「ああ……結局右のところ傷残ったままだよ、これだからヒステリックなところがある改造人間は……」
首筋から肩にかけて走る生々しい赤紫色の痕を、鏡越しに指先で撫でながら、花岡桃花は鬱陶しそうに溜息をついた。
あの日、理想に狂った山田が6階の窓から飛び降りて突如として姿を消してから、丸一週間が経っていた。痛む体を強引に治ましめ、モモがようやくキャバクラ『Ephemere(エフェメール)』の方に顔を出せるようになった頃には、歌舞伎町の夜気はどこか不穏な冷たさを帯び始めていた。
夜職の現場へ戻るにはまだ怪我の痛む身体だが、この特別地区『2012年の歌舞伎町』において、これでようやくいつも通りの日常が戻ってくる——そう高を括っていた。
だが、そうはならなかった。
久々に足を運んだEphemereの入り口には、黄色と黒の痛々しいバリケードテープがバツ印を描くように惨重に貼られていた。薄暗い階段の底で、重い鉄の扉は固く閉ざされている。
少し前からこの場所は休業していると聞いていたが、漂う死臭のような静寂は、もはや「廃業」した店舗のそれだった。
立ち尽くすモモの背後から、足音が近づいてくる。このあたりの店を束ね、裏で取り仕切っているオーナーの男だった。
「お疲れっす」
「いいよこっちの仕事じゃ私の方が雇われの身なんだから、それで? 私が休んでる間にエフェに何があった?」
モモが振り返りもせずに尋ねると、オーナーは苦々しい顔で煙草に火をつけた。
オーナーの口から語られた表向きの理由は「店長の横領発覚による左遷と店舗の閉鎖」だった。
しかし、事態の裏側はもっと醜悪だった。店長は裏で頻繁に、ろくに仕事の出来ないキャバ嬢たちを自身の知人ルートへ斡旋し、風俗街や海外へ売り飛ばしては多額のキックバックを得て私腹を肥やしていたのだという。それが遂にオーナーの耳に届き、今回の騒動へと繋がった。(元々みいちゃんもこれの被害者? ではあったことが記憶に新しい)
問題だったのは、店に置いておく価値のないキャストだと知りながら野放しにされていた少女たちがいたことだ。オーナー側も彼女らを降ろすよう店長へ再三忠告していたのだが、店長は最初から「人身売買用の在庫」として彼女たちを店に留め置いていたのだった。
「確かに特別地区『2012年の歌舞伎町』は社会をろくに歩けないクズの収容所ですけど、だからといって欲に任せて与えられたキャラクター性も守れないような人間はこういう場所でも居場所無くしますよね〜」
モモが皮肉たっぷりにせせら笑うと、オーナーは紫煙を吐き出し、重い頭を振った。
「居場所を無くすだけで済むような終わり方ならこっちも後始末が楽で済んだはずだが……」
「……で? あの店長どんな有様なの?」
「やっぱ管理者には誤魔化しが利かんか、スプラッタだよ、映画で見るような惨殺処刑」
オーナーの手がわずかに震えていた。
3日ほど前、証拠を取り揃えたオーナーたちが店長を立ち退かせるためにEphemereへと押しかけた際、扉の向こうに広がっていたのは息を呑むような血まみれの惨状だったという。
店長はまるで磔にされたかのような状態で壁に突き立てられ、原形を留めないほどに破壊されていた。顔面は潰れ、辛うじて転がっていた歪んだ眼鏡でしか本人だと判別できない惨劇。しかも警察と裏の鑑識が介入したところ、散乱していた肉片と血痕は一人分ではなく、二つの人間の肉体が凄惨に混ざり合った状態だったという。
もう一人の遺体は、店長の悪質な斡旋先であり、親しい友人でもあった「金村」という男のものだと判明した。
恨みを買うような真似ばかりしていた二人だが、それにしても報復と呼ぶにはあまりに常軌を逸した、人間業とは思えぬ過剰な殺戮の痕跡だった。
店内の監視カメラは、店長自身が己の悪事を隠すためにあらかじめレンズを塞いでいたため、犯行の瞬間の映像は何も残っていない。
ただ、惨劇の渦中にひとつだけ、狂気的な手がかりが残されていた。
血の海と化したフロアの真ん中に転がっていたのは、赤黒く染まった一匹のぬいぐるみ。
