TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
バトル展開。
恋愛物においても現代や異世界問わずのファンタジーな世界観で進行する作品を中心にそれなりに見る展開であり、敵の異能者や魔術師、魔物や妖等々と主人公やヒロインが戦ったりすることが多いように思う。主人公とヒロインが殺し愛をしたりするのも人気のあるバトル展開の一つと言えるだろう。
バトルに関連する設定は異様に凝ったものもあれば、あくまでそれっぽいものを添えただけのものもあるなど作品によってまちまちである。売るために恋愛要素や美少女要素を入れたけど、本当にやりたかったのはこっちだろってくらいの重厚な設定でぶん殴ってくる作品なんかも存在する。このように恋愛や美少女を売りにしつつも、バトル展開を楽しませてくる作品というの確かに存在しており、面白いし楽しいけど作品のジャンル間違えてない?という経験をした人というのは多いのではないかと思う。俺は特にエロゲ、ギャルゲをプレイしていた時にそういう感覚に陥る時が多い。そしてなんかもう恋愛そっちのけでカッコいい詠唱やらに魅入られて、オリジナルの詠唱とか考えちゃったりもする。これもまた経験をした人は多いだろう。
日常のほのぼの展開には出せないスリル、生死を共にすることで深まるヒロインと主人公の関係とそれに対する説得力等々、恋愛を主題とする作品においても使い方次第ではバトル展開とは非常に有効であると言えるだろう。
結論としてはだ──能力の使用に代償のあるキャラが、愛する人を守るために体の限界を超えて能力を使い続ける的な展開ってなんであんなに泣けるんだろうね?と言うことである。それが美少女、それも病弱属性とか持ってたらその作品での推しは決定したも同然といえる。尚且つ白髪の薄幸系ガールならなお良しである。
◇◇◇
異形の鎧武者が太陽の光さえ遮るほどに鬱蒼とした山林の中を駆ける。普通の人間ならば根に足を取られ、枝に体を取られ走ることさえままならぬであろう悪路。しかし、怪異たる鎧武者はその常識を軽々と飛び越え、その躯体にて文字通り草木を吹き飛ばしながら園城寺千歳を追っていた。
「おぉ……!」
ただの腕の一振りで大地が震え、空間が軋む。その姿はまさしく暴風という言葉の具現。ならば樹木が抵抗できるはずもなく、腕と共に振るわれた刀によって木々が言葉の通り根こそぎ薙ぎ払われる。触れたもの全てを破壊する黒い疾風がそこには居た。
この悪路でこんな化け物を相手に太陰という性質を持ち決して身体的に恵まれているとは言えない園城寺千歳が、現時点まで追いかけっこを成立させられているのには大きく三つの理由がある。
一つは兄である衛嗣が持たせた、彼謹製の式神『槐』の存在である。害意ある者からの攻撃に反応し、持ち主の身代わりとなるという機能を持った式であり。魔除けとしても珍重される槐の木を素材として作成された。
二つ目は父である清嗣から貸し与えられている彼が調伏し式神とした『火車』の存在だろう。元は遺骸盗みの妖であり、若かりし頃の清嗣によって退治され現在に至る。空中に車輪を走らせ、空に轍を残す、つまりは空を飛ぶことが可能であり、その機動力から緊急時の避難用として外出する際は必ず園城寺千歳に与えられる式でもあった。
槐という盾、火車という足、父兄の愛ともいえるこの二つの式神。しかし、それだけでは怪異と園城寺千歳という走ることもままならぬ少女の差を埋めるにはまだ足りない。彼我の差を埋め、この逃走劇を成立せしめている最大の要因たる三つ目は──他ならぬ園城寺千歳という存在そのものだ。何故ならば太陰たる彼女は陽の怪異達の天敵足りえる存在であるがゆえに。
怪異とは己が失った対の気を求めるだけの現象、いつかの誰かの残骸。陰陽の気を共に持つことが当然の世界、その理から外れたがゆえに死ぬことも生きることも出来なくなった怪物。怪異とは基本的に死なないし、死ねない。陽の気に囚われたものであれば、死ぬほどの重傷を負ったとしてもたちどころにその傷は癒え。陰の気に縛られたものであれば、そもそも傷を負わせることがほぼ不可能と言っていいだろう。であるならば、怪異とは対処のしようがない災害なのか。
それは違う。怪物達への対抗手段は確かに存在する。それは怪異が持つ膨大な気と釣り合うだけの対となる気をぶつけ、怪異を陰陽の理へと引き戻すこと。陰陽の理から外れ死なずの存在へと成り下がった者達を止める手段とは、死ねる存在へと立ち戻らせることただそれだけである。
