TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
ヒロインの両親。
この立ち位置のキャラクターをどう扱うかというのは作品によって大きく異なる。そもそも登場しなかったり、名前だけの登場だったりするようなものもあれば、物語の根幹に関わるような存在として書く作品もあったりする。ここら辺は作品のジャンルやその作品で何を書きたいかで変わってくると言えるだろう。
しっかりとした出番が与えられた場合も主人公達を導いたりする立派な大人として書かれることもあれば、その逆に主人公達を追い詰める悪役として書かれることもある。読者達の多くが共感しやすく、主人公やヒロインにとって最も身近な存在ということもあり、実に様々な役割で登場してくるのが両親という存在だ。
特に病弱という属性上、どうしても外の世界との繋がりが薄くなりがちな病弱系ヒロインにとっては大きな存在として扱われることが多いように感じる。父や母もしくはその代わりとなっているようなキャラとヒロインの関係は一概に言えるものではないが、表面上の関係はどうあれ多くの場合は心の底では互いのことを思いあっていることが多いだろう。というか、病弱な上に親からも冷遇されてるとか見ていて辛くなるので勘弁である。……まあ、それはそれで興奮するというのは否定しない。その後にちゃんと主人公に救われてハッピーエンド的な展開があればだけども。
ともかく、どうしても行動範囲や人間関係が狭くなりがちな病弱系ヒロインにとって親という存在は非常に重要であると言えるだろう。まあ、つまり何が言いたいかというと──娘を思う親の姿って美しいよねということだ。
◇◇◇
「ふぅ……」
園城寺家のとある一室にて男が一人溜息を零す。短く整えられた髪に少し白髪が混ざり始めているところを見るに、年としては四十路を超えたあたりだろう。しかし、そのような年齢に反しその肉体は内側から衣服を圧し、はち切れんばかりの有様であった。座っていながらもその視点は高く、立ち上がった時の身の丈は十二分に巨躯と呼べるほどのものであることが察せられる。
この巌の如き肉体を持つ男の名は
平時であればその肉体に似つかわしい剛毅果断、明朗快活という言葉がよく似合う好漢であるが、眉間にしわを寄せ、深いため息を何度も零す姿からはそんな姿を思い描くことは難しいだろう。深く悩んでいるのだろう、心なしかその身体さえも縮こまっているように見える。そうして何度目かのため息を零そうとした清嗣の傍らに近づく女が一人。
端的に言えば楚々とした女である。豪快という清嗣の体とは正反対の細作りの体躯。すらりとした手足は長く、夜の闇の中でその白い肌が映えていた。しかし、病的というわけではなく、その白さの中にはどこか温かみが感じられる。だが、何よりもその女の風体で目を引くのはその髪であろう。裾に届くほどに長く、よく手入れをされているのだろうことがただ歩く姿を見るだけで分かる黒髪。その黒もただの黒ではなく、宵闇のように深く、鮮やかな黒であった。そんな髪をなびかせながら女は清嗣にしずしずと近づくと、当然のようにその隣に腰を下ろした。
この艶やかな髪を持つ女の名は
「お前様。まだ悩んでおられるのですか?」
「うむ……」
「お前様らしくもない、良いではありませんか。人を一人迎え入れたところでどうにかなるほど貴方の園城寺家は小さく弱い家ではないでしょう?」
「それはそうだが……あの子はただの人でなかろう」
「そうでしょうか」
「そうだろう。口も利けぬ、こちらの言葉も分からぬ、その上あの陽の気だ。只人として扱うというのは色々と無理がある」
「口が利けぬというなら、言葉がわからぬというなら、私達が教えてあげれば良いだけではありませんか。まして、あの子の宿痾を考えれば、親兄弟からそんなことも教えて貰えなかったであろうことは想像に難くありません。教えて貰えなかったことが出来ないなんて、人として当たり前ではありませんか?」
「それはそうだが⋯⋯。しかし⋯⋯」
「⋯⋯気の偏りというものを気になされるお気持ちもわかります。実際、この家に入って来てすぐの様子を聞くに怪異へと成りかけていたことも間違いではないでしょう。そうでなくともあれはただ生きるだけでも難儀するものですからね」
「そうだ。ならばこそ──」
「ですが、だからこそ私達はあの子を気の偏りだけを理由として忌避してはならぬはずです。私達には千歳がいるのですから」
「⋯⋯うむ」
「あの子が乱暴狼藉を働くような輩ならば、私もこのように口を挟もうとは思いません。しかし、あの子はただの子供です。体だけは育っていますが、人のことを何も知らぬ赤子です。私はどうにもあの子を役所にただ連れていくことが、良いことだとは思えないのです」
「……」
「手前勝手な考えばかりで申し訳ありません。しかし、私は母親という存在なのです。この言葉はそれゆえのことと思っていただければ」
長い黒髪がはらりと下がり、床の上に広がっていく。來歳の頭が下がる。頭を地につかんばかりに下げてものを頼む、それは子を思う親の姿であった。
「……千歳と同じことをするのだな」
「親子ですので」
「……」
「そもそも常のお前様ならば侵入者など即刻役所へと突き出されているでしょう。こうして悩んでいる時点で答えはもう出ているのでは?」
「まるで俺のことなどお見通しのような口ぶりだ」
「夫婦ですので」
「……お前にはやはり敵わんな」
「あら?勝負などしたこともありませんよ?」
「……本当に敵わん」
下げていた頭を夫である清嗣の肩に乗せ、しな垂れかかるような姿勢となって來歳は続ける。