茶髪で、小さめの女の子の姿をした、どこか歪でチープな手作りのぬいぐるみだった。
Ephemereが潰れたことで、店を辞めて街を去ったキャストも多い。しかし、この歌舞伎町という閉鎖された箱庭以外に居場所を持たない人間もまた、数多く残されている。
見えない殺人鬼の足音と、暗雲のように立ち込める狂気の気配。歌舞伎町の底で、不気味な火種が確実に芽吹き始めていた。
「なら、また行くしかないか」
モモは呟き、身に着けた上着の襟を正した。
静観しているわけにはいかない。今度は誰かに背中を押されるのではなく、自分からあの場所へ向かわねばならないだろう。
すべての歪みの発祥地——あの『宮城』へ。
そして今度は、ただの観察者気取りの自分すら、本当に命を落とすことになるかもしれないという予感が胸を掠めた。
(そういえば、あれから山田さん見なくなったな……)
あの不気味な手作りのぬいぐるみを思い浮かべながら、モモは誰もいない路地裏の闇を見つめた。
あの日、理想の「みいちゃん」を作り直し、自らの過去すら完全に塗り替えて窓から消えた『山田』の行方は、いまだ誰も知らない。
——
そうして、今度は正式な電車に揺られて一週間ぶりに宮城、みいちゃんが住んでいたあの場所に向かい……目的地が予め分かっていたように歩を進めて無駄なく一つの家に辿り着き、インターホンを鳴らす。
「ママに会わせてくれない?」
「でもママ今動けないの」
「知ってるよ、でも会いに来たの」
そうしてモモが中に入った先……動けないというのは正しい表現には若干遠い表現だがある意味では間違っていないだろう。
家の奥では相変わらず野菜が生で吊り下げられているが、娘の睦にも届く高さになっており、真ん中には植木鉢……。
「あら、貴方また来たの?」
「いやなんかさ、何回見ても意味わかんないんだけどなんでそれで生きてんの?」
植木鉢の上には榎本水仙の生首が乗っている……いや、生えている。
一週間前、ほぼ自業自得な形でココロに報復されたのだが殴る蹴るでは済まず……結論だけ言うと首だけになる程にエグイことをされてしまった。
それにも関わらず、植物の性質によって首の下から根を生やして土から栄養を貰い生きている。
「あと1日もすれば栽培してる全身も機能するから後は結合するだけでいつも通りよ」
「何かの間違いがあったとしてもこうはなりたくないな……てか大丈夫? そっちには……」
「ええ全然? ちゃんと就活しているだけはありスキルは立派で、睦もよく懐いたみたいで……」
「……化け物と上位者さんが世間話してるところ悪いんだけどさぁ、私はこんなのを介護する為に頑張ってたわけじゃないから!!」
モモと水仙の会話に割って入るようにココロの魂の叫びがこだまする。
あれから一週間たっても実はココロは2012年の歌舞伎町には帰れずこうして田舎の家に泊まり込んで動けない水仙やまだよくわかってない睦の支援を行っていた。
ココロにもまだ傷が残っているが、それを見ながらもモモは蛇のように笑う。
「ひどい目に逢ったことには同情するけどさぁ、1人で歌舞伎町から逃げ出そうとした結果でもあるわけでさ、ちょっと見学するならともかくがっつり関わっておいて今更逃げるなんてさあ……よくいるんだよ、あくまで歌舞伎町の中でだけ判断される普通」
「だからって戸籍を綺麗さっぱり無くすことないじゃん!! 私もう外にも内にも居場所がないんだけど!!」
「戸籍に関しては別に? 歌舞伎町に来た時点で抹消されて新しくその立場で生きる為に新しく用意してるんだよ、来るときに聞いてなかった?」
「だったら……だったらなんでみいちゃんはこの場所に帰れたのよ!! みいちゃんが良くてなんで私がダメなの!? そんなの理不尽じゃ……うぐっ」
「は? 何勘違いしてんの? いいわけねえからこうして調べ上げて山田さんに責任追及してたんだろが、あの子が前例を作るような真似をしたおかげでお前みたいに勝手なことをしようとして、お前はちゃんとしたペナルティを与えられたわけ、分かる?」
