××ちゃんと山田?さん。   作:黒影時空

25 / 26
最終話「××ちゃんと山田?さん」

 山田は……液体となってからずっと中にいる、開く目はないのに外を認識できて、透明な培養カプセルの中から周りを見ている。

 この場所は一体どこなのか分からない、白革県にあるなんらかの秘密の研究施設なところまでは推測できたのだが……身動きが取れない……というよりは身自体が存在しないのでどうにもならない。

 あれから自分はここに運び出されたのだろうか? 溶けた液体となったものがベッドに吸われてほんの水滴になったものを回収されたのかと思っていた……しかし違う、自分はなんというか……汚れている。

 それは経年劣化というものだろうか、まるでかなりの年数が経過したような……しかし山田としては感覚的には一年も経っていないように見える……だが、そんなことはなかった。

 カプセル越しから……年数が見えた、その数値は本来ならありえない時間、狂っているとしか思えない……認めてはいけない。

 山田がまだ人の形をしていた頃は、まだ……2075年、だが今は……。

 

(2……2480年……!?)

 

 あれから……数百年以上も経過していることになってしまう。

 液体の姿のまま、ずっとこの場所で……そうして山田は、思い出した。

 これまで見ていたものは……記憶を失ってから、みいちゃんに言われて溶けるまで、これまで経験してきたもの……全部、夢。

 ただの夢というには語弊がある、鮮明に上書きされた山田の人格……あの人格が全てが何度もループしているのだ、定期的に意識があの頃に戻っては、同じようにみいちゃんを思い出して、同じように愛して、破滅して……そして最期には溶けて亡くなる。

 

 山田はそんなことをもう何回も何回も繰り返した結果が、時間だけは無情に過ぎていって今に至ったわけだろう。

 そのままずっと、死ねないままに……このまま生かされ続けている、いや……生きていると言えるかも分からない、今の山田は『資源』も同然だ。

 どうして生かされているのかも分かる、自分の全身から分泌され、ドーパミンが多数込められている血液……それを合法的なドラッグとして白革県に広めている。

 更に今の自分は液状化までしている、流通・量産させるには好都合な状態だったのだろう。

 その間にもずっと自分は……同じ夢を何回も繰り返す、夢である以上もう何も変わらない、また記憶を失ってあの場所からスタートして、また同じ道を辿ってしまうのだろう。

 

 山田はみいちゃんに言われたことと違い……人として死んだことも誰にも気付いてもらえないまま、死ぬということも出来ずにこの狭い容器の中で残り続ける。

 いっそのことこの意思も溶けてなくなってほしいが、どうやらそうなってしまう感じもしない。

 そうして夢に逃げる行為と、もう既に何十回も繰り返してはこの場所に戻ることになる。

 

 これからもずっと……それを繰り返して山田はこの場所で止まり続けるのだろうか。

 それを考える余裕も気力もなくなり、山田はまた夢の中に入っていく?

 これが何回目か分からない、だが考えたところで意味もない。

 もはや山田にはこれを繰り返すことしか出来ないのだから……。

 

 そうして山田の意識はまた、全ての始まりへ……。

 

 ——

 

 新宿、歌舞伎町……東京夜の繁華街として様々な思いや感情が吐き出されるこの場所。

 恐らく私はここが住処だ。

 頭が痛いし吐き気もする、これは酒で悪酔いしたものとはまた違う。

 

 ……まず私の状況を説明しよう。

 

「……私のことがわからない……!!」

 

 気がつけば私は原っぱの中で倒れていたことが始まりだ、気が付いてすぐに分かったことは……何も覚えていない。

 直前の事どころではない、自分のこと全て思い出せない……完全な記憶喪失だ。

 ポケットを探るが自分の身元を割り出せるような物はない、忘れている直前の間に落としてしまったのかそれとも……盗まれたのか?

 

「あれ……?」

 

 しかし首元に小さな紙切れがある、くしゃくしゃになったそれを広げてみるとそれは写真だった……金髪の女性とその隣に小柄で茶髪の女の子が仲良く並んでいる姿……女の子二人が仲良く、友達だろうか?

