TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
二人組。
至極単純に二人から成る集団を指す言葉であり、コンビやカップル、ペア等々他に色々な言われ方がある。ちなみにあくまで個人的にだが、俺は千歳ちゃんと千陽君にはペアという表現が最もしっくりくる気がする。二つで一つになるものというペアは陰陽という属性も含めてこの二人にはピッタリな表現だと思うからだ。まあ、そんなどんな呼び方だろうがどうでも良いやろがいと言われそうな話はここで置いておく。
さて、基本的にキャラクターというものは他者と関わることでその魅力が増幅されると俺は考えている。無論、単体でそこにいるだけでも魅力的なキャラクターというのも存在する。しかし、誰かと関わっている姿を見ることで、そのキャラクターの色々な表情を知ることが出来る。その結果として魅力を感じる機会も単体であった時より多くなると思うのだ。美少女や美少年はただそこにいるだけで良いものだが、誰かとの絡みがあればより良いものになるということである。オタクがカップリングとかに狂うのもそういう側面が間違いなく存在するからだと思う。つまるところそのキャラ単体では得られない何かを他キャラとの絡みというものは与えてくれるのである。これは当然ヒロインや主人公の二人組にだって適用される。魅力的なヒロインは主人公をより魅力的にし、魅力的な主人公はヒロインをより魅力的にするものなのだ。
世に創作物は数多く、それぞれの作品において名コンビや名カップルというものが存在する。それはヒロインと主人公に限らない。例えばヒロインとヒロインの親友キャラだったり、主人公と主人公の親友キャラだったりする。彼ら彼女らは非常に魅力的な存在であり、そんな彼らのおかげでヒロインや主人公の魅力が増していることは一切否定できない事実だ。しかし、俺は力強く言いたい。恋愛物においてその作品における最高の二人組とは誰かと聞かれた時──選ばれるのはヒロインと主人公の二人でなくてはならないと!バトル展開ある作品だと主人公とヒロインの共闘展開とかあったら熱いよね、互いのことを補完し合うような能力とか持ってると尚いいよねと……!
やっぱりこうなっちゃったかぁと泣き叫ぶ千陽君を見ながら思う。千陽君はとても頑張り屋さんだ、千歳ちゃんを守るためだと日々鍛錬に勤しむ程度には。だから、あの場に一人で残した時点でこうなることは少し予想出来ていた。千陽君は千歳ちゃんを守るためならどれだけの苦痛だろうと踏み越えて気を高め続けるだろうことも、そして限界を超えた時に千陽君が怪異へと成りかけることも。太陽や太陰はただでさえ対となる気が少なく、安定しない特異体質。そんな体でどちらか片方の気だけを高め続ければ、どうなるかなど火を見るよりも明らかだ。そして理性をなくした時、その本能が求めるのは対となる気。即ち陰の気であり、あとはあの夜の時と同じだ。違うのはあの夜の時のように止めてあげられなかったことくらいだろう。
それにしても流石は理想の病弱系ヒロインとして日々邁進する千歳ちゃんの主人公として俺が見初めた相手である。千陽君があの怪異を足止めしてくれていた間もヒーさんは千歳ちゃんや咲良ちゃんを乗せて走り続けていたにも関わらず、千陽君はあっという間に追いついてきたのだ。ヒーさんが千歳ちゃんを治療する咲良ちゃんを気づかって平時より速度を落としていたとはいえ驚異的な速度と言えるだろう。その上、兄様から渡されていた身代わり用の式神である槐を貫通して千歳ちゃんの体に傷を残す始末。傷と言っても槐がほとんど代わりに受けてくれたおかげで浅いものだが、それでもたった一撃で抜いてくるのは予想外である、陽の気による成長や強化があるとしても年齢を考えれば驚異的な戦闘能力だと言えるだろう。
まあ、それで理性飛ばして暴走しちゃってたら意味ないんだけども。いや、ヒロインを暴走の果てに切り裂くなんて王道も王道なイベントを起こしてくれたのはプラスと言えるかもしれないが、まだまだ子供の千陽君にこの手のイベントは早すぎると思うんだよね。こういうのってやってしまったことに耐えられるくらいメンタルが強いキャラがやるから良いものだと思うのだ。それにどうせ切るなら最初から最後まで千陽君の意志で切って欲しい、例えば千歳ちゃんが陰の怪異に成り果てるところを止めるために切るとかそんな展開でお願いしたい。そんなことしたらバットエンド確定だけどね!どうして現実っていうのはルート分岐出来ないんだ……!!
