TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
我儘。
他人に遠慮することなく自分勝手に思うままに振舞うこと、またはその様を表す言葉である。基本的に悪い意味でつかわれる言葉であり、我儘と他人から表現される人というのは大体あまり好かれてはいないだろう。恋愛物においても我儘ヒロインというのは一定数存在しているが、暴力ヒロインと同様に主人公側に明確な過失があったり、主人公も似たような我の強さのキャラであるなどの描写がないと主人公が不憫な存在となってしまいがちである。その結果、読者から受け入れてもらえず不人気になってしまうこともあるという、かなり扱いの難しい属性であると言えるだろう。お互いに無遠慮に言い合っているなら、それはある種のコミュニケーションであろうが。主人公だけが振り回されてるのは見てて可哀そうになるからだ。
しかし、このようなリスクは常日頃から我儘し放題のヒロインだった場合発生するのであって、ごくたまにそれこそ普段は控え目な子が見せる我儘というのはむしろ魅力となるのである。例えば奥手な妹ヒロインが兄に遊びをせがむ姿を見て、不愉快に感じる人はほぼいないだろう。むしろ、可愛い!となる人の方が多いはずだ。
普段は奥手で自分の要望を周囲に伝えることが出来ないという前提があることで、そんな子がここまでするほどこれがしたいんだ、それほどに主人公のことが好きなんだと表現することが出来る。まさにツンデレ的メカニズム!押して駄目なら引いてみろならぬ、引いて駄目なら押してみろと言ったところだろう。普段、強気のキャラが時折見せる弱さにキュンとさせられるように、何事も一本調子ではいけないということであろう。このように我儘という一般的には短所に成り得る行動さえも、普段とは違うというだけでそれは立派に魅力となるのだ。無論、用法用量を守ってねという但し書きはつくが、たまにやるから良いんであって常態化すると普通に嫌な人になるからね!
まあ、病弱系ヒロイン好きとして言いたいことは──普段は迷惑をかけまいと先生や両親の言うことを素直に聞くヒロインが、主人公と一緒に過ごしたいがために我儘を言うシーンって最高だよね!ということである。そこで主人公が漢気を見せるとなお良しであろう。
「わぁ~!凄い人ね。咲良」
「千歳様。嬉しいのは分かりますが、この賑わいです。離れすぎると逸れてしまいますので、はしゃがれるのも程ほどに」
「もう、咲良は心配性ね。私だってもう今年で十歳、立派にお姉さんなんだから」
「もうではなくまだですよ、千歳様」
「むぅ~!……咲良だって私と二つか三つしか違わないくせに」
「私は側仕えですので」
「いつも思うのだけど、側仕えってそんな便利な言葉だったかしら?」
「そばづかえはすごい?」
「うーん。側仕えは……そもそも側仕えが凄いってなんなのかしら……。いや、咲良はとても頼りになる存在だから、凄いというのは間違いないのだけど。これで凄いっていうのは何か違うような、千陽に間違った認識を植え付けてしまう気が……」
「?」
季節はまさに春爛漫。今年も桜が綺麗な季節となってまいりましたが、夜の皆様はどんな病弱系ヒロインライフをお過ごしだろうか。俺こと千歳ちゃんは今春も絶好調、こうして咲良ちゃんと千陽君とお花見デートに来ていまーす。いぇい。しかも今回は家のお庭とかではなく、家から少し離れた花見の名所と評判の場所まで来ている。お花見シーズン真っ只中ということで、屋台なんかも来ていてさしずめ花見祭りといった風情である。これはもう完全無欠で言い訳無用にお花見デートだろう。千歳ちゃんマジヒロインである。
ちなみに今回のお花見デートだが、お父様や兄様は結構渋っていた。まあ、まだまだ小さい子供を遠出させるっていうのは怖いしね、千歳ちゃんみたいな体なら尚更である。儚げ健気病弱系ヒロインを標榜する身としては普段ならそこで少しシュンとしながら引き下がるのだが、今回は我儘を通させてもらった。何故かというと兄様に千陽君と出かけた回数でダブルどころかトリプルスコアをつけられそうだからである!兄様はさぁ……千陽君大好きな人?
