『着せ恋』だと思った? 残念『呪術廻戦』でした! 作:自分のことを五条新菜と信じている(文字数
本二次創作では、渋谷でハロウィン。
主人公はこの違いを知らない、あるいは覚えていない。
「ごじょー君! あそこでみんなで写真撮ろ!」
「いいですね、撮りましょう!」
ハロウィン当日。
仮装した人々で埋まった渋谷にて、俺は返事をしながら大きなウサギ頭を外して両腕で抱えた。被りの内側にこもった熱が夜風にさらわれ、狭かった視界も一気に開ける。
正面には、人波を避けるように回り込んできた喜多川さん。黒いバニースーツに、腰から長く伸びる燕尾服。以前、コスプレ用に俺が作った衣装姿で、回り込んだ拍子に黒い兎耳がぴょこんと揺れていた。
一言、言っていいか?
わかりきっているとは思うが、言わせてくれ。
わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ほ゛ん゛と゛に゛か゛わ゛い゛い゛っ゛!!(アキラさん並感)
めっっっちゃくちゃかわいい!!
いや待て。待ってくれ。
本当にかわいくないか? 今さら確認するまでもないことだけど、いい加減かわいすぎんか?
黒い兎耳が似合う。金髪に黒が映える。笑った顔がかわいい。というか顔がいい! 目もかわいいし、口元もかわいいし、ちょっと首を傾げる仕草までかわいい!! スタイルも文句なし!!
ハァ……、これだから喜多川って女はいけねぇんだ。
好ぅ────き(すきすきすきすき……!!)(夜帷並感)
しかもバニーですよ、バニー! ただでさえ喜多川さんというだけで致死量なのに、そこへ俺が全力で作った衣装を装備してくるのは反則では!?
乗算型バフを盛って殴ってくるな! 死ぬぞ! 俺が!
こんな可愛い子が本当に現実にいるんですか!?
──いや、いない!
いや、俺の目の前にいるんですけどねっ!!??
動いて、喋って、俺に話しかけてくる! しかも俺の作った衣装を着て、楽しそうに笑ってくれる!
何これ。前世でどれだけ徳を積んだらこんなイベントが発生するんですか? あれ? 俺、何かやっちゃいました?
いやもう本当にありがとうございます。こんなやさしい世界に転生させてくれた名も知らない神様、とにかくありがとう。初詣で祈ってあげます。忘れてなければ。
ついでにバニー衣装という概念を生み出した人にも最大級の感謝を捧げたい。えっちすぎますよ、このスケベ太郎がよォ〜!
脳内ではもう祭囃子どころではない。神輿が出て、花火が上がって、知らない誰かに胴上げされていた。
そうしてひとしきり脳内で騒いだところで、喜多川さんの燕尾服の前ボタンが取れかけているのに気がついた。人混みで引っかけたのか、ボタンは伸びた糸にぶら下がるような状態だった。
「喜多川さん、ボタンがとれそうです」
「えっマジ!? 全然気づかなかった!」
喜多川さんは視線を落とし、白い指でボタンを押さえた。
「このままだといけないので直しましょう。ただ、ここで針を出すのは危ないので──」
「なら、端に寄っとこ? あそこ空いてそうだし」
山内さんが、少し先にあるビルの壁際を指差した。
先導しだした山内さんの赤い特攻服の背を目印に、喜多川さんと俺も人の流れを横切る。俺は、ウサギの頭を小脇に抱えたピンクウサギ。よくよく考えなくとも隣の黒い兎姿の喜多川さんと、お揃いの格好といっても過言ではないのではないだろうか。
その後ろには血糊べったりセーラー服姿の眼帯菅谷さんと、ゾンビナース姿の傷口メイク八尋さんも続き、血糊まみれの囚人柏木くんは、眼鏡を押し上げながら人の流れが途切れるのを確かめていた。その横には豹柄キャミソールワンピースの猫耳森田くん。
やはりというべきか。森田くんだけすごい絵面だ。
「ここなら大丈夫そうですね」
「ごじょー君、頭持っとこうか?」
「はい、ありがとうございます」
人の流れから外れたところで、抱えていたウサギ頭を喜多川さんに預ける。両手を覆っていた分厚い前足も抜いて着ぐるみの腹へ押し込んだ。
「喜多川さん、少しじっとしててくださいね。ボタン、直してしまいますから」
「うん、お願い!」
内心をおくびにも出さず、作り手らしいキリッとした顔でそう告げる。
我ながら完璧な擬態である。外から見れば物腰柔らかな衣装担当。中身は推しを間近で浴びる限界オタク。人間、案外どうとでも取り繕えるものだ。
