大学で『NTR男』と呼ばれていて避けられているのに、後輩たちは臆せず話しかけて来る。その所為で周りから「次はあの子が…」って言われているんだけど。 作:主義
「センパイ、何か欲しいものとかありませんか?」
「別にないが」
「え~なんでもいいんです。高いものでもどうにかしますよ」
「欲しいものがない」
さすがに後輩に高るようなことはできないだろう。いくらこいつが鬱陶しい後輩だとしても。
だが、どうやら海野は納得していないようでしつこい。
「何でもいいんですって。センパイが欲しいものならどんなものでも手に入れて見せますよ」
「だから欲しいものがないと言っているんだが」
「で、でも何かないんですか?」
「ないな」
物欲というものが元々少ないんだよな。欲しいものを聞かれた時にいつも明確な答えを返せたことがほとんどない。
別に全てに満ち足りた生活を送っている訳ではないが、必要最低限のものがあれば人間は生きていける。それ以上に求めるものはないのだ。
「というか、お前はなんでそんなにオレの欲しいものを気にするんだ?」
「私、気付いたんです。いつもセンパイに奢ってもらってばかりでセンパイに何かをプレゼントしたことがないと」
「まぁ…お前と出会ってからまだそんなに経ってないからな」
あんまり詳しい日付までは覚えていないが、こいつと知り合ってからまだ数ヶ月しか経っていないはずだ。
その数ヶ月でここまで付きまとうぐらいまでなってしまった。
もし、過去に戻れるんであればこいつと知り合わない選択肢を取ってくれとお願いしたいところだが。
「でも、私はずっとセンパイに貰ってばかりです。何かお返ししないことには」
「別に何かをもらうためにやっているわけではないんだが」
「それは分かっています。これはあくまで私の気持ちです。私の気持ちがこのまま、センパイにずっと貰った状態なのが嫌なんです」
と言われても、欲しいものと言えるようなものがないからな。何かあれば、こいつの気が済むようにお願いしてもいいんだが。
「なので、センパイに何かプレゼントさせてください」
そう言われ、改めて考えてみることにした。こいつがうるさいのはいつものことだが、このままだといつもよりうるさくなりそうだ。
それだけは勘弁してもらいたい。今の状態でもそれなりにうるさいんだからな。
オレが考えている間、海野は静かに待っていた。こういうところはちゃんとしているんだよな…。
しばらく思案を巡らせた結果として、こうすることにした。
「海野、お前はオシャレが得意か?」
「得意かと聞かれると難しいですけど、オシャレをして休日に出かけたりすることはありますよ」
「そうか。ならそれを頼みたい」
「それとは?」
「オレは絶望的な程にファッションセンスと呼べるものがないんだ。休日に出る時も大概はスーツで出ることが多い」
「あ、そう言えば、センパイっていつもスーツですね」
「そうだ。ファッションセンスがない。だが、スーツであれば絶対に間違いがないからな」
スーツはオシャレ、オシャレじゃないという話ではないからな。絶対に間違えがない分、逃げの手段ではあるが。
今まではそれで乗り切ってきたが、そろそろスーツも面倒になってきた。大学の中ではともかく、休日までスーツで外に出るのはさすがに疲れてきた。
こいつがどの程度、オシャレなのかはあんまり分からないが、一先ずオレよりヒドいことはさすがにないだろう。
「だからお前が何かをプレゼントしたいというのなら、オレに服を見繕ってくれ。嫌であればプレゼントとかはどうでもいいから、金は渡すから服を買ってくれ。見繕ってくれるのであればしっかりと謝礼金は支払う予定だ」
正直、こいつがプレゼントしてくれる、してくれないなしでそろそろ服は欲しいところだからな。
海野の方に視線を移すと楽しそうにピースをしていた。
「そういうことなら、私にお任せです。センパイに似合う服を絶対に選んで見せます!」
「…そうか。それは助かる。後で金銭は払うから言ってくれ。その時に服と交換で」
それを聞くと海野はなぜか驚いたような表情を浮かべる。
「え、センパイは一緒にいかないんですか?」
「行かない。服を選ぶだけなら海野だけで出来るだろ」
「で、でも、センパイに似合うかは試着してみたりしてみたいと分かりませんよ」
海野の言葉を聞いて、オレは首をかしげる。
「そういうものなのか?」
「そうだよ。絶対にセンパイがいないとだめ」
「…そうか。だったらお互いの予定を合わせないといけないな」
海野だけでどうにかなるのであれば、海野の好きな時間に買ってもらえば後はどうでもいいんだが、俺も一緒となると予定を合わせないといけない。
「私はいつでも大丈夫なので、センパイに合わせます」
「…分かった。次の土曜日はどう?」
「行けます!」
「じゃあ次の土曜日に行くか」
「センパイとデートだ!!」
「別にデートじゃない。ただ服を買いに行くだけだ」
「それでもデートだと思えば、デートなんです!私がデートだと思っているんだからデートです!」
こいつは意地でもそれを曲げる気はないんだろう。言い合いをするつもりはないので、そのまま流すことにした。
そんな感じで土曜日にオレは海野と服を買いに行くことになった。