TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
日常回。
主にバトル物に代表されるようなシリアスな非日常を描く作品において主人公やヒロイン達の穏やかな日常が描かれる回のことを指す。普段は辛く苦しい展開になりがちな作品においては読者達にとっての貴重なオアシスになり、加えて普段は見ることが出来ないキャラ達の日常を覗き見ることが出来るということもあって人気回になりがちであるように思う。
バトル物以外においてもままあるものであり、例えばサスペンスものなら特に事件は起こらず日常の中の小さな謎を解き明かしたり、スポコンものなら試合や練習等ではなく休日を描いたりなどである。普段は見ることが出来ない穏やかな姿や意外な一面、まるで本当に存在しているかのような生活の質感等々、日常回に何を求めるのかというのは人によって異なるだろうが日常回というものが嫌いな人というのはあまりいないと思う。まあ、早く本筋を進めろよという人はたまにいたし、そう言いたくなる人の気持ちわからなくもないが。少なくとも俺はジャンル問わず日常回というものが好きだった。ボイスドラマとかミニアニメとかも良いよね……。
まあ、俺が言いたいことはだね──ヒロインのモーニングルーティンとかそういう何気ない生活習慣を描写されるとなんか良いよね……ということだ。別に知ったところで物語上何ら意味がないし、酷い言い方をしてしまえばただの文字稼ぎやページ稼ぎにしかならないとしてもだ。そういうのが良いよね……良い……。
千歳ちゃんの朝は早い。
「コホッ……」
朝起きて先ずすることは病弱系ヒロインの象徴ともいえるだろう、か細い咳込みである。そしてゆっくりと体を労わるように、辛そうに少しずつ体を起こしていく。この時に間違っても夏休みの男子小学生よろしく跳ね起きてはいけない。いや、まあ千歳ちゃんがそんな風に元気に起きてきたら、この家の皆は単純に喜ぶだろうが。それは千歳ちゃんという病弱系ヒロインの死を意味する。無論、元気になった後に病気が再度悪化して的な展開も定番ではあるためやってみたいのだが、これも頻繁にやると陳腐化してただの日常になり下がってしまうのが難しいところだ。
病弱系ヒロインの肝とは他のヒロインにはない、いつ消えてしまうのか分からないという緊張感にこそある。生の終わりである死という結果、それが常に強く意識される存在だからこそ何気ない日常でさえ尊く感じるのだ。つまりは落差こそが病弱系ヒロインにとっての最大の武器であると言える。緩急が大きければ大きいほど、周囲の人にとってはその衝撃は強く大きなものとなるのだ。どんなことでもそうだが、理想の病弱系ヒロインとなるためにも我慢と日々の努力が必要ということだ。病弱系ヒロイン一日にして成らずということだね!
この早起きもその一環で、起き上るのにも難儀するということを自然に演出するために毎朝早起きしているのだ。ちなみに毎日、同じように起き上るよりは日によって様子が違う方が自然だよねということで、すっと起き上がる時もあれば、長い時は一時間ほどかけて起き上る時もある。日によっては布団から起き上がれないというロールだってする。このように朝起きる瞬間から病弱系ヒロインムーブは始まっていると言えるだろう。
ちなみにこの世界、時間の分け方にも陰陽が関わっており明け方から正午までを陽中の陽、正午から夕方までを陽中の陰、夕方から夜が更けるころまでを陰中の陰、夜が更けた頃から明け方までを陰中の陽としている。ここから更に細かく刻ごとに分けられているのが、この世界での時間である。毎度のことながら何でもかんでも陰陽に基づき過ぎと思うが、実際に陽の気や陰の気がそれぞれの時間に高まりやすいのだから仕方ない。前世でも太陽の光に当たったら体が活性化する的なことはあったし、それがより分かりやすく強められただけと考えればそこまで違和感もないと言えるかもしれない。微妙に違うが、陰の気や陽の気は交感神経や副交感神経的な立ち位置っぽさもあるし、全体的に影響が顕著なだけで大枠ではあまり前世と違いはないような気もする。まあ、怪異とかは露骨に違うところもあるけれど。
とにもかくにもこうして起き上り、咲良ちゃんに手伝ってもらって朝の支度を整えると朝餉の時間だ。これも調子がいい日や悪い日を作ることによって変化をつけ、部屋に持ってきてもらう時もあればお父様やお母様と一緒に食べる時もある。基本的にはお粥を食べるのだが、それも無理な日には重湯にしてもらう時もある。正直、味気ない食事だが、たまにお菓子を食べるとかならまだしも毎日三食白米をぺろりと完食する病弱系ヒロインというのは何か違うので必要な犠牲というものだろう。それにたまにしっかりとした量や柔らかいもの以外を食べるとお父様とお母様が喜んでくれるので、やはりこの制限は病弱系ヒロインとして必要なものといえる。他の子にとっては当たり前のことで喜ぶ両親って良いものですよね……。
食事をとった後は基本的に自由時間である。というか、千歳ちゃんは子供である上にこの体なのでやらせてもらえることなんてほとんどないのだ。主に自室で本を読んだり、咲良ちゃんと話したり、千陽君に読み書きを教えたりすることもある。小さい体で先生の真似事をしている千歳ちゃんとそれに真剣な顔で付き合う千陽君が可愛いので、最近はこればっかりしている。
まあ!誰のせいだか知りませんけど、千陽君が全然捕まらない日もあるんですけどね!!聞いているか兄様ぁ!ドヤ顔で千陽君と一緒に捕ってきた虫を妹に見せに来るのは本当にどうかと思うぞ兄様ぁ!そんなんだから菖蒲先生にしばかれるんだぞ兄様ぁ!あの菖蒲先生が同期とはいえ、他人様の頭をしばくとか相当だぞということを理解しろ兄様ぁ!!