逆に言えば、怪異は対となる気に近づきさえしなければほぼ無敵といって差し支えがない。それでもこの怪物達はそれらを求めずにはいられない。陰陽互根、陰があれば陽があり、陽があれば陰があるというこの世界の根本原理。陰陽の理から外れても、それを求める生命としての本能がそうさせるのか。それとも生命としての矜持が終わりを望むのか、それは怪異達にしか分らぬことである。どうあれ、彼奴等はどのような障害も跳ねのけ、対となる気を求め、彷徨う。今、園城寺千歳を追う怪異──鬼哭もまた例外ではなく。己を滅ぼしうる存在と知りながら、白い少女へと黒き鎧武者は迫る。
対してその天敵足りうる少女は言葉を紡ぐ。陰陽の気とはこの世界を構成する重大な要素、それらに干渉するのは即ち世界に干渉することに他ならない。言葉そのものは重要ではない、必要なのは成しえることを、臨むことを明確に想像できるかどうかである。熟練の術師は詠唱などせずとも様々な術を行使し、似たような効果でありながら流派や家によって文言が異なるのはこのことが故だ。言葉や動作とはあくまで、術を発動できる状態へと己を作り変えるための手段でしかない。園城寺千歳は術師としては未熟も未熟。だからこそ言葉を紡ぎ、父から教えらた言葉を紡ぐ。それは基礎の基礎、ただ己が持つ気を敵に対して放つそれだけの術。少女と同程度の腕前の術師が使ったところで大した効果は望めない、そう使うのがただの人間であればだが。
「小さく、軽く、短く、深く、細く、狭く、遅く」
言の葉を重ねるたびに白い少女の周囲から音が、光が、熱が、ありとあらゆるものが失われていく。植物は萎び、土は砂と化し、闇はよりその深さを増す。陰の気とは死の象徴、停滞、緩慢、抑制という性質を有する負のエネルギー。
「これらをもって即ち陰なり、貴方はかくのごとく在れ」
太陰たる少女が背負うそれは只人のそれとは比較にすらならず。それを今、少女は敵意と共に練り上げ、高め。
「急急如律令」
怪異へと向けて解き放った。
少女から放たれた陰の気が、かの鎧武者の身体を侵し、蝕む。その瞬間、目に見えて鎧武者の速度が減少し、体から迸っていた陽の気が僅かにされど確かに減衰した。
「お嬢!そんなに何度も大丈夫なんですかい?!」
「コフッ……私はまだ大丈夫。それよりヒーさん、今のうちに少しでも距離を」
「こういう時に言うのもあれですがねぇ……そのヒーさんって呼び名は気が抜けるからやめてくれませんかいお嬢。そもそもあっしはあんた達人間の死骸をあさってた
「なら何度でも言うけれど、ヒーさんは私にとっては昔から一緒に遊んでくれた妖でしかないもの。昔のことは昔のことよ。ヒーさんのことを恨む人はいるだろうし、それは仕方のないことだとも思うけれど。私がそう思う理由にはならないわ」
「お嬢……」
「それとヒーさんって名前はそんなに嫌かしら?ヒーさんって見た目は車輪のついた可愛い猫ちゃんだから似合うと思うのだけど。それにほら火車だし、結構いい名前をつけられたと私は思っているわ」
「……お嬢。あと何発くらいさっきのやつは打てますかい?」
「そういう反応が一番傷つくのだけど!?……いくらでもと言いたいところなのだけれど、。ヒーさんはどう。私の陰の気を打ち込んだことで少しは弱ってると思うのだけど、やっぱり空に上がるのは無理かしら?」
「さっきも言いましたがね、頭上を枝葉が覆ってるここじゃあ無謀としか言えませんぜ。ちんたら掻い潜ってる隙をあいつが見逃してくれるはずがねぇ。あいつが木をなぎ倒して出来た隙間から抜け出たとしても、あっしがあいつが届かないような高さに到達するより早く跳躍してきたあいつに叩き切られて、はい、おしまいってなところでしょう。業腹ですが、こうして根に足を取られないような高さを駆けるのが現状一番確実なんでさぁ。衛嗣様が持たせてるその木人形があいつの一太刀をまともに受けてもお嬢やあっしを守り切れるなら、話は別ですがね」
「無理だと思う。さっき掠っただけでも罅が入ったもの。直撃なんてしたら、ヒーさんと一緒に空の上ね」
「ゾッとしませんね。お嬢に傷一つでも付けたら、あっしは今度こそ旦那にこの世から退場させられかねませんぜ。というかだ。その旦那はまだなんですかい!?あのボケ主人、いつもお嬢のことあれだけ溺愛してるくせにこういう時に限って役に立たねぇ!」