そんなちょっと興奮しちゃう展開の妄想はこれくらいにして、そろそろ現実と向き合おう。正直に言えば余裕は余りない。元々、セーブしていた陰の気を解放した時点で体はただでは済まないのは確定していた。普段は量を調節することで、俺の病弱系ヒロインライフを助けてくれる頼もしい相棒でいてくれている陰の気君であるが。風邪の時もそうだったように調節が出来なくなれば普通にやばい。体全体の機能が落ちていくから血は回らないし、息もしづらくなるし。まあ、それを苦しいと感じる感覚も薄くなってるから良いんだけどね!やっぱり陰の気君って頼りになるわ。
しかし、折角お母様が整えてくれた髪もグチャグチャになってしまったし、千陽君とのお花見デートだからと咲良ちゃんと一緒に選んだ一張羅もボロボロになってしまった。その上、肌も傷だらけである。いやまあ、負傷差分はあればあるほど良い派な人間としてはありがたいんだが。千陽君とか今回のお花見デートすっごい楽しみにしてくれてたし、咲良ちゃんだって口煩くしながらも千歳ちゃんが普通の女の子のように出掛けることを喜んでくれていた。
「ごめんなさい…ごめ……!」
「千陽落ち着け!ヒーさん様とりあえず距離を!」
「言われなくてもやってまさぁ!」
それがこれである。あのさぁ……。確かに病弱系ヒロインとのラブコメにおいてシリアスパートというのは必要である。俺だって千歳ちゃんをやっていくにあたって、いつかはこういう重めな展開も構想はしていた。けど、それは今じゃないんだよ。千歳ちゃんは良い、中身は俺なんだから。そもそも病弱系ヒロインスキーとしては苦しそうな表情とかしんどい展開とかむしろバッチコイというやつだ。だが、千陽君や咲良ちゃんは違う。二人はまだまだ子供なのだ。この中では年長の咲良ちゃんだって前世で言えばまだ中学生位だし、千陽君にいたっては体はともかく心は良くて幼稚園児位といったところだろう。そんな子達が日常の中で苦悩するならまだしも、こんな切った張ったの鉄火場で傷つくのは何というか違うのだ。こういう展開はせめて高校生くらいにはなってからにして欲しい、高校生や大人になったらいくらでもやっていいから。というか、俺こと千歳ちゃんがやるから。
そして何より許せないのはだ。千陽君と千歳ちゃんはまだまだ幼い、つまり物語で言えばまだ序盤。初期の頃に穏やかな日常展開を丁寧にやるからこういう展開が際立つのであって、最初からハードモードだとメリハリがなくなる。俺としては今の時期は穏やかに千陽君と咲良ちゃんと日常系ラブコメして、青年になったあたりからアクセルを踏み込もうとしていたのにこれだよ。つまりあの怪異は倫理観的にも千歳ちゃんというヒロインの物語的にもクソ展開をかましてくれたのである。まあ、引き寄せたのは他ならぬ千歳ちゃんなんだけども。だからこそ、二人を巻き込むことなく何とかしたかったのだが、ことこうなってしまっては仕方ない。というか、なんとかしないとお父様が間に合わないとこのまま全員ジエンドである。そんなクソ展開は認めない、俺は病弱系ヒロイン愛好者にしてハッピーエンド主義者、曇らせをするなら最後はしっかり晴れさせろ会の人間である。分岐の一つとしてのバッドエンドは尊重するが、一本道のそれは許容しない。千歳ちゃんは千陽君と幸せになって、咲良ちゃんは二人の子供もお世話するんだよ!!!
◇◇◇
「あっ……あぁ……!」
少女の血が少年が手にしている剣から滴り落ちる。少年に全てを与えてくれた少女である。生まれて初めて大切だと少年が思った少女である。笑っていて欲しいと心の底から願った少女である。そんな少女は平時より青白い肌を更に白くして、少年の前に倒れ伏していた。切り裂かれた香袋、その中から漂ってくる強烈な九里香の匂いがこれが現実だと少年に突き付ける。
───守ろうとした少女を己が切り裂いたのだという現実を。
未だ幼い少年の心はその現実に耐えられない。悲鳴をあげる心、逃避しようとする少年を刻まれた思い出が縫い留める。少女と過ごした一年が、その中で積み重ねた思い出の一つ一つが少年を現実と向かい合わさせる。
「あぁぁぁぁぁぁ……!」
そのまま狂えれば楽だったろうに、少女との一年は少年にそんな堕落さえも許さなかった。
「千陽大丈夫だ!千歳様にはまだ息がある!だから……だから……!」
そんな少女を励ます少女もまた限界であった。力を減じたとはいえ後ろには怪異が迫り、己の敬愛する主が弟のように思い始めていた存在によって切り伏せられるという異常事態。主にふさわしい側仕え足らんとして常に己を律し、磨き続けてきた鳳条咲良であっても平然としていられるわけもなく。
