『着せ恋』だと思った? 残念『呪術廻戦』でした! 作:自分のことを五条新菜と信じている(文字数
大型呪霊が薄暗いトンネル内を駆る。太い四肢で線路を踏み、副都心線の地下を進んでいた。渋谷駅を離れて幾許もない。羂索の視界の中で、次々と壁際の灯りが流れていった。
やがて、トンネルの先に拓けた光が見える。羂索は懐の《獄門疆》の存在を確かめていた手を止め、一度大きくため息を吐いた。
大型呪霊が、ホーム脇へ滑り込む。羂索が降り、脹相と陀艮も後に続く。役目を終えた呪霊は、そのまま羂索の足元に沈むように消えていった。
「やれやれ、よく飽きないね」
視線を上げた先、真人と虎杖悠仁はまだ打ち合っていた。少し離れた場所には冥冥と憂憂。真人の隙を見つけては、《黒鳥操術》でカラスを嗾けている。虎杖たちもこちらに気づいたらしく、一瞬だけ視線が合った。
ホームの片側には、一編成の列車が停まったままだった。当初の計画通りなら、改造人間を載せてすでに渋谷へ向かっていたはずの車両。だが、扉は開いたままで、車内はがらんとしていた。
代わりに、ホームに改造人間の残骸がいくつか転がり、車内にあるのも事切れた異形の身体が何体かだけ。床や壁に残る戦闘跡から、何が起きたのかは明白だった。
計画を全て止められたわけではない。だが、十分といえるほどの改造人間を集められなかった。そして、集めた改造人間も、本来の役割を担うことなく討たれてしまった。
それだけは十分に分かった。
羂索はそのままホームを見渡した。
あと一つ。
そう思ったところで、空気が冷えた。ホームに降る階段側から冷たい呪力が流れ込み、白い髪の術師が姿を見せる。片手には、細長く巻かれた収納具を持っていた。
「裏梅、持ってきたかい」
「無論」
裏梅が収納具を僅かに掲げる。羂索は小さく笑った。
冥冥の目が、羂索から裏梅へと移る。収納具にも一瞬だけ視線を走らせると、すぐに憂憂へと指示を飛ばした。
「憂憂。虎杖君を連れて出るよ」
「はい、姉様!」
判断は早かった。
補助監督を通して匿名の情報提供者からもたらされた通りなら、虎杖が行動不能になれば宿儺顕現に利用される。その情報を鵜呑みにしたわけではなかったが、急に集結した物々しい面子に、冥冥はそれが嘘ではないことをここに至って悟った。
白い術師の手に掲げられた収納具。中身までは分からなかったが、状況としてその中に何があるかは確信を持って判断できた。
宿儺の指。
それも相当数。
かつての後輩そのもののような夏油傑は、情報の通りに額に大きな縫い目。夏油傑を騙る偽物──羂索であろうと冥冥は理解した。
相手として特筆すべきは三点。
敵首魁。羂索は、夏油傑の《呪霊操術》の他に《
裏梅。《氷凝呪法》の使い手。宿儺の従者であり、専属料理人。その料理人という肩書きとは裏腹に、その術式は強力無比。個対多を苦としない制圧力は、言うまでもなく《黒鳥操術》との相性は最悪だ。
真人。根本的に冥冥の手札では有効打となりうる手段がない。足止めはできても、そこまで。こちらは最悪どころの話ではない。冥冥単独では祓除が不可能なレベルだった。
おまけに数の上でも不利。羂索とともに現れた二体も問題だった。
流血を気にせず戦える《赤血操術》の使い手。
未だ呪胎の、潜在能力で言えば領域展開に至るという特級呪霊『陀艮』。
そのうえ、宿儺を顕現させる準備まで整っている可能性が高い。
五条悟の呪力が未だ健在なことから、封印が失敗に終わったこと自体は推測できる。だが、五条悟が駆けつけるまで生存することは、この戦力差では絶望的だった。
第一目標であった改造人間の輸送阻止ができただけで、冥冥としては報酬分の働きは十二分にしたと言い切れる。
となれば、この場に留まる理由はなかった。
冥冥の周囲で、カラスが一斉に羽ばたく。纏う呪力が跳ね上がった。
狙いは複数。
こちらを窺う羂索。
虎杖と相対する真人。
そして、その周囲で静観する存在へ。
──《
黒雲のようにカラスが飛び出した。
冥冥が仕掛けるのと同時に、虎杖は真人の一撃を躱して腹へ拳を叩き込む。真人の身体が床を滑った。
虎杖は追わない。そのまま冥冥たちへ踏み出す──
「っ……?」
だが、足が上がらない。足首に細長いものが巻きついていた。百足に似た節足型の呪霊。長い胴は床を這い、羂索の足元まで続いていた。
