TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
同居。
恋愛物において主人公とヒロインが同じ屋根の下で生活をするというパターンはそれなりにある。例えば親が再婚したりだとか、どちらかの家が住めなくなってしまったからとか、親が家を空けるからとか、その他にも実に様々な理由で主人公とヒロインは同じ屋根の下で寝食を共にすることになる。多くの場合は互いにとって不本意な形から始まり、衝突を繰り返していく中で愛情を深め合っていくという流れが多いような気がする。
成年にしろ、未成年にしろ、血の繋がっていない異性との同居というのは大きなイベントであり、これが物語の発端という作品も少なくはない。それだけ誰かと一緒に住み始めるということは人にとって大きな出来事ということだろう。
病弱系ヒロイン好きとしては主人公と寄り添い合って暮らすというシチュエーションには少し憧れがあったりする。──共同生活の結果、阿吽の呼吸で互いのして欲しいことややりたいことが分かる的な空気感って良いよね……。
「あの子はどうなるのかしらね。咲良」
「千歳様……。ここ数日はそればかりではありませんか。度々、会いにもいかれていますし。件の少年のことを気に掛けられ過ぎでは?」
「そうかしら?」
「そうですよ。ともかくあの少年がどうなるかはご当主様がお決めになることです。私達が考えたところで仕方がありません。それよりも私は千歳様のお体の方が心配になります。あのような無茶もされて……」
「大丈夫よ。ただあの子に挨拶をしただけだもの」
「結果的にそうなったというだけで、いきなり屋敷に飛び込んでくるような狼藉者の前に出られたという事実が問題なのです!」
「あう…それはその……そうよね。ごめんなさい咲良。心配かけてしまって」
「千歳様が謝られるようなことでは……」
「だけど、どうも一目見た時から他人の気がしないのよあの子は。菖蒲先生のお話を聞いてからは余計にね」
「それは……」
あの自認運命の夜から数日。仮称主人公君の処遇はまだ決まっていない。まあ、当然といえば当然だろう。俺からすると千歳ちゃんと対を成すような存在という主人公適正バッチリな一日千秋の思いで待ち続けた待ち人だが、お父様やお母様からすればただの不法侵入者である。
現在はまだ子供ということやその尋常ではない様子、それに加えて俺からお願いしたこともあって一時的な保護という形で屋敷にとどめ置かれている。しかし、そうでないなら即お役所に御用されていたことだろう。場合によってはその場でどうこうされたっておかしくなかった。自分の家にいきなり飛び込んできた見ず知らずの人間に優しくしようとする人間など、時代や世界とか関係なくそうはいない。まして、ここは妖やら何やらが普通にいるような世界なのだ。警戒するなという方が無理というものだろう。
その上、主人公君が喋れないというのも不味かった。個人的にはこの白いキャンバスに主人公という存在を描くことができるのは興奮しかしないが、本人の立場を考えるとマイナスでしかない。何を聞いてもまともな答えが返ってこないのでは、どうこうもしようがないのだ。というか、あの反応を見るにこっちの言葉を理解できてるかも怪しいところだろう。……一体これまでどんな生活をしてきたのやら。
加えてあの陽の気である。千歳ちゃんの陰の気とは正反対のものであるが、同じく異常なまでに偏った気。陽の気とは正のエネルギー。正と聞くと別に多く持っていようと問題ないように思ってしまうが、そう簡単なものではないらしく。往診のついでに菖蒲先生が教えてくれたが、全身を活性化させる陽の気だけを多く持ちすぎると体が活発になり過ぎるのだそうだ。五感も含めてありとあらゆるものが際限なく活発になるので、全身が風に触れるだけでも痛い痛風顔負けの超敏感ボディになってしまうらしい。こーわい。
他にも代謝やらも良くなるので熱を持ちすぎる等々、過ぎたるは及ばざるがごとしという感じで陰の気と同じく多すぎると良いこと以上に害が多くなる。普通の人は同程度の陰の気を持っているので、それと打ち消し合う形でこんなことは起こらない。気を高めて術を使う陰陽師達の場合もそういった害が出ないように気を調節して術を使っているとのことだった。
そして先生は最後に『……千歳ちゃんも良く知ってるだろうけど、陰陽の気っていうのは互いに釣り合ってこそのもの。どちらか片方だけが大きすぎる歪な気は、持ち主の肉体や魂さえも傷つけてしまう。その子もきっと日常が地獄だったはずよ』とも言っていた。
今、主人公君は他人様の家の庭にいきなり飛び込んできたとは思えないほどに穏やかに過ごしている。暴れたりすることもなく与えられた部屋にいるし、俺が会いに行ったりすると向こうから寄ってきたりする。結構可愛い。