「他人の子とはいえあのようになっている幼子を見過ごせぬというのは本心です。けれど、これは千歳のことを思ってのことでもあります。初めてではありませんか、あの子が私達に何かを乞うことなど」
「そうだな。俺も驚いた。あの子を家で引き取ってくれと千歳が頼んできた時はな」
「陰と陽とは表裏一体。千歳があの子の陽の気を抑えたように、その逆もまた然り。何か感じるものがあったのやもしれませんね。あの子がそんな我儘を言うほどには」
「……千歳はあれから毎日欠かさず、あの少年に会いに行っているのだったな」
「会いに行くどころか言葉や文字を教える手習いの真似事までしていますよ。その時のことを私に毎日話しに来る有様で、それはもう楽しそうに話してくれています」
「そうか……」
「お前様の心配も分かります。しかし、千歳とあの少年がこうして出会ったことは何かの運命のように私には感じられるのです。陽と陰、互いに足りぬものを補い合えれば、あの子達の未来はより良いものになるやもしれません。菖蒲先生もそのように言っておられたではありませんか」
「……」
「何より千歳がああも笑っているのです。私はあの笑顔を守ってあげたい。私達はあの子の親ではありませんか」
続く言葉はなく。部屋には沈黙が響く。見つめる妻と見つめられる夫。我慢比べのような様相を呈したこの状況は夫が口を開くことで終了した。
「それを言われてはどうしようもないな……」
「それでは」
「あぁ。あの子を園城寺家に迎え入れよう。咲良と同じく側仕え……いや護衛という名目にするか。側に長くいられる立場の方が千歳も喜ぼう」
「ふふっ、そうですね。そうと決まれば服や食器を用意しないといけませんし、衛嗣の小さな頃のものが使えるかしら?あぁ、あとは名前も考えてあげないと」
「随分と楽しそうだな來歳」
「それはもう。可愛い子供が一人増えるのです。喜ばぬ母親がいましょうや」
そう微笑む顔は娘と同じく、実に可愛いらしいものであった。
(……それにしても我が家の男達はなぜ千歳が関わるとこうも鈍感になるのか。あの顔を見れば凡そのことは分かるでしょうに。頑張りなさい千歳、母は応援していますよ!……小豆粥とか炊いておくべきかしら?)
そして娘と同じく、結構恋愛脳であった。
◇◇◇
園城寺家、与えられた一室で過ごしていた少年の耳をここ数日で聞き慣れた音が叩く。少年が気づいてから数秒の後、現れたのは少年が思った通りの少女である。しかし、その様子は普段とは異なる。頬は紅潮し、息は切れ、苦しそうに顔は歪み、それでも顔に浮かぶ笑顔は少年の魂に刻まれたあの夜と同じく雪の花のように儚く可憐なものであった。
「貴方は…コホッ……。ゲホッ……これから、私と住む……コホ、ゲホッ!」
「千歳様!?」
「大丈夫よ咲良。その……少しはしゃぎ過ぎちゃっただけよ。ほら、血とかは出ていないでしょう?」
「そういう話ではありません!?とりあえずお部屋の中へ廊下は冷えますから!」
「そうね。この子の体が冷えてしまうもの」
「千歳様のことです。私が心配しているのは!」
少年には二人の少女が何を言い合っているのか分からない、それでも少年は笑う。
「これからよろしくね」
少女の笑みにつられるように少年は笑う。それが何を意味するのか、それを少年が知るのはまだ先のことであった。
いつもお気に入り登録と感想、評価本当にありがとうございます。
恥ずかしながら、ここまで反響をいただいたことがないものでいつもニヤニヤしながら観させていただいております。
今回もここまで読んでくださりありがとうございました。少しでも楽しんでくだされば幸いです。
※今回も副音声は切っています
こんな感じで千歳ちゃんパートとちゃんとしたパートを分けて今まで投下してきたけれど、一話でオチまで付けたほうが皆さん入り込みやすいのだろうか?
それと一発ネタで書いてたからここまで毎度千歳ちゃんの謎のこだわりを冒頭に乗せているのだが、あれは凄く邪魔になっていないだろうかと心配になるぜ……!
それとここから先は別に読まなくていいです
園城寺 清嗣
千歳ちゃんのお父様にして被害者その4。園城寺家の頂点に君臨するとっても強い人。
お兄ちゃんと同じく恵体の持ち主であり、千歳ちゃんと並んでも中々親子と思ってもらえないのが目下の悩み。
妖への供物にされそうになっていたところを助けたのが奥さんとの馴れ初め。その体躯に似合わぬ強さの持ち主であり、腕がちぎれた位なら平気で繋ぎ直してそのままぶん殴ってくる。
千歳ちゃんのことを溺愛しており、目に入れても痛くない程可愛がっている
千歳ちゃんは一回くらい土下座した方が良いと思う。
園城寺 來歳
千歳ちゃんのお母様にして被害者その5。旦那さん大好きな園城寺家の奥様。
旦那とは似つかわしくない楚々としたお淑やかそうな美人さんであり、千歳ちゃんは思いっ切りお母さんと似ている。過去に色々あって百鬼夜行への供物として捧げられそうになったが、そこを今の旦那に救われてからはもう完全に惚れ込んでいる。その後もなんやかんやあったが、見事に清嗣さんをハンティングし夫婦となった。
血をもってその地位を担保する貴族と違い、陰陽の術をもってその地位を保持する陰陽師の家系は技術さえあれば比較的結婚というものにも自由が効く。
それもあってこの時代には珍しく完全な恋愛結婚で結ばれたため、千歳ちゃんにも好きな相手と幸せになって欲しいと願っている。
そのため少年とのラブコメに対してはバックアップする気満々だったりする。
母親として愛情にあふれた人物であり、少年に対してもとても優しく接してくれている聖女。
千歳ちゃんは五体投地して謝ったほうが良いと思う。