大学で『NTR男』と呼ばれていて避けられているのに、後輩たちは臆せず話しかけて来る。その所為で周りから「次はあの子が…」って言われているんだけど。 作:主義
「なぁ…お前って鋼のメンタルなのか?」
「なんでですか?」
「だって周りの視線とか全く気になってない感じだろ。そうじゃないとオレの目の前で食事するとか無理だろ」
「メンタルがどうかは分からないですけど、私は別に周りの視線とか気にしませんよ」
「…メンタル強いな」
「だって周りの人は私の大切な人ではないですから。私にとって大事なのはセンパイだけ。そのセンパイの隣にいるのが重要なことで、それ以外は別に気にしません」
ここまで自分をしっかり持っているのはすごいとしか言いようがないな。
「それに周りの人たちがセンパイの何を知っているって言うんですか。どうせ話したこともないし、噂しか知らない人たち。そんな人たちのことを私が相手する必要はありません」
「…そうか。本当にお前は変わっているな」
「ではセンパイのハンバーグを少しだけ後輩にくれたりしませんか?」
「別にいいが、お前ってそんなに食べるタイプだったか?」
「も~そういうことは女性に言っちゃいけないんですよ、センパイ」
「…そういうものか。すまない」
「謝ってくれたので許します!」
別に断る理由もないので、「わかった」というと海野は飛び上がる勢いで喜んでいた。あんなにメンタルは強いのに、ちゃんと子供っぽいところもあるんだよな、こいつって。
そしてナイフでハンバーグを切り分けて、一欠片を渡すとなぜか海野は首を横に振って来る。
「そうじゃありません」
「欲しいんじゃないのか?」
「欲しいですよ。でも、私はセンパイに食べさせて欲しいんです」
「お前は何を言ってるんだ?」
「センパイに食べさせて欲しいんですよ。あ~んって」
「それをなぜ、オレとお前がやらないといけないんだ」
それにそんなことをしたらいよいよ変な噂が立ちかねない。オレの耳には入っていないが、大学で海野と一緒にいる機会も多い。たぶん、もう噂が立ち始めている。
オレとしても問題がないし、海野の感じからして別に周りがなんというと気にしないだろう。だが、オレもオレ自身のことであれば気にしないが、海野のことを考えるとあんまり変な噂を立たせたくはない。
「私がセンパイとやりたいからです」
「はぁ…お前はもうちょっと人を選んだ方がいいぞ」
「選んでますよ」
「オレが周りからどんな風に呼ばれているか知ってるだろ」
「知ってますよ。『NTR男』でしたっけ」
「そんな奴に近付くのは危ないと思わないのか?」
「危なくないですよ。もう私ってフリーですし」
「そのフリーの理由を作った人間が目の前にいるんだが」
そうだ。オレが海野と出会った時、彼女には恋人と呼べる存在がいた。
海野は視線をあげて、天井を見つめていた。あの頃を思い出すように。
「私は感謝してます。センパイがいなかったら今でもあのクソ男と付き合ってたと思いますし」
「前の彼氏をそんな風に言わない方がいいと思うが」
「いいんですよ、あんな奴。センパイも知ってるでしょ?」
「まぁ…知ってはいるな」
別れたのはオレの責任だし。
その後、少しの間沈黙が続くかと思ったけど、海野はそんなことどうでもいいようで前の話に戻そうとする。
「ってあんな奴のことはどうでもいいんですよ!それよりハンバーグを早く食べさせてください!!」
「…その話に戻るのか?」
「今の私にとってそれが一番重要なの。逆にこれ以上重要なことは何もないです、早く食べさせてください!!」
「…だが…」
「もし、私のことを心配してくれているんだったらそんなことは考えないでください。私はセンパイにあ~んをしてもらえたら幸せな気持ちになれるんですから!」
海野は身振り手振りもしながら、オレのことを説得しようと頑張っている。
「それに私はセンパイと一緒じゃなきゃ生きていけませんので。だからセンパイは最後まで責任を取って、私と一緒にいてください」
出会った頃はこんな奴じゃなかったと思うが。でも、『責任を取って』という言葉はかなりくるものがある。
その後もたくさん色んなことを言われ、結局オレが折れた。
ハンバーグを海野の口の中へと運ぶ。
海野は何度も咀嚼を繰り返して、もういいだろうと思うまでずっと咀嚼していた。咀嚼している時も目を瞑って、味わっている感じを出していた。
「どうだった?」
「センパイと間接キスしちゃいました~」
「そんなことはどうでもいいから、味を聞いたんだが?」
「味はですねぇ…センパイのフォークで食べた、ハンバーグはとっても美味しいです!」
「オレのフォークは別に関係ないと思うが」
「いえ、センパイのフォークであ~んってしてくれたからこんなに美味しいんです。そうじゃなかったらこんなに美味しいって絶対に感じません」
なんで海野はこんなに自信があるんだよ。オレと食事をするだけでそんなに美味しくなるなんてことあるはずないのにな。
ここで終わらず、海野は自分が頼んだコロッケを切り分けて、オレに向けてあ~んをしてこようとする。
「はい、センパイ、口を大きく開けてください」
「いやだが」
「可愛い後輩の頼みです。センパイは口を開けて待っていてください」
「…いやだけど…」
そんな押し問答も虚しく、オレは海野の押しに負けて口を開けた。
コロッケは美味しいが、目の前の海野が満面の笑みを浮かべ過ぎて少し怖い。
「美味しいな」
「よかったです。私としてはセンパイにあ~んをしてもらえたり、あ~んできたりでもう満足です」
「…それはよろしいことで」
今日も海野美夜に振り回された。
ただ食事をするだけなのに。