倒壊した建物の散らばる地方都市。
XGR-21とⅭ型怪獣が交戦したこの地を再び喧騒が包んでいる。
廃墟とかしたビルには、人の数倍はあろう巨大な蟻が住み着き、広場や道を闊歩していた。
人の居なくなった街を蟻たちは我が物顔で歩き、所々に巨大な卵を産み付けている。
文明の滅びすら感じる光景だ。
しかし……
都市の上を一筋の青い光が飛ぶ。
蟻たちはその光を警戒し、威嚇する。
〔GEGE?〕
〔GYU! GYU!〕
その時であった。
光が上空で急停止したかと思うと、複数の青いレーザーが地上に展開する蟻たちを襲い始めたのである。
レーザーは浮遊する漏斗状の物体から放たれ、蟻たちの頭部を次々に撃ち抜いていく。
物理現象を無視して浮遊するレーザー砲を前に蟻たちはどうする事も出来ず、産み付けた卵ごとレーザーで焼却される。
やがて地上に展開する蟻が全て殲滅されると、青い光がその輝きを減じながら降下していく。
光が完全に失せると、そこには一人の少女が立っていた。
「…………」
ストレートの美しい銀髪を風に靡かせ、凛とした鋭い目を地上に向けている。
彼女は魔装少女アステリア。
超常の力を用いて、人類を怪獣から守護する者達の一人である。
機械的な装甲で身体の重要部分を保護し、周囲にレーザー砲を浮遊させるその姿は極めて近未来的であり、魔装少女の中でも異質な物であった。
「何処……」
アステリアが呟くと同時に地面が大きく揺れる。
揺れは移動しながら急速に拡大し、まるで何か地下を移動している様だった。
やがて、その“何か“はビルの残骸と地面を吹き飛ばしながら現れた。
〔GYU……!〕
それは全長40メートルの巨大な蟻の女王だった。
〔GYU……GYU!〕
女王蟻は焼き尽くされた同胞達と卵を見て激怒し、下手人である魔装少女を睨んだ。
「何処なの……?」
しかし当の魔装少女、アステリアは女王蟻の事など気にも留めていない。
彼女の頭の中にあるのは怪獣災害に巻き込まれた幼馴染の行方だけだ。
〔GYU!!〕
自身を見ても何の反応も示さない魔装少女に更なる怒りを抱いた女王は、口から灼熱の炎を放射し、魔装少女を焼き尽くさんとした。
炎は一瞬でアステリアを飲み込み、周辺が一気に焼け野原となる。
〔GYU……GYU!?〕
女王が炎を吐き終えると、そこには傷を一切負っていないアステリアの姿があった。
良く見れば彼女の周囲には幾つかのレーザー砲が集まり、ピラミッド型のエネルギーシールドでアステリアを守護していたのだ。
「邪魔」
アステリアは冷めた目で女王を睨むと、手元に近未来的なライフル銃を出現させた。
『M60収束エネルギーライフル展開、エネルギーの収束を開始』
システム音声が発せられると同時にバリアを展開していたレーザー砲がライフルへとエネルギー供給を開始する。
『エネルギー充填120パーセント、ターゲットスコープ展開』
銃口にエネルギーが集まると共にホログラフィックサイトがスクープとして展開される。
『誤差修正、プラス2度』
「消えて」
その瞬間、凄まじいエネルギーが女王蟻を襲う。
青いエネルギーの奔流は巨体を完全に飲み込む程の大きさで、女王は何の対処も出来ずにエネルギーの中へと消えた。
レーザー照射が終わると、ビルの残骸に巨大な穴が穿たれ、女王蟻はその細胞の一片まで完全に消滅した。
『B型怪獣群の完全な殲滅を完了、ミッションコンプリートですマスター』
「そう……」
アステリアは任務の達成に一切の喜びを感じなかった。
それどころか、怪獣を前にしても心を動かす事が一切なかったのだ。
彼女にとって今現在、関心がある事はこの世で一つ。
行方不明となった幼馴染の所在だけだ。
プルルル♪
その時、四次元に格納していた彼女の携帯から着信音が鳴り響く。
アステリアはライフルを格納して、携帯を手元に出現させると、そこに表示された名前を見て驚愕する。
「レイ……!」
そこには天城レイの文字が表示されていた。
「ふう、身体を動かした後のご飯はやっぱり美味しいね!」
AF訓練を終え夕食を済ませた私は、用意された自分の宿舎へと向かっていた。
食堂で食べたカツカレーは本当に美味しくて、幼馴染のユイが作ってくれた物に匹敵するレベルだ。
二杯もおかわりしてしまった。
「あれ?」
『どうかしましたか?』
良く考えると私って内臓が損傷するレベルの重傷を負ってたよね……
普通、流動食とかしか食べれないんじゃないの?
