〔GAOOOOOOOOOーー!!!〕
人々の住まう都市に地鳴りの様な咆哮が轟いた。
声の主は全高30メートル程の巨大な怪獣だ。
「怪獣が出たぞ!」
「早く避難しろ!」
都市の各所では警報が鳴り響き、人々は地下シェルターへと駆け込む。
上空では報道ヘリが飛び回り、怪獣と都市の様子を伝えていた。
『ご覧ください! 突如出現したⅭ型怪獣が街を破壊しています!』
ティラノサウルスの様な姿をした怪獣はビルを破壊し、住宅を踏みつぶす。
巨大な怪獣の猛威に対して、人々は成す術がなかった。
更に悪い事とは重なる物である。
『増援です! 怪獣の増援が出現しました!』
上空からの風圧と大規模な地鳴りが都市を襲う。
ビル群の頭上には巨大なコウモリの如き怪獣が現れる。
街の広場ではコンクリートが隆起し、全長200メートルにもなる大蛇が出現した。
報道ヘリも退避を始め、この都市は終わったと誰もが思う。
その時であった。
〔GIIIIIIIIIIーー!?〕
上空を飛び回るコウモリ怪獣の羽根に、青白いレーザーが直撃した。
レーザーは羽根の飛膜を焼き、大きな穴を穿つ。
バランスを失ったコウモリ怪獣はビル群の中へ墜落した。
『魔法少女です! この都市を救うために魔法少女が来てくれました!!』
ニュースレポーターが声を荒げ、カメラがレーザーの放たれた方向を向く。
カメラにはビルの上に立つ、三人の魔装少女が映された。
「外した……」
スコープを覗き込み、レーザーライフルを構えるのは、魔装少女アステリア。
近未来的なスーツと装甲に身を包む、銀色の魔装少女。
「機動力を削げただけでも十分でしょう」
剣を地面に突き立て、仁王立ちしているのは、魔装少女レグナ。
白金の鎧と浮遊する複数の盾で身を飾る、黄金の魔装少女である。
「どうでもいいから、さっさと怪獣を吹っ飛ばそうぜ!」
自分の拳と拳を打ち合わせているのは、魔装少女ミサイルワークス。
真っ赤な装甲と大量のミサイルランチャーを装備した、紅の魔装少女だ。
三体の怪獣は破壊活動を止め、魔装少女達を警戒している。
「お二人とも。撃破する怪獣は一人一体と言う事でよろしいですね?」
レグナは笑顔を浮かべながらそう言った。
その発言には仲間と自分の実力への確かな信頼がある。
「おう! あたしはコウモリ野郎をやるぜ」
「でしたら、私は大蛇を仕留めましょう。アステリアさんはティラノ型を狙うと言う事でよろしいでしょうか?」
「問題ない」
「では、お仕事開始と行きましょう!」
その言葉と共に三人は一斉に跳んだ。
「加速ロケット展開!」
ミサイルワークスは何処からともなく、身長以上の大きさを持つロケットを4本出現させ、両腕に装着した。
「点火!」
全ての加速ロケットが一斉に点火し、ミサイルワークスの身体を一気に前へと加速させる。
明らかに生身で受けて良い加速ではないが、魔装少女である彼女にとってそんな事は問題にすらならない。
コウモリ怪獣はビルの上に留まり、焼け焦げた飛膜を修復しようとしていたが、そこへミサイルワークスが猛スピードで突撃する。
〔GAAAAAAAAAAーー!?〕
一発のミサイルと化した彼女は、コウモリ怪獣の腹を貫通し、反対側まで突き抜けた。
致命傷を負ったコウモリ怪獣は、地面へと真っ逆さまに落下する。
「とどめ!」
加速を停止したミサイルワークスは、身体中に装備されたミサイルランチャーの砲門をコウモリ怪獣に向けた。
「ミサイルカーニバルだ! 派手に行くぜ!」
30発以上のミサイルが瀕死のコウモリ怪獣に放たれる。
地面に横たわるコウモリ怪獣にこの攻撃を防ぐ術はなく、その身体は一瞬で塵と化した。
