シャトルバスから降りた私は、駅前の広場でユイを待っていた。
待っている時間は暇な為、スマホでJ〇Mの名曲を聴いている。
未来への〇哮とかマジで神曲。
『現代の女子高生が聞く曲ではありませんね』
何でみんな聞かないんだろうね。
ユイは結構、聞いてくれたけど。
『氷室ユイさんとは、知り合って長いのですか?』
保護施設からの付き合いだから、十年位だね。
お互いに両親が怪獣災害で死んじゃったから、孤児用の保護施設で会ったんだよ。
『なるほど』
て言うか、ALBAは私の脳に住んでるんだから、記憶なんて自由に見れば良いじゃん。
『記憶領域の深層にアクセスすると、パイロットの脳細胞が壊死しますが、よろしいですか?』
やっぱりだめ!
「レイ?」
背後から私の知っている声が響く。
抑揚がなく、透き通ったこの声は間違いない!
「ユッ「レイ!!」グフ……!」
振り向こうとした私の身体を衝撃が襲った。
更に懐かしい匂いと、圧迫感が私を包み込む。
私を抱きしめる下手人の姿を確認すると、そこには美しい銀髪と吸い込まれる様な碧眼を持った美少女がいた。
「この匂い、感触。間違いなくレイ」
彼女こそ私の幼馴染、氷室ユイである。
「く、苦しい……!」
私とユイは身長差がある為、抱き締められた私の頭は、ユイの胸に押し付けられ、息が出来なくなる。
「ん、ごめん」
ユイが抱擁を緩めた事で、やっと息が出来る様になった。
まったく……
抱きつくのはいつもの事だからいいけど、もうちょっと身長差を考慮して欲しいよ。
『パイロットとユイさんは顔を合わせる度に抱擁を交わしているのですか?』
久しぶりに会うときは大体そうだね。
小さい時から、良く抱き合ったりしてたけど、友達同士なら普通の事じゃない?
『アジア圏において、ハグを行うのは基本的に友人以上の関係です』
まあでも、ユイは普通の友達じゃなくて幼馴染だし。
『左様ですか……』
氷室ユイにとって、天城レイは普通の幼馴染ではない。
二人が初めて出会ったのは、怪獣により親と家を失った子供達が集められた保護施設だ。
保護施設と言っても、中世の孤児院の様な非衛生的で質素な物ではなく、政府の運営する安定的な施設である。
銀髪碧眼と言う特徴的な外見を持つユイは、施設において孤立していた。
『お前、気持ち悪いんだよ』
『ごめんね、ユイちゃんの事は無視する様にしてるから』
集団から孤立し、差別された子供の精神状態は推して知るべしである。
しかし、そんなユイと唯一仲良くなったのがレイだ。
殆どの子供が家族を失った絶望感に打ちひしがれるなか、レイだけはニュースに映るAFをキラキラとした目で見つめ、同室となったユイに巨大ロボットの良さをこれでもかと喧伝した。
『ガン〇ムとかマク〇スって本当にかっこいいんだよ! 作画は古いかもしれないけ、一緒に見ようよ! 第1話だけでいいからさ!』
ユイはレイの話す内容を殆ど理解出来なかったが、自分に敵意を持っていない事だけは理解した。
『ボト〇ズとパト〇イバーも良かったでしょ! こんど一緒にコーヒー作ってみようよ!』
異物だからと排除せず、腫物の様にも扱わない。
目を輝かせながら、自分の好意をストレートに伝えてくる。
両親と言う光を失い、孤立と言う冷たい暗闇の中に居たユイにとって、レイは暖かい日溜まりだった。
好きを語りたいレイと、暖かさを欲していたユイ。
保護施設の同室と言う事もあり、関係の進展は早かった。
同じ場所で遊び、同じ時に食べ、同じベットで眠る。
氷室ユイにとって天城レイは、ただの幼馴染や友達ではなく、人生を共にする家族だ。
どんな人間でも代替する事の出来ない、唯一無二の存在。
二人は中学卒業と共に保護施設を出て、福祉の支援を受けながらそれぞれ、一人暮らしを始めたが、関係性は変わらない。
ユイが魔装少女になったのも、レイを怪獣から守り、二人で不自由なく生きていく為の資産を蓄えるためだ。
それ故、レイが怪獣に襲われて行方不明と聞いた時、ユイは人生最大の恐怖を感じた。
あらゆる心配が心を満たし、眠れぬ日々が続いた。
結果的にレイは無事だったが、それまで恐怖した事実は消えない。
「レイ……」
ユイは再び、レイを強く抱きしめた。
その存在を全ての五感で感じる為に。
「ちょっとまって!?」
感触も匂いも、何も変わらない。
初めて会った時と同じだ。
「ち、窒息する……!?」
レイと言う存在をユイは実感するのだった。
「死ぬかと思った……」
親友のハグで窒息しかけた私は、銀行に来ていた。
目的は新しい銀行口座の確認とスマホを連携させる為だ。
『パイロットの銀行口座は、ACF所属後に新しくなっていますからね』
気づいたら勝手に変えられてました。
『機密保護の為です。XGR-21の正式なパイロットとなった以上、給料が支払われますが、パイロットである事は機密の為、口座への入金を出来るだけ隠ぺいする必要があります』
だから銀行を河宮重工系列の所に変えたのか。
人の口座を勝手に変えるとか、完全に違法な気がするけど、身体にナノマシンとか注入されてるし、別にいいか。
操作を終え、スマホと口座の連携が完了すると、通帳が画面に表示される。
これが元々の貯金で……給料が……
「へ?」
何じゃこれ!?
