『着せ恋』だと思った? 残念『呪術廻戦』でした!   作:自分のことを五条新菜と信じている(文字数

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第十一話 変わる未来

 

「ごじょー君……!」

 

 戻った俺を見るなり、喜多川さんが腕を掴んだ。

 

「よかったぁっ、ちゃんと戻ってきた……!」

「約束しましたから」

「そうだけどさぁ……!」

 

 その後ろでも、森田君たちがこちらを見ていた。

 

「戻ってくんの遅ぇって! 何かあったかもって心配になるだろ……!」

「それはごめん。でも、話は聞いてもらえました」

「ほんとっ!? 五条くんの声、ちょっとしか聞こえないし、何話してるか全然分かんないし、待ってる方もしんどかったよぉ!」

「菅谷さんも心配かけてすみません」

 

 菅谷さんの言葉に、みんなが深く頷く。

 柏木君も俺の姿を確かめてから口を開いた。

 

「とりあえず、おかえり。無事ならよかった」

「あ、それウチも言いたかった!」

「いや、言えばいいだろ。好きなだけ言っとけよ」

 

 柏木君が呆れたように返す。

 それをきっかけに、森田君からも、菅谷さんからも、山内さんや八尋さんからも、口々に「おかえり」が飛んできた。

 もちろん、喜多川さんからも。

 

「ごじょー君っ、おかえり! おかえりおかえりおかえり!!」

「はいっ、ただいま……!」

 

 みんなから次々に言われる中でも、何度も繰り返す喜多川さんの声に一番帰ってきたと実感する。《帳》を越える前にはなかった眩しいばかりの笑顔が、俺の気持ちを温かくしてくれる。

 そんなはずもないのに、ずいぶん久しぶりに俺も笑みが溢れた気がした。

 

 ◆

 

 渋谷駅地下五階。

 

「遅い……」

 

 羂索がぽつりと呟いた。

 五条悟が地下へ降りてから、すでに二十分以上が経過している。

 当初の見込みなら、そろそろ次の段階に移っていてもおかしくはなかった。だというのに、予定していた増援が来ていない。明治神宮前から大量の改造人間を運び込むはずの真人が、まだ姿を見せていなかった。

 ホームでは、五条悟が人混みを縫うように漏瑚だけを追っている。漏瑚とともに時間を稼ぐはずだった花御は、すでに祓われていた。壁際に押し付けられ、そのまま力任せに《無限》で圧殺。一手の読み違いで、特級とは思えないほどあっさりとその役目を終えていた。

 残された漏瑚も、もとより正面から五条悟と打ち合える相手ではない。一般人を間に挟み、《領域展延》で《無限》を中和できる瞬間だけ距離を詰め、反撃すればすぐに離れる。特級という肩書きに恥を上塗るような遅延工作しかできていなかった。

 それほどに、五条悟という存在は規格外だった。

 逃げる漏瑚を、五条悟は逃がさない。漏瑚が距離を取れば追い、人混みに紛ればその隙間を縫うように距離を詰める。

 脹相もいる。だが、《無限》に対抗する手段を持たない脹相に、自ら距離を詰めようとする蛮勇はない。離れた位置から赤血操術で血を飛ばすだけで、戦いへの関与は明らかに消極的だった。

 三対一で始まった戦場は、すでに形を失っている。

 二十分以上戦わせても、五条悟に目立った消耗はない。こちらの損耗だけが、唯一の収穫だった。

 

 ──さて、どうする。

 

 このまま真人を待つか。

 それとも、傍に控える陀艮を投入するか。

 陀艮とて特級呪霊だ。通常なら、十分に戦力として数えられる。

 だが、五条悟を相手にするとなれば話は別だった。

 問題は、戦力の大小ではない。脹相同様に《無限》を越える手段がない。それが問題だった。

 漏瑚と花御が、曲がりなりにもここまで五条悟を相手に善戦できたのは、《領域展延》があってこそ。生得術式を使えなくする代わりに《無下限呪術》を中和し、五条悟へ直接触れる、その手段が陀艮にはない。

 故に、陀艮をそのまま送り出したところで《無限》に阻まれ、まともに攻撃を通せないまま花御の二の舞となる可能性が高い。

 領域を展開すれば、必中効果によって《無限》を越えること自体はできる。だが、五条悟に領域勝負を仕掛ければどうなるか、火を見るよりも明らかだった。陀艮を失うだけで済めば御の字だ。漏瑚も脹相も、となれば目も当てられない。

