昼下がりの格納庫。
「ふふ〜ん♪ふふ〜ん♪」
私は再会したシュヴァルベの装甲を磨いていた。
アンナさんは他にも仕事があるらしく、整備班の人達は休憩中だ。
「この漆黒の装甲……! 何度見ても美しい……」
この機体を設計した人は天才だと思う。
勿論全てのAFが美しいし、かっこいいと思うけど、シュヴァルベの優美さは異常だ。
「ふふ〜ん♪ふふ〜ん♪」
初めて見た時から、私はシュヴァルベの魅力に取りつかれている。
私がシュヴァルベのパイロットに選ばれた事と言い、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられないな。
『機体に対して感情的になるのは推奨されません。特定の機体に入れ込んだ場合、作戦効率が低下するとのデータが存在します』
そう言うのいいから!
別にシュヴァルベを愛でるくらいいいじゃん。
それとも嫉妬しちゃった?
『AIである私に嫉妬と言う感情はありません。私はただ、パイロットのサポートを……』
シュヴァルベの事は確かに大好きだけど、ALBAの事も私は好きだよ?
『…………』
急に黙り込んじゃった。
「まあいいや、右脚は終わったから次は左脚を……」
「そこのあんた!」
「ん?」
今誰かに話しかけられた気がする。
「気のせいかな?」
私は今、この子を磨くので忙しいのだ。
気のせいと言う事にしておこう。
「気のせいじゃないわよ! 私があんたに話しかけてんの!」
結構しつこい汚れがあるな。
まあ歌でも歌いながら気長にやろう。
「ココア♪ソーダ♪クエン酸♪」
「変な歌を歌ってないで! いい加減反応しなさいよ!」
『そろそろ反応してあげては?』
ALBAにそう言われると、何か可哀そうに思えて来た。
流石に反応してあげるか。
「やっと、こっちを向いたわね……!」
振り返るとそこに居たのは、茶髪を後ろ髪で二つに纏めた、私と同年代程の女の子だった。
「誰?」
「散々無視しといて最初の言葉がそれ!?」
本当に誰だこの人。
服装的には見学の途中で見たパイロットの人達に似てるけど。
「私の名前はリン・シャオフェイ! あんたに決闘を申し込みに来たわ!」
決闘?
ここアス〇ィカシアだっけ。
「あんたがXGR-21のパイロットだなんて私は認めない!」
えっと……つまりは……
「喧嘩を売られてる……?」
『正解です』
やったー!
「パイロットの座を賭けて、私と決闘しなさい!」
決闘を申し込まれるなんて人生で初めてだ。
『受ける必要はありません。パイロットの選定は既にACF上層部で決定されいます』
確かに私が決闘を受けるメリットってないか。
それに個人が何をしたって、意味はないだろうし。
「黙ってないで、何か言ったらどうなの? まさか私に怖気ずいて……」
あれ、何かリンさんの後ろに……
「リン少尉……貴様何をやっている?」
「ひっ! ア、アンナ中佐……!」
何時の間にか、明らかに不機嫌なアンナさんが、リンさんの後ろで仁王立ちしていた。
さっきまで元気だったリンさんは、借りて来た猫の様に大人しくなり、しょんぼりしたケモ耳が幻視出来そうだ。
「パイロットの選定は上が決める事。一介のパイロットに過ぎない貴様が口を挟む案件ではない」
「ですが……!」
「口答えするな! 組織人たるもの上の決定には従うのが道理だ。不服があるなら書面で提出しろ」
何と言う威厳……!
様付けで呼びたくなるレベルだ。
『アンナ中佐はかつて、ユーラシアの青い閃光と呼ばれたエースの中のエースです。その実力を買われ、本計画の実行部隊隊長に選ばれました』
何にそのかっこいい異名!?
私も欲しいんだけど。
黄昏の〇弾とかエンデュ〇オンの鷹みたいな。
「納得していないのは私だけではありません! 他のテストパイロット達だって……!」
やっぱり、納得出来ない人は多いんだ。
確かに途中で結構、怪訝な目で見られてたもんなぁ……
よし!
「アンナさん……いや隊長!」
「なんだ……?」
明らかに面倒くさそうな顔をしているアンナ中佐に私は言う。
「決闘、受けさせて下さい!」
『何故あんな事を言ったんですか? どう考えても決闘を受ける合理的な理由はないはずです』
理由?
そんなの簡単だよ。
「ロボット同士で戦いたい!」
怪獣と戦ったり、AFを操縦するだけでも確かに楽しいし、凄い充足感を感じるけど……!
