『着せ恋』だと思った? 残念『呪術廻戦』でした!(32話から書き直します) 作:自分のことを五条新菜と信じている(文字数
宿儺が視線を落とすのと虎杖が顔を上げるのは、ほとんど同時だった。
目が合う。膝をついた虎杖の視線が、若菜の顔に浮かぶ紋様に吸い寄せられた。
大きく見開かれた目が、揺れる。何かを言おうとして声が出ず、そのまま顔がくしゃりと歪んだ。
「いい面だな、小僧」
口の端が吊り上がった。
視線に乗るのは、路傍の石を見るかのような色合いだった。虎杖の肉体に、自らの受肉の足掛かり以上の意味を見出していない。そんな様がありありと見て取れる。
宿儺はあっさりと視線を切ると、その身の内に意識を向けた。
新しい肉体は、呪力の巡りが驚くほどに滑らかだった。一端の術師では辿り得ない境地にある。裏を返せば、一握の術師にのみ許された極地。六眼もなく《無下限呪術》を行使するとはこういうことなのかと、宿儺に想起させるに十分だった。
手足も虎杖に比べて長い。対五条悟を想定しても、近接戦の間合いに不足はなさそうだった。
右腕を掲げたところで、横手で瓦が軋んだ。
「やってくれたね、宿儺……!」
「フン、慢心したな。……まぁ、この小僧の警戒心の緩さが一役買ったのも事実だが」
五条悟は目隠しに手をかけ、引き下ろした。露わになった蒼い双眸に力が込められる。そこにいつもの軽薄さはなかった。
宿儺はその視線を真正面から受け止める。皮肉げに目を細め、若菜の顔に似つかわしくない笑みを浮かべた。
「この身ひとつ守る程度、貴様がいれば訳ないと思ったか? あるいは、そこの小僧の身体を過信したか。この俺が手を打たないわけがないだろう」
「……ああ、そうだろうね。素直に読み違えたよ」
「フッ……殊勝な心がけだな。貴様らしくないんじゃないか?」
「そっちこそやけに口が回るね。そんなに嬉しかった? ずいぶん子どもっぽいじゃない」
「そう吠えるな、愉快でならん」
鼻を鳴らした宿儺に、五条悟はそれ以上言葉を重ねなかった。
軽口を交わしたところで、若菜を奪われた事実は変わらない。その祖父に対しても、申し訳の立たない失態だと臍を噛んでいた。
五条悟は、《契闊》の存在も器を移す手口も、若菜から病室で聞いている。だからこそ、宿儺が狙うとされる伏黒恵はこの場から外していたし、虎杖のケアのために若菜を利用することになろうとも問題はないと考えていた。
高専という敵地、五条悟という最大の障壁がある状況を加味すれば、まさか器として未知数の若菜に対して賭けに出てくるとは思ってもいなかった。
ただ一点、宿儺と五条悟の間にあったのは、若菜本人に対する情報格差。それも素性や経歴といった人物としての背景ではなく、爆発的な成長の可能性について。
渋谷で若菜と実際に拳を交えた宿儺は、その肉体と術式を目の当たりにした。その際、素人同然の素養から一足飛びで呪術師としての上澄みにまで指をかけたことを、強く肌で感じている。自らにとって放置することの愚を、おそらく誰よりも正しく理解していた。
対して、五条悟が直接目にしたのは、実戦を経てすでに一定の完成度に達した姿であった。その常軌を逸した成長速度も、術式の高度さに反した経験の乏しさも、攻防を重ねるたびに変化していく肉体の適応力も、宿儺ほどには実感できていない。たとえ七海からハロウィンで初めて術式を自覚したと聞いたとしても、欠損まで治療する様を見てしまえば、生まれながらにその才を高い水準で備えていたと言われた方がよほど納得できるものだった。
宿儺自らが『記憶に値する』と評するほどに、その肉体を高く見積もっていたことを五条悟は知らなかった。
だが、今更その点を論じたとしても詮なきこと。
五条悟は、虎杖に指示を飛ばした。
「悠仁、ここから離れるようにみんなに知らせて。誰も近づかせないで」
