TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!!   作:燕目

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ラブコメでヒロインそっちのけにして男キャラ同士で馬鹿やるのって良いよね……

 

 男キャラ同士の絡み。

 

 恋愛という題材をメインに扱っている以上、物語の軸は主人公とヒロインになることはどうしても避けられない。そのため基本的にはどの作品でも主人公とヒロインの絡みというのがメインストーリーとして扱われる。そうでなくとも可愛い女の子との絡みを書く方が受けが良いことが多いので、男キャラというのは恋愛というものをメインに置いた作品においては少し影が薄くなりがちな傾向にある。

 無論、出番が皆無というわけではなく。ヒロインからの好感度を教えてくれる古き良き親友キャラに代表されるように物語の進行を助ける役割を与えられたり、ヒロインを巡って争う恋のライバル的な役割を与えられることだってある。あくまで女キャラと比べてメインに据えられることが少なく、相対的に影が薄くなりがちというだけで恋愛を主題とした作品に限っても魅力的かつ出番が多い男キャラというものは数多く存在するのだ。

 作品によっては主人公と男キャラとの絡みが面白く、熱く、余りに感動的だったこともあり、男キャラが人気投票で一位を搔っ攫ったりしたなんてことさえある。実際、同性だからこそ表現できるノリというものは確かに存在しており、男キャラという存在は主人公を魅力的に描くために実に頼りになる存在であると言えるだろう。どうしてもヒロインとの絡みだけだと一本調子になっちゃって中だるみしてしまう時もあるしね!

 

 まあ、病弱系ヒロインスキーの前にラブコメひいては恋愛物スキーな俺が言いたいのはだ──主人公と男キャラ同士の気の置けないアホでバカでくだらないやり取りって良いよね……ということである。ああいうノリってヒロインとの絡みとはまた別の栄養が取れるから俺はとても好きだ。それを病弱系ヒロインが羨ましそうにしてるシーンとかあったら白ご飯が三杯はいける。その後に病弱系ヒロインのために頑張る主人公に協力するシーンとかあったら泣く。泣いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あつい……」

 

「千歳様。お体の方は如何ですか?」

 

「大丈夫よ。ただ陽至が近いだけあって流石に暑いわね」

 

 千陽君がうちに来て早数か月。すっかり我が園城寺家の一員となった中で季節はいよいよ夏の盛りへと差し掛かろうとしている。ちなみにこの世界では季節も陰陽で区分されており、春と夏は陽、秋と冬は陰が盛んになるとされている。あとは暦として前世でいうところの夏至もあるのだが、陽の気が最も高まる日という意味で陽至とも呼ばれていたりする。逆に冬至は陰の気が最も高まる日で陰至である。シンプルと言うか、それだけ陰陽の気という存在がこの世界の習俗に深く関わっているという証拠のようにも思えてくる。

 

「すぐにお水をお持ちいたします。それとお召し物も交換して、汗も拭っておきましょう」

 

「ふふっ、ありがとう咲良。けれど、ただの水よりは何か冷たいものの方が嬉しいのだけど」

 

「駄目です。春夏養陽、秋冬養陰という言葉もあるように夏だからと言って体を冷やし過ぎれば、逆にお体を悪くしてしまいます。春夏は陽の気が高まる季節であり、それに対し陰の気を高め調和をとることも大切です。しかし、それも度が過ぎれば害となりましょう。まして千歳様のお体なら尚更です」

 

「分ってはいるのだけど…最近は体の調子も良いし……」

 

「だからこそです。千歳様にとっては陽の気が高まるこの季節は自然と陰の気が減じ元来過ごしやすいもの、なればこそ今から秋冬に向けて体を整えていかねばならないのです。先生からもそのように口を酸っぱくして言われていたではありませんか」

 

「むぅ……」

 

「……そんな顔をされても駄目です」

 

「…………はぁ。分かったわ咲良。今日は氷菓は我慢します」

 

「ありがとうございます。そして差し出がましいことを申し上げました。申し訳ありません」

 

「謝らないで、咲良が私のことを一番に考えてくれてるのは知っているもの。ただ、私としては自分のことをもう少し慮ってあげて欲しいのだけど。いつもそんなに畏まって、疲れとか出てない?」

