巨大ロボット。
それは夢と浪漫の塊だ。
古事記にもそう書いてある。
鉄人〇8号に始まり、数々のロボット作品が世界中に夢と浪漫を届けてきた。
そして、それらを見た皆はこう思ったはずだ。
ロボットはカッコいいと。
そして鉄人2〇号から一世紀ほど経った時、遂に人類は全高12メートルの人型機動兵器、アーマード・フレーム通称AFを完成させたのだ。
AFはすぐに実戦で使用され、既存の兵器を圧倒。
世界中で配備され、あらゆる国でAFを見かける事になった。
巨大ロボットは空想上の存在から現実の存在になったのだ。
「それなのに……なんで……」
この世界には巨大ロボットが確かに存在している。
しかし
「なんで! 魔法少女しかないの!?」
『神戸市に出現したⅭ型怪獣は魔装少女アステリアによって先程、駆除された模様です。人的被害はなく、またも魔装少女の有用性が実証されました』
『アストレイア製薬のビタミン剤発売中、魔法少女ドラグーンも愛用、怪獣と仕事に備えよう!』
今の世界は魔法少女、正確には魔装少女で溢れていた。
お店では魔法少女のグッズが売られ、街頭ビジョンでは怪物と戦う魔法少女が大々的に映し出される。
「やっぱりミサイルワークスが最強だろ、あの高火力は中々真似できるものじゃねえよ」
「いやいや、最強はレグナ様でしょ、実力もさることながらあの凛々しい立ち姿……!」
人々は自分の推している魔法少女の話ばかりをし、ロボットは話題にも上がらない。
それもそのはず、十年前に異次元から怪獣と呼ばれる脅威が出現し人類に甚大な被害を出したかと思えば、魔法少女と呼ばれる特殊な能力を行使できる少女達が怪獣を駆逐し始め、世間の関心は完全にロボットから離れてしまったのだ。
「おかしいいいだろおお!?」
え?なんでさっきから叫んでるかって?
これには深い訳があってねえ……
事が起きたのは数時間前。
「ええっと天城玲さんの志望はAFの操縦士……ですか」
「はい!」
花の女子高生である私は進路相談で先生へ志望する職業を伝えていた。
私が志望するのはもちろんAFのパイロット!
正確にいえば軍に所属するAFパイロットや開発企業のテストパイロットなど色々とあるが、そんな事はどうでもいい!!
私はとにかく、AFのパイロットになって巨大ロボットを操縦したい!
「ごめんなさい、AFのパイロットを募集している所は、もうないの」
「はっ?」
その言葉を私は処理出来なかった。
「一昔前なら、募集してる所もたくさんあったんだけどね……」
確かに最新型AFの購入が見送られたとか、AFを減少させると言うニュースは見た事がある。
私がそれを見て、怒った記憶もある。
だけど!
まさかパイロットの募集まで打ち切っているなんてしらなかった。
つまり私は巨大ロボットに乗れないと言う事?
「でも! 実はあなたにスカウトが来てるのよ!」
「まじですか!?」
私の憂いは先生の一言によって霧散した。
スカウトが来たと言う事は軍か企業かは分からないが、何処かが私をパイロットとして求めていると言うことだ。
つまり!
私は巨大ロボットのパイロットになれる!!
ありがとう神様! ありがとう世界! フォーエバーロボット!!
「喜んでくれて嬉しいわ、魔装少女のスカウトなんて早々ないものね」
「ん?」
今なんて言った?
「世間じゃあ魔法少女って言われて、大人気だものね」
「えっ……いや」
「すぐには担当の人が来る事になってるから、詳しい話はそこでね」
ちょっとまって!?
嬉々として資料を渡してこないで?
私がなりたいのは魔装少女じゃないから!?
AFのパイロットだから!?
やめっ!…ヤメロー!!
