TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
プレゼント。
日本語でいうところの贈り物であり、人生の節目のお祝いから日常のほんの些細なものまで実に広い場面で使用される言葉である。当然その中には男女の情に関わる場面もあり、そのため恋愛というものがストーリーの軸になる漫画やアニメ、ゲームにおいてはプレゼントが話の中心となることも珍しくはない。例えば相手に何を贈る主人公やヒロインが悩んだり、贈ったもので一悶着起こってしまったり等々である。また、過去においてヒロインから主人公へ、または主人公からヒロインに贈られたものがストーリーにおいてとても重要なキーアイテムとなるという展開も多い。相手に何かを贈るという行為は良くも悪くも相手へ何かしらの感情や関係がないと行わないものであり、そのような点が多くの恋愛物の作品において大きく扱われる理由なのだろう。時事ネタや定番ネタと絡めて使いやすいというのもあるしね!
何かを贈るという行為は大小の差こそあれど特別なことであり、必然として物語の中においても何某かの意味を与えられる。それは例えば人生を変えてしまうような大それたものであったり、逆にそんな大したものではなく贈られた人を少し笑顔にするだけのほんの些細なものであったりもする。ただ確かなことは贈り物というのはヒロインや主人公にとって喜ばしいものであると言うことだろう。
つまるところ──病弱系ヒロインが主人公から贈られたキーホルダーとかストラップみたいな人から見たら安っぽくて、大したものに見えないものを大きな手術前とかにギュって握りしめたりする展開って良いよね……と言うことである。逆にヒロインから贈られたものが主人公にとってお守りになる展開とかも超好き。それを握りしめながらボロボロの体を奮い立たせて立ち上がるシーンとかあったら超々大好き。
「わぁ~!咲良!咲良!あれは何かしら!?」
「千歳様はしゃぎたくなる気持ちも分かりますが、もう少し落ち着いてください。市は人も多いのですから」
「それは分かっているのだけど。でも、ようやく来れたものだから。つい……」
「……焦らずとも店は逃げませんから、ゆっくり見て回りましょう。当主様からお小遣いもいただいていますし」
夏の盛りも過ぎ季節はいよいよ秋。あともう少しすれば千陽君が園城寺家に来て、早一年というところまで来てしまった。いやー充実していると時が流れるのは実に速いものだなぁと感慨深くなる。そんな病弱系メインヒロインとして日々邁進している千歳ちゃんだが、今日は何とお屋敷ではなく街で開かれている市に来ている。そう、何と市に来ているのである……!
いやーここまで長かった。お父様もお母様もほんっとうに中々外出許可を出してくれなかったし。まあ、気持ちは分かるんだけどね。千歳ちゃんは前世で言えば先天性の難病持ち、それも対症療法のようなものはあれど根治治療は不可能な類いのそれである。そりゃあ親の立場からしたら軽々と出かけておいでとか言えるものじゃないよねという話だ。誰だってこんな可愛い病弱系ヒロインな娘がいたら過保護になるだろうというものである。病弱系ヒロインムーブが完璧すぎた故に起きたアクシデントと言えるだろう。まあ、別に外に出なくても生活には困らんのでそこまで重大なものでもなかった。
ただ千陽君という運命の相手も見つかったことだし、そろそろ一緒に出掛けたいなーという思いもあって今回のお出かけ決行というわけである。まあ、千歳ちゃんがそれなりに成長したことや咲良ちゃんの存在、対となる千陽君の存在による健康状態の改善という手札をもってしてもお父様は中々首を縦に振ってくれなかったのだが。そこはお母様からの援護射撃によって何とかなった。流石は園城寺家で一番強い人である。家の中では誰も勝てんのよね、お母様には。それでもお目付け役として自分の式神を張り付けてくるんだから、お父様も本当に過保護と言うかなんというかである。
ちなみに和風ファンタジーの定番である式神はこの世界にも存在している。大きく分けると術者が一から作り出すタイプと妖を使役し式神とするタイプがあるらしい。ちなみに今回、千歳ちゃん達につけられているのは後者である。なんでも墓場から死体を奪い去る火車という妖らしいが、悪さをしていたところをお父様が若い頃にボコボコにして調伏したらしい。以来、移動するのに便利だからという理由で度々こき使われて今に至るというわけだ。……兄様といいなんでこう出てくる逸話がちょいちょいバイオレンスなのだろうか。
それにしても千陽君が来てくれたおかげで、体が少し良くなりました的なムーブをしても不自然じゃないのがとても助かる。こういうところ含めて本当に運命の相手だと思う。
あぁ、それにしても見たことないものを見て目をキラキラさせてる千歳ちゃん可愛い。やっぱり病弱系ヒロインの魅力の一つってこういうふとした時に見せる普段の儚げな表情とのギャップだと思う。可愛い。そしてそれを嬉しそうに見る咲良ちゃんも可愛い。なんだこの二人尊いな?