て言うか私、普通に歩けてるし。
『パイロットが意識を失ってから既に三日が経っています。その間に手術を行い、損傷した内臓をナノマシンで修復したり、培養された新しい内臓に取り換えるなどしました』
クローン培養とナノマシンって禁止されてた気が……
『基本的には禁止されていますが、本人の同意を条件に医療行為でのみ使用が認められています』
同意した記憶がないんだけど!
私の人権、何処いった!?
『ご不満ですか?』
いやまあ……違和感とかないし別にいいけど。
『希望があれば身体的な強化なども行えますよ』
それって……!
『サイボーグや強化人間の様になりますね』
滅茶苦茶いいじゃん!
そう言うのは早く言ってよ。
ナノマシン万歳!
『やはり意味不明ですが、傾向は分かってきた様な気がします』
ALBAも私の事が分かってくれたか。
良し!
このまま二人でロボットの沼に沈もう!
『遠慮しておきます』
ALBAと色々話している内に私は部屋の前まで到着していた。
「確かIDカードを機械に読み込ませればいいんだっけ」
懐からIDカードを取り出し、ドアに設置された機械へカードをかざすと、カチャリと言う音と共にロックが外れる。
『パイロットの所持品は既に部屋へ運び込まれています』
ドアを開けて部屋の中を見ると、テーブルの上に私の赤いスマホやカバンなどが置いてあった。
「良かったぁ……! スマホ無くしたかと思ってたよ」
シュヴァルベに乗った時は、完全に忘れてたから、無事で良かった。
買い替えると高いし。
「早速、起動を……」
私がスマホを起動した瞬間、画面に大量の通知が表示される。
「おぅ……」
余りの多さに気圧されるが、それらが全て彼女による物だと気づく。
氷室ユイ。
魔装少女をしている私の幼馴染だ。
『未読メール386件、不在着信58件。一人の人間が送るにしてはかなりの量ですね』
ユイは昔から過保護だったからなぁ……
魔装少女になってからは収まったと思ってたけど、一切連絡しないのは流石にやばかったか。
『無事を知らせては? 計画の詳細さえ漏さなければ、交友関係は自由ですよ』
連絡するが怖い……
絶対怒ってるよ。
『では連絡しないのですか? 先延ばしにして良い事などありませんよ』
くっ……!
反論できない。
「はぁ……電話するしかないか」
私は腹を括って、ユイに電話を掛ける。
「えっと……ユイ? 私『レイ!?』だけど……」
電話を掛けた瞬間、ユイの声が響く。
『無事なの? 怪我はしてない?』
「ACFの人に救助してもらったから大丈夫だよ。特に大きな怪我もしてないし(大嘘)」
『なんで連絡してくれ無かったの……?』
ユイの声が一段、低くなる。
あかん。
これ完全に怒ってる奴だ。
「スマホの充電が切れてて……!」
『そう……今は何処にいるの?』
「ACFの駐屯地に避難してるよ……」
『直ぐに行くから』
!?
やばい。
「いきなり魔装少女が来たらACFの人も迷惑するだろうし、今はやめとこう! ごたごたが収まったら直ぐ会いに行くからさ! ねっ!」
お願い、今はこないで!