その間にも、《神風》はそれぞれの標的へ迫っている。
立て直した真人の胴が、ぐにゃりと歪む。掠りもせずその隙間をカラスが抜け、自壊しながら床を穿つ。
同時に、羂索の足元から呪霊が噴き上がる。一体一体は《神風》の障害になり得ない。しかしそれが壁のように、渦のように留まれば、威力を減衰する盾となる。《反重力機構》を使うまでもなく、羂索は悠々と冥冥の一撃をいなしてみせた。
黒い残滓が散る陰で、羂索は虎杖に迫る。
裏梅の前には、白い氷壁が立ち上がった。《神風》が激突し、白い壁が砕けた時には、裏梅の姿はすでに射線の外。
「ぐっ……!」
脹相は間に合わない。咄嗟に防御に回した両腕が、カラスに触れた瞬間弾け飛んだ。血の硬化が功を奏すが、それでも無視できない負傷が腕に残る。千切れた腕から血が滴り、脹相の身体が大きくよろめいた。
さらに一羽。陀艮の丸い身体に突き刺さる。それによって身体が弾けて形を失い、呪力の残滓となって消し飛んだ。
間髪入れず、虎杖の間合いに踏み込んだ羂索の足元から、大小の呪霊が溢れ出す。異形の群れが冥冥たちと虎杖の間へ雪崩れ込み、真人もその中へ滑り込んだ。
視界が塞がれる。
その陰で、羂索が虎杖へ手を向けた。
「ぐっ……!?」
鈍い音を立てて虎杖の身体が床へ沈んだ。
《反重力機構》の術式反転。片膝が落ち、伸ばしかけた腕まで引き下ろされる。
動きが止まったところで、呪霊が足元へ群がった。足首から順に這い上がるように絡みつき、腰、胴へと重なっていく。最後に両腕まで封じられ、虎杖の身体が仰向けに返されて押さえ込まれた。
床に倒れた虎杖が身を捩る。冥冥は視界を遮るものの合間から、その姿を一瞬認めた。
「潮時だね」
虎杖を連れ出すという判断は、そこで捨てた。
羂索の懐へ踏み込み、真人と裏梅まで相手取って奪い返す。そのために自身と憂憂の命まで賭ける気はない。冥冥は虎杖から視線を切る。
砕けた氷壁の向こうでは、裏梅の双眸が冥冥の姿を捉えていた。カラスを嗾けた術師を見据え、裏梅は片手を器のように口元にかざす。掌に冷気が集まり、そこへ静かに息を吹いた。
──《氷凝呪法・霜凪》
吐息とともに溢れた霧が、掌に導かれるようにホームを
「憂憂」
「はい、姉様!」
「逃がすかよ──」
白い霧が届くより早く、憂憂が冥冥に触れた。
直後、呪霊の群れの陰から真人が飛び出す。手は後わずかのところで雲を掴むかのように空を切った。
その横合いから霜が襲う。さらに先へ広がり、ホームの一角が白に染まる。
真人の足元から霜が降り、体中に一気に広がった。伸ばした腕まで冷たく凍り、ツギハギだらけの身体が氷像のように凝り固まった。
「ちょっと! 何してんのさ!」
「勝手に飛び込んできたのは貴様だ」
「いや、今のはそっちでしょ!?」
真人が氷を軋ませながら声を上げる。裏梅は一瞥を向けるだけだった。
氷の内側で真人の身体がぐにゃりと歪む。拘束を抜けようとする真人をよそに、裏梅は興味を失ったように虎杖へと視線を落とした。
視線の先で、羂索はすでに拳を振り上げていた。呪霊に四肢と胴を固定されながら、虎杖は身を捩っている。
間を置かず、拳が腹へ叩き込まれた。
「がっ──」
床との間に挟まれた身体が大きく跳ねた。肺から息が抜け、口から血が散る。
重力が解けても、呪霊の拘束は残ったまま。虎杖は大きく咳き込み、苦しげに息を吸う。なおも身を捩ろうとするが、先ほどまでのような力は見えなかった。
今回原作から変わったこと。
①明治神宮前駅で激しくドンパチした。
②呪胎陀艮死す。
③禪院直毘人、七海建人、禪院真希は陀艮と戦わずに無傷生還。
④原作では漏瑚が宿儺の指をのませてたけど、今回は裏梅がとってきた。たぶん原作で五条悟と戦ってる時の漏瑚は指を持っていないと思うので、どっかに隠してて、それを裏梅がとってきた形。事前に配置していた呪霊操術の低級呪霊とかで裏梅に指とってきてねーって連絡してる。
ちなみに陀艮が呪胎のままだったのは、羂索といった強者が近くにいたのと、原作と違って術師に寄って集ってサンドバッグにされなくてフラストレーション、もとい負の感情が高まらなかったため、ということで。全然一般人を食べないまま、あの丸っこいフォルムでカラスにつつかれたタコの如く爆散しました。