手柄は全て人に譲っていたら解雇されたので、僕は競合他社で働くことになった。なんか普通にやっていたらいつの間にかプロデューサーまで上り詰めてしまった。 作:主義
この会社での日々に慣れてきた。仕事内容がそこまで変わらないこともあって。慣れるのは早かったと思う。
僕のルーティンとしてはまず出勤したらメールの確認など諸々をする。これはどこの会社でも同じことだとは思うけど。
ライバーさんからメッセージが送られてくることもあるため、その辺りはちゃんと確認をしておく。メッセージを送ったのに返信が返ってこないという、変な不安を抱かせないように。
そしてその確認が終われば次の仕事に取り掛かる。その日にも寄るが、ミーティングや企画書を作ったりといった感じに。
今日は主に企画書の作成をする。
そんなこんなで作業をしているとあっという間に休憩時間になる。
休憩時間に椅子に座りながらしばらく目を瞑っていると、肩を叩かれた。目を開けると木山さんが僕の顔を真剣に見つめていた。
「…なんですか?」
「いや、ちょっと三橋さんに聞きたいことがあるんですけど…」
「なんでしょう?」
「三橋さんっ人心掌握の心得でもあるんですか?」
「へ…?」
「なんか相手の心が読めているとか、人に信用される術を知っているとか」
「な、なんでそんな話に?」
「三橋さんって自覚しているのかは分からないですけど、人から好かれますよね?」
「普通だと思いますよ」
「その普通がおかしいです。特に前の会社の時なんて、ライバーの皆さんはずっと三橋さんの近くに居た気がするんですが」
「それはなんか雑談でもしていただけです。ライバーさんとのコミュニケーションは大事ですから」
一緒に仕事をしていく以上は信頼関係は必要になってくる。そして信頼は何気ないことを一緒にしたりすることで、少しずつ罪挙がっていくもの。一朝一夕では絶対に信用は生まれない。
だから普段のコミュニケーションにも気を使っていた。どんな雑談でも相手から話しかけてくれるのであればしっかりと対応する。
ただそれだけ。
「コミュニケーションだけであんなに近くになりますかね」
「なります。一応、メンタル面も含めて前の事務所では僕の担当だったので」
「…メンタル面…?」
「前の事務所ではなぜか僕がライバーのメンタル面の安定を任されていたんです。なんか変な言い方になってしまいますね。なんて言えばいいのかな……まぁ、ライバーの相談窓口と言った方がいいかもしれないですね」
時間外労働な気もするけど、VTuber事務所はタレントがいることで成り立っているのだ。なるべくなら彼ら彼女らには体調を崩さず、楽しく活動を続けて欲しい。そしてそれが巡り巡って、僕のためにもなる。
それなら多少の時間外労働でも受け入れていた。
ライバーの人によっては真夜中なのに連絡をしてくる人もいた。どんなに最悪なタイミングだったとしても相手にそれが伝わらないように必死に誤魔化した。文面ではなく、通話で話したいという方もいた。
通話の時は声色を気を付け、文面では相手がマイナスな受け取り方をしないように色々と注意した。
「三橋さんって働き過ぎだったんじゃないですか?」
「そうですかね。自分ではあんまり分かってないんです。それに僕は別に趣味と呼べるものがあるわけではないので、仕事をしていた方が」
「…この会社では大丈夫だと思いますが、何か息抜きというか、ストレス発散する手段はあった方がいいですよ」
「ストレス発散…」
今まで考えたこともなかった。ずっと仕事しかしてこなかったし。休日はほとんど家で寝ているぐらいしかしてない。
「あった方がいいですかね?」
「あった方がいいよ。これから仕事をしていく中でストレスが溜まることなんて無限にあると思う。そういう時に発散方法があると少しは楽になる」
しばらく考えてみたものの、良いストレス発散方法が思いつかない。何も話さない僕を見て、木山さんは何も思いついていないと感じたのか提案してくれた。
「ストレス発散方法は人に寄りますけど、読書とかジム、料理、散歩とか色々ありますね。この中で三橋さんあった解消方法が見つかればいいんですけど」
「…探してみます」
これから先の仕事をしていく中で自然とストレスを溜め、自暴自棄になる可能性もゼロではない。自分に関してはないと思うけど、あらゆる可能性を考えるべき。
それにストレスを溜め過ぎないようにと、ライバーさんには言っておいて自分がストレスの所為で何かあったら情けないし、その辺りは色々と注意しないといけない。
そんなこんなで休憩も終わり、仕事を再開する。
企画書の作成を進めているとなぜか上司が僕のデスクまで来て、衝撃的なことを口にした。
「三橋くんには明日から統括マネージャーになってもらう」