『着せ恋』だと思った? 残念『呪術廻戦』でした!   作:自分のことを五条新菜と信じている(文字数

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第十四話 呪いの王

 

 羂索は虎杖を見下ろし、二度目の拳をその腹に叩き込んだ。呪力と《反重力機構》の術式反転により、速さも重さも鋭さも増した一撃は、ただの拳とは一線を画す。ともすれば、並の術師の黒閃に並ぶと表現しても差し支えない。

 そんな一撃を防御もなしに剥き出しの腹に打ち込まれれば、いかに丈夫な虎杖と言えど内臓に致死の損傷を刻まれても仕方なかった。

 口の中から血が逆流し、吐瀉物とともに溢れ出す。しかし、今度は咳き込むことさえできなかった。身体から力が抜け、呼吸が見るからに浅くなる。

 呪霊の拘束が解ける。

 焦点の定まらない虎杖の視線が彷徨い、不意に、脹相を向いた。

 

「……なん……だ……?」

 

 突如、脹相の脳内に溢れ出す、()()()()()()()

 電流のように刹那で、血のように濃厚で、現実のように鮮明に。

 脹相は、知っていた。

 この感覚を、知っていた。

 

 ◆

 

 柔らかな陽の下、一つの卓を囲んで兄弟たちが食事をしていた。

 五つの椅子に、五つの影。卓上には、まだ受肉していない弟たちを収めた容器も並んでいる。

 そして、その輪の中に虎杖悠仁がいた。

 血塗と言葉を交わして笑い、壊相もその様子を穏やかに眺めている。最初からそこにいた兄弟であるかのように、虎杖は何の違和感もなく溶け込んでいた。

 やがて料理へ手を伸ばし、脹相の方へ差し出す。

 

「兄ちゃんも食う?」

 

 壊相が笑っている。血塗も笑っている。

 脹相もまた、当然のようにその手を伸ばしていた。

 兄弟だけの、和やかな時間。

 そんな時間を、過ごしたことはない。

 そんな記憶など、あるはずがない。

 それでも、そこに虎杖悠仁がいることだけは、どうしようもなく自然だった。

 

 ◆

 

 留め具の外れる音がした。

 脹相の意識が現実へ戻る。

 

「貴様は宿儺様の器を痛めつけすぎだ」

「大丈夫だよ、この程度で壊れる軟な器じゃない。それよりさっさと済ませよう。君が五条悟の相手をするのかい?」

「ふん」

 

 小言を垂れながら、裏梅は広げた収納具から宿儺の指を抜き取る。それを羂索は、まるで酒の席のような軽い調子で囃し立てた。

 

「ほら、一気っ、一気っ」

「黙れッ」

 

 苛立たしげに吐き捨て、裏梅はそのまま虎杖の顎を掴んだ。

 力ずくで顔を上げられ、虎杖の喉から声とも呼べない掠れた音が漏れる。わずかに顔を背けようとしたものの、掴まれた顎をすぐに戻された。そのまま宿儺の指を口の奥へねじ込まれ、喉が大きく動く。

 脹相の口から、考えるより先に声が漏れた。

 

「──触るな……」

「ん? 脹相どしたのー?」

 

 呟きを拾った真人が首を傾げる。

 真人の問いには答えず、脹相は虎杖を見据えた。

 両肩口から滴り続けていた血が、不意に落下を止める。足元には、それまで流れ落ちた血が大きな血溜まりを作っていた。その縁がわずかに震え、左右へ細く引き伸ばされていく。

 それぞれが弧を描き、その途中からさらに細く枝分かれする。分かれた血も床を滑るように弧を描き、伸びた先端同士が次々と繋がっていった。

 大きな血溜まりを中心に、幾つもの小さな円が脹相の周囲へ形作られていく。

 赤い輪が形を整え、それぞれがゆっくりと回転を始め──。

 

「ぐっ──!?」

 

