ベッドに黒髪の少女、天城 玲が眠っていた。
部屋は清潔感を感じる白で染められ、空いた窓からはそよ風と小鳥のさえずりが聞こえてくる。
「……?」
レイの意識が覚醒し、瞳が開き始める。
彼女は周辺を少し見渡した後、天井を見て言った。
「知らない天井だ…」
私は二度寝したい欲望を抑え、上体を起こして周りの景色をみる。
本当に何処だこれ。
状況が分からな過ぎて、シ〇ジ君みたいな事になってるんだけど。
『おはようございます、パイロット』
「はぇ!?」
突如としてALBAの声が響く。
再び周囲を確認しても、誰もいなければスピーカーも置いていない。
しかも、頭の中に直接響いている様な……
『その通りです。私はパイロットの脳内に直接語り掛けています』
こいつ直接脳内に…!
あれ?て言うか私は何も言ってないはず。
『パイロットの脳内情報は全て、こちらで把握しています』
えっと…それはつまり…?
『簡潔に言えば、パイロットの考えている事は全て、私に筒抜けと言う事です』
プライバシー!?
誰だ!乙女の心を覗き見るシステムを作った奴はっ!
『開発者は極秘につき、お教え出来ません』
そう言う話じゃない!
てか、なんでそんな事が可能に…?
『XGR-21にパイロットが搭乗した際に行ったナノマシン注入及び、神経システムリンクにより、私がパイロットの脳と完全に同期した為です』
?
『つまり、私がパイロットの脳に住んでいると言う事です……はぁ……』
ALBAが分かりやすく要約してくれたお陰で、何となく分かった。
けど何か最後に溜息ついてなかった?
『私に関する話はここまでにしましょう。先ずは何よりも自身の置かれている状況を把握したいのでは?』
そう言えばそうだ!
私は確かシュヴァルベに乗って怪獣と戦ってたはず……
『事が起きたのは怪獣を撃破した後です。覚えていませんか?』
えっと、怪獣を倒して…それから……あ!
「これからよろしくね!」
『こちらこそ、よろしくお願いします』
あれは怪獣を倒し、お互いに自己紹介を終えた時。
ピーピー
突如としてレーダーに空から接近中する戦闘機の大軍が映ったのだ。
「なにあれ?」
『接近中の機体を最大望遠で視認、ノクターン社製FAF-03モスキート12機を確認しました』
ALBAがメインモニターに機体の映像を映す。
「モスキート?始めて聞く機体だ。AFと戦闘機の名前は一応全部知ってるはずなんだけど」
『FAF-03モスキートは発表こそされていませんが、ノクターン社が開発した世界初の可変型アーマード・フレームです』
「可変!?」
可変機ってことはつまり、Zガ〇ダムとかバ〇キリーみたいな機体ってことか。
AF産業は衰退したって聞いたけど……まさか可変機を開発しているとは……!
ノクターン社……!
なんて素晴らしい企業なんだ!
編隊を組んで進むFAF-03モスキートの先頭に一機だけ、青く塗装された機体があった。
指揮官であるアンナ・モロゾワ中佐の専用機である。
「こちらアキレウス1、目標空域に到達。Ⅽ型怪獣によって街には甚大な被害が出た模様』
『空中管制よりアキレウス隊へ、アイギス隊もコンドル1の残骸を発見したが、XGR-21本体は発見出来ていない。コンテナが落下したとしたらその区域だ、直ちに発見せよ』
「了解、直ちに捜索をかい……っ!」
『どうした?アキレウス1』
中佐は瓦礫と化した街の中に崩壊した怪獣と一機のAFを確認した。
「XGR-21を発見、既に起動している模様、Ⅽ型怪獣も既に撃破されている」
『馬鹿な!?まさか起動したと言うのか』
管制が驚きの声をあげる。
「そのまさかでしょう。いかがしますか?」
『当初の目的と変わらん。降下してXGR-21を確保しろ』
「了解、アキレウス2から6は私に続け、残りは上空で周囲を警戒せよ」
アンナは的確な指示を部下に飛ばすと、機体を下降させてXGR-21に接近した。
『IFF照合完了、ACF極東支部所属のアキレウス隊です』
「ACFって確か企業の私設軍隊か何かだっけ?」
『はい、怪獣対策の為に多数の軍需企業が設立した私設軍事組織であり、我々が所属する事になる組織です』
所属するって事は、ALBAが言ってたオペレーション・レコンギスタとか言うのはACFがやってる計画って事かな。
まあ何にせよ、多分私がこれからお世話になる人達って事だし、挨拶しておいた方がいいよね。
丁度降りて来たみたいだし。
「ALBA、あの部隊に通信を……あれ?」
急に気分が悪くなっていく。
何か、喉から何かが込み上げてくるような感覚が…
「ゲホ!ゲホッ!」
私は唐突に血の塊を吐き出した。
同時に心臓が激しく慟哭し、内臓にも不快感が広がっていく。
『パイロットの身体に深刻な損傷を確認』
「なん…で?」
『機体の最大加速によるGが原因と思われます、直ちにパイロット保護の為の処置を行います』
またコックピットに多数のマニピュレーター展開されていく。
しかし私の意識はもう持ちそうにない。
あぁ……
視界が暗くなっていく
まだモスキートが変形する所を見れてないのに……!
