『着せ恋』だと思った? 残念『呪術廻戦』でした! 作:自分のことを五条新菜と信じている(文字数
二次創作をする上で、原作リスペクトはするべきで、私自身、原作至上主義の信奉者を自称しています(それでもハッピーエンド見てぇよ!ってとんでも原作改変考えちゃうけど)が、往々にしてあるように、ここからの展開は受け付けられる/受け付けられないが明確に出てくると思います。
もし合わない場合は、そっ閉じしてください。
某との約束でござる。
手解きは、《無限》の確認から始まった。
渋谷でも、着ぐるみのウサギ頭を使って、そのON/OFFは試していた。ただ、あの時は海凛さんたちを守ることが最優先で、対象ごとに細かく条件を変えるような検証まではしてない。
何を通して、何を止めるのか。五条悟は通して虎杖は止め、今度は二人とも通し、あるいは通さない。そこらへんに転がっている石や木の枝なんかも投げてもらって、飛来するものの速度や物体の性質、危険度の有無で選定基準を設け、停止させる位置も変える。
やってみれば、どれもできた。どうすればいいのか、考えるより先に身体が教えてくれる。渋谷で掴んだ感覚を頼りに、落ち着いて一つずつ確かめているだけだった。
「若菜君さ。これ、誰に教わったの?」
「誰に? ……あえて言うなら……五条さん、ですかね?」
「僕?」
「はい。教わった、っていうのとは違いますけど、五条さんがどんな術を使うのかは、術式が発現する前から知ってたので」
五条悟が黙った。
目隠しのせいで表情までは分からないけど、少し考えているようだった。
「ただ、知っているのはどういうものなのか、ってことだけです。《無限》なら停滞、《蒼》なら収束、《赫》なら発散。《茈》は、その収束と発散をぶつけて仮想の質量を生み出す。術式の組み立ては認識のあとから勝手についてくるので、感覚だけで操ってるのに近い──というか、ほぼ感覚です」
口にしてみれば、奇妙な話だと今更ながら思った。
術式で再現したいものは明白でも、そこに至るまでに何をしているのかを、俺はほとんど理解していない。《無下限呪術》を使っている時は天啓のように公式が舞い降りてくるのに、いざそれを言語化しようとするとその言葉を持たない。
ちょうどそれは、話を聞いて分かった気になっているような曖昧さに感じる。どこかもどかしく、でも「やったらできた」や「なんかそんな感じ」と割り切れるなら、「そんなものか」と納得できる程度のモヤモヤ感だった。
渋谷においては、この「やったらできた」があったからこそ、俺もみんなも生き残れた。だから術式に対する曖昧さは、必ずしも悪いことだけじゃない。
だけど、術式理解を深めておくこと自体は、日常的に《無下限呪術》を使うにしろ使わないにしろ、やっておいた方が良いのも確かだろう。飲み物をこぼした時とか、事故に遭いそうな時とか便利そうだ。
「へぇ……、感覚だけで使ってる人もいないことはないけど……。ウチの家入とかまさにそうだけど、あいつから反転術式の使い方、聞いたことないよね? 本当に何もわからないよ」
「家入さんですか? ……まぁ、そんな感じはしますね」
「お、わかってるじゃん」
五条悟がニヤリと笑う。
懐玉・玉折でも、家入さんは五条悟を反転術式のセンスがないと煽っておきながら、その説明がとんでもなく抽象的だったのは覚えている。
『ひゅーっとやってひょいっだよ、ひゅーひょいっ』だったか。それで分かればみんな苦労しないよな、という感想を抱いたのは、至極当然のものだろう。
俺でこそ呪力の癖みたいなものが二つあったからスムーズにできたけど、取っ掛かりがないなら同質の呪力同士を掛け合わせるっていうのは、水を二層に分けろと言っているようなものだと思う。水みたいに氷にすれば解決するわけでもないし、目に見えない自分の中のものだからこそ、なおのことハードルは高いのだろう。
「ま、若菜君がそのタイプだって言うなら特段おかしなことではないけど、六眼もなしにその域に達してるのは……正直信じがたい。話だけじゃ100%疑うね。今見てもマジ?って感じ。
──そんなところで脱線はさておき、できるのはそれだけ?」
「いえ。……あと、できるかも、ってのが一つあって」
「何?」
「り──」
領域展開。唇をその形にしようとしたところで、五条悟が手を上げた。
一瞬だけ、視線が隣を向く。
「それはあとで聞こっか」
「うん?」
「……あ」
そこにいる虎杖を見て、意味に気づいた。
虎杖に聞かれて困る話じゃない。でも、その内側にいる宿儺となると別だった。手の内を晒す必要はない、という五条悟なりの制止だった。
「分かりました」