「仕方ないわよ。連絡用の式神は送ったけど、どうしても届くまで時間はかかるもの。そこから追いつくとなれば更にね。それに怪異と私の気が入り混じってるせいで、私達の気を追うのにだって難儀するはず。幸い、怪異が派手に暴れてくれているからそれが目印には成ると思うけど」
「まだまだ時間はかかりそうですねぇ、そいつは」
「大丈夫。お父様も兄様も直ぐに来てくれるわ。それまでに少しでも怪異を人里から離さな……ガフッ……!」
「お嬢!」
槐という盾、火車という足、何より太陰という怪異へのカウンターとでも言うべき存在。本来なら一瞬で終わるはずの逃走劇を成立させているこれらの諸要素。しかし、それはこの逃走劇がいつまでも続くことを意味しない。
何故ならば、逃走劇を成立させている最も大きな要因たる園城寺千歳に限界が近づいているのだから。確かに太陰という宿痾を背負い、ここまで生き延びてきた少女の体は陰の気に対して余人より遥かに耐性を持ちえているだろう。三才、魂と気、肉体が相互に影響し合うというこの世界の思想から考えても、それは疑いようがない事実だ。しかし、それは陰の気に対して無敵であるということを意味しない。
本来なら周囲の協力があるとはいえ、普通に生活出来ているのが奇跡に等しい体である。そんな体で陰の気を高めれば、拍動は遅れ、血は巡らず、代謝は低下し、ありとあらゆる感覚が緩慢となっていく。あとは簡単だ。高く積み上げられた積み木の基礎を取り出せば、あっという間に崩壊するように。その身体は自壊する。
「ガフッ……ゴフッ……!」
「お嬢!」
園城寺千歳が血を吐いて膝から崩れ落ちる。巡らぬ血によって、薄い血管が詰まり裂けたのだ。幸いなのは陰の気によって痛覚さえも緩慢となってことにより、痛みもほとんど感じていないことだろう。血が巡らなければ、脳に酸素や栄養は届かず。脳が動かなくなれば、その肉体は用をなさない。太陰や太陽と呼ばれる存在達が、怪異に対して有効な存在としてこの世界で認識されていない理由がこれである。先ずもってまともに生き残れないということを差し置いても、そもそもとして戦える体ではないのだ。気を用いれば、それを調和するだけの対の気を持たぬ彼らの体は直ちに異常をきたす。こんな風にあまりにもあっけなく。
園城寺千歳の陰の気による妨害がなくなれば、怪異は間もなく少女を乗せた火車へと追いつくだろう。それがいつになるかはわからないが、少なくとも少女の父兄が到着するよりは早い。
かくして、人々のためにその身を投げうった少女の一生はこの森で終わる。助けの手は間に合わない。
「小さく、軽く、短く、深……」
「お嬢!もう無理です!」
「駄目よ。まだ、まだやれる……!ちいさ」
少女自身の抵抗の術も口から零れる水音でかき消えた。
こうして一人の少女の一生が終わる。救いの手は届かない──はずだった。
「ち……!」
もうぼんやりとしか聞こえないであろう少女の耳に聞きたかった声が響く。その瞬間、怪異の横面を何かが吹き飛ばした。
少女の前に降り立った何かは呆然とする少女の方へ振り向くと、これまた少女にとって見覚えるのある何かを抱えがながらもう一度叫ぶ。
「ちとせ!!」
太陰たる少女を怪異が感じたように、太陽たる少年もまた感じ取る。かくして対たる少年は今、少女の元へと辿り着き、あの日、少年の叫びに少女が応えたように。今度は少年が少女の手を取った。
(喀血処女を千陽君の前で逃したぁ……!!!もっと劇的な感じでファースト喀血は使うつもりだったのにぃ!)
……陰陽互根。陰があれば陽があり、陽があれば陰がある。それがこの世の理なれば。太陽たる少年と太陰たる少女はきっと、きっと離れない。
(あっ!でも、この展開は凄い、凄くヒロインポイント高いし、芸術点も高いな!なんか出そう!まあ、現在進行形で血が出てるんだけどね!!)
……繋いだこの手は離れない。離さない。
今回もここまで読んでいただきありがとうございました!
いやー千陽君と千歳ちゃんの合流シーンはベタですけど、やっぱりこういうヒロインを救う主人公っていうのは良いものですね()
そして感想、評価、お気に入りいつも本当にありがとうございます!
少しでも楽しんでいただけているのなら本当に嬉しいです!
あと少しですが、よろしくお願いしますね。