計画への参加を即答されたアンナ中佐は、歩ける程に回復していた天城レイにACF極東支部を見学させていた。
アンナにとって唯の民間人であるレイが、計画への参加を即答したのには驚愕する事であった。
彼女が最初にレイを見たのはXGR-21のコックピットで血を吐きながら気絶した姿であり、病室に入った際の第一印象も美しい黒髪を持つ儚げな少女であったからだ。
何処か幼げで小柄な外見は軍事兵器たるAFのパイロットに全くもって似つかわしくない。
どちらかと言えば魔装少女をしていそうな外見だ。
しかし基地を案内し、言葉を交わしている内にそんな印象は消え去る事になる。
「あれは! ノクターン社製の第二世代機AF-06 コールドロン!! あっちはイェーガ社製のGR-09 アルバトロス!! 配備数が少なくて殆ど見かけない超高性能機がまさかこんな所に!」
演習場のAFが見え始めた途端、レイのテンションがおかしくなり始めた。
「まさかあれは! ヴァローナ社製のBR-04 パシーニン!? 幻の1.5世代機が現存していたのか!」
窓から確認出来るあらゆるAFに食いつき、ガラスに張り付きながらそれらを凝視して叫び散らしているのだ。
最初に抱いた儚げな少女と言う第一印象は完全に崩れ去り、アンナは色々と真剣に考えていた自分が馬鹿らしく思えてくる。
「何なんだこいつは……」
ACFの軍事基地に半ば拉致される形で連れてこられたはずが、謎にテンションが高いレイに対して、アンナは困惑するしかなかった。
ここには私も画像や写真以外で、見た事ないような希少機体から正規軍で採用されている現用機、更に退役した旧式機まで、ありとあらゆるAFがいる。
「UFFの駐屯地でもここまで色んなAFが集結してる基地なんてないんじゃないですか!?」
「ACFにはあらゆる世界的軍需企業が参加している。AFは基本的に企業が開発している以上、必然的に配備されるAFも各企業の多種多様な機種になる」
ここは天国か!?
『違います』
数十時間前まで、街中で絶望していたとは思えない程、私は幸福に包まれていた。
今こそ言おう。
「正に我が世の春が来たぁ!」
『満足しましたか?』
うん!
『それは何よりです……はぁ……』
何かまた溜息をつかれた気がする。
やっぱり感情あるよね?
『そんな事よりも、先程アンナ中佐が説明した事をちゃんと理解していますか?』
えっと……
魔装少女のコストがどうとか、AFの兵器市場がなんたらかんたらって言ってた気がする。
『つまり、理解できていないと言う事ですね?』
まあ……はい。
ロボットに乗れるって事だけで了承しました。
『中佐が説明された事は、パイロットが参加するオペレーション・レコンギスタの詳細です。今後行動する上で、非常に重要な事柄のため私が要約して説明します』
ALBA先生ありがとう。
大好き!
『……まず、本計画の最終目標はAFの市場価値回復です』
価値の回復……
つまり、AFがもっと求められるようにするってこと?
『はい。現在AFの市場価値は、怪獣と魔装少女の出現によって大きく低下しています。事実としてUFFや世界各国の正規軍では、旧型機の退役が続いていますが、新型機の導入は計画されていません』
なんで!?
『主な理由としては、ランニングコストが挙げられます。弾薬費や整備費、燃料費などの大きなコストが掛かるAFに比べて、魔装少女の運用にはそれ程多くの維持費が掛かりません。数字にすると魔装少女の一人あたりの運用コストは平均的なAF一機の20パーセント程です。対怪獣と言う面だけ見れば、戦力として優秀なのは魔装少女と言わざるを得ないでしょう』
まじかよ……
どうりで、AFパイロットの募集が殆どなくなってた訳だ。
『しかし、それに待ったをかけるべくとある計画が始動しました』
流れ変わったな。
『戦場の主役たるAF産業の衰退は、そのまま軍需産業全体の衰退に繋がります。それ故AFの開発で知られる世界的な軍需企業四社が提携を行い、AFの世界における地位を回復させる為の計画を策定しました。それこそがオペレーション・レコンギスタ。パイロットが参加する大計画です』
なるほど!
で、結局なにをするの?
『具合的には、パイロットが操縦するXGR-21 シュヴァルベなどの次世代型高性能機でもって、魔装少女と怪獣が交戦する戦場へ介入。AFの性能と優位性を見せつけ、各国軍内部の守旧派などと連携し、AFを再び兵器産業の中心へと返り咲かせます』
えっと……つまりは、シュヴァルベで戦場を荒らして回るって事?
『パイロットの任務を要約すると、その認識で大体合っています。任務に際しては企業連合の私設軍事組織であるACFが全力で支援に当たります』
「クックック……」
『パイロット? どうかしましたか?』
これが笑わずにいられるか。
私は、唯ロボットに乗る為だけに計画への参加を決めた。
でも、詳しく聞いてみれば巨大ロボットと言う浪漫の為にみんなが頑張っているではないか。
『いえ、本計画はAF開発企業の利益維持の為に……』
ならば!
私一人が、自分勝手な理由でシュヴァルベに乗っていい訳がない。
これは私に夢を届けてくれた巨大ロボットに恩を返すチャンスだ。
『ですから、本計画にその様な理由は……』
私は、宣言する。
シュヴァルベに乗って、巨大ロボットを再び世界の主役にして見せると!
