TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
主人公。
物語の主役にして中心、顔となる存在である。物語のジャンルごとに様々な主人公像があり、一概に主人公と一括りに出来るものではない。
しかし、俺は人によるだろうという前提を理解しつつもあえてここは強く言いたい。恋愛、特にラブコメのようなコメディ色が強い作品において、主人公とは…主人公とは……!
読者や視聴者が見て、こいつになら抱かれても良いなと、好きなヒロインをコイツになら任せられるなと思われるような存在でなくてはいけないと!
転生してから今まで実に充実した病弱系ヒロイン人生を送ってきた。
ある時は全然立ち眩みなんてしてないのに、「少し立ち眩みがしただけです……」なんて言いながらスッと壁や机に手を突き。
またある時は別に何もしんどくないのに、「今日はなんだか体が少し重くて…」と一日中布団に臥せり。
またまたある時は来年も見る気気満々だったが、「来年も見られると良いな……」とお父様やお母様が連れて行ってくれた桜や花火を見ながら呟いてみたり。
もちろん、この時に儚げな笑みを浮かべながら「千歳は…千歳は大丈夫ですから…」的なことを言うのを忘れてはいけない。今にも消えていきそうな儚さとその中にある強さこそが、病弱系ヒロインの魅力だからである。
ちなみに千歳ちゃんはめでたく七五三を完走し、無事にその先の人生をひた走っている。
不可思議な術や存在がいるこの世界でもやはり子供というのは死にやすいらしく、前世における七五三的なものも存在していた。
生まれた瞬間から死を覚悟しろと言われた娘が七歳まで無事に生き永らえてくれたということで、お父様とお母様もこれには大いに喜んでくれた。普段の行動が申し訳なくなる位には凄まじい喜びようだった。
まあ申し訳ないなと思っても、当分やめるつもりはないのだが……。ごめんなさいお父様、お母様。千歳は七歳どころかお二人より長生きするのでどうかお許しください。
さて、ここまで思い返してきたように実に、本当に実に充実した病弱系ヒロイン(健康体)ライフを満喫してきた。前世との違いから戸惑うこともあるものの、この世界やその文化にもかなり慣れてきたと思う。
そこで自分という病弱系ヒロインについて考えてみると、俺という病弱系ヒロインには一つ致命的な欠陥があることに気づいてしまった。病弱系ヒロインである俺に足りないものそれは……。
俺こと園城寺千歳を攻略してくれる漫画やゲームにおける主人公のような存在である!
無論ヒロインという言葉が主人公に攻略される女性などという狭い意味だけの存在でないということは重々理解している。
しかし、しかーし!病弱系ヒロインという言葉はそもそもが恋愛を主題としたゲームや漫画から主に発生したものであり、この場合のヒロインとはそのような狭義の方のヒロインなのである。
即ち、病弱系ヒロイン(健康体)として真に完成するためには俺を攻略してくれるような主人公が必要なのだ!
だが、ここで重要なのは安易に相手を決めてはいけないということである。ヒロインを攻略する作品においてヒロインが魅力的なのは大前提、その上でその作品が人気になるかどうかは主人公が魅力的かどうかにかかっていると俺は思う。
例えば考えてもみて欲しい、この可愛い可愛い千歳ちゃんに容姿はまあ置いておくにしてもだ。
「とっとと酒持ってこいや!」なんて言いながら暴力を振るい、病床の身のヒロインだけを働かせるような男が相手役として現れたらどうだろうか?……正直それはそれでありだなと思ってしまったが、それで人気が出たとしても少なくともそれは王道のラブコメとしての人気ではないだろう。
つまり園城寺千歳が真に病弱系ヒロインとなるためには、多くの人が見て好き!となるようなそんなまさしく主人公のような好感が持てる相手役が必要ということになる。しかし、俺自身の行動によって何とでもなるヒロインムーブと違って、この相手役というのはそう簡単な話ではない。
先ずもってここまで散々最高とか言ってきたが、一般的に言えば病弱というのは加点要素ではなく減点要素である。何を言ってるんだこいつはと思うかもしれないが、それは覆しようのない事実なのだ。
子供を産むとかそういう話だけでなく、長い時間を共に生活していく中で看病等の負担というのは馬鹿にならない。薬代や医者代だってかかる。俺はあくまでそういう振りだから急に倒れたりはしないが、本当に体が弱い場合はそういう危険性が健康な人よりずっと高いのだ。
