TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
サブエピソード。
主にゲームにおいて使用される言葉であり、他にもサブシナリオ、インタールード、幕間の物語、サブイベントと呼ばれることもある。ゲームの攻略を助けるアイテムを入手したり、メインストーリーを補足したり、キャラクターの掘り下げやキャラクター同士の絡みを描写したりと本編をより豊かにより面白くすることを目的として作成されるものである。所謂お使いクエストやキャライベントなどと言われるものが代表的なものであろう。
恋愛を目的としたゲーム、主にギャルゲー等と呼ばれるものでも存在し周辺の人達からヒロインや主人公がどのように見られているかなどが語られることが多いように思う。物語を主人公やヒロインの関係という狭い世界で終わらせることなく、主人公やヒロインの視点からでは見えないものを物語に付け加えることが出来る。物語を進行させる上では絶対に必要とは言えないものだが、物語を彩る文字通り名脇役的な存在と言えるだろう。──決してメインとは言えないような立ち位置のキャラにスポットライトが当てられて、主人公やヒロインに激重な感情とか向けてることが明かされるシナリオとか好き。他にも淡々とヒロインの日常生活とかが描写されるやつも好き。補足シナリオなんていくらでもあって良いよね……。無限の余白が欲しい。
◇◇◇
鳳条家。私、鳳条咲良の生家であり、その起こりは数世代前の朱雀に遡ります。青龍、朱雀、白虎、玄武とはこの国において四方を守護するとされる聖獣の呼び名であり、それと当時にそれぞれの聖獣が司るとされる分野において最も優れているとされた陰陽師に贈られる称号でもありました。それぞれの分野は青龍では農業治水、それに関する雨ごい等の祈祷。白虎は戦闘や惹禍、それを補佐するための式神の作製、使役術。玄武は厄除けや招福、結界の構築術です。その中で朱雀はというと再生や幸運の象徴たる朱雀の名を冠するだけあり、治癒すなわち医療の分野において優れているとされた術師に贈られるものでした。
そのような祖から始まった鳳条家は必然として医療に関わる人間が多く、私の父や兄も施薬府に勤めています。家としては決して歴史が長いというわけではなく、開祖以降に著名な術師は存在しません。しかし、それでも多くの人間が施薬府を筆頭とした省庁に出仕し、この国のために働いてきた誇るべき生家。それが私にとっての鳳条家という存在です。
だからこそ私は園城寺家の末子たる少女への奉仕を父上から命じられ、家から離れることになった時も悲しいとは思いませんでした。むしろ、苦しんでいる誰かのために働くという、鳳条家の人間として相応しい役目を与えられたと喜びさえしていたのです。
鳳条家の人間として立派に役目を果たそうと、千歳様と出会って直ぐの頃はただそれだけを思っていました。鳳条咲良ではなく鳳条家の人間として、ただそれだけを思っていたのです。
◇◇◇
「咲良、今日は月が綺麗よ。流石は中秋、見事にまんまるね」
「そうですね。しかし、既に夜は冷えます。あまりお体を冷やされては」
「……咲良はいつまでたっても固いわね」
「それが私の役目ですので」
園城寺千歳という少女の側仕えとして働き出してしばらく経つが、直接出会う前の想像とは異なるというのが正直なところです。死に魅入られた少女、太陰に見初められたもの、園城寺家という家の名声も相まって、実に様々な呼び名をつけられた陰の気にその身を苛まれ続ける宿痾を背負った悲運の少女。
それが園城寺千歳という少女と直接出会うまでの私が持っていた情報であり、そこから想像していた人物像は悲嘆にくれ、日々を苦しみや悲しみの中で過ごしているというものでした。私が家で接してきた多くの重病者がそうだったからです。少なくともいつ死んでもおかしくないような身体で、月を見て『団子や月餅が食べたくなってしまったわ』なんて笑顔で呑気に言うような人物など見たことも想像したこともありませんでした。
