『着せ恋』だと思った? 残念『呪術廻戦』でした!   作:自分のことを五条新菜と信じている(文字数

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第十五話 渋谷事変開幕

 

 夜の明治通りに、轟音が響いた。路面が震え、砕けた石片が雨のように降り注ぐ。明治神宮前駅の地下から地上まで、幾重もの床と天井をまとめて穿った大穴。その縁へ、一人の少年が降り立った。

 虎杖悠仁。

 だが、そこにいるのは虎杖悠仁本人ではない。その身体に浮かぶ黒い紋様と、顔に刻まれた凄惨な笑みが、何よりそれを物語っていた。

 両面宿儺は、久方ぶりに得た外気を味わうようにゆっくりと息を吸う。

 地下には、もう用はない。氷漬けにされた受肉体が最後まで何かを喚いていたが、《解》を一つ飛ばせばそれも止んだ。胸から腹までを見事に裂かれ、内臓をまろび出しながら白い氷を赤く染める。ひと嗤いした後、その男がどうなったかなど、宿儺の興味には微塵も残っていなかった。

 羂索も、ツギハギの呪霊も、裏梅も、すでに散っている。どこかで見ているのだろうと予想するものの、ツギハギの呪霊はともかく他は邪魔をするような者ではない。地上へ出た宿儺の意識に残ったのは、もっと別の存在だった。

 

「クク……。救ってみせろ、《最強》」

 

 足元より遥か下。だが、そう遠くもない。

 大きな呪力が、恐るべき速度でこちらに近づいていた。

 宿儺はその気配を知っていた。虎杖悠仁の内側から、かつて一度対峙した男──五条悟。

 渋谷駅の方角から、妨害する呪霊・呪詛師を轢き殺しながら地下をこちらに猛進している。

 だが、宿儺にその到着を待つ理由はない。

 目の前へ視線を戻すと、思わず口角が上がる。

 光。建物。車。そして、疎らに残る人影。

 明治神宮前駅の周囲に、普段のハロウィンの人波はない。冥冥らによって地下から救い出された者たちも、その大半はすでに駅を離れ、残っているのは負傷や混乱から退避の遅れた者が僅かばかり。地下で何を目にしたかも人によって異なり、そのさらに外、規制線の向こうには事情を知らない野次馬も残っていた。

 だが今、そのいずれもが駅から遠ざかろうとしている。

 抉り飛ばされたアスファルトとコンクリート片が道路を覆い、地下へ続く大穴が路面に口を開けていた。破片を浴びた車の警報音が響く中、救出された者は足を速め、規制線の向こうにいた者もスマートフォンを下ろして後退していく。

 宿儺は逃げていく人影に目を細めた。

 嗤う。

 腕が振るわれる。

 次の瞬間、道路沿いの建物に斜めの線が走った。一拍遅れて、上階がズレる。窓ガラスが一斉に砕け、外壁ごと道路へ滑り落ちた。

 轟音。

 悲鳴。

 逃げていた人影のいくつかが、降り注ぐ瓦礫の下へ消えていく。車道に飛び出した者と反対側へ逃げようとした者がぶつかり、転倒したところへさらに人が躓いた。

 誰かが助けを求める。誰かが名前を叫ぶ。

 その声を掻き消すように、宿儺の腕がもう一度振るわれた。

 通りを横切る斬撃。街灯が途中からずれ、車体が裂ける。その延長線上にいた身体も、崩れ落ちるより先に血が散り、直後、遅れて上半身が傾いた。

 悲鳴が悲鳴を呼ぶ。

 瓦礫から逃げれば斬撃が走り、斬撃から逃げれば別の人間とぶつかる。どこへ行けば助かるのか、もう誰にも分からなかった。

 泣き叫ぶ者。地面を這う者。倒れた誰かを引き起こそうとして、その腕だけを掴んで立ち尽くす者。

 明治通りは、ほんの数秒で地獄に変わった。

 その中心を、宿儺だけが愉しげに眺めている。

 追う必要などない。狙う必要すらない。ただ斬れば、その先にあるものがまとめて壊れる。

 嗤う。

 呪いの王は、嗤う。

 崩壊の音の中で、その嗤い声だけは誰の耳にも届いていた。

 

 ◆

 

 そして、宿儺が地上で破壊を始めた頃、渋谷を覆っていた黒い膜が揺らいだ。

 外周を封じていた《帳》。その黒が、上端から徐々に薄れていく。

 五条悟を封じるための盤面はすでに崩れた。羂索は、役目を失った《帳》を解除した。

 それは、閉じ込めた人間を解放するという殊勝な心がけからでは、当然ない。閉ざした街に数多の人間を留め置くより、逃げ惑う人間ごと宿儺の前に開いた方が興が乗る。ただ、そう考えてのことだった。

 黒い境界が消えていく。《帳》際から上がったざわめきが、少しずつ渋谷の内側へ広がり始めた。

 




原作でCタワーの帳以外、誰が張っているだったり守っているだったりの明示はなかったと思うので、一般人を閉じ込める帳は一括してメロンパンが管理していたことにしています。原作に載ってたら教えてください。

あと、後書に載せ忘れてたと思うのですが、五条悟を閉じ込める帳も詳細不明だったので、こちらは嘱託式としています。
 五条悟のいる帳の内側にある
 +五条悟にも壊せる
  +五条悟以外は帳を素通りできる
   +五条悟以外にも壊せる
という条件により、強度を持たせた感じです。五条悟が一般人を顧みず、花御などを無視して基を探せばすぐ破れる想定です。
若菜はそのあたりを知らないので、ナナミンに渡した情報の中にあるのは帳が降りる、という情報だけです。
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