『着せ恋』だと思った? 残念『呪術廻戦』でした! 作:自分のことを五条新菜と信じている(文字数
羂索は、誤解していた。
五条若菜を成立させた受胎実験。その父親として選ばれたのは、人形にまつわる一体の呪霊だった。
人形。形代。身代わり。
古来、人は人の形をしたものへ意味を与えてきた。誰かの代わりとして。何かを移す器として。時には魂さえも宿り得るものとして。
人に似せて作られながら、決して人ではない。その曖昧さに向けられた畏れ、忌避、執着。それらが積み重なった果てに生じた、人形にまつわる呪い。
羂索が初めてそれを目にした時、その姿はまだ明らかに呪霊のものだった。人の形こそしていた。二本の腕と二本の脚。頭部があり、顔と呼べるものもある。
だが、それだけだった。
声にはどこか不自然な硬さが残り、抑揚も乏しい。表情は人間のそれをなぞってはいても、感情が動く瞬間との間には僅かなずれがあった。
視線の置き方。首を傾ける角度。指の動かし方。話し終えるまでの間。どれも一つだけなら些細な違和感に過ぎない。だが、重なれば分かる。人間ではない。
人間を見て、人間を覚え、人間を模している。そうと分かる程度には、人ならざるものだった。
羂索にとって、それ自体はさほど珍しいことではなかった。知性を持つ呪霊が人間を学ぶことも、人の言葉を話すことも、その仕草を模倣することも、ありえないことではない。
ただ、渇望に似たものを感じられるほどに。『呪い』たり得る呪霊をしても異質と言えるほどに。異常なほど、それは人間を模倣し続けた。
次にそれを目にした時、以前あったはずの違和感が一つ消えていた。声が自然になっていた。
さらに時を置いてみれば、また一つ。表情が変わっていた。笑うべき時に笑い、黙るべき時に黙る。言葉を返すまでの僅かな間さえ、人間のそれに近づいていた。
また会えば、仕草が変わった。視線が変わった。言葉の選び方が変わった。人の群れに紛れた時の立ち方まで変わっていた。
模倣しているだけではない。学んだ所作を再現しているだけでもない。以前はあった不自然さそのものが、消えていく。
会うたびに、観測するたびに、それは人ならざるものから一つずつ離れていった。やがて、一見しただけでは呪霊と分からないほどになり、時には人間よりも人間らしい振る舞いさえ見せる。
羂索は、結論づけた。
この呪いは、人間に擬態する。呪霊でありながら、己の形を人へ近づけ続ける性質を持つ、と。
それは、羂索が長く続けてきた出生実験にとって都合がよかった。
人と呪霊。
本来なら相容れない二つを、一つの胎内で成立させる。そのための父親として、人間との境界を自ら曖昧にできる呪霊ほど適した存在もない。
少なくとも、羂索の目にはそう映っていた。
観測は、間違っていなかった。変化そのものも、その変化が時間とともに積み重なっていたことも、羂索が見たものはすべて事実である。
間違っていたのは、その意味だった。
『人間に近づく』。
それは、この呪いの本質ではない。人間という形へ変わることを定められた呪いでもない。
その呪霊が、人間を《理想》としていた。ただそれだけのことだった。
人の形をしながら、人ではないもの。人を模して作られ、人の代わりに置かれるもの。その呪いから生まれた存在が、自らにないものを人間の中に見た。
より人間らしく、より自然に、より自らが思い描く『人間』という像へ。声を、表情を、仕草を、振る舞いを。己という器を、少しずつ人間に作り替えていた。
人間とは、その呪霊が選んだ《理想》に過ぎない。もし別の《理想》を持っていたならば、その変化の行き着く先もまた、異なっていた。
故に、その本質は。
──自己を《理想》に作り替える、《
完成を望めば、完成へ。不足を知れば、充足へ。
現在の形と、望む形。経験を経るごとに、そこに存在する差異を縮めていく。
そして、その性質は、父親となった呪霊の中だけで終わらなかった。生得術式として、五条若菜へ継承されたわけではない。父と子が、同じ術式を持つという話ではない。
だが、人と呪霊の間に生まれた肉体には、名残があった。あるいは、正しく『呪い』と呼べるもの。
自己を望む姿に近づける。
ただし、それは願うだけの力ではない。知らないものを知ることはできず、理想を抱いただけで理想に届くものでもない。
必要なのは、経験。
成功でもいい。失敗でもいい。届いた。届かなかった。間に合った。間に合わなかった。耐えられた。耐えられなかった。動けた。動けなかった。
実際に経験して初めて、そこには比較が生まれる。
今の自分が、どこまでできたのか。何が足りなかったのか。何があれば、より望ましい結果へ至れたのか。
経験した肉体には、結果が残る。記憶が残る。成功した動きも、失敗した動きも、そのすべてが次の自分を形作る。
故に、器はその差を是正する。修正すべきものとして取り込まれる。より望ましく、より完成された自己へ、経験するたびにその差を削っていく。
収斂とは、選択である。
一つの可能性へ近づくたび、無数の可能性が閉じていく。
だが、それは単なる取捨選択ではない。選ばれなかったものは、ただ遠ざかるのではない。不要なものとして、削られていく。
《理想》へ近づくほど、別の数多ある《理想》は剥がれ落ちる。
それが、五条若菜の肉体に残された『呪い』だった。
ちょっと違うと思うけど、宿儺のカイリキースタイルや伏黒甚爾のような肉体そのものの特徴、のようなイメージ。呪霊とのハーフだから肉体が特別製って感じ。
あと、若菜は『自分のことを五条新菜と信じている一般通過転生者』だったので、父親譲りの体質故に(呪術廻戦とは無縁の存在という認識のために)ハロウィン以前の呪力の漏出はそこらの一般人レベル。帳を越えられることがわかって、父親譲りの体質故に(呪術師疑惑が生まれたために)漏出する呪力が跳ね上がった感じ。ただ、その時点ではまだ疑念程度だったので、呪力を感じるまでには至らなかった、という整理。