千歳様はよくお笑いになられる方です。
呼吸をするだけでも苦しいはずなのに、朝の空気はおいしいと毎朝のように笑い。何かを食むことも飲み込むことも辛いはずなのに、ご飯が美味しいと毎食のように笑います。立って歩くことさえ容易ではないはずなのに、体を動かすのは楽しいわと毎度のように笑い。ただ生きていくことだけでも簡単ではないはずなのに、いつも楽しい楽しいと仰られながら笑い。
……私と話すことも楽しいのだと、話すたびに笑われるのです。それはもう満面の笑みを浮かべられながら。
「……千歳様、一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「まあ、咲良から話しかけてくれるなんて嬉しいわ!何でも聞いてね」
「そんなに喜ばれるようなことでしょうか……」
「それは勿論。だって咲良、私が話しかけないとずっと黙って側にいるだけだもの。それはそれで私が話しかければ良いだけだから、別に良いのだけどね」
「⋯…申し訳ありません」
「謝ることじゃないわ、別に悪いことでもないのだし。仕事中に無駄口を叩かないのは美徳ってお父様も言っていたもの」
そう仰られながら、千歳様はまたころころとお笑いになられる。
「それで、咲良は何が聞きたいの? 何でも聞いてね、何でも答えるから! 」
「……失礼な質問だとは理解しています。不快な思いをされたのなら、お叱りいただいても構いません」
「しないから、そんなこと! というか何を聞くつもりなの?! 怖いのだけど⋯⋯」
本当に表情をよく変えられる方だと思う。今この瞬間にも次々と感情が切り替わっていく、まるでどこにでもいるただの子供のように。
「それではお伺いしますが、なぜ千歳様はそのように笑えるのですか?」
「……私が笑うのはそんなに不思議なこと?」
「素直に申し上げるのなら、少なくとも私には不思議に思えます」
「そう……咲良は何でそう思うの?」
「……千歳様は生まれながらに太陰という大きな苦しみを背負っておられます。だというのに千歳様からはそのような影が見えない。どうして、そのように振舞えるのですか?ただそこに在るだけでも苦しいはずでしょうに、貴方はなぜ」
失礼なことを聞いている自覚はある。不幸な身の上なのになぜそんなに楽しそうなのですかなど対等な関係でさえ聞くべきことではないのだから、いわんや主に対してをやである。
それでも問わずにはいられなかった。なぜ、なぜそのようにあれるのかと。
「……そうね。確かに私の人生は傍から見れば、そういう風に映るわよね。けれどね咲良、苦しいことも悲しいことも否定しないけれど、私はそれでも自分を幸せじゃないなんて思わないの」
「なぜですか。⋯なぜそのように思えるのですか」
「だって当たり前のことだもの」
「当たり前?」
「そう当たり前。確かにこの身体は思い通りにならないことも多いわ。髪だってきれいに伸びてくれないし、身長だってそう。歩くだけで息が切れることもあるし、重湯や白湯だって飲み込むのがつらいことだってある。けれど、私はそれだけじゃない」
「⋯⋯」
「私はこの私として生まれたからお父様とお母様に出会えた。兄様に菖蒲先生、それに咲良とだってそう。⋯⋯辛いことも苦しいことも否定はしないけれど、それと同じくらい嬉しいことも楽しいこともある。禍福は糾える縄の如く、吉凶は陰陽の如く。良いことも悪いこともどちらもあるのは当たり前でしょ?だから、私は私のことを人より不幸だなんて思わない。むしろ、幸運だとさえ思うわ。だって今とても幸せだもの」