「こちらも始めましょうか」
別の場所では魔装少女レグナが、ヘビ怪獣と向き合っていた。
ヘビ怪獣はビルに蜷局を巻き、レグナを威嚇している。
〔SYAAAAAAAAAーー!〕
怪獣は酸性のブレスをレグナに浴びせ掛けた。
ブレスの当たったコンクリートや建物は溶解し、普通の人間が浴びれば一溜まりもない。
しかし、彼女は魔装少女である。
レグナは左手に持った大盾を地面に構え、ブレスを真正面から受けた。
構えられた菱形の盾は、黄金のエネルギーを周囲に広げ、巨大なエネルギーシールドを展開した。
酸性のブレスは、シールドを突破する事が出来ず、手前のアスファルトを溶かすだけだ。
やがて、ブレスの放射が終わると、ヘビ怪獣は驚愕する。
〔SYAAAAAAAAAーー!?〕
魔装少女レグナには一切の傷が付いていなかったからだ。
「今度はこちらの番ですね」
レグナはシールドの展開をやめると、煌びやかな剣を怪獣に向けた。
周囲には、幾つもの盾と剣が浮遊し、レグナを護衛兵の如く守護している。
「貴方に恨みはありませんが、お命頂きます!」
剣を上段に構え、彼女は跳んだ。
跳躍の衝撃を受けたアスファルトは陥没し、レグナは凄まじいスピードでヘビ怪獣に迫る。
ビルに蜷局を巻く大蛇と言えど、この魔装少女に対処する事は出来なかった。
レグナはヘビ怪獣が反応するよりも前に、その身体を切り刻んだ。
彼女が大蛇の反対側に着地した時、怪獣の身体は均等に細切れとなり、直ちに絶命した。
ミサイルワークスとレグナ、二人の魔装少女は華麗かつ、派手に二体の怪獣を仕留めた。
「流石極東トップクラスの魔法少女達!」
「いいぞ! そのまま全滅させちまえ!」
「レグナ様! お見事です!」
「ミサイルワークス! 最高の爆発だぜ!」
戦いを遠目から観察していた民間人達から歓声が上がる。
魔装少女が到着した以上、彼ら彼女らにとって怪獣の襲来など、ただのエンタメに過ぎないのだ。
『圧倒的です! 魔法少女達を前に怪獣は成す術なし!』
避難しようとしていた報道ヘリは、状況が安全になったと見るや、魔装少女達に接近し、その雄姿をカメラに捉える。
魔装少女の活躍は他のどの番組よりも、視聴率を獲得出来る為だ。
最早、魔装少女は対怪獣の切り札ではなく、現代の一大コンテンツと化している。
それ故、派手で華麗な戦いを皆が欲しているが、それを無視する者もいた。
「面倒……」
魔装少女アステリアである。
彼女にとって、怪獣との戦いはただの仕事であり、人気を得る為に行っているわけではない。
〔GAOOOOOOOOOーー!!!〕
ティラノ怪獣がアステリアに向けて突進する。
他の魔装少女であれば、闘牛士の様に華麗な戦いを披露するだろうが、彼女にそんな事をする気は微塵もない。
「行け、オービット」
アステリアの周囲に浮遊していた複数のレーザー砲が、突進する怪獣の周囲に展開した。
漏斗状のレーザー砲は規則的な軌道を描き、ティラノ怪獣の急所に狙いを定める。
「照射」
命令と共に複数のレーザーが怪獣に照射された。
青白いエネルギーがティラノ怪獣の表皮を一瞬で焼切り、内部の筋肉と内臓を蒸発させる。
数秒間の照射の後、脳が蒸散した怪獣の目は精気を失い、その身体は力なく倒れた。
「討伐完了」
そこには、華麗さもエンタメ性もない。
彼女は、ただの仕事として怪獣を討伐した。
『お疲れ様でした! 処理班は20分程で到着します』
「了解」
指令本部オペレーターからの労いの通信にも、機械的な反応を返す。
「今日は直帰します」
『えっ?』
「予定があるので、後始末は任せます」
『ちょっと!? 報告書の提出だけでも!』
「任せます」