在学中の未成年者を魔装少女にするのおかしいだろ。
確かに私の幼馴染とかは魔装少女やってるけどさ……
結局、ほぼ強制的に話が進んでしまった私はロボットの消滅した街中で、叫んでいる訳だ。
滞りなく進めば一か月後には魔装少女に変身出来るらしいよ…(絶望)
「ロボットはドコ? ……ココ?」
ロボットに乗れない現実に対して、私の精神は崩壊一歩手前である。
「キャアーーーー!」
「逃げろーー!」
私疲れてるのかな?
周りからは悲鳴みたいな幻聴も聞こえだしたし…
ん?
あれは……
〔GAOOOOOOOOOーー!!!〕
どうやら私は絶望しすぎて、目の前に全長30メートル越えの怪獣まで見え始めたようだ。
「幻覚まで見え始めるなんて……私もいよいよ末っ……」
あれ?よく見るとこれって本物の怪獣じゃあ…
〔GIIIIIIIIIIーー!〕
その瞬間、私は凄まじい風圧と音圧で後方に吹きとばされた。
「グフっ……!」
吹き飛ばされた私は成す術もなくビルの柱に背中から激突し、地面に倒れ伏した。
ぶつけた背中が痛すぎて、喋る事も出来ない。
不幸中の幸いか、怪獣は街を破壊して回っているようで、私には一切興味を抱いていない。
ここは安静にして、助けがくるまで待った方がよさ…
〔GAAAAAAAAAA〕
ちょっと待って!?
なんか怪獣が口からゲロビ撃ってるんだけど!
しかもなんか、ビームで両断されたビルの残骸がこっちに!?
「あれ……」
気絶していたが、どうやら私は生きてるみたいだ。
ビルの残骸が降って来た時は、流石にやばいと思ったけど、私は意外と頑丈だった。
「さすが私だ……なんともない……っ!」
立ち上がろうとしたとたん、全身に凄まじい痛みが走った。
同時に体の末端部分から今まで感じた事のない寒気が全身を包んだ。
「ちょっと……これは不味いかも」
自分の身体をよく見れば腹からすごい量の血がドバドバと流れ出ていた。
怪獣はまだ暴れている様で遠くから鳴き声が聞こえてくる。
この調子じゃあ救助も期待できない。
「もしかして私、死ぬ?」
嫌な想像が頭を駆け巡った。
街中に突如出現したⅭ型怪獣によって街の中心は瓦礫の山と化し、人々は逃げ回っていた。
地方都市と言えるこの街には常設の魔装少女が存在せず、それ以外で唯一怪獣に即応出来る軍のAF部隊も予算の削減により解体され、怪獣に対抗できる者はこの街に誰も居なかったのだ。
破壊されたビルの残骸の中に一人の少女が倒れている。
少女は肩にかかる程の黒髪を後頭部で一つに束ね、学校の制服を着ていたが、身体の至る所が傷ついていた。
制服は所々が破れ、頭部と腹部からは血が流れ出ている。
そんな少女の元へ小さな影が近づいていた。
「そこのキミ! 大丈夫かクマ!」
それはぬいぐるみだった。
正確にはクマのぬいぐるみの様な見た目をした、宙に浮く謎の生命体であった。
「すごい怪我クマ……! 早く治さないとクマ! でもボクの回復魔法を使ってもこの怪我は……」
一人?で喋る謎の熊に対して少女は困惑していた。
「誰……?」
少女は掠れた声で謎の熊に問いかける。
「ボクはクマ吉! 魔装少女を助けるマスコットだクマ! って詳しい話は後クマ!」
「クマ?」
「本当は色々と書類が必要だけど…今は緊急事態だから仕方ないクマ!」
クマ吉は何処からか真っ白な宝石を取り出した。
「ボクと契約して魔装少女になって欲しいクマ!」
どこかの地球外生命体の様な事を言い出したクマ吉とか言う謎のクマを私は見る。
現役の魔装少女をやっている幼馴染から、アニメの様なマスコットがいるとは聞いていたけど、
