TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
病弱。
ゲームや漫画等の媒体を問わず恋愛をテーマとした作品において根強い人気を誇り、ヒロインに与えられる属性の中では妹や幼馴染に並ぶようなポピュラーなものであると言えるだろう。
少し赤くなった頬、生気が薄く白い肌、コホッ…コホッ…という乾いた咳、愁いを帯びた儚げな微笑み。
そのどれもが庇護欲を誘い、そんな境遇でありながら懸命に生きようとする姿とそれに寄り添う主人公との物語はどういった結末を迎えるにしろ涙を誘った。
俺はそんな病弱系ヒロインが好きだった。しかし、それはあくまでフィクションの中の存在だからであって、現実世界で病気に苦しんでる方達を見ても可愛いとか素敵なんて思わない。リアルとフィクションは別物だ、体が弱いというのは決して憧れるようなものではない。
そんなことは当然理解している。
だが、それでも、それでも何度も思ったことがある。
あぁ──病弱系ヒロインなりてぇなぁと。
「この子は……あまりに陰の気が濃すぎる……残念だが………」
「そんな……!」
今際の際までアホなことを考えながら天寿を全うしたと思ったら、赤ん坊になっていた。
その上になんか如何にも陰陽師ですみたいな人の話を聞いた母親らしき人が泣きだした件について。え?何?俺死ぬの? 転生?して直後に死ぬの!?
この如何にもな和風ファンタジー世界に転生して早数年。結論から先に言うと、死にませんでした。それどころか健康だった前世と同じく、何不自由することなく日常生活を送れている。
じゃあ出生直後の周りの反応はなんやねんと思う方もいるかもしれない、正直俺も思った。いや、普通に健康やないかいと。
そこら辺についてはこの世界で生活していく中で理解することが出来た。陰陽説というものがある。わかりやすく言うと万物は全て陽と陰という二つの気に分けられ、それら二つの気の働きによってこの世の事象は発生しているというアレである。白と黒の太極図なんかが有名だろうか。
俺の前世ではあくまで哲学や思想の一つと程度のものだったが、どうやらこの世界本当に気といったエネルギーがあるらしく、その気は陰と陽に分けられる。
陰は負のエネルギー、陽は正のエネルギーといえば分かりやすいだろうか。ただまあ陰だから駄目、陽だから良いというほど単純なものではなく。
ありとあらゆるものはそれぞれの気をバランスよく持っており、両方をちょうどよく持っている状態こそが自然であり正常というのがこの世界の考え方だ。
その気を使って前世でいうところの陰陽師のような術を使う人もおり、最初に見た時はビックリしたもんである。
当然のように火やら水やら妖やらが飛び出してくるのだから、前世でオタクカルチャーに触れていなければ慣れるまでさらに時間を要していたことだろう。
さて、ここまでつらつらと説明してきたが、俺がこの世界に生まれ変わった瞬間泣かれた理由はここにある。
俺は転生者だ。といってもチートとか神様に会ったとかではないので、普通の……普通の転生者って何なんだろうか……。
ともかく前世の記憶を持ち越して生まれたという以外に特別なところなんてない人間である。
だが、その前世の記憶というよりは死を経験した記憶が残っていることが影響しているのだろうが、俺の魂には死の気配がこれでもかとこびりついているらしく、それもあって陰の気がとんでもなく濃いらしい。
要するにこっちの世界的には棺桶に片足がずっぽり入った状態で生まれてきたのが俺というわけである。
ちなみに俺に長くないと言ってくれちゃった陰陽師風の人はほんとにそういった術の使い手であり、出産で消耗する妊婦さんを手助けするために呼ばれた人だったらしい。現代でいうところのお医者さん的な人だったわけだ。
そりゃあお母さん泣くよね、出産直後にお医者さんに残念ですが…なんて言われたら誰だって泣く。俺だって泣く。
とまあ、そんな感じでこの世界の常識的に見れば不治の病に苦しむ子供というのが今世での俺、
ちなみにしっかり美少女である。イェイ。
こんな感じでこの世界における自分の事情というものを理解して思ったことは一つ、これ病弱系ヒロイン(健康体)いけるくね?ということである。
今の俺は見る人が見れば、立っているのが不思議なほどに弱り切った少女に見えるらしい。要するに何をせずとも病弱系ヒロインオーラがムンムンに醸し出されているということである。
その上、色味の薄い白い髪と肌!影のある瞳!細く華奢な体!という儚げなヒロイン欲張りセットのような容姿や風貌をしているのも大きい。
正直、成長してから鏡の前に立った時、俺は内心でガッツポーズをしていた。
そう思い立ってからは早かった。
別に普通に動けるが、動くときは常に少しゆっくり動き!
別に何も苦しくないが、ことあるごとにコホ……コホ……とした咳を繰り返し!
別に寒気も何もないが、体を冷やさぬようにという体で年がら年中服を着こんだ!
いやぁ、もう快感でしたね。前世、画面や紙面の前で憧れた病弱系ヒロインムーブがこれでもかと出来るんだから。
当然、そのための努力は惜しんでいない、特に日焼け対策には気を使った。個人的な意見であるが、病弱系ヒロインの肌が小麦色とか台無しだからね!
前世でのスキンケア知識も総動員した日々の努力の結果、この健康的な病弱美肌は維持されているのである。
まあ、千歳なんて明らかに長生きを願った名をつけてくれた今世の両親には無駄な心配をかけてしまって申し訳ないとは思うが、その分は仕事の手伝いやらで親孝行をしているのでどうか許して欲しいと思う。お望みどおりに長生きもするしね!
「コホッ…コホッ…!」
「千歳!大丈夫か?!今日はもう……」
「いえ……大丈夫ですお父様。千歳は元気ですから…それに今日は調子がいいんです。ほら、こんな風に跳ねたりだって……コホッ……ゴホッ……!」
「千歳!千歳!?……なぜこんな優しい子がこんな目に……!」
(あぁ~~たまんねぇ~~~~~~!!俺今最高に病弱系ヒロインムーブしてるぅ!…これで相手がラブでコメれる主人公ポジの子だったら最高なんだけどにゃあ)