『どうかしましたか?』
ゼロの数が明らかに多いよ!?
これ本当に私の口座であってる?
通帳には、見た事のない額が給料として記載されていた。
『正真正銘、パイロットの銀行口座です』
マジですか……
『給与額にご不満でも?』
この額で不満が出るわけないでしょ!
どちらかと言えば、自分の金銭感覚がぶっ壊れそうなレベルの額を渡された事に戸惑ってる。
私は普通の女子高生だよ?
バイトで数千数万円稼いだ事はあっても、スポーツ選手並みの給料を稼いだ事なんてないから!
『普通の女子高生は、空から降ってきたロボットに乗って怪獣と戦わないと思います』
あまりの額に恐怖すら感じ始めた私は、通帳画面をそっと閉じ、連携だけをすませて外に出る。
「終わった?」
銀行の外に出ると、ユイが抑揚のない声と共に、再び抱き着いてくる。
さっきみたいな窒息するレベルではないので、私の視界が埋まるだけですむ。
よかった……
もう一度窒息したら、酸素欠乏症になってテ〇・レイみたいになる事だった。
『言動的には酸素欠乏症のテ〇・レイと大差ありませんが』
私の精神は破綻してないし、旧式の回路をシュヴァルベに取り付けたりしないからね!?
『ですが、数日前に怪獣災害のニュースを見ながら「ええい、魔装少女はいい! AFを映せ! AFの戦いぶりを!」と叫んでいましたが』
もうその話はいいから!
「私の用事は終わったけど、ユイは大丈夫?」
「問題ない」
「じゃあ今日は遊んで回ろう!」
抱き着くのを止めたユイと共に私は歩き出す。
折角の休みだし、とことん楽しもう!
『パイロットは休みでなくとも、十分楽しんでいると思います』
私たちがまず、訪れたのは定番のヨドバ〇カメラ。
家電や電子機器、ゲームやプラモまで、幅広い商品を販売している場所だ。
『いや、おかしいですよね』
え? 何が?
『どう考えても、年頃の女性同士が遊びに行く場所ではないと思います』
でも、昔からユイと遊びに行く場所と言えば、ヨドバ〇カメラとかゲームセンターだったよ?
『ゲームセンターはまだ理解できますが、普通はアパレルショップや映画館などに行くものですよ』
アパレルショップとか殆ど行かないかな。
今着てる服もただのパーカーだし。
ユイは結構、気にしてるっぽいけど。
だけど、映画館は偶に行ったりするよ!
往年のロボットアニメ映画が上映されてたりするからね。
『パイロットに普通を求めるのは止めた方が良さそうですね……』
何か、呆れられた気がする。
ヨドバ〇カメラ一時間ほど潰した私達は、ゲームセンターやアミューズメント施設などで遊び、カフェで休憩していた。
椅子の下に置いてある紙袋にはガン〇ラやROBO〇魂のフィギアなどが、ぎっしり詰まっている。
『買いすぎでは?』
確かに4袋は買い過ぎかもしれない。
でも、あの馬鹿みたいな額の通帳を見ちゃったらさ……
『欲望のタガが外れたと』
「レイ、好きなのは分かるけど、買い過ぎだと思う」
『パイロットはもう少し、節制を覚えるべきです』
「うっ……誠に申し訳ございません」
正論をぶつけられると、反論出来ねぇ……!
