柄を確かめ、グッと口角を上げた。
「第〇回・歓喜の決闘! 最初の獲物を解き放て!」
司会者の威勢の良い声とともに、対面の頑丈な柵が一斉に跳ね上がった。
「ギギャアァァッ!!」
「クケケケッ!!」
現れたのは、汚泥のような皮膚と醜悪な顔つきをした大量のゴブリンの群れであった。飢えた目をギラつかせ、粗末な短剣や棍棒を手にした小鬼たちが、怒濤の勢いで一行へとなだれ込んでくる。
「ゴブリンだと……? 冒険者相手に舐められたものだな」
弦九郎は静かに兜の面頬越しに敵陣を見据え、刀の柄に手を添えた。
「フィリア、風で陣形を乱せ! リュート、前衛をこじ開けろ!」
「はーい! 風の精霊さん、あいつらを吹き飛ばして!」
フィリアが呼び出した突風がゴブリンの先頭集団を丸ごと足止めし、そこへ踏み込んだリュートの槍が風を切って唸る。石突きで敵の武器を弾き、鋭い穂先が群れの後方で喚いていた指揮役のゴブリンの喉元を正確に貫いた。
「大将! こいつらは俺に任せな!」
バルゴが豪快に笑いながら愛斧を大回転させ、迫り来るゴブリンたちを群れごと薙ぎ払っていく。その武勇の隙を突いて死角から飛びかかる影があったが、弦九郎の一閃が空を裂いた。
刀の強烈な斬撃。それだけで数頭のゴブリンが、一瞬で吹き飛んだ。
瞬く間の全滅劇。
血みどろの苦戦を予想していた観客席からは、拍手と驚愕のどよめきが湧き起こった。
「な、なんだあいつらは!? 一瞬でゴブリンの群れを片付けただと!?」
貴賓席で汗を拭いながら叫ぶ豪商。
「ええい、仕方がねえ! 次のカードだ! 同じく借金で縛り上げた冒険者どもを出せ! 互いに殺し合わせろ!」
反対側のゲートが開き、血走った目をした四人の冒険者たちが引きずり出されてきた。彼らもまた、豪商の悪辣な罠に嵌められ「相手を殺さねば出られない」と唆された哀れな犠牲者たちだった。
「すまねえ……! 俺たちも生きてここを出たいんだ! 悪く思うなよ!」
大剣を掲げた戦士を筆頭に、必死の様相で武器を構えて襲いかかってくる。
「相手は本気よ! どうするの弦九郎!?」
リアナの問いに、弦九郎は静かに刀の刃を返し、峰を相手に向けた。
「奪い合う筋合いはない。誰一人として死なせるな」
直後、弦九郎の体が幻のようにかき消えた。
「なっ!?」
襲いかかった大剣の戦士の視界から弦九郎が消え、次の瞬間には背後に立ち、首筋へ正確な峰打ちを叩き込んでいた。苦悶の声を上げて崩れ落ちる戦士。
「腕を狙うな! 武器だけを弾け!」
リュートの槍がしなやかに宙を舞い、弓を構えた敵の腕を柄の部分で痛打してピンポイントで武器を叩き落とす。
「うわあっ!?」
動転した敵の魔法使いに対し、リアナが古代語魔法を唱えた。
「静寂と安らぎを! 『眠りの雲(スリープ・クラウド)』!」
魔法使いとその傍らの斥候が、その場に崩れ落ちるように高いイビキをかき始めた。
残る一人の斧使いが猛然とバルゴに襲いかかるが、バルゴは自らの愛斧をシースに収めると、丸腰のまま相手の懐に飛び込み、巨体を活かした渾身のタックルで地面に押し倒した。
「がはっ……! くそっ、殺せ! 殺して俺たちの負けにしろ!」
下敷きになった敵の戦士が絶望の叫びを上げる。
しかし、バルゴはニヤリと笑うと、その男の額を指で小突き、ガハハと大声で笑った。
「バカ言え! 同じ冒険者が、あんな肥え太った悪徳商人の見世物で死んでたまるかよ!」
静まり返る大闘技場。
血みどろの殺し合いを期待していた観客たちは、傷一つ負わせずにゴブリンを退け、冒険者たちを誰一人殺さずに無力化してみせた五人の圧倒的な実力と、命を奪わない戦いぶりに、息を呑んでいた。