数十分前 高度10000メートルにて。
ベールのような雲海が広がる、青空の下。
一面を覆う高層の雲の中を巨大な影が飛行していた。
影は雲海を切り裂きながら高度を上げ、周辺の雲を巻き込みながら、その姿を現した。
超大型長距離戦略輸送機 C-600 コンドル
それはかつてアメリカ軍が運用していた輸送機、C-5ギャラクシーの二倍以上の巨体を持つ超大型輸送機であった。
周囲には少し奇妙な形をした戦闘機が二機展開し、コンドルをエスコートしている。
『こちらコンドル1、予定航路を飛行中。極東支部への到着は30分後の予定』
通常ならば、その巨体とコスト故に殆ど空を飛ぶ事がないコンドルだが、今回はとある最重要機密兵器を空輸する為にその巨体を飛ばしていた。
『天気良好、積乱雲も発生していなっ…ん?これは……』
コンドルのパイロットは定時連絡を入れる途中で、自機のレーダーに不可思議な影を見つける。
『こちらアイアース2、コンドル1どうした?』
『レーダーコンタクト、下方よりボギーが急速接近中』
『了解、直ちに対処を……なっ!?』
コンドルの通信を聞き、護衛機が機首を変えようとした途端、突然機体が火を噴きだし、護衛機は雲海へと墜落していった。
『アイアース2が撃墜、繰り返すアイアース2が撃墜された! コンドル1は退避しろ。本機が……っ!』
一機目の墜落から数秒も経たない内に二機目の護衛機も火を噴きだしながら撃墜され、残るはコンドルのみとなった。
『極東支部に緊急連絡! 本機は現在、所属不明機による攻撃を受けている! 直ちに増援を! 繰り返す直ちに増援を! 本機は現在……ぐわっ!』
四発存在するコンドルの巨大なエンジンが次々と火を上げ、巨大な機体を煙と火が覆っていく。
その巨体故に並大抵の攻撃では落ちないコンドルだが、全てのエンジンを破壊されてはどうする事も出来ない。
『操縦不能! 操縦不能! 堕ちるぞっ!』
炎は機体全体を包み込み、遂には巨大な翼が根元から折れ、機体は態勢を崩しながら、再び雲海の中へと沈んでいった。
やがて機体は雲海の中で爆発し、輸送されていた最重要機密兵器は黒い正方形のコンテナとして、スラスターを吹かしながら、地上へと落下していった。
ACF極東支部
アジア極東の日本と呼ばれる地域にその基地は存在している。
山間部の小さい平地を敷き詰める様に整備された基地には管制塔や格納庫、巨大な機体が着陸出来る程の滑走路などがあり、豪華な宿舎までもが建設されていた。
そんな地方の駐屯地以上の設備を持つこの基地を喧騒が包んでいた。
『コンドル1が墜落、繰り返すコンドル1が墜落。アイギス、アキレウス、各隊は直ちにスクランブル発進、XGR-21を護衛、回収せよ』
滑走路からは、コンドルを護衛していたのと同じマニピュレーターを備える奇妙な形をした戦闘機が、次々と離陸している。
『アイギス隊テイクオフ。アキレウス隊は滑走路へ向かえ』
格納庫には整備員が集まり、機体に武装や燃料を搭載していた。
「アキレウス隊各機は直ちに離陸! ブリーフィングと部隊編成は離陸後に行う!」
警報音が鳴り響く格納庫で20代後半と思われる若い女士官が青みがかった銀髪を揺らしながら、整備員やパイロット達に指示を出している。
「くそ、なんで着任早々に出撃なんだよ」
「俺なんて今日非番なのに…」
「ダミアン! エミール! 無駄口を叩くな! さっさと離陸しろ!」
「「はい!」」
女士官は遅れた二人のパイロットを急かすと、青色に塗装された自分の機体へと駆け上がる。
「私のモスキートは出せるか」
「はい、バッテリーと推進剤も完全に補給してあります」
機体の状態を確認した彼女は、機体中央に格納されたコクピットに乗り込むと慣れた手つきで計器を操作し、機体を滑走路に移動させる。