やっぱりロボットはロボット同士で戦って欲しい。
『意味不明です』
男なら一度はロボット同士で戦ってみたい思う。
そう言う事だよ。
『やはり、理解不能です。そもそもパイロットの身体的性別は女性では……』
細かい事は気にしない。
それよりも、あのリンって言う子の情報を教えて。
『ストーカーですか? 気持ち悪いですね』
何でそうなる!?
違うからね、私は犯罪者じゃない!
『冗談です』
AIなのに普通に感情あるじゃん。
『気のせいです。それよりもリン少尉の情報が欲しいのでは』
煙に巻かれた気がする……
まあいいや、取り合えず情報プリーズ。
『鈴小緋、女性、17歳、アジア東部地区出身。ACF極東支部に所属。オペレーション・レコンギスタにおいて、XGR-21のテストパイロットに選ばれる。16名のテストパイロット中で最高の適性を記録。XGR-21で戦闘機動を行う事に成功した。模擬戦においても高い成績を残し、他のパイロット全員に勝利。唯一アンナ・モロゾワ中佐に惨敗』
結構凄い人だった……!
て言うか私より、年上じゃん。
これからは先輩って呼ぼう。
『リン少尉は優れた才覚と経験に裏付けされた実力を持つパイロットです。模擬戦にXGR-21は使用できませんが、どうするつもりですか?』
そんなの決まってるでしょ!
私は適正こそあれど、経験がない。
ならば、経験を積めばいい。
「と言う事でよろしくお願いします!」
「何故、面倒事ばかり私に寄ってくるんだ……」
アンナ隊長に頭を下げて、訓練をお願いする。
まだ少ししか会ってないけど、結構面倒見が良さそうなので、多分訓練してくれるはず。
『完全な希望的観測である事は置いておいて、アンナ中佐に師事を仰ぐのは良い考えだと思います』
でしょ!
「まあ……元々お前には訓練をさせる予定だった。それが早まっただけと考えればいいだろう」
「ありがとうございます!」
私の見立ては間違っていなかった。
「基本操縦に関してはALBAシステムがお前の脳に情報を焼き付けているから心配ないだろう」
「ん?」
脳に情報を焼き付けるって言った?
え、ALBAさんそれは誠ですか……!
『間違いありません。パイロットによるXGR-21起動時に操縦を円滑に行うべく、操縦に関する基本的な情報をパイロットの脳に直接焼き付けました』
それ絶対やばい奴だよね。
ニュースで見た事あるよ、脳技術に関する手術で事故死した人がいるって。
『運が悪ければ脳死していた可能性もありますが、緊急時だった為実行しました。成功して良かったですね』
倫理観!?
ロボット三原則は何処いった。
『ですが、そのお陰でXGR-21を操縦出来たでしょう?』
確かに……!
まあ、特に実害が出てる訳でもないし、別にいいか。
なんなら強化人間みたいな物だと思えば、結構かっこいいし。
「必要なのは操縦への慣れと、戦術の習熟だな」
「実機で訓練するんですか?」
「いや、AFシミュレーターを使う」
「AFシミュレーター?」
AFに関して詳しい私でも知らない名前だ。
「見れば分かる。ついてこい」
アンナ隊長についていく事数分。
私は基地内のとある建物にいた。
建物の中には近未来的な空間が広がり、ジャケットを着たAFパイロットと思われる人達が何人かいる。
「ここはAF統合訓練センター、実機を使わずにシミュレーターで訓練出来る施設だ。シミュレーターとは言え、上下左右に回転したり、衝撃が再現されているから訓練には十分だ」
「おぉ!」
案内された大きいな部屋には、空中に半分固定される形で卵型の大型筐体が幾つも並んでいた。
まるで近未来的なゲームセンターだ。
「基本的にはパイロットなら誰でも使用出来るが……これをお前に渡しておこう」
アンナ中佐が懐から一枚のカードを取り出し、手渡してくる。
「これは……?」
「IDカード、お前のACFにおける身分証明書だ。基地内の設備は基本的にこれを使う」
カードには私の顔写真と名前、識別番号などが書いてあった。
写真はいつ撮ったんだ……
名前の下には所属などの詳細が書いてある。
「ACF極東支部所属……少尉……少尉!?」
何で昨日まで一般人だった私が士官に?