 ここで一度彼女は鏡などを探してみる……近くの建物に駆け寄り、透けて見える自分の姿を確認する。

 

「これ……そうか、こっちが私か」

 

 ガラス越しに見える自分の姿は……あの写真に映る金髪の女性そのものだった、あれが自分らしい。

 ただし、自分に誰かしらの友達がいたんだな……程度のことしか分かっていない。

 現状何もわからない……分かることと言ったらあの茶髪の女の子が何か知ってるのだろうか? この人に会う必要がある。

 写真の裏に汚い字で文字が書いてある……。

 

 

『みいちゃん』

『山田さん』

 

 ……

 

 そうしてまた、同じループを山田は繰り返す。

 しかしあくまで……夢のような形で人生を振り返ってるに過ぎない、大昔のVHSテープのように終わったら巻き戻してまた再生し直すようなそれだけのこと。 

 元々都合の良いことだけを自己解釈して抜き取って自分の人生に構築してきたのが今の山田人格だ、だからこそこれを繰り返していることには全く気付かない。

 

 ちなみにネタバラシすると、山田がこうして全部忘れてループしては忘れたりを繰り返すのは75回目である。

 

 みいちゃんと山田さんのループ95回目。

 都合の良い切り捨て選択を繰り返したことにより、ここに来て記憶の劣化が発生、特定の人物の顔が出てこなくなってきた。

 

 今回は記憶を取り戻す手段を少し変えてみた。

 いつものように新宿で飲み潰れてから、コンビニ弁当を買った後『みいちゃん』を知る人を友好的に接してもらった後、通帳を手に入れて自分の口座情報を得た。

 

「山田……それが私の名前」

「それじゃあ山田さんですね」

「山田さん」

 

 あの日、全てを失ってからの数十年以上に渡って過ごしてきた山田……私はそのことをまだ知らない。

 自分の本当の名前なんて当然ながら知らない、しかしこれまでの人生はその通りだったんだろう……だから今はもう、山田と名乗ることにした。

 そこまでお金を持ち合わせていないけど、とりあえず自分の部屋に向かった。

 ボロボロのアパート……しかしお世辞にもとても良いところとは言えない、貧困層の人たちが住んでてもおかしくないような最低限生活できる環境だ。

 

「……っ」

 

 みいちゃんを諦める選択肢を出してみたが、それも結局同じことだ、ドーパミン中毒で幸せを求め続ける彼女はもはやみいちゃん中毒でもあり、一人で過ごすには耐えきれない状態になり……結局、アパート暮らして三日後にまたみいちゃんの調査を初めて同じルートに戻り、また溶けた。

 

 みいちゃんと山田さんのループ120回目。

 いよいよ山田さんも自分が同じ事を繰り返しては自分の命が尽きるまでを夢という形で変わらず進めている事に気付く。 

 ただそれは今までと同じルートで進むならだが。 

 今の山田さんに大きな選択権はない。

 ドーパミン依存による、みいちゃんへの強迫観念が強いが故、他の行動選択肢がそもそも見えないため。

 

「……あー、分かっちゃった……」

 

 どうにもうまくいかない、今回も結局上手くいかず、またドーパミン中毒が再発、そのまま自暴自棄になって酒やみいちゃん愛に溺れ、妄想に包まれる。

 こんな風になってるのはどうしてだろう、なんでこんな状況になってるんだろう。

 結局私がこうなる原因って、何なのだろう……それに誰かしらに相談すればいいのかもしれないけど、なんでだろう。

 相談とか、助け合いとか……そういう話もそもそも解決にもならない。

 

「私の性格、もうちょっとどうにかなるべきだったかな」

 

 そんな時だった、唐突に『みいちゃん』の声が聞こえる、懐かしい……でも少しずつ怖くなってくる。

 心のどこかで本能的に察してるから……だけどまたこの声を求めてる私がいるのも確かだ。

 怖いけど……でも、寂しい。

 そんな心地良い感覚の中で、またみいちゃんが自分に耳元で囁く。

 

『何も変わらないよ、今更、みいちゃんを知ってる人はもう誰もいない』

 

「っ」

 

 そうして山田さんはみいちゃんの手によって直接中断するように溶けて死亡、すぐに目が覚めて……とっくに声帯なんて無いのに

 

 みいちゃんと山田さんのループ310回目。

 300を超えた辺りで山田さんの意思能力はほぼ消失、山田は何をしても無駄と察するようになり、考えるのをやめた。

 ドーパミンは排出し続けているが山田の意思は消えてなくなる……つまり山田という個性、自我がようやく消滅しそうになっている。

 

 ……何度やってもダメなんだ、もう何度やったことか分からない。

 どんな方法を試しても結局失敗してまた最初からやり直している、もう終わったことを再現しているだけなんだ、これはやり直してるんじゃなくて過去の振り返り。 

 

 ……違う、やり直しにさえなってない、過去の振り返りとも言いづらい、だって私はあの時のくだらないことは全部切り捨てて覚えていなかったのだから、振り返れるものがないんだ。