「アキレウス隊アンナ・モロゾワ、FAF-03モスキート、出撃する」
その言葉と共に機体後方のスラスターが火を噴き、機体が一気に加速する。
奇妙な戦闘機モスキートは空へ上がると、味方機体と共に編隊を組み、XGR-21の落下地点へと向かった。
一方、輸送機から落下したXGR-21は破壊されたビル群の中で起動し、眼前に見えるⅭ型怪獣と睨みあっていた。
傍から見れば怪物に立ち向かう漆黒の騎士と言った絵面だが、肝心のXGR-21を起動したパイロットは……
「凄い! 凄いよこれ! もう最高だよ!!」
テンションがおかしかった。
「私は今、ロボットに乗って、ロボット起動して、ロボットを操縦している!!」
XGR-21のコクピットに乗り、操縦桿を握っていた少女は、これから怪獣と戦うとは思えない程歓喜し、人生で最高の笑顔を浮かべている。
『前方12時の方向にⅭ型怪獣、こちらに指向中です』
〔GAOOOOOOOOOーー!!〕
怪獣は突如として起動したXGR-21を警戒し、街の破壊活動を止めて、その巨大な口にエネルギーを集中し始めた。
『Ⅽ型怪獣、口腔にエネルギーの収束を確認。本機及びパイロット保護の為の行動を開始、戦闘と逃走どちらを行いますか?』
「もちろん戦闘! ロボットの初起動は敵を倒してこそ! 逃げるなんて論外!」
『了解しました。正面のⅭ型怪獣を破壊目標として設定、戦闘システムオールグリーン』
人生初の戦闘を前にしても一切畏怖しない少女に答える様にXGR-21は、機体の細かいスリッドから、赤い光を放ち始める。
『目標、エネルギーの完全収束まで残り2秒』
「早っ! 悠長に話してる場合じゃ……って回避!!」
怪獣の口腔で収束を終えたエネルギーはXGR-21に向けて放射され、機体を飲み込む程に巨大なエネルギーの奔流がビームとなって、XGR-21に襲い掛かる。
少女は左手で、スロットルレーバーを最大の四段階目まで一気に押し込んだ。
少女の操作によって、背部に装備された翼の様な二対四基の大型スラスターが一斉に火を噴き、機体を一気に前方へと押し出す。
XGR-21はビームを寸での所で回避しながら更に加速し、数百メートルは離れていた怪獣との距離を一瞬で縮め、遂には追い越してしまった。
「くっ!」
凄まじいGがパイロットを襲い、少女は視界が暗くなっていくのを感じ、急いでスロットルレバーを戻す。
ビームを避け、更に怪獣の背後を取る事にも成功したが、戦闘機以上の負荷を一瞬にして受けた少女は、苦悶の顔を浮かべ…
「すごい!」
なかった。
正確には一瞬苦悶の顔を浮かべたものの直ぐに満面の笑みとテンションを取り戻し、スラスターを細かく制御する事によって、地上から数十メートルの地点で機体を滞空させていた。
今の一瞬は確実にやばかった。
昔乗ったジェットコースターの三倍位の圧力が掛かった気がする。
「ゼ〇スはこんな感覚だったのか……」
そりゃあ血も吐くよ。
流石の私も、今の加速には命の危機を感じた。
だがしかし!
私は今、命の危機など霞む程の興奮を感じていた。
私が知っている限り、僅か4秒の加速で800メートル以上の距離を縮める事が出来るAFは存在しない。
つまりこの機体は何処かの誰かが作った最新型の超高性能アーマード・フレーム!
初めてのロボット操縦でこんな機体に乗れるなら、さっきの負担なんて軽いものだ。
「殺人的な加速だ! って一回言ってみたかったんだよね!」
『目標の背部に熱源反応』
「はぇ?」
私が追い抜いて、そのままの背後を取られた怪獣が何かをしようとしている様だ。
怪獣の背びれの様な部分が紫色に光って……
〔GIIIIIIIIIIーー!〕
『目標の背部体表組織が分離、こちらに向かって来ます』
なんか紫色に光ってた鱗が、ジェット噴射しながらミサイルみたいにこっち来てるんだけど!?