 何より、一般人を盾に五条悟へ大規模な術式や領域を使わせないために作った戦場だ。こちらからその前提を崩す理由はなかった。

 

 ならば、やはり待つべきは真人だった。

 真人と改造人間なら、五条悟を直接傷つける必要すらない。一般人の中へ大量の改造人間を流し込み、守るべき者と処理しなければならない者を同じ場所に増やす。それだけで、五条悟の手数と判断を奪うことができる。

 当然、同じことを《呪霊操術》でも不可能ではない。

 だが、封印を試す前にその手を切る理由はなかった。

 術式を介して呪霊を顕現させる以上、そこには術者の残穢が残る。

 相手は六眼を持つ五条悟だ。大量の呪霊を自ら放てば、その呪力の流れや残穢から、死んだはずの夏油傑へ繋がる何かを拾われる可能性がある。

 夏油傑の肉体は、《獄門疆》を成立させるために用意した切り札のようなものだ。その姿を見せる瞬間まで、五条悟に存在を疑われる材料を増やす必要はない。

 それに、通常の呪霊と改造人間では、五条悟へ与えられる負荷の質も違う。

 呪霊ならば、祓えばいい。

 改造人間となれば、そうはいかない。

 改造人間は元は人間だ。その事実が、善良な術師には付きまとう。

 だからといって、五条悟が殺せないわけではない。必要と判断すれば殺すだろうし、羂索としても躊躇して手を止めることを期待しているわけではない。

 だが、だからこそ、その判断を繰り返させる意味がある。守るべき一般人の中から、殺さなければならない元人間を選び続ける。それを何十、何百と重ねさせれば、単に呪霊の数を増やすよりも無視できない重荷となる。

 加えて、真人が作った改造人間なら、羂索自身が蓄えてきた呪霊を消耗する必要もない。五条悟を封印まで追い込むための手段としては、そちらの方が遥かに効率がよかった。

 だからこそ、二十分を過ぎても真人を待っていた。

 問題は、その真人がなぜ来ないのか、だ。

 改造人間が予定ほど揃わなかったのか。列車そのものに不具合が起きたのか。あるいは、輸送経路に何らかの支障が生じたのか。

 まず疑うなら、そのあたりだった。

 確かめる必要がある。

 明治神宮前をはじめ、要所には五条悟が地下へ入る以前から監視役の低級呪霊を置いていた。異常が起きているなら、そちらから拾えば良かった。

 

 ◆

 

 結果が分かるまで、そう時間はかからなかった。

 明治神宮前から上がってきた情報は、羂索の想定とは大きく異なっていた。

 

「……妙だね」

 

 虎杖悠仁。冥冥。憂憂。三人はすでに明治神宮前へ入っている。

 それ自体なら、まだおかしくはない。

 問題は、その動きだった。

 地下に設けられた《帳》。その基を守る呪霊。真人。そして改造人間の輸送。それらを最初から警戒していたかのように、三人は動いている。一般人の退避まで進められていた。

 虎杖が真人を抑え、冥冥と憂憂が周囲へ対処する。

 結果として、渋谷へ送るはずだった改造人間の輸送が成立しない。

 

 ──手際が良すぎる。

 

 現場で異変に気づいてから組み立てた動きには見えなかった。

 高専側にも、何らかの経路で事前に情報を掴む手段があったか。明治神宮前だけなら、まだそう考えることもできる。

 だが、異常が起きているのは一か所だけではなかった。

 

 ◆

 

 渋谷Cタワー。

 術師の侵入を阻むために降ろした《帳》の基点へ、伏黒恵と猪野琢真が迷いなく向かっている。

 基の位置を探る素振りはない。最初から、そこにあると知っているかのような動きだった。

 それだけではない。

 初見のはずのあべこべの術式にも、伏黒恵は手数の多さだけでは説明のつかない速さで対応し、有効打を与えて制圧している。オガミ婆も、降霊術を使う間もなく猪野琢真の《来訪瑞獣・竜》によって、一撃で倒されていた。

 まるで最初から盤面を知っているかのように、一つずつ必要な手だけを打っている。

 期待していた妨害効果をほとんど発揮できないまま、《帳》はたちまちに上げられた。

 

 ◆

 

 明治神宮前と渋谷Cタワー。

 使っている《帳》という仕組みこそ同じでも、目的も配置も、そこへ組み込んだ人員も異なる。

 それぞれが独自に調べた結果、偶然どちらも正しい解法へ辿り着いた。そう考えるには、出来すぎていた。

 