士官になるには士官学校を卒業しないといけないはずでは……
「ACFにおけるRFパイロットの最低階級は少尉だからな、現場の混乱を避ける為にも必要な処置だ」
『国家の正規軍とは異なり、企業の私設軍隊であるACFは、そう言った事柄に対して柔軟に対応出来ると言うわけです』
なるほど。
大本が民間だから、こんな事も出来るのか。
「細かい事は後にして実戦あるのみだ。リン少尉との模擬戦は一週間後、それまでみっちり鍛えてやる」
「よろしくお願いします!」
「返事は良し。では乗り込め」
アンナ隊長の指示に従いシミュレーターに乗り込む。
卵型ポットの中は本当のコックピットの様であり、モニターや操作レバーなどが所狭しと配置されている。
「乗り込んだな」
別のシミュレーターに乗り込んだ隊長から通信が飛んでくる。
「IDカードを右の機械に挿入しろ。シミュレーターが起動するはずだ」
「えっと挿入口は……あった!」
私は指示通り、機械に自分のIDカードを差し込む。
すると真っ白だった画面に文字が表示され、選択メニューの様な物が表示される。
「機体メニューから61式を選択してくれ。模擬戦ではハヤブサを使う事になっているからな」
ゲームみたいだな……
『AFシミュレーターは元々体感ゲームとして開発されていた物です。同時期に魔装少女が出現してAFの人気が無くなった為、廃棄される所を企業が権利ごと買い取り、パイロット用の訓練設備へ改造しました』
本当にゲームだった。
て言うか何?
AFの人気が無くなったから廃棄だと。
訓練に使われる様なレベルの代物で、自分が巨大ロボットを操縦している感覚になれるゲームが人気不足で廃棄……?
「ふざけるな……!」
何故だ。
浪漫が詰まったこのゲームが何故廃棄された!?
『人気が無かったからです』
心の奥底から感情が湧き出てくる。
これは怒りだ。
『沸点が意味不明ですね』
「訓練の準備は整ったな? 始めるぞ」
アンナ隊長には悪いが、この感情を発散する為の標的になって頂く!
『結果が予測出来ました』
数時間後
「つえぇ……」
私は隊長に完敗した。
「初めてにしては上出来だ」
何この人?
滅茶苦茶強いんだけど。
ニュー〇イプみたいな避け方してくるし、こっちの攻撃だけが当たらない。
他のパイロットの人とも何回か戦わせて貰ったけど、隊長だけ明らかに実力が違う。
「攻撃に対する反応は良かったが、戦場全体の視野をもう少し広げた方がいい。後ろにも目をつける感じだ」
ア〇ロみたいな事言い出したよこの人。
確かに不意の一撃でやられる事が多かったけど……!
「時間も遅い。今日の訓練はここまでにして、食堂で夕食にしよう」
アンナは最初と打って変わって機嫌の良さそうな顔を浮かべていた。
「ここの食事は美味いぞ。多様なメニューから選べるし、ACF所属なら無料だ」
「おぉ……!」
訓練の疲れでお腹が減ったレイは、顔に期待を浮かばせながら涎を垂らす。
そんなレイを見て、アンナは自分の口元がほころぶのを自覚する。
この一日を通じてアンナのレイに対する感情は二転三転した。
最初は巻き込まれた哀れな一般人の少女だと思い、罪悪感を感じていた。
だが実際に会ってみると、計画への参加を一瞬で承諾し、AFへの異常なまでの愛を見せるレイに戸惑いこそすれ、罪悪感や憐れみを感じる事はなくなっていった。
しかし、リン少尉からの決闘を受けた事に関しては頭を抱えたくなった。
規則上はパイロット同士がAFを用いて模擬戦を行う事には何の問題もないが、まだまともな訓練も受けていなパイロットが決闘をするなど聞いたこともない。
結局、一週間後に模擬戦を行う事となり、アンナはレイを訓練する事となった。
やはりレイは頭がおかしいのかと考えたアンナだったが、訓練を進める中でレイに対する評価を変える事になった。
当初は自我の強いレイが、まともにAF訓練を行えるか心配していたが、それは杞憂に終わる。
レイはアンナの指示によく従い、教えた事を次々と吸収していったのだ。
教えれば教える程、強くなっていく様は教えているアンナ自身としても楽しいものだった。
「娘がいたらこんな感じなのだろうか……」
「隊長? 何か言いましたか」
「いや……なんでもない」
カレーを美味しそうに頬張るレイの姿を見て、そんな考えが一瞬よぎったが、アンナはその考えを押し込み、明日の訓練メニューを考えるのだった。