私の意識はそこで途切れた。
で、私は気絶したわけだ。
「いやあ、ちょっと乗っただけで気絶するとは、私の身体も貧弱だね」
AFに乗る為に鍛えてたつもりだけど、まさか加速に耐えられないとは……
身長も一向に伸びないし。
『いえ、パイロットの身体は貧弱などではありません。どちらかと言えば頑強と言えるでしょう』
そうなの?
『はい、現に今パイロットをXGR-21の正式な操縦士とするかが議論されていますが、98パーセント以上の確率で貴方がXGR-21のパイロットとなるでしょう』
マジで!?
『マジです』
良かった、実は心配してたんだよね。
でも本当になんで私なんかが……
『今までXGR-21を16人以上のテストパイロットが操縦しましたが、その殆どがGに耐えられず深刻な重傷を負ってしまいました』
それは私も同じじゃない?
『いえ、テストパイロットの殆どは専用の対Gスーツを着用していながら、最大加速に耐えられませんでした。しかし貴方の場合は対Gスーツを着用せずに、しかも重傷を負った状態で最大加速に耐えるどころか、戦闘まで行っています。はっきり言って貴方は超人と呼べるレベルの貴重な人材です』
「な、なるほど…」
そこまで褒められると、逆に恥ずかしいな。
私はここまで褒められた事があんまりないのだ。
まあ、話せる友達が幼馴染以外に殆どいないんだけどね。
『上記の理由により、貴方のパイロット指名は殆ど確定しています。そもそも私が貴方を選んだ以上、議論の必要もないと私は思いますがね』
「さっきから思ってたんだけどさ」
『? 何でしょうか』
「何かすごい、人間らしくなってない?』
溜息吐いたり、自分に自信満々だったり、明らかに感情がある気がする。
『気のせいです』
「いやでも…」
『気のせいです』
押し通された。
XGR-21と操縦者のレイを確保したアンナ・モロゾワ中佐はACF極東支部の一室にて、とある会議に出席していた。
出席者はアンナ以外に軍服を着た者が1人と高級そうなスーツを着た者が4人おり、合計で6人が今回の会議に出席していた。
『まさか、コンドルが撃墜されるとはな』
『しかも、護衛のモスキートは全滅。何処の誰に撃墜されたのかも完全に不明だ』
アンナを見て、右の席に座っていた壮年の二人が発言する。
発言と同時にテーブル中央に撃墜させた機体の画像が映し出された。
『だが、幸いにも我々の投資は無駄にならなかった。XGR-21は怪獣を圧倒し、既存のAFを遥かに超える性能を発揮したのだからな』
「ですが、操縦した者が問題です。本来ならば我々ACFの然るべきパイロットが操縦すべき所を民間人が操縦したのですから」
アンナはレイのデータと写真を映し出す。
『たしか、“天城 レイ“と言ったか。対GスーツなしでXGR-21を操縦した上で、最大加速に耐えたとか』
『それが本当なら、彼女は我々が探し求めた人材と言う事になる。正に不幸中の幸いと言えよう』
『どうです? この際、彼女をXGR-21のパイロットとして雇うと言うのは?』
ALBAが予測した通り、会議はレイを正式なパイロットとする方向で進んだ。
しかし元々唯の民間人であるレイがパイロットとなる事に反対する者もいる。
「しかし、彼女は民間人です。調査によれば魔装少女に内定している人物との事ですし、偶然パイロットとなった彼女にパイロットをする気があるとも限りません」
アンナは冷静に物事を判断し、他の出席者に反論した。