 一周するより早く、横合いから巨大な顎が脹相の脇腹へ食らいついた。

 いつ現れたのか。ホームまで彼らを運び、羂索の足元へ沈むように消えていた大型呪霊が、再びすぐ傍に姿を現していた。

 脇腹を挟み込んだ顎がさらに閉じる。牙が深く食い込み、脹相の身体が床から浮いた。

 足が床を離れる感覚。視界が大きく振れたかと思えば、次には背中から叩きつけられていた。鈍い衝撃が全身を突き抜け、肺から空気が押し出される。

 同時に、脹相の周囲で回り始めていた赤い輪が形を失った。円を成していた血が床へ弾け、いくつもの飛沫となって散る。

 大型呪霊の牙が脇腹から抜けた。その直後、白い冷気が床を走った。

 散った血の表面が次々と白く曇り、赤を閉じ込めたまま凍りついていく。冷気は止まらない。床を這った氷が脹相の背へ回り込み、身体の下へ潜り込んだ。

 背中を押し上げるように氷がせり上がる。脚を。腰を。脇腹を。胸を。下から順に呑み込みながら厚みを増し、最後には両肩口までを固めて壁のように立ち上がった。

 両腕を失った脹相は、そのまま氷の壁へ縫い止められた。

 

「私の邪魔をするな」

 

 裏梅は虎杖から手を離さない。三本目、四本目と指をねじ込みながら、脹相に冷たい一瞥を寄越す。

 脹相は歯を噛み締め、凍りついた脚に力を込める。氷はびくともせず、身体も前には出なかった。

 視線を上げる。少し離れたところで、羂索がこちらを見ていた。そこに驚きはない。裏切りへの怒りすらなく、あるのは呆れと、無関心。

 その目に、脹相は既視感を覚えた。

 虎杖から感じたものは、壊相と血塗が死に近づいた時と酷似していた。

 ならば、なぜ。

 なぜ、虎杖悠仁を弟だと感じるのか。

 何をもって、縁が繋がっているのか。

 九相図には、三人の親がいる。

 母。母を孕ませた呪霊。そして、母を弄び、自分たちを生み出した男。

 脹相の視線が、羂索の顔を上っていく。

 額。大きな縫い目。

 百五十年前、自分たちを生み出した加茂憲倫。その額にも、同じものがあった。

 ばらばらだったものが、一気に繋がった。

 

「……そういうことか……!! 加茂憲倫ッ……!!」

「ようやく気づいたようだね。まぁ、『加茂憲倫』も数ある名前の一つにすぎない。好きに呼びなよ」

 

 その声には何の感慨も浮かばない。なおも吠える脹相に、羂索は取り合わない。

 裏梅の手は、動き続ける。収納具から指が抜かれ、虎杖の口へ押し込まれる。

 また、次の一本。脹相の視線が、その指を追った。

 虎杖の喉が、また一度、大きく動いた。

 

 ◆

 

 最後の指が飲み込まれた。虎杖の身体が大きく震える。

 裏梅が顎から手を離すと、支えを失った頭が床へ戻り、そのまま仰向けに動かなくなった。

 真人の笑みが消え、羂索も一歩だけ距離を取る。

 空気が、変わった。

 次の瞬間、虎杖悠仁の内側から、それまでその場にあった何よりも強大で禍々しい呪力が噴き上がった。

 重い圧がホームを満たす。空気そのものが沈んだかのように、足元の床が低く軋んだ。

 倒れた虎杖の頬を這うように、黒い紋様が浮かんでいく。

 脹相は氷に縫い止められたまま、茫然とその姿を見つめていた。

 閉じられていた瞼が、開く。

 ゆっくりと、口角が持ち上がった。

 虎杖悠仁の顔で、呪いの王が嗤っていた。

 

 

 




羂索の重力パンチは独自設定です。原作の仕様的にかなり精密な呪力操作が必要そうな気はするけど、アホほど長生きしてるしできるでしょ、ってことで。

脹相は《神風》ガードでお手手ナイナイ状態なので、穿血みたいに最初から圧縮して撃つことができなくなってます。なので、遠心力で圧をかけて撃とうとして、すぐに気取られて齧られて凍らされて、と踏んだり蹴ったり。

正味、『着せ恋』とのクロスオーバータグは、

  • 使い方間違ってんで(削除)
  • 紛らわしいけんいらんやろ(削除)
  • 着せ恋タグだけありゃええ(削除)
  • 付けとってええんちゃうか(そのまま)
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