「ごっ……ごめんなさい……殺さないで」
「殺さない殺さない、後始末とか面倒だし……ってか、私より周囲に気をつけたほうがいいよ」
モモは歌舞伎町で起きたこと、山田がまだ行方知れずなことを水仙に話す。
モモはもう既に……決まっていることにココロは察する、そうでもないと水仙に会う理由はない。
「えっ……モモさん、まさかとは思うけど、これを山田さんがやったと思ってるの!? ありえないよ! あの人だってただの……いや、ただの人間ではなかったんだけど、ドーパミンが人より多いくらいで……」
「それで済んだら良いんだけど、なーんかまずそうなんだよなぁみいちゃん周りが」
「なるほど、そうなった場合私を殺しに来てもおかしくないと……まあ、実際そうね」
「ほぼ死んでるみたいなものだけど……」
「否定はしないわ、貴方も巻き添えをくらいたくないなら見捨てたほうがいいわよ」
「いや……むしろ右も左もわからないところで山田さんに殺されるほうが怖いから……」
「はぁ……実際山田さん今どうしてんのかなぁ」
「それで、その山田さん? は戸籍の方はどうなってるの?」
水仙の疑問に対して、モモは手詰まりのように答える。
「消した、記憶喪失になる前に自らゴミと共に処分して使い物にならなくなったって線で考えて調査中なわけ……そもそもの話さ、ココロちゃんは知ってると思うけど、『山田』っていうのも偽名だし私らも仕事上の付き合いだから本名は知らない」
山田と周囲が判断していた、一体誰かもわからないソレは……どこにいるのか?
そんな時、ムウちゃんはパソコンを見てモモに何かを見せてくる。
「これ、その山田さんじゃない?」
スレタイ:最近、『山田さん』って怪異の噂を聞く。
1 名前:夢吹けば名無し
昔キャバ嬢やってた若い女が友達を人身売買で売られたショックでおかしくなって亡くなった後に、辺りをうろついているんだよね。
場所は新宿の歌舞伎町辺りで時間帯は未明、昼に見たってやつもいるし夜に見たってやつもいる。
金髪で……なんかこう、目がカッと見開いてんの、女の子みたいなぬいぐるみを抱えて『××ちゃん』って言い聞かせながらあちこちを歩いてんの。
××ちゃんっていうのは多分友達の名前なんだけど、誰なのか聞き取れた人はいないし、あまり迂闊に話しかけちゃいけない。
話していると途中で錯乱して『お前は××ちゃんじゃない!』とか言って襲いかかってくるんだって。
なんでその人が『山田さん』って呼ばれているのかは知らない。
霊か人間かはともかく、お前らも新宿に来たときは見るからにヤバそうな女には近付くなよ。
2 名前:夢吹けば名無し 2075/08/13 ID:UEvOCBna
怖すぎる……歌舞伎町でそんなの出たら一生行かんわ
3 名前:夢吹けば名無し 2075/08/13 ID:WHZbNREU
俺、去年深夜に似たようなの見た気がする
金髪の女がぬいぐるみ抱えてフラフラしてたんだが、酔っ払いか幽霊か判断つかなかった
4 名前:夢吹けば名無し 2075/08/13ID:sHSOWV7u
マジで? どの辺りで何時頃か詳しく頼む
5 名前:夢吹けば名無し 2075/08/13ID:WHZbNREU
都市伝説臭すぎるやろ
歌舞伎町は話盛る奴多いし
6 名前:風吹けば名無し 2075/08/13 23:06:57.86 ID:WHZbNREU
ぬいぐるみに『××ちゃん』って言い聞かせてるとかホラー映画の主人公かな? 草
7 名前:風吹けば名無し 2075/08/13 ID:22fIRUYr
ぬいぐるみ=喪失の象徴ってのはありそうだよね
トラウマ系の人ならやりかねん
8 名前:風吹けば名無し 2075/08/13 ID:sHSOWV7u
山田さんって呼び方がまた無害そうで怖い
謎の『さん』付け
9 名前:風吹けば名無し 2075/08/13 ID:WHZbNREU
>>3
どの路地? ゴールデン街とか歌舞伎町のど真ん中?