少年と少女が混乱と絶望の渦中にいる間にも怪異は刻一刻と迫る。それに気づきながらも火車は上にいる三人を気づかって速度をあげられない、ここまでの戦闘でその力を落としてはいるものの式神一体と満身創痍の子供三人程度ならなんの苦も無く怪異は鏖殺せしめるだろう。
森林を吹き飛ばしながら追走する怪異は、少年達にとっては死を運ぶ黒い風か。瞬く間に潰れていく彼我の間合い、伸ばされた手は──少年達に届くことはなかった。奇跡が起きたのではない、白い少女が先刻まで行っていたように陰の気を怪異へと打ち出したのだ。鈍る怪異の足、一瞬ではあるが余裕が生まれる。ここまでは先刻と何も変わらない、違うのは気を打ち出した少女の様子である。
常ならば輝かんばかりの白髪に平時の面影はなく、衣服は血に濡れ、少女の体にへばりついている。普段から青白い肌はことらにその白さを増し、震える足で立ち上がる姿は幽鬼の如き有様である。息をするだけで湿ったような音が口から洩れ、せき込んだ際には血が周囲へと飛び散っている。それでもなお浮かべる笑顔だけは千陽と鳳条咲良がよく知るもので。
「二人とも大丈夫?」
園城寺千歳がそこに居た。
「千歳様?いや何をされているのですか、そんなお体で!?」
「大丈夫。さっきの千陽の一撃は兄様が持たせてくれた式神が代わりにほとんど受けてくれたし。それより前の傷なんかは咲良が治療してくれたおかげで大分体は楽になったもの。流石は咲良、私自慢の側仕えね!」
「……私は何も。精々が少しの止血を行って位で、薬も菖蒲先生から頂いたものをお渡ししただけですから」
「だとしてもよほんと、咲良にはいつも助けてもらってばっかりだもの」
「何を……」
「本心よ。そして千陽こっちに来てくれるかしら」
「……ッ!」
「大丈夫、怒ったりなんかしないから」
「ちとせ…おれ……ごめ」
「お馬鹿」
まるで自分が化け物であるかのように、少女の側に少年は近寄ろうとしない。そんな様子を見るや園城寺千歳はゆっくりと千陽の側に近づくと、優しくその体を抱きすくめる。泣きながら震える子供を包み込む母親のように、これ以上少年が自分で自分のことを傷つけてしまわないように。
「ち…とせ……」
「貴方は悪くない、だって千陽は頑張っただけだもの。頑張った結果が空回りなんて、誰にだってあること。まして千陽は子供だもの」
「でも、おれ……おれ……!」
「そうね。けど、それは私も同じよ。私も一人で何とかしようとして、結局千陽達を巻き込んでこうして傷つけた」
太陰と太陽。それぞれが己だけでは生きてはいけぬ不完全。
「ねぇ、千陽。私が風邪をひいてしまった時、手を握ってくれたことを覚えてる?貴方が私を救ってくれた日のことを覚えている?貴方は私を傷つけてしまう化け物なんかじゃない、貴方は私を照らしてくれる太陽。貴方が照らしてくれるから、私は前よりずっとこの世界が色鮮やかに見えるの」
陰陽互根。陰があれば陽があり、陽があれば陰がある。互いに反発し、調和し、どちらかだけでなくどちらもあるから世界は廻る。
「だから、私から離れようとしないで千陽。ずっと側にいて、今度は一緒に戦いましょう。今度こそちゃんと守りたいものを守れるように、私達は二人で一つなんだから」
「……!」
陰陽有りて対極を成す。ここに一対の太陰と太陽は揃い、少年と少女の間を互いの気が流転する。陰陽が補い合うのは世界の理。であるのならば、この一対もまた揃ってこそのものだろう。
極
陰陽制約。陽虚すれば陰虚し、陰虚すれば陽虚す。転じて陽実すれば陰実し、陰実すれば陽実する。どちらかだけでは万象全て立ちいかぬ。故に陰陽。故に対極。
立ち上る陰陽の気その中心に存在する少年少女に憂いも苦痛もなく、ただ力強く怪異へと向き直る。
己の片割れを失ったもの。失ったものだけを追い求める、誰かの過去。そんな存在を何を恐れることがあろうか。
「行くわよ千陽。今度は二人で」
「うん!おれ……俺!千歳を守るよ!」
対たる宿命を背負った二人は今、初めて共に戦場に立つ。
(私は……何も……!)
一人の少女はただ眺めていることしかできなかった。
(んほぉぉぉぉぉぉぉぉ!こういうヒロインと主人公の共闘展開たまんねー!あと千陽君が急に男の顔になるのも良き!……それにしてもいつも思うんだが、この陰陽の設定って成人ゲームとかだと絶対そういうシーン挟まれてそうだよね!)
………………一人の少女はただ眺めていることしかできなかった。
送られてくる感想が主人公に関しては大体一致してるのがこの作品の一番好きなところです。
千陽君悪いこと言わないから咲良ちゃんにしといた方が良いと思うよ?
まあ、この阿呆が逃がしてくれるわけないんだけどね!
かわうそ()
そしていつもお気に入り、評価、感想ありがとうございます!
ほんとに嬉しいので、感謝感謝です!