 

「あぁ、はぁ……はぁはぁ……っ」

 

 もう何も分からない、何も覚えてない。

 どうして私の人生はこうなってしまったのか……どうして毎度こうなるのか……もう疲れてしまった。

 何もかも全部が……終わりにしてしまえばいいんだ。

 

 みいちゃんと山田さんのループ745回目。

 とうとう山田さんの人格が崩壊、精神崩壊を起こす。

 みいちゃんに対する妄愛と恐怖が最大レベルに到達し、その結果『みいちゃんは実在しなかった』と認識するに至る。 

 妄想状の産物による彼女であると判断し、最初から二次元との恋愛だったかのようにぐちゃぐちゃに入り混じったルートの中で、現実と夢の境界線さえも消え去って山田としての最期を迎えようとする。

 みいちゃんに手を引かれて山田は本来の形で救われる、ただしその先に待つのはみいちゃんではなく都合の良い偶像であり、彼女はそこで同じルートに入ってしまう……。

 液状化の姿で何百年も生き続けて夢の中で起きたループの影響もあってか山田は学習障害を起こし、前回の記憶を殆ど保持できない状態になりつつあった。

 

『そうなんだ、私も嬉しいよ』

 

「どうせっ、どうせ君は偽物で私が作り上げた幻なんだ……!!」

 

 山田は今回、今までとは少し違うことをしようとした。

 

「みいちゃん、私みいちゃんのこと好きなの」

 

 最初に伝えるべきではない言葉を、山田は自ら言った。

 この時までは、山田自身の意思はかなり強く残っていた……だからこそ、自分に起こっていることを理解しようと奮闘していた。

 山田が最初に見たみいちゃんの印象は、あまりにも謎が多く不可解、そもそも生きている人間なのか? という疑問を感じていた。

 普通なら自分の恋人にそんなことを思うこともないだろうが、山田はそれがどうしても気になっていた。

 

「じゃあ……愛してるっていってチューもして!」

 

「みいちゃん愛してる、私の一番大切な人、恋人よりも恋人で、友達以上恋人未満どころじゃない……好き、私の中で一番の存在だよ」

 

「本当に? じゃあみいちゃんも山田さんのことが好きだよ!」

 

「……私はずっと……ただ、ずっとそれを聞きたかっただけなのかもしれない……」

 

 そうして山田は、みいちゃんと一緒に幸福の中へ……。

 二千何年ぐらいか分からない頃、もしかしたら歴史も人間史も大きく入れ替わったりめちゃくちゃになったり、それでもなお山田の時代の時のように生き続けていた頃のようにたくましく生きていた頃……遂に、山田の反応が沈静化した。

 それは人によっては『永眠』と呼べるものかもしれないが、それを判断するものは何もいない、もうとっくに水分の塊となったそれを山田と……ましてや人間と判断出来るものは誰一人いるかも分からない。

 

 とにかくそれが、元々は一人の女の子と出会ったキャバ嬢の結末だというのだからこの世界は恐ろしいものだ。

 ……そこまでの未来を前もって見て、また一旦時を2075年頃の現代まで遡った時系列にして中村祐太郎がカプセルに眺める。

 

「言ったよね? 俺はちゃんと何もしなかったよ」

 

 祐太郎は今回、物語に特別何も介入しなかった。

『目立ちたがり屋』というものは何か大きな始まりが来た時に名前通り大きな振る舞いをするものだが、山田さんの一件の場合は本当に祐太郎は……何もしなかった。

 それは気まぐれではない、好奇心でもない……明確な実験であり検証だった。

 

「俺でもね……不安になることくらいあるんだよ? 自分は必要とされているのかみたいなのは考えたこともある、だから早いうちに試しておこうかなって……早かったのかな? 『俺達』はタイミングが分からないからさ、配役ごとに用意されてるだけだし……で、実際に放置してみたんだ、みいちゃんが会って山田さんの運命が変わって……そこでなにもしなかったんだ!」

 

 話している途中で祐太郎は笑いがこらえきれなくなって邪悪な形で笑みを浮かべる、それは『みいちゃんの父親』という振る舞いから完全に逸脱したような振る舞いであった。

 

「そしたらどうだい君のお話は!? みんなみんな誰もかれもが不幸になって大破滅!! これはもしかして俺が何もしなかった怠慢による責任によるものなのかなぁ!? よかったよかった実によかったよ!!」

 