彼女にとってレイは巻き込まれた民間人に他ならない為だ。
更に機密性の高い今回の計画に民間人である彼女を巻き込むリスクもあった。
『たしかに君の意見は最もだ。しかし、君とて知っているだろう』
『オペレーション・レコンギスタの要たるXGR-21、我々の技術の粋を集めたあの機体には、圧倒的な性能が秘められている』
『だが、それ故に扱えるパイロットが存在しないのだよ』
軍服を着た出席者が今まで、XGR-21に搭乗してきたテストパイロット達を映し出す。
『彼らは各社から選抜された優秀なパイロットだったが、ついぞXGR-21の加速に耐えられる者はいなかった』
『しかし、彼女は成し遂げて見せたのだ。対GスーツなしでXGR-21の最大加速に耐えると言う偉業をな』
「彼女は戦闘後、吐血して意識を失っておりますが……」
『多少、内臓が傷ついただけだろう? それに今までのパイロット達はまともな戦闘機動すら出来なかったのだ。それに比べれば、彼女のなんと優秀な事か』
『君の危惧など、我々の力でどうとでもなる。本人の意思に関してもやりようは幾らでもあるだろう』
アンナは少女の人権を一切考えていない他の出席者に対して、怒りと嫌悪感を抱いたが、それを口に出す事はなかった。
単なる現場指揮官である彼女には、彼らの決定に逆らう権限と力がなかったからだ。
『それでは、決議を行います。天城レイをXGR-21のパイロットとする事に賛成の者は挙手をお願いします』
会議を取り仕切る出席者の発言によって、議決権のないアンナ以外の出席者全員が右手を上げた。
『反対なし、全員一致と言う事で天城レイをXGR-21のパイロットとして決定します』
『これで、ようやく停滞していた計画も進み始めるな』
『後は実行あるのみ、彼女には頑張ってもらわねば』
『では、本日の会議は解散とします』
その言葉と共にアンナ以外の参加者の輪郭が細かく波打ち、立体映像が消える。
「くそっ……」
誰もいなくなった暗い部屋でアンナは一言だけ上層部への不満を漏らした
「失礼します。中佐殿」
会議の終了を見計らっていた士官が、自動ドアを開けて入ってくる。
「天城レイが目を覚ました様です」
「そうか……ご苦労」
士官が敬礼をしながら報告すると、アンナは労いの言葉をかける。
彼女は士官に敬礼を返すと、部屋を出ていきレイの病室へ向かった。
「説得には骨が折れそうだ……」
唯の民間人であるレイをパイロットとして協力させる事にアンナは罪悪感を抱いていた。
今でこそ企業の私設軍隊であるACFの部隊指揮官をやっているが、彼女は元々は国家と国民に奉仕する職業軍人だったのだ。
アンナの根底には民間人は守るべき人々であると言う信念があり、守るべき民間人を戦闘兵器のパイロットにするなど、恥ずべき行為だ。
「でも、やるしかない」
しかし、今はACFと言う組織に所属している身。
組織人として上の命令に彼女は逆らえない。
いつの間にか病室の前まで来ていたアンナは、レイに憐れみと罪悪感を感じながら扉を開いた。
「初めまして、私はアンナ・モロゾワ、ACFで中佐の階級につく者です」
巻き込まれただけのレイをどうやって引き込むか。
それ以外の思考を追い出し、説得に挑む。
数分後アンナが幾つかの説明を終え、計画参加の是非を問う。
通常の人間であれば、拒否するか少なくとも考える時間を欲する内容であったが。
「やります!」
レイは食い気味に了承した。