ちなみに同期というのは役人育成用の大学府という国営の学校での話である。この世界、役人の採用試験に受かると年齢問わず大学府に入学を命じられるのだ。そこで一般教養に加えて、それぞれ希望する役所で必要な専門技能等を学び、最後に医師なら医師のといった感じでそれぞれの国家試験を受けて配属されるかどうかを決めるのである。役人の採用試験受かってるんだからそんなの要らないんじゃともなるが、人格に問題がないかの調査や同期との連帯感強化等々の色々な目的があるって兄様が言ってた。
他にも単純な読み書きだけならまだしも医師等の専門技能を持っている人間はただ待っているだけでは中々集まらない、そのため自前で育てた方が早く、そのためには大学府という場所がある方が都合が良いからとも菖蒲先生が言っていた。確かにただ希望者を募るより、最低限の教養がある人が集まる場所でやりたい人を探した方が基礎の読み書きなんかは飛ばせる。その分育成期間は短くなるものなぁと納得したものである。
ここまで話してきたように希望する役所に応じて習う内容が結構異なるため、れぞれの配属希望先に応じて大学府に所属する年数は違うらしい。そのため菖蒲先生と兄様は入学したのこそ同時であったが、卒業というか役人として任じられた時期は菖蒲先生の方が遅いのだ。前世でいえば警察学校や医学科なんかが一緒くたになっているような施設と考えれば分かりやすいのだろうか。ちなみにある一定以上の貴族の子弟なんかは試験が免除されたり、出世の道はなくなるが大学府に入らずに役人として働く道もあったりとどんな世界にも裏道や抜け道はあるのだなあとここら辺の話を聞かされた時は思い知らされたものだ。
それと菖蒲先生の例から分かるようにこの世界、女性でもそういう道を選ぶ人はいる。性差以上に気を使えるかどうかが大きいのがそこら辺の理由なのかもしれん。知らんけど。なので千歳ちゃんも行こうと思えば行けるのだが、ここら辺は千陽君次第かなぁという感じはする。やれるなら学園物病弱系ヒロインライフとかもやりたいしな!けど、こういう狭い世界で一対一のラブコメしてるのも好きなんだよね……!まあ、そもそも論どうやってお父様を説得する問題とかがあるから言うほど簡単じゃないんだけど。
そもそも論になるがこの世界的にバランス偏ってる太陰ってあんまり印象良くないから、そこら辺もどうなるかという話である。先ずもって体が貧弱だから、役人として働けるかというか千歳ちゃんみたいな例外を除いて厳しいし。加えて千陽君が千歳ちゃんを感じたように、対となる太陽とか陽の怪異とかを引き寄せることもある。陰の気がというよりこの世界の理的に異端な太陰、太陽ってちょっと邪険にされがちなのである。先天性の難病持ちって考えるとさもありなんといった感じだろうが。
……そもそも太陰の子は生まれた瞬間に死ぬし、太陽の子は正気を保ってられないのでそういった存在をどう扱うのかという決まりさえあるかどうかも怪しいなこれ。まあ、千歳ちゃんの場合はどうなろうと千陽君とハッピーエンドするからあんまり関係ないんだけどね!
大学府の話はここら辺で閑話休題。そんな感じで千歳ちゃんは主に屋敷の中で千陽君や咲良ちゃんと一緒に過ごすことが多い。それ以外だと菖蒲先生が往診に来た時は当然、菖蒲先生に診てもらう。他にはお父様や兄様が暇なときは陰陽術の軽い稽古をつけてもらったりすることもある。本当に軽いもので座学が中心だが、これが結構面白い。まあ、お父さん張り切っちゃうぞぉのノリで庭を穴ぼこにしたりするのはどうかと思うけれど。ちなみにその後、お父様と兄様はお母様に連れていかれて夜まで帰ってこなかった。母は強しである。逆にお母様の手が空いている時は一緒に本を読んだり、花を愛でたりすることもある。こう考えると千歳ちゃんは基本的に常に誰かと一緒にいるなと実感する。やだ……千歳ちゃんったら可愛がられ過ぎ……!てなものである。まあ、こんなに可愛いんだからな仕方ないな……!
そんな風に日中を過ごして夕食を食べればあとはもう寝るだけである。夜更かししても良いが、早寝早起きは健康的な生活の基本。健康的な病弱系ヒロインライフのためにも日々のこうした努力は欠かせないのだ。ちなみに寝る時は咲良ちゃんが寝るまで手を握ってくれる。咲良ちゃんってほんと理想的な親友キャラだよね……。それと最近は千陽君が一緒に寝ようとすることもある。まあ、咲良ちゃんが流石にそれは許していないが。
こうして周囲の人々に見守られながら千歳ちゃんは日々を過ごしているのであった。明日もきっと楽しい病弱系ヒロインライフが待っているよね!千歳ちゃん!!!
日常の中にも常に副音声はあるのです。そうあの綺麗なシーンにも()
大体10万文字、ラノベ一巻分を目安にしてとりあえずは締められる感じで書いているのでもうしばらくお付き合いいただけると幸いです。
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