いやね、分かるよ?千陽君って超かわいいしさ。それに加えてどんなにくだらない話でも真剣な顔して聞いてくれるし、お菓子とかあげたら凄いいい笑顔で受け取ってくれるし、その上ちゃんとお礼も言えるいい子だもの。他にも名前呼ぶだけでニッコニコしながら駆け寄ってきてくれたりとかさ、そりゃあ多くの人から好かれるよねって子ではあるよ。その上、兄様としては善意でつけてる訓練にも嫌がるどころか積極的に参加してるし。その理由が千歳ちゃんを守りたいからだもの、そりゃあ兄様が可愛がるのも分かるよ。けどさ兄様、それはそれとしてちょっとデートし過ぎだと思うの。これがギャルゲーだったら完全に千陽君ルートに突入してるくらいにはお出かけコマンド連打してるからね、最近の兄様。
おかげで最近、千陽君が話してくれる内容のほとんどが兄様とのお出かけの話なんだよ。いやね、外に出られない病弱系ヒロインのために今日は外でどんなことがあったのかを主人公が話すっていうのは定番のイベントだから、それだけなら病弱系ヒロインとしてとても嬉しいんだけどもさ。流石にそのほとんどが兄様とどこどこに行っただと、寂しいんだよ。寂しいんだよ……!
そういうわけで今回は千歳ちゃんとしては珍しく子供らしい我儘を通したというわけだ。千陽君の時に続いて二回目である。とはいっても、あの時とは違って土下座とかはしていない。頬を膨らませながら兄様ばっかりズルいですと少し涙目になりながら、上目遣いでお父様となんかまた帰ってきてた兄様にお願いしたのである。ちなみにこの時の千歳ちゃんは超可愛かった。ヤバかった。普段は我儘とか言わない千歳ちゃんがたまに見せるからこその可愛さというか、頬を膨らませて拗ねてるだけなのに得も言われぬ愛らしさが醸し出されてた。やっぱりギャップって正義だよねってなる。なった。
かくして千歳ちゃんは見事に千陽君とのお花見デートを成立させたわけである。まあ、当然ながら保護者同伴ではあるが。それでもお母様が折角だから三人で少し見てきなさいと子供だけにしてくれたので、これはもう千陽君の幼い頃の千歳ちゃんとの思い出アルバムに収録されること確定だろう。幼馴染ヒロインとしても日に日に完成していくとか、我ながら千歳ちゃんのヒロイン強度が恐ろしいぜ……!
「さくらあれはなに?」
「気になるのは分かったからお前もあまり離れるな。逸れるだろう」
「おれははぐれてもちとせのことわかるよ?」
「だから大丈夫とはならんのだ。千歳様を心配させるのはお前も本意ではないだろう」
「ほんい?」
「……」
「?」
「あらあら」
それにしてもこの二人のこういった漫才のようなやり取りも随分と見慣れたものだなぁ。咲良ちゃんは優しい子だからあんまり心配していなかったが、何事もなく千陽君のことを受け入れてくれて良かった良かった。口うるさいお姉ちゃんとのんびり屋の弟みたいな感じで最近はこの二人を眺めてるだけでも楽しい。
「まあまあ、咲良。折角のお花見だもの、そんなに肩ひじを張らずにね。千陽の言うとおり、多少逸れても私達なら互いの位置は分かるから大丈夫よ」
「逸れている間に何かあったら、どうされるのですか」
「大丈夫。お父様から何かあった時の式神も渡していただいているし、二人がいるんだもの何かなんてあるはずないわ」
「信頼していただけているのは嬉しいですが……」
「ちとせ、おれがまもるよ」
「嬉しいわ、ありがとう千陽。咲良も……」
「千歳様?」
「……ううん、何でもないわ。それじゃあ行きましょうか。折角こうして来たんだもの。私こういう場所の屋台とかに興味あったのよね。大丈夫!お金ならあるわ!お父様や兄様からもらったお小遣いだけれど」
「おー!」
「千歳様がいただいたものなのですから、ご自分のためにお使いください」
「……咲良は私と一緒に食べたくないのね」
「え?いや、そういうことではなくてですね?!」
「ふふっ、冗談よ冗談。それとね咲良、私は私のために二人の分も出すの。だって一人で食べるより、三人で食べる方がきっと美味しいわ。だから、付き合ってくれるかしら?」
「そこまで言われて断れる人間ではないと知っておられるでしょうに……」
「咲良のお許しが出たわ。千陽、皆で仲良く食べましょうね」
満面の笑みを浮かべる千陽君と千歳ちゃん、それを溜息をつきながらも笑みを浮かべて見守る咲良ちゃん。うーん、これは余りにも完成された幼馴染トリオの図だなぁ。……さてと、やりますか。
◇◇◇