「でも、そいつが……!」
「大丈夫、こっちは僕が引き受ける。すぐに若菜君は取り戻すよ。あと、手の方は硝子に見てもらって」
虎杖は一瞬ためらったが、血の流れる手を押さえ、屋根を駆けて姿を消した。
宿儺はその背中を追わなかった。気にする必要もないと、己から目を離さない存在に対して拳を構える。
足を引き、腰を落とす。拳の位置も重心の据わりも、何の違和感もなく決まった。初めて使う肉体だというのに、構えのどこにも無理がなかった。
「……悪くない……」
「こっちにとっちゃ最悪だけどね……!」
言うが早いか、五条悟が間合いを詰めた。若菜の胸元へ伸ばした手が、届く手前でピタリと止まる。宿儺も即座に拳を突き出したが、それも五条悟には届かなかった。
防ぐ素振りすら見せない二者の間で、低い唸り。互いの《無限》が互いの接触を阻んでいた。
そのまま数合。踏み込みが瓦を砕き、攻撃が交錯する。そのたびに鈍い音が重なり、互いに一歩も譲らず相手の行動を意に介さないまま攻め続けた。
その最中、再び五条悟の手が伸びる。
だが、今度はあの唸りが響かなかった。阻まれるはずの指先が、若菜の肩へ迫る。宿儺は反射的に間合いを外した。
「何かしたな……」
「さてね?」
五条悟は手応えを確かめるように手を握ると、不敵な笑みを顔に浮かべた。
《無下限呪術》の理解は、五条悟に一日の長がある。それは宿儺にとって認めざるを得ない事実だった。
しかし、宿儺本来の術式はまた別だった。同じ術式を使って、同じ土俵で競い合う必要はない。
もっとも、通常の《御廚子》の斬撃は《無限》を貫けない。そのことは渋谷での戦いで分かっていた。
ならば、何を斬るか。答えは、思考が行き着くよりも先に形を取り始めた。
目の前の五条悟ではない。五条悟が立っている、その場所。そこにある空間そのもの。
それだけではない。斬る対象を拡張するための呪力操作まで、次々と組み上がる。
《御廚子》を操っているのは間違いなく宿儺自らの意思だった。しかし、考えた覚えのない術式の組み立てが、まるで長年使い慣れた技のように馴染んでいく。
宿儺の目が、見開かれた。
『術式の組み立ては、認識のあとから勝手についてくる』。
つい先ほど、この身体の持ち主が口にしていた言葉が蘇る。
「クハッ、クハハハハハッ……! なるほど、そういうことか…! いやはや、まさかこれほどとはな!」
唐突に笑い出した宿儺に、五条悟は怪訝そうに首を傾げた。
宿儺は笑いを収めることなく、悠然と顎を上げる。
「ククッ、新しい器を得た祝いだ。貴様で試してやろう。……これで終わってくれるなよ、五条悟……!」
宿儺が両手を合わせた。
《伏魔御厨子》と同じ、閻魔天の掌印。
五条悟もすぐさま手を上げ、《無量空処》の印を結びかける。だが、六眼が捉えた呪力の動きは、渋谷で目撃した領域展開の構築とは異なっていた。むしろ、《解》のそれに近い。
宿儺の《御厨子》が、異様な精度で斬撃の成立に向けた操作を積み上げていく。その流れが、発動の寸前でほんの僅かに滞った──かと思えば、身体を覆っていた《無限》が瞬時に解かれた。
滞りが消えた瞬間、呪力の操作が一息に走る。
悪寒。
結びかけた印をほどき、五条悟は咄嗟に身を翻した。
「《解》」
五条悟の立っていた空間が、斜めに大きく断ち切られた。屋根に深い裂け目が走り、瓦と木組みが砕け散る。遅れて一角が崩れ落ち、轟音が辺りに響き渡った。
そのときには、五条悟はすでに残った屋根の上で宿儺に向き直っていた。
だが、足元の瓦に広がる、鮮やかな赤。
その肩口からは、夥しい血が流れ落ちていた。
ゲシュタルト崩壊起こして頭ぱーぷりんになってるから、次も時間かかりそう。
あと、なんか内容が微妙やけどとりあえずこれで。プロット考えてる時は楽しかったけど、なんか本文書く段になって筆がのらなんだ。