 

「問題ありません。私は千歳様の侍従ですので」

 

「私の侍従って立場は夏の暑さを無効化するような便利なものだったかしら……?」

 

 そんな軽口を叩き合いながらも咲良ちゃんはテキパキと手拭いを絞り、千歳ちゃんの汗ばんだ肌を拭ってくれる。それにしても障子を通して降り注ぐ陽光の中、咲良ちゃんにされるがままの千歳ちゃんという構図の何と美麗なことだろう。この蒸し暑さを吹き飛ばす、一服の清涼剤のような気さえしてくる。何度見ても飽きがこないし、何より看病されるシチュエーションというのは言わば病弱系ヒロインにとってはホームグラウンドのようなものである。端的に言って千歳ちゃんが可愛すぎて辛い……!

 まあ、この体ほとんど汗なんてかけないし、体温も低いからそこまで必要ないんだけどね!鎮静や停滞、不活発等々が本領たる陰の気がベッタリな以上、その中心たる千歳ちゃんの体の代謝やらなにやらは壊滅状態なわけで、それで部屋で大人しくしてるのだから汗なんてそうそうかかないのである。おかげで体温調節とかこの体超下手糞なんだよねぇ。まあ、陰の気を調節して陽の気を送り込んでもらえれば問題ないから全然いいんだけど。むしろ、生育不良等々含めて真に迫った病弱系ヒロインムーブが出来るので助かっていたりする。ほら、今も咲良ちゃんが心配してくれているよ!可愛いね!!!

 

「……千歳様、万事終了いたしました」

 

「ありがとう咲良」

 

「いえ……それが私の役目ですので」

 

「それでもよ。咲良にはいつも助けられてばっかりだもの。ありがとう位しか言えなくて申し訳ないのはこっちだわ」

 

「そのようなお言葉をいただけるだけで私は十分です。それではお水を取ってまいります」

 

「お願いね。そういえば千陽が少し前から見当たらないのだけど、咲良は知らない?」

 

「先ほど衛嗣様に連れられて道場の方へと向かっているのを見かけましたが」

 

「……兄様はまた来られているの?」

 

「はい、本日も来られています」

 

「また千陽を連れて道場に行ったの?」

 

「はい、いかれました」

 

「これってまたよね?」

 

「はい、またかと」

 

「…………咲良!」

 

「承知いたしました」

 

 さっすが敏腕侍従咲良ちゃん、千歳ちゃんとは以心伝心である。そして兄様ぁ!またですか兄様ぁ!最近ずっとそれですね兄様ぁ!!!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 園城寺家、その敷地の隅に建てられた訓練用の道場に二つの影があった。一つは未だ小さく少年と呼ぶに差支えがないものである。もう一つは少年とは対照的に大きく、太く完成された大人と呼ぶにふさわしい男のものであった。文字通り大人と子供である。聞くだけでも見るだけでも戦力差は歴然であろう。しかし、それは──少年が尋常の存在であればの話だが。

 まるで獣のような低い姿勢を取った少年の姿が消える。道場が震えるほどの踏み込み、幾分弱まったとはいえ過剰な陽の気によって強化された身体、その剛脚が軽い少年の体も相まって人の目では到底追いきれぬ速度を実現させた。彼我の間にあった間合いが一瞬にして塗りつぶされていく。男は未だ身じろぎもしていない、少年が手にした木剣を振り上げる。あまりにも直線的な動き、虚実も何もないただ振り上げ、振り下ろすという分かり切った動作。だが、それも人外の速度を伴えば必殺の一撃足りえる。振り下ろされた木剣は必然、男を打ち据えるだろう。しかし、それは──男が並みの存在であればの話である。

 

「ふんっ!」

 

「!?」

 

 後の先。一体それは如何なる道理か、後に振るわれたはずの男の木剣が先に振り上げていたはずの少年を叩き落とした。あまりにも不可解な状況、しかしそれを成しえた男の顔に達成感も驚きもない。男にとってはこの程度のこと出来て当然なのだろう。息を整えることもなく、男は倒れ伏した少年の前に立った。

