大学で『NTR男』と呼ばれていて避けられているのに、後輩たちは臆せず話しかけて来る。その所為で周りから「次はあの子が…」って言われているんだけど。 作:主義
講義が終わってオレはトイレに行った。
そしてトイレから出ると面倒事が起こっていた。
海野が先輩らしき男たちに囲まれていたのだ。
あれだけモテそうな奴だったら、男に話しかけられるだろうなと思った。逆に今までその姿を見ないのがおかしいぐらい。
あんまり海野のことは褒めないが、あいつの容姿は本当にモデルでいたとしても通用するぐらいだと思うし。
別にこのまま立ち去っても良かったが、あいつは明らかに嫌な顔をしていた。だがそれを言い出せずにいる。
いつもの笑っている姿とは対照的過ぎて、ちょっと嫌な気持ちになる。あいつに一番似合うのは笑顔だ。
あんまり面倒事に巻き込まれたくはないんだが。
オレは海野の元へと歩いて行った。
「なんだ?」
「そいつオレの知り合いなんで」
「…なんだよ、お前?」
「オレはただそいつの知り合いです。こいつ、明らかに嫌な顔してました。あんまり強引な誘い方をしない方がいいと思いますけど」
「お前、何年だ?」
「2年」
「俺らは4年だ。先輩のことを敬え」
「敬えるようなところを見せてからそれを言ってくださいよ。今の先輩たちは何も言えない後輩を無理矢理連れ去ろうとしている人にしか見えませんよ」
「好き勝手言わせておけば…」
「やめてください。あんまり騒ぎを大きくすると……」
するとやはり大学の職員がこちらに向かって歩いてきた。別にここは義務教育でもなければ、高校でもない。
だが、大学内で大きな問題が起こればそれは大学のイメージダウンに繋がる。そういうことを避けられるのであれば大学だって避けたい。
それにこの場所は教務課から近い。学生たちが騒ぎ、誰か一人でも教務課に行き、何か揉めているとなれば来る。
「くそ…」
そして先輩たちは立ち去って行った。その後ろ姿を見ていると海野が抱き着いた来た。
「おい、離れろ」
「い、いやです…っ…」
「はぁ…」
それから大学の職員にオレは事の顛末を話して全て終わった。だが、海野が抱き着いて離れようとしなかったため、しばらく身動き取ることもできなかった。
「お前だったらあれぐらい切り抜けると思った」
「…怖かったんです。たくさんの先輩に囲まれて」
「まぁ…普通はそうだよな」
自分よりもガタいが良くて、力もあるような相手に囲まれていたんだ。普通はそうなるものだ。だが、海野なら適当に受け流しそうなイメージを持っていた。
「センパイ…ありがとうございます」
「別に礼はいい。ただ助けたのは気まぐれだ」
「それでもセンパイが来てくれなかったら、私は……」
また泣きそうなのだ。
オレはため息をついて、海野の頭に手をのせる。
「大丈夫だ。オレはお前が近くにいるとうっとおしいが、お前を見捨てない。お前が困っているなら出来る範囲で助けてやるから」
言えるのはこれだけだ。これ以上のことは何も言えない。オレはこいつの彼氏でもなければ、保護者でもない。
オレがこいつに対して言えるのはここまで。
「…やっぱりセンパイを好きになって良かったです」
「そうかい」
やっぱり海野は帰り道も付いてきた。こいつはいつまで付きまとってくるんだと思うが、今日だけは言わないことにした。
あんなことがあった後に付いて来るなというはさすがに酷だ。
「センパイってやっぱカッコいいです」
「そんなことはないと思うが」
「それはセンパイがセンパイだからです。端から見たらとってもカッコいいです。私としては世界で一番センパイがカッコいいと思いますし」
「お前は評価に当てにならん」
「そんなことありませんよ。助けてくれた時のセンパイの後ろ姿は本当に大きくて、カッコイイと思いましたし」
別に助ける瞬間だけ後ろ姿が大きくなることはないから、いつもの肩幅だったと思うがな。
それでも海野は止まらず、ずっと喋り続ける。
「元々センパイの魅力はたくさん知っていましたけど、今日でやっぱりセンパイはすごい人でカッコいい人だと分かりました。でも…ちょっと罪な人です」
「…罪?」
「だってセンパイって誰にも優しいんですもん。あずさ先輩とか友紀ちゃんもこんな風に落としたんですか?」
「別に誰も落としたつもりはない」
やっぱりこの後輩は変なことを言う。二人とは適度に話したりするぐらいで、それ以上の関係はない。それぞれ色々と問題はあったものの、解決してからはあんまり会わないしな。
「センパイは無自覚で鈍感、そしてとってもカッコいい人ですからね」
「…どうだかな。やはり海野の意見は参考にならない」
「そんなことないですって!」
帰り道はそんな他愛ない話をしたのだった。