「まだ、新しい家も決まってないんだから、無駄使いは止めるべき」
ユイから見ると、私は怪獣災害で家を失って、避難生活をしている最中なので、真剣に忠告しているんだと思う。
まさか、ACFにシュヴァルベのパイロットとして雇われてる、何て言えないし。
『幾ら、頭のかおしいパイロットでも、それ位は理解していましたか』
何か、今日はALBAの毒が強い気がする。
『気のせいです』
「ねえ……ユイ」
私はコーヒーを飲むユイに話しかける。
「何?」
「今日は私の行きたい所しか行ってないけど……いいの?」
ユイは私ほど、巨大ロボットを好いている訳ではない。
別に嫌っている訳ではないと思うし、08〇隊やマク〇スが好きだとも聞いている。
だけど、私の様にプラモやフィギアを集めたりするほどではない。
私としては、ユイにも楽しんで欲しいが、今の所私が楽しい場所にしか行っていない。
昔はあんまり気にして無かったけど、私だって成長している。
自分の楽しい事を、相手も楽しいと感じるとは限らないと言う事を知った。
「問題ない。私も楽しかった」
「でも……」
ユイが席を立ち、私の両肩を掴む。
「レイ……私はあなたが、楽しそうにしているだけで幸せなの」
その言葉はユイにしては珍しく、抑揚のある感情の籠った声だった。
『パイロットがそこまで考えられるとは……驚きです』
私だって相手の事はちゃんと考えてるからね!?
「私は出来るだけ、レイが幸せでいる所を見たいの……」
肩を掴む力が強くなる。
「レイは家が無くなって大変でしょ……?」
「まあ……(大嘘)」
ユイが私の瞳をじっと見つめ、言葉を腹の内から出そうとしている。
多分、凄く大事な話だと思う。
「だから……前みたく、一緒に……っ!」
ユイは言葉を途中で切り、明後日の方向に鋭い視線を向ける。
えっ?
何が起こってるの?
「この距離で気付かれるか。魔装少女アステリア……やはり侮れんな」
ユイの視線の先、レイ達から800メートル以上離れたビルの屋上に彼らは居た。
ダークスーツと軽量な防弾ベストを着用し、ホルスターには自動拳銃が納められている。
彼らは設置したスナイパーライフルと双眼鏡で、レイの周辺を注視していた。
「我々は距離を取るぞ。護衛は他の警護チームに任せるとしよう」
隊長らしき男が撤収を命じると、他の人員はそそくさとライフルを楽器ケースにしまい込み、その場から引き揚げ始める。
隊員達が引き揚げを完了すると、隊長らしき男は最後にレイ達を一瞥し、屋上から撤収していった。
「気のせい……」
ユイは暫く、明後日の方向を睨み付けていたが、その言葉と共に剣呑した雰囲気を離散させ、再び席に着く。
いや、本当に何が起こったんだ。
怪獣でも居たのかな?
『どうやら、パイロットの護衛と監視を行っていたACFの特殊部隊に、気が付いた様ですね』
へ?
ACFの特殊部隊が私を監視……!?
『基地を出た時からずっとですよ』
気が付かなかった!
何でそんな事を……
『ご自身の立場を考えれば当然では?』
?
『パイロットはXGR-21シュヴァルベと言う、ACFの最高機密を預かる人間です。ACFから監視・護衛役が派遣されるのは当然と言えます』
私ってもしかして、結構な重要人物……?
『気付いてなかったんですね……はぁ……』
また、溜息ついてる!
てっ、今はそれよりもユイの言葉だ。
しっかり聞き直さないと!
「ユイ? 今なんて言おうと……」
「ん……何でもない」
ユイは珍しく顔を赤らめながら、下を向いている。
何か恥ずかしい事でも、言おうとしてたのかな?
『恐らく、家を失ったパイロットを自分の家に招きたかったのでしょう』
なら、そう言えばいいのに……
『パイロットに、多感な思春期の女心を理解する事は、早かった様ですね』
もしかして、私の精神が子供だって、言いたいわけ!?
『はい』
即答するな!