千陽君が千歳ちゃんのことを感じ取ったように、己の体内で陰陽のバランスが取れていない存在は対となるような存在を例え遠方に居ようと感じ取ることがある。己に足りないものを求める声明としての本能がそうさせるのか、それとも陰陽の気の特性か。詳しいことは分からないが、そういったことは起こりえるのがこの世界なわけだ。これで寄ってくるのが千陽君みたいないい子だけだったら全然問題ないんだが、世の中そうは甘くない。招かれざる客というのもいるのが実情だ。今、目の前に立っているこの怪異のようなね。
「千陽と初めて会ったあの夜と同じような不思議な感覚だったわ。私の中にある何かが引き寄せられるようなそんな感覚。けれど、貴方と千陽は違うわね。だって、千陽の時はこんなに悍ましい気配は感じなかったもの」
「……」
嫌な予感というのものは当たるもので、三人で楽しく遊んでいた時に感じたあの嫌悪感は大正解だったというわけだ。それにしてもこれが怪異。ぱっと見は全身を具足で包んだ、ただの鎧武者だが。光の失われた目が、陽の気による影響か異常なほどに発達した腕が、何よりあの夜の千陽以上のもはや禍々しいとさえ感じる陽の気が、こいつがまともな存在ではないということを教えてくれる。
千歳ちゃんや千陽君のような極端に偏ったという次元ではない、完全に己の体から片割れの気を失ったことで理から外れてしまった怪物。もはや理性はなく、ただ対となる気を求めるだけの現象。それ故に容赦や躊躇いなんてものはなく、人里に出れば大きな被害を出すこともあると兄様やお父様は言っていた。
うん、そんな奴の存在を感じたのにあの二人と一緒にあんなところ居られるわけないよね。というわけで、ここはさっきまでいたお花見祭りの屋台街ではなく、そこから少し離れた人通りも少ない山の中である。こいつは千歳ちゃんをロックオンしてるんだから、千歳ちゃんが人の多いところから離れれば他の人は安全というわけだ。まあ、千歳ちゃんは化け物と山中でワンオンワンしちゃうわけだけども。
けどさ、これは仕方のないことなのだ。確かにすぐさまお父様のところに駆けこむのが一番安全かもしれんが、流石のお父様でも周りの人を守りながら戦うのはしんどかろう。戦ってる間に他の陰陽師も駆け付けてくるだろうから負けることはないかもしれないが、その間に死人は出るかもしれない。これだけの人出だ、そうなる可能性は低くはないだろう。それこそ千陽君や咲良ちゃんが巻き込まれる可能性だってある。それは駄目だ。人死にが関わったりするのは駄目だ。だって、それでは千歳ちゃんという病弱系ヒロインに負い目が出来る。いや、確かに自分のせいで誰かが死んでしまったという負い目に苦悩するヒロインの姿にそそられるものがあることは否定しない。だが、それはあくまで物語の中の話だからであって、実際に危機が迫っていると分かっているのにスルーして。その結果誰かが死にでもしたら、それはもう千歳ちゃんという病弱系ヒロインの敗北なのである。
それでは心の底から病弱系ヒロイン(健康体)として生活していくことが出来なくなる。それでは駄目だ。俺は心の底から何の曇りもなく、病弱系ヒロインとして生活していきたいのだ。故にこいつをあそこにいかせるわけにはいかない、これから先の病弱系ヒロインライフのためにも!千歳ちゃんと千陽君の子沢山な未来のためにも!!ヒロイン舐めるなよファンタジー!!!自分のラブコメは自分で守り、そして成功させる。それがヒロインとうものだ!!!
まあ、もう半分の理由としては自分の身を危険にさらしててでも周囲の人達を守ろうとする健気ヒロインムーブが出来るチャンスを活かさないわけないよなぁ!あぁ、凄い!千歳ちゃんカッコよくて、可愛いよぉ。あんな化け物を前にして、それでもキュッと口を結んで力強い目で睨み返すその姿。普段は見せない表情もまた良い……良い……!千歳ちゃんってやっぱり最高だよね……。
「園城寺家の娘として、無辜の人々を巻き込むわけにはいきません。かつての誰かその残骸よ、来るなら来なさい。私が相手になりましょう」
「おぉ……!」
こういう病弱で白髪で普段は穏やかな子が強い口調になったり、誇り高さを見せるのって良いよね……。しかし、お父様や兄様には式神経由でヘルプミーしたけれど。これ間に合うかなぁ。まあ、死なない程度なら怪我するのもヒロインムーブとしてありだから良いか!!!よーし千歳ちゃん頑張っちゃうぞ!
まだ子供なのになんて健気で誇り大会ヒロインなんだぁ()
書いてて楽しいけど、ほんとになんでこれがこんなに受け入れてもらえてるのか分かんないぜ……!
そして評価、感想、お気に入りいつもありがとうございます。
こんな作品に過分なご評価をいただき感謝しかありません。
皆さんが背中を押したので千歳ちゃんはこんなに立派に育ちました。
認知してね?