「……なるほど」

 

 互いに独立している二つの仕掛けが、どちらも動き出す前から正確に押さえられている。現場で拾った情報だけでは説明がつかない。誰かがこちらの計画を、かなり深いところまで知っている。

 問題は、誰が、どこまで知っているのか。

 そこまでは、羂索にも分からなかった。

 それでも、五条悟の封印まで諦める理由にはならない。

 周辺の仕掛けをいくつ潰されようと、《獄門疆》さえ機能すれば大目的は達成できる。少なくとも、それがまだ通用するかどうかは、確かめる価値があった。

 羂索は戦場へ視線を戻す。

 漏瑚は、すでに限界に近い。花御を失い、真人による増援もない。脹相も積極的に前へ出ようとはしない。

 このまま五条悟を相手に時間を稼ぎ続けるだけの戦力は、ほとんど残っていなかった。

 漏瑚が人混みを盾に距離を取る。

 五条悟が追う。

 その差は、もう埋まっていた。

 次の瞬間、漏瑚の身体が大きく揺れる。五条悟の攻撃をまともに受け、そのまま床を削るように吹き飛ばされた。

 なおも起き上がろうとした漏瑚へ、五条悟が完全に追いつく。

 

『おの……れェ……!』

 

 短い攻防の末、怨嗟の声を残して漏瑚の身体が崩れた。残った呪力さえ霧散していく。

 花御に続いて、漏瑚も祓われた。

 五条悟が足を止める。

 残る脹相は、距離を取ったまま動かない。

 ほんの一瞬、五条悟の意識が周囲の一般人と、次に処理すべき相手へ向いた。

 羂索が待っていたのは、そこだった。

 懐の立方体に指を掛ける。人混みの陰から、その小さな立方体を床へ滑らせた。カラカラと軽い音をたてて転がった《獄門疆》が、五条悟の近くで止まる。

 そして。

 

 ──《獄門疆・開門》

 

 開く。

 瞬間、異様な呪力が立ち上がった。

 五条悟の視線が、《獄門疆》中央の大きな目と交錯する。

 反応は、ほとんど同時だった。

 

 ◆

 

「やあ、悟」

「ッ──!!」

 

 背後から声が届く。

 その声を聞いた瞬間、五条悟は地を蹴った。

 振り返らない。声の主も確かめない。

 四メートル。

 事前に聞かされていた《獄門疆》の有効範囲以上を、一息に外す。

 羂索の眉が僅かに動いた。

 躊躇がない。目の前で展開した呪物の正体を確かめるよりも先に、五条悟は距離を取った。

 偶然ではない。少なくとも、この呪物に近づいてはいけないことを知っている。

 十分に距離を取ったところで、五条悟はようやく顔を向けた。

 そこに立っていた男を見て、その瞳が揺れる。

 夏油傑。死んだはずの親友、その身体。

 

「……傑」

 

 口から零れた名前は、反射に近かった。

 だが、その動揺はもう封印には使えない。五条悟はすでに有効圏から外れている。

 六眼が、四方に開く肉塊を捉えた。

 

「それが、《獄門疆》?」

 

 羂索の目が細くなる。

 距離だけではない。名前まで知っている。

 

「そこまで知っているのかい?」

「半信半疑だったけどね」

 

 五条悟は笑った。

 いつもの軽薄さを残した笑みだった。

 ただし、《獄門疆》との距離だけは詰めようとしない。

 

「随分と親切な情報提供者がいたんだね」

「さぁね?」

 

 笑みを崩さない。

 答えるつもりはないらしい。

 羂索も、それ以上は訊かなかった。

 必要なことは、もう分かった。四メートルの有効範囲を迷わず外し、《獄門疆》の名を言い当てた。夏油傑の姿を目にした時には、すでに封印の間合いを脱している。

 どこまで漏れているのかは分からない。

 だが、ここまで手の内を読まれた相手に、同じ手を重ねる意味はなかった。

 

「困ったね」

 

 声音だけなら、さほど困っているようには聞こえない。

 五条悟を見る。

 もう、夏油傑の存在を隠す必要はない。五条悟はその顔を見た。《獄門疆》も知られている。ならば、《呪霊操術》まで伏せておく意味も失われた。

 

「まぁ、仕方ない。今回は諦めるとしよう」

「諦める?」

「うん。ここまで知られているなら、これ以上続ける意味もないからね」

 