シュヴァルベに乗ってるなんてばれたら絶対、大変な事になる。
『レイがそう言うなら……』
あぶねぇ……!
その後も私はユイの追及を何とか躱し続ける事になるのだった。
リン・シャオフェイ
彼女には才能が無かった。
幼い頃から勉学もスポーツも彼女以上の才能を持つものが常にいる。
しかし、リンには努力の才があった。
試験の点数が足りなければ夜通し机に向かい、体力で負ければ血の滲む様な鍛錬を繰り返す。
幼い彼女にとって、両親に認められる唯一の方法だった。
リンが成長した頃、世には怪獣と魔装少女が溢れていた。
魔装少女となって怪獣と戦う事が最も名誉ある事とされる。
両親の束縛が既にないにもかかわらず、彼女は魔装少女を目指した。
誰かに認められる事こそが、リンにとって一番大切な事になってるからだ。
だが、現実は非情である。
リンには魔装少女としての適性がなかったのである。
努力ではどうにもならない才能の壁。
それを痛感しながらもリンは諦めなかった。
魔装少女になれないなら、他の手段を模索するまでだ。
既に少なくなっていたAFのパイロットに応募した彼女は、努力によって見事試験に合格し、アジア圏の大企業である河宮重工所属のAFパイロットになり、遂にはXGR-21のテストパイロットにまで登り詰めた。
しかし、蓋を開けてみればどうだ。
何の努力もしていない、ぽっと出の少女がXGR-21の正式なパイロットに選ばれている。
割り切れなかった。
「なんであんな奴が……」
夜中、リンは一人でXGR-21の格納庫に来ていた。
「私の方がこいつを上手く扱えるんだ」
彼女には自負があった。
努力を重ねて手に入れた技量への自負が。
「やはり、ここにいたか」
別人の声が格納庫に響く。
「中佐……」
リンが振り返ると、上官であるアンナ・モロゾワ中佐が立っていた。
咄嗟に敬礼しようとするが、アンナは手でそれを静止する。
「貴様が何故あんな事をしたのかは、大体見当がつく」
「……」
リンは全てを見透かされている様に感じた。
それもそのはず、アンナ中佐にとって小娘であるリンの考えなど手に取る様に分かっていた。
「努力家な貴様の事だ。才能だけで選ばれた奴の事が許せなかったのだろう?」
「……っ!」
全てを看破され、リンは驚愕すると共に黙り込んでしまう。
「図星か……まあ、気持ちはわかる。だが昼にも言った通り、やり方は選ぶべきだったな」
アンナは正論を述べる。
組織に属する人間である以上、上の命令には黙って従わなければならないと。
しかし同時に目の前の若い少女にそれが難しい事も分かっていた。
努力でのし上がって来た若者の努力を否定する事程、個人の尊厳を傷つけ意欲を削ぐ事はない。
それ以外に自分を表現出来ない人間ならばなおさらだ。
ならば
「一週間後の模擬戦。やるからには徹底的にやれ」
「え……?」
てっきり咎められると思っていたリンは呆けた顔を見せる。
アンナは腕を組みながら言う。
「相手が素人だろうと、手加減せずに全力で叩き潰せ」
全力で戦わせて、感情を吐き出させる。
少々強引ではある物の悶々とした感情を抱え続けるよりはましだろう。
アンナらしい考えであった。
「返事は!」
「は、はい! リン少尉全力で模擬戦に挑みます!」
リンは敬礼とはっきりした声で答えた。
「それでよし」
アンナは全力のリンと戦う事になるレイに少し同情する。
しかし、決闘がどうなろうと決定事項が覆る訳でもない。
ACFの上層部にとって大事なのは今現在の実力よりも、XGR-21の性能を引き出せる才能だからだ。
レイに少し痛い目を見てもらって全てを収めようとしていたアンナだったが、一週間の間にその考えは崩れる事になった。