「着いたぞ」
おっと、気づけば私は基地見学の最終地点に到達していたようだ。
「ここはXGR-21の専用格納庫だ。……つまり実質的にお前専用の格納庫と言う事になる」
「専用……!」
その言葉だけで心が躍る。
胸が苦しくなって、ドキドキを抑えられなくなってしまう。
基地のど真ん中、正に最奥と言える場所に格納庫はあった。
建物全体が迷彩で塗装され、周囲には無数の対空砲やミサイルランチャーなどの防御設備が配置され、警備員の数も他の所とはけた違いだ。
巨大な扉の前面には私が見た事もない、AFが二機直立し、格納庫を警備していた。
「あれは、61式SHハヤブサ?いやでも……所々形状や武装が違うし……?」
装甲の形状はシュヴァルベに似ているけど、芸術品並みの優雅さは感じない。
どちらかと言えば量産兵器として洗練された印象を受ける。
まあ、どちらにしても……
「かっこいい!」
何だあの角と日本刀みたいな武器は!
侍みたいで滅茶苦茶かっこいいんだけど。
『あの機体は河宮重工の開発した最新の第三世代型AF、74式SHハヤテです』
アジアトップクラスの軍需企業である河宮重工も計画に参加してたのか。
ノクターン社にイェーガー社、ヴァローナ社の機体まであったし、本当に世界中のAF開発企業が参加してるんだね。
「XGR-21の専属パイロットを連れて来た。扉を開けてくれ」
アンナさんがそう言うと、格納庫の巨大な扉が轟音と共に左右へスライドしていく。
格納庫の中にはサッカーコート程の空間が広がり、天井には照明が幾つも配置されていた。
「あ! シュヴァルベ!」
最奥には漆黒のAF、XGR-21シュヴァルベ、私の愛機がドックに駐機されていた。
格納庫では整備員達が初戦闘を経験したXGR-21を整備していた。
「胸部の被弾は第一装甲版で食い止められてますね。装甲の一部を交換するだけで済みそうです」
「関節部とフレームの負荷は設計通りですけど、ここまでの負荷は初めて見ますね」
整備員達はXGR-21の専属整備班であるが、ここまで使用された状態は初めて整備する。
XGR-21はその高いGによってパイロットに掛かる負荷が尋常ではなく、今までXGR-21に搭乗してきたテストパイロット達は、短時間で潰れてしまう為、戦闘レベルまで使い込まれる事がなかったのだ。
「取り合えず、データの抽出は終わってるし、今日は装甲版の取り換えと排熱システムの点検だけしとこうか。明日にはおやっさんも到着するし、内部の整備は明日にまわすか」
整備員達を仕切る主任の芝山、通称シバは内部機構の整備を明日にまわし、今は外装の修理を行う事を決めた。
非常に高額かつ繊細なXGR-21の内部機構の整備を自分達だけでしない方が良いと判断した為である。
「さーてと、電装系のチェックは終わったし後は……ん?」
「シュヴァルベだぁ!」
シバが作業内容を確認しようとした時、先程到着したレイがXGR-21の装甲に抱き着いた。
「ちょっと! ちょっと! そこのお嬢さん。何処のお偉いさんの娘か知らないけど、勝手にこの機体に触っちゃ駄目だよ」
「ん?」
レイは困惑した様な顔を浮かべる。
幾度かシバと整備員達を交互に見て、ようやく状況を理解したのか、機体に抱き着くのを止め、シバに向き直った。
「どうも初めまして! 私はシュヴァルベのパイロットで天城レイって言います!」
「これはどうも……自分は河宮重工の芝……パイロット!?」
シバはレイを見て驚愕する。
目の前の少女はどう見ても中学生程の年齢にしか見えず、凄まじい負荷を誇るXGR-21のパイロットだとは全く思えないからだ。
「う、嘘でしょ……こんなお嬢ちゃんがパイロットなわけ……」
「嘘ではない」
困惑するシバの元にアンナが現れる。
「彼女はれっきとしたXGR-21のパイロット。ACFのお偉方とALBAシステムが選んだ人類最高のパイロットだ」
「えぇぇ……!!」
シバと整備員達は空いた口が塞がらなかった。
「整備班の皆さんですよね。シュヴァルベを整備してくれてありがとうございます!」
レイは目をキラキラさせながら、笑顔で感謝を伝えた。
その純粋な瞳と、幼さを残す容姿から繰り出される感謝の言葉。
「お、おう……べ、別に感謝される様な事はやってねえよ……」
「そうそう! 俺達整備員は自分の仕事をやってるだけだから!」
「かわいい……」
「お前、ぼそっと言うな! 相手は未成年だぞ! 捕まりてえのか!」
破壊力抜群である。
年下の少女に感謝されて嫌な気持ちになる男などいない。
それが外見だけは美少女のレイであればなおさらである。
「馬鹿馬鹿しい……」
アンナの独り言は誰にも聞こえなかった。
一方その頃。
ACF極東支部のとある一室で一人の少女が激怒していた。
「納得出来ません!」
茶髪を二つにまとめた少女は机を叩きながら、目の前の男性職員に訴えかける。
「そんな事、言われましても……これは上の決定で……」
「パイロット適性が一番高かったは私のはずなのに! 何でぽっとで日本人がパイロットになるんですか!」
「ですから……天城レイさんのパイロット適性が優れていると何度も……」
男性職員は自分にどうする事も出来ない事で詰められ、少女の激怒に事務的な回答をするしかなかった。
「ちっ! ならその天城レイとかい言う奴は何処にいるの!」
「今は、アンナ中佐と基地を見学中で……多分今は専用格納庫かと」
これ以上話しても無駄だと悟った少女はレイの居場所を聞き出すと、乱暴に扉を閉め早々に部屋を出ていった。
「何で俺に……」
少女の居なくなった部屋で、男性職員は愚痴をこぼした。