劇場版 HUNTER×HUNTER 終わらない祝祭(エンドレス・フェスティバル) 作:敦盛
原作キャラクターに加え、オリジナルキャラクターが登場します。
執筆・推敲にAIを利用しています。
プロローグ
ジンへの手掛かりを求めて挑んだグリードアイランドをクリアし、ビスケとの修行も終えたゴンとキルアは、島を出た先で最後の別れを迎えていた。
長いゲームだった。カードを奪い合い、時には命を狙われ、最後にはゲンスルーたちとの死闘まで経験した。そして二人が得たものは、ゲームを攻略したという結果だけではない。その途中でビスケと出会い、念の基礎を一から徹底的に叩き直されたことで、島へ入った当初とは比べものにならないほど強くなっていた。
けれど、ゴンの旅はここで終わるわけではない。むしろ、ここからが本来の目的だった。
ゴンはクリア専用バインダーを開き、その中からグリードアイランドより持ち出した三枚のカードのうち、一枚を抜き取った。ただし、そのカードの表面に記されているものは、本来の姿ではない。
続けて、ゴンはもう一枚のカード――《聖騎士の首飾り》を取り出した。
「ゲイン!」
宣言と同時にカードが光を放ち、その輪郭がほどけるように変化していく。光の中から姿を現したのは、細かな装飾の施された一つの首飾りだった。
ゴンがそれを首へ掛けた瞬間、手にしていたもう一枚のカードが淡い光を帯びた。そこへかけられていた《擬態(トランスフォーム)》の効果が解除されたのだ。
偽装されていた文字と絵柄が揺らぎ、ゆっくりと別のカード名へ書き換わっていく。やがてそこへ、本来の名前が浮かび上がった。
《同行(アカンパニー)》。
これが本当にジンへ繋がっているのかは分からない。それでもゴンは信じていた。グリードアイランドそのものがジンの残した足跡の一つなのだから、このカードの先にも何かがあるはずだ。
もしかしたら、今度こそ本当に父親へ会えるかもしれない。
長かったゲームも終わり、ビスケとの厳しい修行も終わった。カードを握るゴンの指先には、自然と力が入る。いつものように笑ってはいたが、その表情にはほんの少しだけ緊張が混じっていた。
ゴンは顔を上げてビスケを見る。
「じゃあ、行ってくるね!」
ビスケは腰へ片手を当て、二人を見返した。
「ええ。ここから先は、自分たちで頑張りなさい」
キルアも軽く片手を上げる。
「世話になったな、ビスケ」
「ホントよ。もっと感謝しなさい」
言い方こそ、いつものビスケだった。けれど、その声は普段より少しだけ柔らかい。修行中なら決して見逃さなかった姿勢の乱れも、オーラの無駄も、今日はもう指摘しなかった。
ゴンが《同行》を胸の高さまで掲げる。
このカードを使った先に、ジンがいるかもしれない。
そう考えた途端、それまで軽かった空気がわずかに張り詰めた。キルアも何も言わずゴンの横へ並び、ビスケも黙って二人を見る。
ほんの数秒だったが、三人の間にはようやく別れらしい静かな時間が流れた。
そして、その直後だった。
ぐぅぅぅぅ……。
妙に長く、妙にはっきりと、ゴンの腹が鳴った。
張り詰めていた空気が、一瞬で吹き飛んだ。
三人とも動きを止め、ゴンは《同行》を掲げた姿勢のまま固まった。
「…………」
キルアは口元を押さえ、一度は耐えようとした。けれど無理だった。
「ぶっ……こんな時に締まらねーな、お前」
肩を震わせるキルアの横で、ビスケも額へ手を当てる。
「ハア……あんたねえ」
ゴンは少しだけ頬を赤くし、空いている手で腹を押さえた。
「だって、お腹減ったんだもん……」
「これから親父に会うかもしれねーって時にかよ」
「お腹減るのは仕方ないじゃん!」
キルアは呆れたように息を吐いたが、やがて肩をすくめる。
「まあいいや。ゴンの親父に会う前に腹ごしらえしようぜ」
「うん!」
それまでの緊張が嘘だったように、ゴンの顔がぱっと明るくなった。
「ご飯ご飯!」
そして数秒前まで人生最大級の手掛かりとして掲げていた《同行》は、あっさりと鞄の中へしまわれた。
いよいよ父親へ会えるかもしれない。そんな一大事であっても、腹が減れば飯を食う。それがゴンだった。
キルアは呆れながらも、結局そんなゴンの横を歩き出した。
二人が人里の方角へ向かおうとしたところで、ビスケだけはその場へ残った。数歩進んだところで、それに気づいたゴンが振り返る。
「どうしたの、ビスケ?」
「私はついてかないわ」
ゴンが目を丸くした。
「え?」
ビスケは腕を組み、わざと何でもないことのように言う。
「これ以上一緒にいたら、本当に離れられなくなるわさ」
そう言い終えると、照れを隠すように二人へ背を向けかけた。
ゴンは少しの間、その背中を見つめた。けれど、湿っぽい別れを長引かせる性格ではない。すぐにいつもの笑顔を浮かべる。
「そうか。じゃーね、ビスケ!」
キルアも片手を上げた。
「またな、ビスケ」
ビスケは肩越しに振り返り、軽く手を振る。
「まったく……最後まで締まらないガキどもだわさ」
口では呆れていたが、その横顔には小さな笑みが浮かんでいた。
ゴンとキルアは歩き出し、何度か振り返った。そのたびにビスケの姿が小さくなっていく。
やがて二人の姿は人の行き交う街並みへ紛れ、完全に見えなくなった。
それでもビスケは、しばらくその場から動かなかった。二人が消えた方角を見つめたあと、やがて小さく息を吐き、一人で反対方向へ歩き出した。