先生の言うところによればそれも千歳ちゃんの存在が影響しているのだろうとのことだった。陰の気に偏った千歳ちゃんと陽の気に偏った主人公君。互いが互いの気を打ち消しあったことで、一時的ではあるものの2人で和合を成すような形となり陽の気が抑え込まれているのだろうとのことだ。
何らかの要因で気がどちらかに偏った場合の治療法として、外部から対になる気を送り込み整えるのは一般的な方法だ。千歳ちゃんや主人公君ほど酷いと一次的に痛みや倦怠感を和らげる程度にしかならないが、それでも確かに効果はあるというのがこの世界での認識である。実際、俺も先生やお父様に気を整えて貰ったあとは身体が楽になるので正しい対処法なのだと思う。つまり根本的な治療法はないが、対処療法レベルならあるのだこの気の偏りという名の生来の病には。無論、あくまで一時凌ぎでしかないが、それでも楽になる手段があるのと無いのとでは天と地の差だ。
言葉が喋れないことに加えてあの風体、主人公君がまともな環境で育ってきたとはとても思えない。菖蒲先生の言葉の通りなら、主人公君は全身に激痛を抱えながらそんな環境の中で生きてきたということになる。
今でこそ千歳ちゃんという年端もいかない儚い病弱系美少女をやっている俺だが、前世では人より病弱系ヒロインが少し好きなだけの平凡な大人として生きた。そんな俺からするとやはり子供というのは健やかに育ってほしいと思うし、何とかまともな生活を送らせてあげたいとも思う。
その点で言えばお役所に行くというのは、そう悪い話ではない。仮に主人公君がお役所に連れていかれたとしよう。他人の家に無断で入り込んだのだ。当然、何のお咎めも無しにとはいかないだろうが、それでも彼の事情を考えればそうそう重い沙汰はくだされないだろう。この世界では生来の気の偏りは前世でいうところの珍しい難病のような扱いのため、その後はお国の管理下でそれなりの生活を送ることだってできるかもしれない。そう主人公君のことだけを考えれば、役所へと届けられるというのは決して悪い話ではないのだ。
しかし、しかーし!!!千歳ちゃんの主人公という前提があると話は別になる。主人公君は俺こと千歳ちゃんの主人公なのである。つまりは俺とラブでコメって貰わないといけない存在なのである。
病弱系ヒロインのウィークポイントとして、どうしたって行動範囲や活動量が限られるというものがある。体が悪い人間がそこら辺をフラフラしてたりすると違和感があるだろう?つまりはそういうことだ。それは当然、千歳ちゃんにも当てはまる。
病弱系ヒロインであればあるほど、どうしたってアクティブな行動はとり辛くなり受け身な存在にならざるを得ないのだ。そういった病弱系ヒロインのジレンマを解消し、ラブるためには相手が病弱系ヒロインを訪ねてくるなどの相手からのアクションが必要になってくる。そのためには当たり前だが、それ相応に相手からの好感度がないといけないわけだ。そんなもの数日前に初めて会った二人の間にあるだろうか?いやない。
無論、千歳ちゃんの方から訪ねていくという手がないわけではないが、病弱系ヒロインという看板を背負った以上はそう頻繁に会いにいくわけにもいかない。まあ、子供の頃に印象的な出会いをして、その後は離れ離れになるも再会して……というのもアリではある。だが、それはNTRのリスクを背負うことにもなるわけで、そもそも再会できるかどうかも不確定な以上あくまで最終手段としておきたい。
つまり!大人としても病弱系ヒロインとしても主人公君にはこの家に住んでもらい、千歳ちゃんと幸せな生活を送ってもらうのがベストということだ。そうすれば千歳ちゃんは幼馴染というヒロイン属性まで獲得することになる。更にはほとんど子供のような主人公君に言葉なんかも教えてしまったら、同年代ながらお母さん属性まで獲得することになるのだ。おいおい、千歳ちゃんは完全栄養食かよ。
やはり。主人公君とは同居ルートが最も確実であり、安牌……!
何より偶然お風呂で出会っちゃって……などの定番イベントも日常的に起こせるのも大きい。あーんイベントとかも回収しておきたいところだ。なんかもう、妄想が止まらねえな!!!こうなると是が非でもお父様には主人公君を引き取ってもらわないとな。うーんどうするか、……お父様は千歳ちゃんに甘いからなぁ。泣き落とせばいけるか?
(また何かを考え込んでおられる。ここ数日、毎日これだ。千歳様そんなにもあの少年のことが……。やはりあの時、見えた表情は見間違いではなく……)
待っていろよ主人公君!お前には園城寺家の人間になってもらうからな!!!
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書いてから確認は一応しているのですが、思った以上に報告が多くて俺って……となります。なった。
そして書けば書くほどこれで良いのかも分からなくなった……。
まあ、エタるよりはマシの精神で進んでいきたい。