 ちゃんとした自分だけの世界、世界が自分を必要としており、自分がちゃんと役目を果たすことを求められている。

 ちゃんとした芸術、自分はこの為に全部ぶっ壊して、気に入らないものぶっ消して、自分好みの結末の来ない物語を作り出したんじゃないか、それが作用していると分かっただけでも今回の検証は価値がある。

 やはりこの世界は、自分が前面に立って主人公として騒動を解決していかないと駄目だ、やはり自分は必要なんだ、どんなに世界の住民が否定したとしても……。

 

「別に君じゃなくてもよかったかもしれないよ! 思いついたのが俺じゃなかったかもしれないよ! でもねえ、いっぱいあるウチの一つにたまたまその役が来ただけなんだ! 悪く思わないでね! 今回の結果が世間に反映されたら、自分が何もしないって選択肢を取ることは絶対になくなるから!」

 

 まあ……実際ありえないだろう、自分がこの世界で傍観者を決めるなんて我慢できない。

 自分が作った自分のための物語……それを確かめるために、一つ枠を消費したとしてもまだ歴史は残り続ける。

 そうして祐太郎は満足したように、本当に姿を消した。

 次の『物語』の時にはどうなっているのか定かではないのだが、少なくとも次の自分はまたうまく立ち回るだろう。

 魂レベルでそれを確信していた……。

 

 ——

 

 ただし、転んでもただでは起きないのが『目立ちたがり屋』の作り出した自己満足の為に作られた世界をごく普通に生きて、平穏に過ごしたい彼女達だ。

 あの時死んだとされていた花岡桃花は……つぎはぎになりながらもカプセルから目覚め、関節を捻ってダルそうに笑う。

 

「いやさぁ、さすがに死んでも働かされるのはブラックじゃない? 組織名はホワイトなのにさぁ……おおかた私の後釜が見つからなかったんでしょ?」

 

 桃花は遺体を回収されても細胞を修復させて蘇生に成功させた、他の面々と違い焼死ではなくスーパーマーケット倒壊による圧死だったのと、戦隊遺伝子を含んで極召喚法を使っていた直後なので肉体が多少は頑丈になっていたので原型を綺麗に留めていたのもある。

 とはいえ肌の色は死体のそれであり、千切れた部分は縫い合わせて外れやすくなったのでゾンビみたいなものだが……。

 

「……で、私をわざわざ蘇生させたのは? 何か面倒なことになったの? 2012年の歌舞伎町の管理は直接は無理だよ、私にも夏休みちょうだい〜」

 

 などと冗談じみた笑い方で歩くテストをしてきたが、一つのビデオを見つけてリモコンを付ける……そこには、ホワイト・レボルシオンが山田のドーパミン血液を強く摂取してした見覚えのある人間が。

 

「ココロちゃん……」

 

 ココロだ、耐え切れなくて自分の所から逃げ出したココロ……それが白革県に回収された後、山田の血液を利用した実験を受けていた。

 ドラッグとして運用する為の試用、何をされているのかも気付かずココロの全身に山田の血液ごとドーパミンを繰られて幻覚の幸福を味わう……扱っても問題ないと判断されそうになっていた。

 だがそうはいかなかったらしい……山田ドーパミンを送り続けて三ヶ月後、ココロは失踪したとか。

 薬物中毒の傾向は見られない、だが奇妙なことは……純人間であるはずの彼女が全身からドーパミンを発するようになったとか。

 その情報を見て、吐き捨てるようにビデオをゴミ箱に捨てた。

 

「あーあー馬鹿らしい馬鹿らしい、私は関わりませんからねこんなの、今更あんなバカに付き合いたくないしそっちの過失じゃないのそれはー、てか大総統様はどんなご見解なわけ?」

 

 更に別の資料を見てみると……2076年を迎えるこの頃、新たな敵勢力を確認したという。

 ——妖怪、この日本に伝承として残る奇々怪々な魑魅魍魎、それが元号もそろそろ変えてやろうという時期に復活したというものだ。

 桃花やシエルなら本来吐き捨てるような内容だがそうもいかない。

 頭がおかしいような出来事が起きるときは……決まって『目立ちたがり屋』が来る時の予兆、だからこそシエルは今は必死になって妖怪のことについてでも調べているのだろう。

 

 

「ふーんなるほど、とりあえず……私はこの場でリハビリするから関わりたくないって連絡しとくか」

 

 

 ……そうして一方で、白革県で綺麗なスーツを着ていたココロは髪を金色に染めていた。

 化粧も整えて、改名届まで出している。

 

「はい、思い出したんです……私の本当の名前」

 

 

 

 

「私、本当は山田麻美子といいます」

 

 そうして、一人の女は日本に行方をくらます。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定