その内容は……山田さんと同じ名前の都市伝説じみたものだった。
しかしモモは全く身に覚えがない、管理者は時にこういった噂が不安を煽るからと情報統制も行なっているが昨日今日で作られるような話ではない、まだ1週間しか経っていないじゃないか。
「はぁ……誰か何かしらの細工してるなぁ、せっかくキャバ嬢してストレス解消したかったのに次から次へ……上に連絡して発信源特定させるか……」
「というか、誰が何のためにこんな話を……? 山田さんってちゃんと生きて……まあ、6階から落ちたら普通は死ぬけど……」
「……腐ってもあの子もまた人を超えた存在のなりそこない、ただでは転ばないわ」
*
……一方その頃、 特別地区『2012年の歌舞伎町』——その片隅に位置する遊園地『キチィランド』は、社会から弾き出された者たちの行き場なき熱気と、人工的な狂騒に満ちあふれていた。
色鮮やかな装飾とチープなBGMが響き渡る園内を、手をつなぐように並んで歩く二人組みの姿があった。
理想の二人がここに。
「わー! キチィちゃんだー!」
「こうしてまた、みいちゃんと遊園地に来れてよかったよ」
隣で可愛らしく目を輝かせる少女の姿に、山田は愛おしさを込めて目を細めた。自分が買い被り、理想として再構築した「一番可愛くて、素直で、自分を愛してくれるみいちゃん」が、そこには確かに存在していた。
「でも山田さん、今日は大学に行かないで良かったの?」
「今日くらいはいいよ、みいちゃんがずっと楽しみにしていたんだから目一杯楽しまないと」
「ありがとう、山田さん大好き!」
「私もだよ……ねえ」
『××ちゃん』
脳内で愛しい名をつぶやきながら、山田はみいちゃんの小さな手(だと信じ込んでいるもの)をぎゅっと握りしめた。どこに行っても二人一緒。何をやるにも二人一緒。過去の嫌な記憶も、泥みのような現実も、すべてはこの聖域の外側に切り捨ててきたのだから。
「山田さん、みいちゃんアレに乗りたい!」
みいちゃんが指差したのは、園内でも一番人気を誇るコースターだった。
「ああ……でも30分待ちみたいだけど、ちゃんと待てるのかな」
「みいちゃんはちゃんと待てるよ」
「そうだよね、みいちゃんは列も並べるよね、何をすればいいのかちゃんと分かってるよね」
山田は優しく微笑み、最後尾の列へと足を進めた。
狂い出す肉体
だが——立ち止まった瞬間から、山田の肉体が悲鳴を上げ始めた。
全身の細胞の75%を占める変質したドーパミン。それが抑えの効かない爆薬のように体内を駆け巡り、脳髄を過剰に活性化させていく。立ち止まること、停滞すること自体が、彼女の身体にとっては狂気的な苦痛だった。
「ッ……ぐ……」
数分と歩を止めていられない。新陳代謝が爆発的に加速し、額や首筋から滝のような汗が吹き出す。視界が白く明滅し、激しい眩暈と頭痛が山田の膝を屈ませようとする。
「ダメだよ、まだ何もしちゃ」
脳内で、みいちゃんの声が制するように聞こえた。
「……ああ、ああ、そうだねみいちゃん、最近座ることも出来なくなって」
「じゃあ、その間にみいちゃんはご飯でも食べたいな」
「そっか、それなら待ってられるかも」
歩幅を無理やり広げ、震える足を交互に動かしながら、山田は必死に歩みを止めないよう足掻く。みいちゃんが手を伸ばして支えてくれている——山田には、確かにそう見えていた。