つまるところ病弱系ヒロインと共に歩むというのは大変なことなのである。それこそ優しい人でも堪えられないほどに。まあ、だからこそ前世で嗜んだギャルゲ等において病弱系ヒロインを幸せにした主人公達に対してカッコいい!抱いて!となるわけだが…。
さらに重ねると園城寺という家もさらに条件を難しくしている。園城寺なんて御大層な苗字を名乗っていることや、お父様やお母様の身なりからもある程度予想はしていたのだが、園城寺家というのはそれなりに以上の陰陽術の名家らしい。
お父様やお母様は優しいし、俺に物凄く甘いので結婚反対!なんてそうそうないとは思うが、そこはお家の話である。前世の感覚が強い俺が完全に理解できているとも思えないが、家格や身分というものが時に凄くめんどくさいものであるということは理解しているつもりだ。まあ、駆け落ちなんて言うのもそれはそれでアリ……!とは個人的に思うが、出来ればお父様やお母様が悲しむようなことは避けたい。
ここまでの話を整理して病弱系ヒロイン千歳ちゃんの理想の相手の条件を羅列するとだ。
滅茶苦茶優しくて、出来れば顔も良くて、更にはか弱い千歳ちゃんを守ってくれるような強さもあり、尚且つお父様やお母様も認めてくれるような何かを持っている男性ということになる。
こんな条件をつらつらと並べ立ててくる女がいたら人はどう思うだろうか?そうだね、現実見ろアホだね。
そもそもとして体が弱いと思われていることもあり、簡単に外にも出してもらえず同世代の子供と触れ合う機会というのもほとんどない。これでは条件とかそういう以前の問題である。まさか、完璧に思えた病弱系ヒロインライフにこんな落とし穴が待っていようとは……!
あーあ……どっかに都合よく出会いとか落ちてないかなぁ。相手さえいればいい感じに誘導して、病弱系ヒロインが求める主人公に調教…もとい教育してやるというのに。
「千歳、お前ももう数えで七つを超えた。これまでは体のこともあり先延ばしにしていたが、側仕えの人間をつけたいと思う。どうだろうか?歳も近く、お前とも仲良くなってくれそうなのだが」
「お父様!それはほんと……コホッ…ゲホッ……!」
「千歳!?誰か!誰か水を!早く!頼む!」
あったよ!出会いがぁ!!!
「コホッ……コホッ……ごめんなさい。こんな横になったままで…」
「いえ、そのようなことお気になさらないでください」
「私こうしてあなたに会える今日をとても楽しみにしていたの。私ずっとお屋敷の中にいるものだから友達もいなくて、初めて友達が出来るんじゃないかって!」
「……そういうわけにはまいりません。ぼ…私は千歳様の側仕えですので」
「そう……そうよね……。それじゃあ、あなたの名前を教えてくれる?それ位なら良いでしょう?」
「勿論です。むしろ名乗りが遅れてしまい申し訳ありませんでした。私は
なかったよ!出会いがぁ!!!そりゃあそうだよ、箱入り娘に最初に与えるなら同性の子だよね!
「よろしくね…その咲良と呼んでいいかしら?」
「お好きなようにお呼びください。私は千歳様の側仕えですから」
「ありがとう。これから末永くよろしくね咲良」
「……はい。こちらこそよろしくお願いいたします」
しかし、これは病弱系ヒロイン的にはアリ!だ。ヒロインの体のことを伝える説明役がいるのに越したことはないし、それが幼い頃からずっとそばに居続けてきた側仕えの少女何てグッとくる展開じゃないか!
(これが話に聞いていた死に魅入られた少女。起き上がることさえ……)
布団の中でもはやお手の物となった儚げな笑みを浮かべながら、内心ではガッツポーズを決める。初対面でのインパクトのために床に臥せってますよムーブを仕掛けてみたが、あの目を見るに大成功らしい。良い目だぁ……!
思わぬ誤算もあったが、主人公にヒロインの生い立ちを教える親友枠という思わぬ収穫もあった。黒髪ぱっつんの真面目そうな子というのもナイスだね!こういう子が立場と情愛で苦悩するのはとても良い。──最後に笑顔があればだけども!
ぐふふっ……待っていろよ!まだ見ぬ主人公役になるだろう男よ!俺が最高の病弱系ヒロインってのを魅せてやる!!!
?????(見たこともない数字が並んでいる小説情報を見ながら)
あの……その……
昨日勢いで書いただけでマジでストックどころかプロットもなくて……
なんか……ほんとすいません……!