『着せ恋』だと思った? 残念『呪術廻戦』でした! 作:自分のことを五条新菜と信じている(文字数
扁平な身体を持つ大型呪霊が、《帳》の上がった街から大きく距離を取って夜空を旋回していた。翼はなく、鰭とも膜ともつかない器官を波打たせるたびに、エイに似た身体がゆっくりと高度を変える。
広い背には、羂索と真人。袈裟を肌寒い風に靡かせながら、その懐には閉じた《獄門疆》が納まっている。
眼下では、宿儺の呪力が地上を動き続けていた。
五条悟は、まだ来ない。地下トンネルに置いてきた足止めが機能しているのか、地上にある大きな呪力は一つだけ。一瞬でも足が鈍ればという考えではあったが、呪霊も、放置してきた呪詛師も、十二分に役割を全うしていた。
大型呪霊が回遊するうちに、進路に小さな影が一つ、また一つと浮かび上がってくる。渋谷各所に散らしていた監視用の低級呪霊。それらを回収していく。
地下五階にいた間、羂索の元に上がった異常は多くない。間近にいた五条悟に勘付かれることを避けるために、感覚共有は必要な時だけに絞っていたのだ。
五条悟の注意を漏瑚たちと一般人へ向け続け、《獄門疆》の存在を悟らせない。そのためにも、監視網への干渉は最低限に留めていた。
羂索は、その時に精査できなかったものを順番に、そして素早く整理していった。
◆
明治神宮前。
真人が来なかった時点で、一度確認している。改造人間の輸送が潰されたことも、その原因も、把握済みだった。
◆
渋谷駅。
短い間に、呪力出力が何度か大きく跳ねていた。戦闘があった証拠だ。
呪霊の記憶を辿る。
薄いベージュのスーツを着た男。その足元には、制服姿の若い女が二人倒れていた。男が二人の所持品から、細長い包みを拾い上げる。
羂索には、その封じ方に見覚えがあった。宿儺の指。それを美々子と菜々子が持っていた。そして、七海建人が回収した。
「驚いた。二人が持っていたんだね」
裏梅が虎杖悠仁に呑ませた指は、十本。一本の違いとはいえ、されど一本だ。
無論、その違いで宿儺が敗れるとは思えない。だが、使えたはずの可能性が、消えているのは確かだった。
◆
渋谷Cタワー。
嘱託式の基を破壊した後、伏黒恵と猪野琢真の反応は外周の《帳》に移っていた。その軌跡を辿る。
彼らは途中、重面春太と接触。補助監督を救助し、脅威を退ける。補助監督に致命的な損耗はなく、伏黒側にも大した消耗はない。逆に、強襲を受けた重面だけがババを引いた形だ。
重面の足取りに切り替える。そのまま外周を点々とするも、高専側の呪術師の妨害に遭い、そのたびに逃亡。当初与えた仕事──補助監督の間引きをこなせずにいる。
「……あれは、もういいか」
羂索にとって、わざわざ拾い直す価値はなかった。生きていようと死んでいようと、以降の計画に差し障りはない。
◆
そこから先は、羂索の把握しているとおりだった。
《獄門疆》は五条悟を捉え損ねた。明治神宮前駅に移動し、虎杖悠仁に指を取り込ませ、宿儺が目を覚ました。
そこまで確認したところで、羂索は回収した低級呪霊から意識を外した。
しばらくして、宿儺の進んだ先で一つの呪力が大きく膨らむ。五条悟ほどではない。しかし、見過ごせる規模でもなかった。
しかも、宿儺の呪力とほとんど同じ位置にある。何者かと衝突した。そう判断した直後、今度は別の方角で巨大な呪力が地上に浮かび上がった。
五条悟。判断自体は容易い。ならば、先ほど宿儺の傍で膨れ上がったのは誰のものか。
羂索は、その一帯に残していた低級呪霊へ意識を通した。視界が重なる。
壊れた街の中に、宿儺に対峙する形で数人の若者がいる。その先頭に、黒い髪に黒い目の少年。
少年の前で、宿儺の斬撃が止まる。少年が手を向けると、灼けるような光が瞬き、宿儺が吹き飛んだ。手を掲げれば、複数の歪みが連なり、上空へ攫っていく。そして、もう片方の手が上がる。二つの光が重なり、境界にどちらにも属さない色が滲む。
刹那、渋谷の夜空が爆ぜた。監視呪霊の視界が大きく揺れる。羂索の肉眼からも、夜空を広大に染める光が見えた。
「……なるほど」
《無限》。術式反転《赫》。術式順転《蒼》。そして、六眼の因果を調べる過程で名称だけは見た、虚式《茈》。
答えは、一つしかない。《無下限呪術》。
だが、五条悟はまだその場にいない。六眼は、同時に二人存在しない。ならば、少年は六眼を持たないまま、《無下限呪術》を行使したことになる。
普通なら、成立しない。だからこそ、記憶に引っかかった。
五条家の血。呪霊を介在させた受胎。長く繰り返した出生実験の中に、術式の兆候を確認できない段階で観察を打ち切った個体があった。
名前までは、出てこない。顔も、今の少年とは結びつかない。しかし、六眼を持たない《無下限呪術》使いというだけで、無視できなかった。
そして今夜、羂索の計画を先回りしている何者か。
偶然現れた存在として結びつける根拠はない。だが、調べる理由としては十分だった。可能なら、生きたまま残っていてほしい。そう思うものの、歴代最強の術師を前にして、それは些か高望みが過ぎるだろう。
だから、生き残れば後で調べればいい。
羂索の思考はそう締め括られた。
借りていた視界を閉じる。
「真人」
羂索は、すぐ後ろにいる真人に声をかけた。
計画は漏れ、五条悟は自由なまま。予定どおりに待つ意味は、もう薄れていた。
「ん?」
「疲れたかい?」
真人が瞬きをした。それから、自身の身体を見下ろす。
虎杖悠仁とは長く打ち合った。冥冥のカラスを躱し、最後にはとばっちりのように裏梅の《氷凝呪法》まで受けている。
「まあね。今日は結構働いたし」
「そう」
羂索は笑った。いつもと変わらない、穏やかな笑みだった。
今回原作と違うと判明したこと
①原作で「冥冥だな?」っつって強キャラ感だして(出してたかなぁ?)冥冥に瞬殺されてたあいつが、原作よりちょっと早く死んだ。
②虎杖が取り込んだ指の本数は累計十五本。ナナミンが一本回収してミミナナも生存ルート。
③重面は補助監督の間引きが失敗して切り捨てられた。
伏黒にブッ飛ばされたり真希とかにしばかれたりして奇跡を使い切って、この時点では死にはしないけど、メロンパンと合流したら口封じでたぶん殺される。と思って整理してる。
また、六眼のことを長らく調べていた関係で、羂索は虚式も一応知識として持ち合わせている想定。本作の独自設定ということで、ここはひとつ。