「そうね。時間もあるのだし、咲良の言うとおりゆっくり見て回りましょうか。はしゃぎ過ぎて体調を崩して咲良や千陽に迷惑をかけるわけにはいかないものね」
「千歳様のお側について数年経ちますが、千歳様のされたことで迷惑などと思ったことは一度としてありません」
「もぉ……ありがとね咲良。それにしても千陽はどこに行ったのかしら?まさかはしゃぎ過ぎて迷子になったり!?」
「あぁ、千陽ならばあそこで市の人達に可愛がられています」
「……なぜに?」
「先ほどから漏れ聞こえてくる話や以前に衛嗣様からお聞きした話を纏めると、衛嗣様と二人で市に遊びに来た時に捕り物をしたようですね。それもあって市の人達に可愛がられているようです。そもそも千陽はよく衛嗣様に連れられて遊びに来ているようですから、顔を覚えられているのでしょう」
「やっぱり原因は兄様なのね……!」
そう今日は千陽君との初デート!でもあるのである!捨てられた少年とそれを掬い上げた少女、出会って数か月を共に過ごし仲を深めた二人が一緒に初めて出掛ける。人と関わってこなかった少年は少女に手を引かれ、これまでの人生で触れてこなかったものに触れていく的な展開になるはずだった。そうなるはずだった……!あの兄様にこの数か月で全部掻っ攫われてなければなぁ!!!
そりゃあね、千歳ちゃんと違って千陽君の体は丈夫ですよ。そもそも各機能が活発になり過ぎて、元気になり過ぎるのが陽の気の弊害なのだ。その権化たる千陽君の体は言うまでもなく強靭だろう。千歳ちゃんの陰の気によって、二人で疑似的に調和を取っているかのような今の状態ならばまさに健康優良児そのものであると言える。だから、兄様が千陽君を連れ出すのは何もおかしくないし、むしろ自分の生家にいきなり入り込んできた相手に対して優しいとさえ言えるだろう。だけどさぁ!初めてのお出かけ関連をほとんど持っていくのは違うじゃん兄様ぁ!
なんかもう千歳ちゃんが手を引いてとかの雰囲気じゃないよ、だって慣れてるもの千陽君。慣れ切ってるもの、この市に!もう顔なじみだよ、常連さんの風格だよあれはぁ!!
「なんだか私達よりよほど詳しそうね」
「そうですね……」
「人が通りすがるたびに色んなものを渡されているのだけど、ほんとどれだけこの市に来てるのかしら……」
「具体的な回数などは分かりませんが、様子を見るに相当な回数来ているのは想像に難くありませんね」
「むぅ~~~~~!」
兄様ぁ!なんで貴方が千陽君と一番買い物デートしてるんですか兄様ぁ!!そういうのは千歳ちゃん、もしくは咲良ちゃんの役割でしょう兄様ぁ!!!
「ま、まあ慣れている人間がいるというのは良いことです。ここは千陽に先導してもらいましょうか」
「それはそうなのだけど……何なのかしらねこの複雑な気持ちは」
「千陽ー!そろそろ行くぞー!」
呼ばれると飛ぶように帰ってくる千陽君の可愛さよ……癒される。まあ、千歳ちゃんの運命の相手たる千陽君にエスコートされるというのは悪くないか。それに世間慣れしてないお嬢様が慣れてる相手にエスコートされる展開っていうのは王道中の王道だしな!あっ、凄い、そう考えると興奮が止まらなくなってきた。
「こっち」
「ふふっ。それじゃあ今日はよろしくね千陽」
「今日はお前が頼りだからな」
「!」
任せてって感じでガッツポーズする千陽君が可愛い!それを優しい目で見つめる二人も可愛い!可愛いと可愛いが合わさって最強に見える!!!