素手になったところで、着ぐるみの腹へもう一度手を入れ、持ってきた携帯用の裁縫道具を引っ張り出す。ふわふわした腹の中から、針と糸の入った裁縫の小箱が出てくる。自分でやっておいてなんだが、なかなかにシュールだった。
「五条、裁縫道具まで持ってきてんの? すごくね?」
「衣装を着て外へ出るならと思って。──それじゃあ喜多川さん、少しだけ失礼しますね」
「う、うん。全然いいよ」
喜多川さんの前に屈み、裁縫箱から針を取り出した。燕尾服の前合わせを指で挟み、外れかけたボタンを元の位置へ重ねる。
分かってはいたけど、近い。あと、いい匂いがする。思春期男児には刺激が強すぎる。
「さっすが〜。てか、五条君近くなぁい?」
「ボタン直すんだから、仕方ないだろ」
そんな内心を知ってか知らずか、すかさず飛んできた山内さんのからかい。原作五条ならあたふたすること間違いなしだが、そこはなんのその。生真面目な表情でボタンに向き合うフリで誤魔化した。
柏木くんも呆れた声で止めてくれて、良い友人を持ったものである。
それはさておき、俺が見るべきは衣装だ。決して、その向こうにある同級生女子の身体ではない。俺は、職人。まだ見習いだけど職人は『職人』なわけで、作業中に他のことへ意識を持っていかれるようではいけないのだ。
前身頃を身体から少し浮かせ、布の裏へ指を添えて針先を押し込む。しっかりした生地から硬い抵抗が返ってきた。
渋谷の音楽と笑い声に混じって、糸が布を擦るかすかな音が指先に伝わってくる。糸を引くたびに布地が締まり、傾いていたボタンが少しずつ元の位置へ収まっていった。
喜多川さんはウサギの頭を抱えたまま、視線だけをそわそわと宙へ泳がせていた。いつもなら話していても良さそうなのに、今は妙に大人しい。
「まりん、顔赤くない?」
「赤くないし! ハロウィンの渋谷が暑いだけだし!」
「十月の夜だけど」
「人が多いから暑いの!」
暑いと言いながら、喜多川さんの肩にはさっきから力が入ったままだ。生地を押さえる指に、知らず力を込めすぎたのかもしれない。
「すみません。押さえる力、強かったですか?」
「ごじょー君は何も悪くないから! マジで!」
「っ!? 喜多川さん──」
言い終えるなり、喜多川さんが勢いよく身を引こうとした。針が動きに合わせて衣装に引かれ、俺は反射的に喜多川さんの腰をぎゅっと押さえる。
「ひゃ──」
「まだ動かないでください。針が刺さったままなので」
「──は、はい」
押さえた手のひらへ、衣装越しの体温が伝わった。今度は俺の方が固まりそうになる。
待て。
落ち着け。
針を持ったまま煩悩に負けるな。
「おぉ〜」
「五条くん、大胆〜」
こら、茶化すな同級生ズ。
縫いかけのボタンへ視線を戻し、最後の一針を通す。今度は喜多川さんも、背筋を伸ばしたまま動かない。
俺は玉留めを作り、余分な糸を切る。ボタンを摘まんで軽く引くと、周りの布まで一緒についてきた。これなら、多少人とぶつかっても外れないだろう。
「お待たせしました。もう大丈夫ですよ」
「あ、ありがと、ごじょー君!」
「また外れてもすぐ直すので、遠慮なく言ってくださいね」
「はーい!」
喜多川さんが声を上げて笑う。
そのまま、縫い直したボタンへ指を添え、燕尾服の前合わせを軽く引いて確かめている。ボタンは元の位置から動かなかった。
それを見た喜多川さんが、もう一度嬉しそうに笑った。
はい、かわいい。異論は認めない。
喜多川さんが、俺が作った衣装を着て、俺が直したことで喜んでくれる。
青臭い感情だとは思うけど、幸せだ。
今の俺は、間違いなく人生の絶頂にいる。これから先、何があったとしてもこの瞬間を思い出せば三日は耐えられる気がする。できれば何も起きず、このまま幸せを更新し続けてほしいものだ。
プロットはあるので、書き終わるのをお待ちくだされ! とりあえず渋谷事変編だけで完結予定です。
死滅回游編はネタが固まれば書くかも、程度なので期待しないでくだされ。ナニトゾーナニトゾー。
なお、本二次創作は、厳密には着せ恋世界線と重なっている訳ではないです。なぜって? 着せ恋の原作キャラが酷い目に遭うの嫌じゃん!
正:五条 新菜→2:五条 若菜
正:喜多川海夢→2:喜多川海凛
正:菅谷 乃羽→2:菅谷 乃和
正:八尋 大空→2:八尋 大愛
正:山内 瑠音→2:山内 瑠寧
正:森田 健星→2:森田 健成
正:柏木 四季→2:柏木 志季