 

「速度は良し、それについていけている反射も眼も良いだろう。しかし、何度も言うが動きが直線的すぎる。あれでは斬れと言っているようなものだ。これでは千歳を守れんぞ千陽」

 

「!」

 

「うむ。その意気や良し、それではもう一手」

 

 再び木剣を構える両者。少年が再度、男の間合いへと突貫しようとするその刹那。向かい合う二人にとって決して無視できぬ者の声が道場に響く。

 

「兄様?」

 

 2人が愛してやまぬ者の声である。しかし、その声は平生とは明らかに異なっていた。具体的に言えば。

 

「何をしてらっしゃるのですか?」

 

 明らかに怒っていた。

 

「訓練だが?」

 

「だが?ではありません!前も言いましたが、千陽はまだまだ幼いのです。こんな木剣で直接なんて危ないことはおやめください!」

 

「大丈夫だ。ちゃんと怪我をしないように加減はしているし、万が一怪我をしても治りやすいところをちゃんと狙って打ち込んでいる」

 

「そういう話ではなくてですね。最近、兄様が千陽を構い過ぎて私との時間がその…………兄様の馬鹿」

 

「グハァ!!!」

 

 先ほどまでの威容はどこへやら。男──園城寺衛嗣はあっさりと妹によってその身を地に伏すことになるのだった。

 

「そ、そうだ千歳!今日はお土産に氷菓子を持ってきているぞ!」

 

「まぁ!…………咲良ぁ」

 

「……はぁ。少しだけならば」

 

「ありがとう咲良!千陽も早く、兄様なんてほって三人で食べてしまいましょう」

 

「ウボァ!」

 

 哀れ。ご機嫌取りも虚しく園城寺衛嗣は二度散るのであった。

 

「ほら、千陽」

 

「………」

 

 木剣を握りしめていた少年の手を今度は白い少女が包む。白く、柔らかく、冷たく、そして小さな手である。少年の心に未だ少年では何と表せばいいか分からない温かさが溢れてくる。その温かさで心を満たしながら、少年はその手をただ見つめ、そして優しく包み返していた。それを知る者がいれば少年に教えたことだろう。それは慈しみというものなのだと。

 

 盛夏に向かう日差しの中、少年少女は並んでキラキラと輝く氷の塊を口に運んでいく。これは夏の記憶。大切な大切な少年の夏の記憶。

 

 

「ん」

 

「千陽、お兄様に情けは要らないわ」

 

「ガハァ!」

 

(弟のような存在が出来て嬉しいのは分かりますが、あれではこうなるというものですよ。衛嗣様)

 

 余談ではあるがこのあとちゃんと一緒に食べた。まあ、千陽君とではあるが。

 

 

 

 




あと秋と冬やって出会って一年でなんかええ感じに序章は締めだぜ!

このノベルゲー副音声五月蠅いし、プロローグ長くね?

そしていつも評価、感想、お気に入りありがとうございます!

これからも付き合ってやってもいいかと思ってもらえるように頑張りますのでよろしくお願いいたします!


ここからは読まなくていいです


園城寺衛嗣 その2

 シスコンにしてブラコンに最近進化した地味に人気ある気がする兄様。千陽君が来てから千歳ちゃんがより明るくなったこともあって、千陽君にはとても感謝しており素直な態度も相まって可愛がっている。本人としては善意百パーセントで身を守る術を教えているのだが、如何せん思考がやや蛮族よりなところがあるので絵面が結構アウトになるという悲しきシスコン&ブラコンモンスター。
 市場などにも千陽君を連れて出かけることもあり、一番千陽君とデートをしているのはこの人である。意外かもしれないが結構な天然さんである。実に意外だなぁ!


千陽君

 こうして一年かけて誑し込まれる真っ最中の男の子。可哀そう。
 ちなみにこれに近しいことを咲良ちゃん相手にもやっていたりするが、それは千歳ちゃんと咲良ちゃんだけの秘密なので日の目を浴びることはないだろう。……そんなことまで書いてたらダレるに決まっているのでそういう意味でも日の目を浴びることはないだろう。


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