◇◇◇
傾いた日につられるように市の活気も次第に失われていく。降り注ぐ西日によって伸びる少年少女達の影は長く、終る一日を惜しんでいるかのようであった。
「千歳様、本日は如何でしたか?」
「楽しかったわ!見たことないものがたくさんあって!何よりこんなに長い時間、屋敷の外で過ごしたのは初めてだから、なんだかとっても不思議な気持ち。でも、嫌な感じはしなくて、凄く嬉しいの」
「その言葉を聞けば当主様も奥方様もお喜びになられることでしょう」
「そうね。お父様とお母様には今日のことをたくさん話して差し上げないとね!……兄様は知らないけど」
(……衛嗣様からの手紙がまた増えそうですね)
「これも千陽のおかげね。今日はたくさん案内してくれてありがとう千陽、とっても助かったわ」
ふんす!とでも言いたげに胸を張る少年、それはまるで姉に褒められて喜ぶ弟のようで、主人に褒められて喜ぶ犬のようで、余りにも大袈裟に喜ぶ様を見て二人の少女は思わずといった感じに笑っていた。
一日が終わりに近づく中で流れる穏やかな時間、そんな時間を過ごす三人の鼻腔をとある香りが擽った。
「これは……なんとも秋を感じますね」
「そうね。秋といえばの花の一つだもの」
「?」
「千陽は知らない?これはね九里香の花の香りよ。九里の先、つまりは凄く遠くまでいい香りを届けてくれるお花って意味なの。お花自体もね小さくて可愛くて、私の好きな花よ。それに太陰、つまりは月とも縁があるような素敵なお花なのよ」
「どこかに樹があるのでしょうか?こんなところにあるとも思えませんが……ああ、成程。香袋を売る露店からのもののようですね」
「残念。千陽に花のことも教えてあげたかったのに……。そうだ、二人とも少し待っていて」
白い少女はそういうと件の店へと近づいていく。そして暫くして戻ってきた少女の手には小さな袋が三つ握られていた。
「お買いになられたのですか」
「折角だもの。それに九里香は太陰、つまりは月とも縁の深い花だからなんだか欲しくなっちゃって」
「?」
「あぁ、えっとね。九里香の花にはこんな伝説があるの。月が秋に金色に輝くのは大きな、それはもう途方もないほどに大きな九里香の樹が生えてるからだっていう伝説がね。……そんなに大きな樹があったらきっと月のどこにいても、いいえ月から遠く離れてもこの香りがするのでしょうね」
そう言いながら白い少女は黒い少女と少年に小さな袋、九里香の香袋を手渡していく。
「この香袋はそんな大それたものじゃないけれど、今日の思い出を彩るだけの力はあると思うの」
「千歳様……」
「この香りを嗅ぐたびにいつでもいつまでも今日を思い出せるなんて素敵でしょ?だから、二人には持っていて欲しいななんて」
「千歳様……香袋はそこまで長持ちしません」
「それは今言わないで!」
「ですので、来年も三人で来て新しいものを買いましょう。その次もまたその次もです」
「そうね。うん。そっちの方が素敵よね。その時は絶対にこの三人で来ましょうね」
そう言いながら白い少女は香袋をまるで金銀財宝のようにその胸に抱きすくめる。握り込んだことで香りが舞い上がり、九里香の香りが白い少女を包みこむ。
すぐ傍にいた少年にもその香りはたちまちに届き、その身体を満たしていく。少年にとってはただの香りである。正直なところ良いも悪いも何もないだろう。しかし、それでも少年の心には喜びがあった。その手に握られた香袋をそっと顔に近づけると、少年は大きく息を吸った。やはり、この香りに対して少年は何も思わない。それでも少年の心にはまたも喜びがあった。それを知ったものは少年に言うだろう。それが思い出というものなのだと。
影を伸ばす西日の中を少年少女はまたねを思いながら帰っていく。これは秋の記憶。大切な大切な少年の秋の記憶。
「それに何かあった時こうして目印になるものを持っていれば、千陽がカッコよく助けてくれるかもしれないものね」
「千歳様……!」
「?」
秋の夕日に照らされて、白い少女の白髪が金色に染まっていく。それはまるで太陽によって輝く月のように。太陽たる少年よ、君は太陰たる少女を照らす光たるや。
(次はないかもしれないって言葉を親友に否定される展開キタコレ!!!)
……秋の夕日に照らされて、白い少女の白髪が金色に染まっていく。それはまるで太陽によって輝く月のように。太陽たる少年よ、君は太陰たる少女を照らす光たるや!
ずっとこれで良いのかと迷いながら書いてる。けど、創作ってそんなものだよね!
緩急が肝だと考えているので少しでもそれっぽくしようと最近あの頃のノベルゲー回路と乙女回路がフル回転である。
それといつもお気に入りと感想、評価ありがとうございます!
なんかもう見たことない数字過ぎて現実味がありませんが……とても励みになっております!