「回避しながら迎撃! この機体なんか使える武装ないの!?」
『肩部30ミリガトリング砲を使用、敵ミサイルを迎撃します』
私がスラスターで回避運動をとる中、機体の肩部装甲が開き、内部から三連装のガトリングガンが展開された。
左右合わせて二門のガトリングが一斉に銃弾をばら撒き、接近する鱗ミサイルを迎撃する。
『ミサイルの90パーセント以上を撃墜』
「すごい! これなら…!」
レーダーに表示されていたミサイルを示す赤い点がどんどん減っていく。
『肩部30ミリガトリング砲、残弾ゼロ、格納します』
「弾切れ早っ! まだミサイル全部撃ち落としてないよ!?」
『本機は輸送中だった為、弾薬、武装共に最低限しか装備していません』
「なに!?」
ガトリングで迎撃しきれなかった鱗ミサイルが機体に次々と命中していく。
「やばいってこれ!」
ミサイルの命中によってコクピットにも振動が伝わってくる。
『問題ありません。機体損傷率0.12パーセント、本機の複合装甲は鉄壁です』
「なんと言う性能だ」
確かに振動こそ感じたが、機体システムは何処にも異常がない。
どうやらこの機体の装甲はガン〇リウム合金並みらしい。
『目標、再び口腔にエネルギーを収束』
ミサイルの攻撃を捌いている間に怪獣は再びこっちを向き、エネルギーを溜めていた。
「さっきのゲロビは流石に無理! 他に武装はないの!?」
『機体腰部にプラズマソードが搭載されています、しかし試作品の為、稼働は保証出来ません』
「プラズマソード? えっと……これか!」
私はタッチパネルを操作し腰部にマウントされたプラズマソードを選択する。
すると機体腰部のウェポンラックが開き、武骨な白い筒が現れた。
「こ、これはまさか!」
『プラズマソード起動』
機体の右腕で筒をマウントすると、筒の先端からエネルギーが噴出し、剣の形を作り始める。
形状変化が終わるとそこには、青色の光を放つ光の剣が出来上がっていた。
『起動成功、プラズマソードへのエネルギー伝達正常。問題なく稼働しています』
これは正しくビーム〇ーベル!
これなら……
「いける!」
私はプラズマソードを構えた状態で再びスロットルレバーを最大まで押し込み、機体を一気に加速させる。
私の身体を再び、凄まじいGが襲うが、そんな事どうでもいい。
目標はエネルギーを溜め込んだ怪獣の口腔!
「これが!」
私は叫ぶ。
小さい時からの夢と浪漫を、この声に乗せて。
「必殺の!」
世界に訴え、証明する。
ロボットのかっこよさを!
「プラズマ斬りだぁ!!」
XGR-21はスラスターを全開に吹かしながら一気に怪獣へ接近し、上段に構えたプラズマソードを怪獣の頭部に振り下ろした。
プラズマの刀身は怪獣の堅固な外皮をいとも簡単に突破し、内部の組織を熱しながら反対側へ達する。
口腔周辺を切断された事により、怪獣は収束したエネルギーを制御出来なくなった。
溜められたエネルギーは怪獣の身体全体に逆流し、怪獣は至る所から、光が噴き出し始める。
XGR-21はプラズマソードを振るうと、怪獣の背後に着地した。
機体の肩部、背部、脚部の装甲が開き、内部の蒸気と熱を一気に外部排出する。
〔GAAAAAAAAAA!!〕
それと同時に背後の怪獣は咆哮を上げながら、身体が崩壊し、最終的にエネルギーの大爆発に包まれて絶命した。
「はぁ……はぁ……やったの?」
『目標の完全な破壊を確認、ミッションコンプリートです。お疲れ様でした』
流石に疲れが出たのか、Gで消耗した少女にシステム音声が作戦完了を伝える。
『素晴らしい操縦でした。本機の最大加速に耐えたパイロットはあなたが初めてです』
「初めて?」
『今まで、合計で16人のパイロットが本機に搭乗しましたが、特殊対Gスーツを着用しても最大加速まで耐えられたパイロットは存在しませんでした』
そう言ってシステムはモニターに今までの記録を表示する。
『本機が独自に演算した結果、貴方を超えるパイロットは現状存在しません、そこで貴方に再び要請します』
「まさか……!?」
システムの言葉に少女は期待を感じる。
『本機のパイロットとして、オペレーション・レコンギスタに参加して頂きたい』
「っ!」
少女の顔に喜びと興奮が浮かび、頬には再び少量の涙が伝う。
そして少女は再び、迷わず回答した。
「……OKっ!」
XGR-21をこの先も操縦できる。
少女が了承した理由であった。
「ありがとう…えっと…」
『本機の識別名はXGR-21シュヴァルベ。私はパイロット総合支援システムの“ALBA“です』
「うん、ありがとうALBA! 私は“天城 レイ“これからよろしくね!」
『こちらこそ、よろしくお願いします』
XGR-21シュヴァルベのパイロット、レイは笑いながらパイロット総合支援システム、ALBAと言葉を交わす。
その顔は人生で一番と言える程に穏やかで期待に満ちた笑顔だった。