 羂索はそう告げると、わずかに後ろへ下がった。

 

「それじゃあ、悟。今日はここまでにしようか」

「──逃がすわけないだろ」

 

 短い言葉と同時に、五条悟が踏み込む。

 その足が羂索に届くより先に、羂索の足元で呪力が淀んだ。床へ落ちた影が膨らむように広がり、その中から異形が次々と這い出てくる。

 《呪霊操術》によって解き放たれた呪霊たち。

 一体や二体ではない。羂索の足元から溢れた群れは、姿を現す端から左右へ散り、人混みに向かって走り出す。天井へ飛びつくもの。柱を回り込むもの。床すれすれを這うもの。それぞれが別の一般人に狙いを定めた。

 

「……チッ」

 

 五条悟の足が止まる。

 夏油傑──羂索まで、あと僅か。

 だが、その間に人が死ぬ。

 五条悟は迷わず踵を返した。

 目前の一体を一撃で潰し、そのまま人混みへ迫る二体を祓う。頭上から襲いかかろうとした呪霊は《蒼》に呑まれ、一般人へ届く寸前で押し潰された。

 個々の強さは、五条悟にとって取るに足らない。厄介なのは、その狙いだった。

 すべてを祓うのに、ほんの数十秒。

 そして羂索が欲しかったのも、その僅かな時間だけだった。

 必要なのは、五条悟を長く拘束することでも、傷つけることでもない。《獄門疆》を閉じて回収し、この場を離れる、それだけの時間だった。

 五条悟の意識が一般人へ向いた、その隙に羂索が手を動かす。

 

 ──《獄門疆・閉門》

 

 中央の目が閉じる。四方へ展開していた肉塊が急速に収縮し、《獄門疆》は再び小さな立方体となった。

 同時に、小型の呪霊が足元から走り、《獄門疆》を咥える。そのまま羂索の足元へ戻ると、《獄門疆》を懐へ収めた。

 羂索は身を翻した。

 封印は失敗した。だが、《獄門疆》は失っていない。

 背後では、放った呪霊が次々と消滅していく。どれほど数を出そうと、五条悟を相手に稼げる時間はごく僅かだ。

 それで、構わない。

 一般人を狙わせている間だけは、五条悟の優先順位を自分から逸らせる。羂索はその間に地下五階を離れ、渋谷駅から撤退する。

 やがて、最後に残った呪霊の気配が消える。

 その頃には、羂索は渋谷駅を離れていた。明治神宮前駅も、もうそう遠くない。

 五条悟が呪霊を片づけ終えたなら、すぐに追撃へ移るだろう。だが、それも織り込み済みだった。

 駅のホームに降りた《帳》は、それを成すがためだけに条件を絞ってある。基点は、《帳》の内側。五条悟本人にも破壊できる余地を残す代わりに、対象を五条悟に限定して望外の強度を実現した。

 六眼があれば、すぐに基の場所も割れる。

 だが、そうして羂索のもとに辿り着いた時には、全てが終わっている。

 

 五条悟の封印には失敗した。

 真人による増援も止められている。

 渋谷Cタワーの《帳》も破られた。

 当初組み上げていた計画は、もう使えない。

 ならば、組み替えるだけだ。

 羂索は《獄門疆》を懐に収めたまま、明治神宮前へ向かう。

 崩れた計画は、誰も知らない段階へと移行する。

 

 




伏黒たちが若菜の情報を信じて行動したのは、五条悟が仮とはいえ信じたから、というのが大きいです。とはいえ、完全に信じたわけではなく、それぞれリカバリーの効く範囲で最大限考慮した、というような感じです。
また、真人がいつから明治神宮前にいたのかや、五条悟を閉じ込める帳の条件や仕様などはわからなかったので、都合のよい形で採用しています。他の箇所の対応も、詳細を詰めるとボロが出そうなのでダイジェストです。

今回、原作から変わったこと。
①真人が明治神宮前駅から渋谷駅に移動できない。
②改造人間が相当数生み出されない。
③改造人間が渋谷駅に放出されない。
④漏瑚が祓われる。
⑤五条悟が封印されない。
⑥メカ丸の保険が使われず、メカ丸の死亡が行方不明として処理される可能性が生まれた。
⑦禪院甚爾が降霊されない。
⑧禪院甚爾により猪野さんが戦闘不能になる未来が消失する。
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