まさか本当にこんなのがいるとは思わなかった。
命の危機にある少女とマスコット、まるでニチアサ魔法少女アニメの第一話だ。
全然嬉しくない。
出会うなら、極秘のロボット兵器とか、古代に作られた伝説の巨大ロボットとかが良かった。
多分、話の流れからして魔装少女に変身すれば私は助かるんだと思う。
私も出来れば死にたくない、死んでしまったらロボット作品を見る事も、夢を追いかける事も出来ないから。
でも魔装少女になったらAFのパイロットにはなれないかもしれない……
だけど今、死んだら元も子もないんだ。
現実を見よう……
どうせ、今の私はAFのパイロットにはなれないんだ。
なら魔装少女になってでも生きて、生きて何時の日かロボットに乗れる日を期待するしかない。
私は最後の力を振り絞ってクマの持つ白い宝石に手を伸ばす。
「私は魔装少女になる……! なって何時か必ず……!」
指があと少しで宝石に触れる、その時だった。
全長10メートルはあろう、黒く巨大な正方形のコンテナが遥か雲の上から落下してきたのだ。
「へ?」
「クマ?」
私とクマ吉が呆気に取られる中、コンテナは私たちから50メートル程離れた位置に轟音と共に落着した。
コンテナは落着によって周辺に凄まじい、衝撃波と風圧を巻き起こし、大量の飛散物が私達に襲いかかる。
「やばいクマ!」
飛散物が私達に到達する瞬間、クマ吉が何処からかビームシールドの様な物を展開した為、私達は傷つかずに済んだ。
『輸送機からの緊急離脱、及び落下による衝撃を確認』
巻き起こされた砂煙の向こう、落下したコンテナから機械的な声が聞こえた。
『損傷したコンテナをパージします』
砂煙が晴れると落着した黒いコンテナの外殻が次々と剥がれ落ちていった。
頑丈そうな黒い鉄板が次々と外され、遂に最後の装甲板が煙と共にパージされる。
黒いコンテナの中身が、その姿を現した。
「あぁ……あぁ……!」
“それ“は余りにも美しく、神々しかった。
全身が光をも吸い込む様な漆黒の装甲で覆われ、太陽の光を殆ど反射していない。
頭部は騎士の兜のような流麗な装甲で覆われ、スリットで赤く光るモノアイを保護している。
四肢は極限まで洗練された独自のプロポーションを誇り、ただそこにあるだけで、機能美とはどういう物かを示している。
それでいて、指先に至るまでの全てが芸術品の様な美しさを持ち、そのシャープな指先は、冷徹な輝きを放ちながらもどこか妖艶ですらあった。
「いったい何なんだクマ!?」
混乱するクマ吉をよそに私はただ、“それ“に見とれていた。
漆黒の鎧を纏う孤高の騎士を思わせる“それ“は、片膝をついた一機のAF、巨大ロボットだった。
『周辺に機体への重大な脅威を認識、ALBAシステムを一部緊急起動、機体の自立制御を試みます』
「何だかやばそうクマ…取り合えず早く契約を……って何してるクマ!?」
気付けば私は自分の状態すら忘れ、立ち上がろうとしていた。
傷口から溢れ出る血液を無視し、全身を駆け巡る痛みを気合でねじ伏せる。
寒さで震えていた身体は火照り、傷だらけの脚は力強く大地を踏みしめていた。
『自立制御……失敗、演算領域が不足しています』
「そんな怪我じゃ歩けないクマ! 兎に角、一回契約してから……ってどこ行くクマ!」
私の身体も契約も最早、些細な事に過ぎない。
合理的な考えも、自分の命も関係ない。
現実を見るなどクソ食らえだ。
『自立制御の代案として、臨時パイロットによる機体の共同制御を試みます』
「あそこに!」
あそこにあるんだ!
私の夢、私の望み、私の業、私の全てが!
