『着せ恋』だと思った? 残念『呪術廻戦』でした! 作:自分のことを五条新菜と信じている(文字数
俺の名前は、五条若菜。
前世の記憶を持ったまま別の世界に生まれ変わった、いわゆる転生者というやつだ。
今となっては前世の自分が何をして、いくつまで生きていたのか、なんてことは忘れてしまったが、それでもマンガをよく読んでいたのは覚えていた。
その中に、『その着せ替え人形は恋をする』という作品があった。雛人形の頭師を目指す男子高校生が、コスプレ好きの同級生に衣装制作を頼まれ、彼女との仲を深めていく青春ラブコメだ。末長く幸せになって爆散しろと言ってやまない、言わずと知れた神作である。こんな青春を送りたかった(血涙)、とは前世俺の談。寂しい青春を送っていたんだろうな……。
さて、この『着せ恋』の主人公の名は、ごじょうわかな。
つまり、俺だ。
…………。
……いや、ごめん先走ったな。あくまで俺と同じ名前、というだけだな。
ゴホンッ、気を取り直して。
俺の祖父は、人形店を営んでいる。店の名前は、五条人形店。
つまり、俺が『着せ恋』だ。
…………。
……いや、俺自体がそういうわけじゃないし、ちょっと言葉の綾というかなんというか。
で、俺自身も物心つく頃には雛人形に惹かれ、祖父のような頭師になることを目指していた。
しかも幼いころには、雛人形を好きだと話したことで女の子に気味悪がられ、それ以来、自分の趣味を人に知られないようにしていた、というエピソードトークも完備している。
名前が同じで、家業も同じ。目指しているものも、子どものころの経験まで似ている。
あれれぇ? やはり俺は、俺自身が『着せ恋』なのでは?(コナン並感)
というわけで、どうやら俺は、『着せ恋』の五条若菜に転生したらしい。
と、そう考えるようになった俺の前に、高校では喜多川さんが現れた。
明るくて、誰に対しても物怖じせず、好きなものを好きだとはっきり言える女の子だった。
しかも、作品に対して一途で、それは『愛』と言ってもよいくらいの熱量で、コスプレももちろんする。『着せ恋』のままの彼女が現れた。
『ごじょー君、あのさ。ウチのコス衣装、作ってくれない?』
学校の被服室で一人、ミシンを使っていた俺へ、喜多川さんがそう頼んできた。
採寸のためとはいえ、同級生の女子の身体を測ることになり、どこを見ればいいのか分からなくなった。
衣装に適した布を探すため、一緒に店を回った。
期限を勘違いし、祖父のことや人形の仕事まで重なった中で、どうにか最初の衣装を完成させた。
初めての撮影では、衣装の見え方や汗、光の当たり方まで、室内で着せたときには分からなかったことをいくつも知った。
それからも、喜多川さんが好きな作品の衣装を作った。
文化祭でも衣装と化粧を任され、放課後や休日には何度も一緒に買い物や撮影に出かけた。
前世で読んだマンガと、現実の作品名が違うこともあったけど、外見もマンガで見たものとは少し違う気がすることもあったけど、マンガが現実になったのなら、そういうこともあるだろう。
何より、オタクの趣味を心から理解し、俺が作った衣装を誰よりも喜んで着てくれる彼女が、本当に俺の目の前に現れた。
しかも、その喜多川さんが俺へ向けてくれる視線の意味を、知らないふりができるほど俺も鈍くはない。
彼女が俺を想ってくれている。
けど、それを与えられて当然だと思ったことは、一度もなかった。
俺も、喜多川さんの気持ちに相応しい人でありたい。
人形にも衣装にも、喜多川さんにも、恥ずかしくない自分でありたい。
だから俺は、ここが『着せ恋』の世界なのだと信じている。
決定的に否定する何かが現れない限りは。
それを信じていたかった。
着せ恋主人公は、五条“新”菜。
本作主人公は、五条“若”菜。
主人公は名前を音で覚える派なので、漢字は雰囲気でしか覚えていないよ!