『ユイさん!?』
アステリアは通信を切り、面倒な後始末を押し付ける。
本来であれば、怪獣の討伐後はメディアの取材を受けたりするが、彼女はそれも無視し、帰路に就く。
何故なら今日は魔装少女アステリア、いや氷室ユイにとって大事な予定があるからだ。
ACF極東支部
複数のAFと兵士が警備する基地の正門に私、天城レイは居た。
手荷物を持ち、守衛の人に外出用の書類を渡す。
「外泊しない場合は、9時が門限ですので、時間の厳守をお願いします」
「わかりました」
外出証と身分証明書を返してもらい、私は基地の外へと歩き出す。
正直言って、大量のAFが配備されているこの天国を離れたくはないが、基地外でしか出来ない予定があるので、仕方がない。
『例の氷室ユイさんですか?』
そうそう。
前に、ごたごたが収まったら会いに行くって、約束したからね。
ユイは心配性だから、たぶん会いに行かないと、ここに無理やり乗り込んで来ると思うんだよ。
『それは一般的な心配を超えているのでは……』
基地外に出た私は、 ACFの人員用に設置されているシャトルバスに乗った。
ACF極東支部は人里離れた山奥にある巨大基地の為、近くの街に行く手段はこのシャトルバスしかないのだ。
バスの中には殆ど人がおらず、私を除いて三人程しかいない。
今は休暇中のはずだけど、みんな下町には興味ないのかな?
『娯楽施設は基地内にもありますし、基地で生活する分には支出も殆どありませんから』
確かに、小さいけど映画館とか温泉もあるし、料金も殆ど無料だ。
ここまで待遇が良いのは、ACFが正規の軍隊じゃなくて、企業の保有する軍隊だからかな。
『まあ、人がいない一番の理由は、先日の演習が原因かと』
そう言えば、出る時にも演習場でアンナ中佐にしごかれるパイロットの人達が見えたね。
AFにずっと乗れるのは羨ましいけど、連休が潰されたのは流石にかわいそう。
『自業自得です』
ALBAと話している内にバスは山間部を抜け、都市部に入る。
自然豊かだった山々とは打って変わって、ビルの立ち並ぶコンクリートジャングルが、窓の外に広がった。
都市には大量の広告が掲示されており、魔装少女に関係する広告が嫌でも目に入って来る。
『明日の自分をもっと美しく、魔法少女レグナも愛用! カルディア化粧水を是非!』
『魔法少女6分の1フィギア発売!! トップ魔法少女12人をフィギア化!』
私は別に魔装少女が嫌いな訳ではない。
彼女達は怪獣の討伐と言う仕事をこなしているだけだし、魔装少女達の活躍のお陰で、怪獣による死傷者も殆ど出ていないと聞く。
魔装少女達を宣伝したり、推したりする事にも文句はない。
私も巨大ロボットを推しているし、シュヴァルベでやろうとしている事は、AFの宣伝と同じだ。
だが、世界からAFの居場所を奪った彼女達の広告は、私にとって愉快な物ではない。
「ん……?」
突如として、私の聴覚を無音が支配する。
先程まで聞こえていた広告と街頭ビジョンの音が、今は一切聞こえない。
不思議に思い、窓の外を見るが、広告は先程と同じ様に映され、他の人達は特に気にしていない様だ。
『パイロットの聴覚を一時的に遮断しました』
犯人はALBAだった。
でもなんで……?
『パイロットが周辺環境に苦痛を感じていた様なので、パイロット保護の為に聴覚遮断を実行しました。不便であれば、直ちに復旧します』
いや、いいよ。
実際うるさかったし。
どうやら、ALBAなりに私を気遣ってくれたみたい。
出会ってから、そんなに経ってないけど、私はALBAの事が結構好きだ。
『聴覚遮断を継続します』
ねえ、ALBA。
『なんでしょうか?』
ありがと。