「みいちゃん、あのさ、私は……」
「知ってるよ、山田さんがみいちゃんのことが好きな事は」
「みいちゃんだって山田さんの事が好きなんだよ、お互いに愛してるならそれは『恋人』でいいじゃん」
みいちゃんの甘い言葉が、脳内物質をさらに沸騰させる。止めどなく溢れ出す快楽と多幸感。一度弾けた快感は、もはや理性の箍など容易に吹き飛ばしてしまう。周りに誰がいようと関係ない。ここには自分たち二人しか存在しないのだから。
「じゃあキスして、人目につく場所で、周りに見せつけるようにやって」
「……うん」
遊園地の道端の真ん中で、二人は互いの身体を強く抱き寄せ、一つになるように深く口づけを交わした。
——だが、それが客観的な「現実」の光景であったなら、どれほど救いがあっただろうか。
周囲の行楽客たちは、恐ろしいものでも見るかのように、その場所から大きく距離を取って逃げ出していた。
そこに二人の少女などいない。立ち尽くしているのは、金髪を乱し、カッと充血した目を異常なほど見開いた『山田』ただ一人。
彼女は一人でブツブツとうわ言を呟き、止まらない足の震えを撒き散らしながら、激しい汗みどろになって徘徊していた。そしてその両手で抱きしめているのは、茶髪の不恰好で、血と泥の混ざったような赤黒い汚れが付着した——一匹の手作りぬいぐるみ。
山田は道端のど真ん中に膝をつき、その歪なぬいぐるみの布地に己の唇を強く押し付け、うっとりと目を閉じながら狂った口づけを繰り返していたのだった。
「うああああ────!!」
突如、すぐ近くで無関係な子供の甲高い泣き声が弾けた。
その引き裂くような音が鼓膜を突いた瞬間、山田の過敏すぎる脳内で異変が起きた。活性化され尽くした神経系が異常放電を起こし、厳重に鍵をかけて蓋をしたはずの「過去の泥」が、激しいフラッシュバックとなって溢れ出したのだ。
『なんで生きてんの?』『こんなことするために生きてんの?』
液晶タブレットが叩きつけられる破壊音。自分を濁った瞳で見下ろす、薄汚れて小太りな『現実の中村実衣子』の醜悪な叫び。
「あ……がっ……!?」
せっかく作り上げた理想の聖域が、急速にひび割れていく。
目の前の「みいちゃん」の姿が不気味に揺らぎ、ぼやけ、元のグロテスクな真実の姿へと変貌しようとする。
違う。こんなのはみいちゃんじゃない。
私は、私は……こんな汚いものを見るために記憶を捨てたわけじゃない……!
山田の体内でドーパミンが不快な激流となって駆け巡り、脳の防衛本能が限界突破の警報を鳴らす。
分かった。理解できた。
せっかくのデートを邪魔するノイズ。みいちゃんを正しくない姿へと引き戻そうとする周囲の害悪。この世界のすべてが、自分たちの幸せを壊そうとしているのだ。
みいちゃんに正しくない部分が残っているなら、それを全部消せばいい。
この純粋な世界を汚す『害虫』たちを、一匹残らず排除すればいいのだ。
山田はゆっくりと立ち上がった。
ぬいぐるみを抱く腕に力を込め、カッと見開かれた濁った瞳で、周囲の怯える客たちをぐるりと見渡す。
「……全員殺すか!」
狂気と決意に満ちた低い声が、陽気な遊園地のBGMをかき消して響き渡る。
理想を守るためなら、世界ごと破壊する。
壊れたドーパミンモンスター——新しく生まれ変わった『山田さん』の、惨劇の物語が幕を開けた。