「じゃ、気を取り直して、今日は逃げ方を覚えよっか」
「逃げ方?」
「そ。若菜君は呪術師になるつもりはないんでしょ? だったらまず、戦う方法より逃げる方法。自分が逃げられて、一緒にいる人も連れて逃げられて、そんでもって有事の際は他の人も連れて逃げてくれると、こっちが嬉しい、ってね?」
最後は冗談めかした言い方だったけれど、言われてみればその通りだった。逃げるという選択肢があるのなら、無理に戦う必要はない。
誰かを倒す力より、みんなを守るための力。そんな使い方を教えてくれるのなら、ありがたい話だった。
「じゃ、まずは《蒼》を使った高速移動から」
「……、あー……」
そうだ。その手があった。
五条悟がそうやって移動することは見ていたはずなのに、渋谷では《無限》でみんなを守ることばかり考えていた。《蒼》も改造人間を倒すためにしか使っていない。戦うだけでなく逃げるためにも術式は使える、ということが、すっかり頭から抜け落ちていた。
もっとも、思い出していたとしても、あの時すぐに試せたかは怪しい。《帳》が降り、自分に《無下限呪術》が使えると分かったばかりだった。海凛さんたちをまとめて連れていって、もし加減を間違えたら。そう考えると、怖くて踏み切れなかったと思う。あるいは、それも可能だと直感したのだろうか。
どちらにせよ、今のうちに使えるようになっておくことには意味がある。
俺が頷くと、五条悟は広場の端に立つ、一本の木を指差した。校舎から少し離れたここは、木立に囲まれた土の広場。指された木までの間には、何も遮るものがなかった。
「じゃ、あの木の手前まで行ってみよっか」
俺もそちらを見る。
幹から二歩、三歩手前の地面を目標にする。自分を飛ばすのではなく、そこに置いた《蒼》に自分を引かせる。
頭の中でそう置き換えると、やること自体はすぐに分かった。
◆
景色が一気に流れたかと思えば、目の前には幹が聳えていた。
姿勢をほとんど崩さずに移動できたものの、足を着いたのは狙った場所より少し手前だった。目視で指定した分、最初に定めた《蒼》の座標にズレがあったらしい。
振り返ると、虎杖が俺の方を示しながら五条悟に何か尋ねていた。五条悟は軽く肩をすくめ、笑いながら応じている。
二人のところへ戻るため、今度はその少し手前に座標を定める。次の瞬間には、狙いどおりの位置に立っていた。
「おー、早いね」
「もっと苦戦するかと思ってました」
「僕も。じゃ、今度は距離を変えてみよっか」
そうして何度か距離を変えて繰り返す。広場の端から端、時には数百メートルは離れた校舎の屋根の上まで。ただ、『校舎』とはいえ寺社を思わせる造りであるだけに、土足で上がるのは少し罰当たりな気もした。
そんなことを思いつつも、移動を重ねるうちに意識は自然と《蒼》の扱いに戻っていった。身体が引かれる感覚。加速する瞬間。着地する位置。目視だけに依らない座標指定。一度経験すると、次はどこを直せばいいのか何となく分かった。
最後には、校舎までの距離でも、狙った位置に狂わずに移動できるようになっていた。
「それじゃあ、次。一人逃げれても、一緒にいる人を置いてったら意味ないよね?」
「そうですね」
「というわけで、誰かを連れて逃げる練習」
五条悟の視線が虎杖に向く。
「悠仁、頼める?」
虎杖は一度こちらを見てから、小さく頷いた。
「俺でいいなら」
「じゃあ、お願い」
「おう」
俺は虎杖の肩に軽く手を置いた。まずは、最初に試した広場の木を目標にする。《無限》の内側に虎杖を入れたまま、木の手前に座標を定める。
移動はすんなり成功した。虎杖もすぐ隣に立っていて、姿勢を崩した様子もない。
「虎杖、どう?」
「ああ、平気」
そのまま元の位置に戻り、距離や方向を変えて何度か繰り返す。いずれも問題なく、狙った位置へ二人揃って移動できた。
「いいね。今度はまた、あの屋根の上まで行ってみようか」
五条悟が指差した方向には、先ほど一人で上がった校舎があった。
虎杖に目を向けると、向こうも頷いた。
「行くよ」
「頼んだ」
もう一度虎杖の肩に手を置き、屋根の一角に座標を定める。
身体が引かれた。広場の地面が遠ざかり、梢が眼下を抜け、瓦屋根が足元に迫る。瞬きする間もなく、硬い感触が足の裏に返ってきた。虎杖もいる。問題はなさそうだった。
肩から手を離し、五条悟のいる広場へ振り返る。木立の向こうに、その姿が小さく見えた。移動が一瞬だったからか、数百メートルも離れたという実感はあまりなかった。
無事に着いたことを知らせようと、片手を上げかけた──その時だった。
「──《──》」
ひどく場違いな言葉が、静かに俺の鼓膜を震わせた。