その表情に陰などなく、心の底からそう思っていることが伝わってきた。⋯⋯私は何と愚かだろうか。私はずっと憐れんでいたのだ。生まれながらに太陰という辛苦を背負った少女を可哀想な存在だと決めつけ、憐憫し、あまつさえ助けになろうなどと思い上がった。
この方のどこが可哀想な少女だというのだろう。月を背負い、柔らかな光に照らされて笑う少女のどこに憐れみを向けろれるというのだろう。ただ生きている誰かを憐れむなど自分は一体何様のつもりだったのだろう。
「どうかしら。こんなことしか私は言えないのだけど」
「はい、満足です。それはもう雲の一つもないほどに」
「そう。ならよかったわ!」
兄や父がかわいそうにという言葉を、患者に対して使っているのを見たことがないのはきっとこういうことなのだろう。かわいそうにという言葉は優しい、相手にとっても自分にとっても耳障りの良い優しい言葉。けれど、それは苦しみのなかでもがく誰かを足蹴にする言葉だと、その決意を貶める言葉だと父上も兄上もとっくの昔に知っていたのだ。そう二人は知っていて、この少女の笑顔を侮辱する言葉だということを私だけが知らなかった。
これで鳳条家の人間としてなどとよくぞいっていたものだと自分に嘆息する。しかし、それで心折れ、逃げ帰るなどそれこそ鳳条家名折れ。何より、鳳条家とは関係なく、私はただの咲良としてこの方の側にいたいと思った。この弱くされど強い千歳様の側に。
膝を付き、頭を垂れ臣下の礼をとる。
「咲良、一体どうしたの!? 私何も怒ったりはしていないわよ?! 」
あたふたとさせてしまっていることに少し罪悪感を抱きつつ、それでも私は体勢を崩すことなく心の底からの言葉を口にした。
「私の名前は鳳条咲良、この身は常に貴方のそばに。千歳様どうかこれからもよろしくお願いいたします」
「え~と⋯なんだかよくわからないけど、うん! これからも末永くよろしくね咲良!」
「勿論です。たとえ何があろうとも、咲良は千歳様の側仕えですから」
「嬉しいけれど、いったい咲良は何を想定してるのかしら!? 」
◇◇◇
「千陽ー!」
千歳様に大切なことを教えていただいたあの夜。その後も千歳様は何も変わらず、いや千陽という存在によってより一層日々の生活を楽しまれているように思う。
⋯⋯千陽の歩んできた人生を思えばこんなことを考えるのはいささか以上に不謹慎かもしれないが、私は正直あいつが少しだけ羨ましい。千歳様が月ならば、奴は太陽だ。その身を照らし、苦しみを和らげ、その存在が千歳様という月を救う太陽。⋯⋯私には成し得ないことだ。だからこそ、私は千陽が少しだけ羨ましい。こんな風に思ってしまう自分が情けない、我ながら己の未熟に恥じるばかりだ。だが、それでも。
「ほら! 咲良も!」
「慌てると危ないですよ。千歳様」
「大丈夫。だって私には咲良がいるもの! 」
私は千歳様の側に在り続けよう、あの夜の誓いを胸にして。
貴方を照らす太陽に成り得ぬのなら。
私は鳥でありたい、貴方に蔓延る草木を掃う鳥でありたい。
私は鳥でありたい、貴方に集る害虫を啄む鳥でありたい。
私は鳥でありたい、貴方という月を目指して飛び続ける鳥でありたい。
私は鳥でありたい、貴方という月の輝きを見続ける鳥でありたい。
もう咲良ちゃんがメインヒロインで良いんじゃないかな?
主を同じくする二人が次第に仲を深めていく的な展開って良いよね……って私は思うんだ!
ちなみに副音声はきっていますが。まあ、その……大体皆さんの想像通りだと思いますねぇ!
活動報告でもあげたようにとりあえず千陽君とのゴールインまでは何とか書きたいなぁと思っているので今後ともよろしくお願いいたします。
投稿の目安としては一週間に一度程度あげられたら良いなとは思ってます。
あんまり間が空くと忘れられちゃうでしょうしね。
次回はまた怪生物の観察が始まりますので、よろしければお付き合いください。