『周辺の生体反応より、臨時パイロット候補を選出……該当者一名を発見』
少女は致命傷を負った状態で歩いた。
一点を見つめ、傷も痛みも無視して、ただそれを求めて歩いた。
『本機の前方にいる民間人に要請します』
そしてAFも求めていた。
自分を駆る者を、自分の主人を。
「はぁ……はぁ……」
『本機に搭乗し、臨時パイロットとなっていただきたい』
破壊されたビル群の中心で、求めあう二人は遂に出会った。
片や血を流した瀕死の少女、片や漆黒の巨大ロボットと言う様相だが、これは正しく奇跡的な邂逅であった。
「はぁ……はぁ……OKっ!」
『了解しました。ハッチ開放、直ちにコックピットへ搭乗して下さい』
少女は肩で息をしながらも、力強く答えた。
黒いAFはそれに答える様に胸部の装甲を開き、腕部マニピュレーターに少女を乗せて胸部のコックピットへと輸送した。
「うっ……うぅ……」
コクピットに入り座席に座った少女は涙を流した。
それは痛みによる物ではない。
夢にまで見た巨大ロボットのコクピットに自分が座っている。
その事実に少女は感極まってしまったのだ。
『民間人の搭乗を確認。臨時パイロットとして承認します』
少女の感動などいざ知らず、黒いAFは緊急時プロセスを実行していく。
『身体スキャン実施……パイロットに致命的な負傷を確認。緊急処置を行います』
機械音声と共に座席の周囲から、形状の異なる複数の小型マニピュレーターが出現した。
『医療措置と共に身体の適合化とシステム同調を行います。よろしいですか?』
問いかけられた少女は周囲のマニピュレーターを確認した後、一度だけ深く息を吐くと、服で涙を拭った。
「……許可っ!」
そして再び、力強く答えたのである。
『パイロットの許可を確認。直ちに処置を行います』
その言葉と共に複数のマニピュレーターが一斉に少女を突き刺した。
その瞬間、私の身体を今まで感じた事もないような凄まじい痛みが襲った。
身体全体が熱く、まるで私その物を書き換えている様な、不快感と激痛が入り混じった感触が、頭から指先まで、私の至る所で感じられる。
「ぐっ!……うっ!」
苦悶の声が口から洩れる。
だが、拒否感はなかった。
私はロボットに乗りたいのだ!
ロボットに乗る為なら、私はどんな事にも耐えてやる!
「はぁ……はぁ……」
『お疲れ様でした。全ての処置とナノマシン投与による適合化が完了しました』
ようやく終わった!
幾ら私でも流石にきつかった。
もし怪我人にこんな事やったら即死するんじゃなかろうか?
でもお陰で怪我の痛みは引いたし、十分活動出来る様になった!
『貴方に本機のパイロット権限を委譲します。ご命令をパイロット』
「っ!」
こんなにも興奮するセリフがあるだろうが?
私の心は最早、コロ〇ーレーザー並みに加熱している。
遂に私は巨大ロボットを操縦する事が出来るのだ!
「ハッチ閉鎖、メインリアクター始動」
『了解、ハッチ閉鎖、メインリアクターを始動します』
ハッチが閉鎖しコクピットを暗闇が包む。
しかしリアクターの熱が座席越しに伝わってきた。
乗るのは初めてのはずなのに全てか手に取る様に分かる。
さっきの処置のおかげだろうか?
「メインシステム起動、機体との同調開始」
『了解、メインシステム起動、パイロットリンクを接続します』
暗かったコクピットに計器の光が射していくいく、最後には視界の殆どをしめるメインモニターが起動し、機体とシステムの名前が表示される。
私は目を閉じ、自分の脳と機体のシステムが直接繋がった事を感じた。
『“XGR-21シュヴァルベ“及び、パイロットリンクによる“ALBAシステム“の完全な起動を確認』
まるで自分の意識が機体に移った様なそんな感触を覚えた。
私は自らの身体を動かすような感覚で機体を直立させる。
『網膜投影開始』
そして私は目を開けようとした。
グポォン
すると同時に機体の頭部カメラが起動し赤く光った。
私が完全に目を開けるとそこには……
「すごい……!」
人では決して見えない、遥か高みからの光景がそこにはあった。
見えるのは破壊された街と怪獣だけだ。
だが、破壊された自分の住む街を眼前にしても、私の心は唯一つの言葉に支配されていた。
「私は今! ロボットに乗っている!」
ロボットと百合を書きたくなって出来た物です。
誤字脱字も多いかと思いますが、指摘して頂けると幸いです。