TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
不器用。
物事や人付き合いを要領良くこなせないことや、手先が不器用なことを指す言葉である。
不器用というのは創作においても一定数見られる属性でもあり、そんな属性を与えられたキャラはシンプルに手先が器用ではなかったり、はたまた他者とのコミュニケーションが上手くできなかったりする存在として描かれることが多い。
相手を思いながらもそれを上手く伝えることが出来ずにすれ違う、ちゃんと言葉にしろよとヤキモキさせられることも多いキャラ像である。しかし、そんな風に空回り、素直になれない彼らだからこそ、俺達はその不器用さに心を打たれるのかもしれない。──不器用なキャラの本音が分かる瞬間って良いよね……。
◇◇◇
「お言葉通り、千歳様は自室前で送り届けてまいりました」
「……そうか。お手を煩わせてしまい申し訳なかったな鳳条咲良殿」
「私は今この家に奉公に来ている人間であれば、そのようなお言葉使いや敬称は不要でございます。
「そうか、であるのならば……咲良と呼ぶが構わないな?」
「勿論でございます。衛嗣様」
性差、年齢差があるとはいえ妹である千歳様とは似ても似つかない、見ただけで頑健であると分かる体躯。
私と話をしていても眉一つ動かさず、何の感情もその顔から読み取ることができない。人と話すとコロコロと表情を変えられ、喜怒哀楽が分かりやすい千歳様とはまるっきり正反対の無表情。
声音も愛嬌があって親しみやすい千歳様のものとは異なり、近づくことを拒絶するような冷たさを感じる。
そして陰の気によって白髪となった千歳様とは違う、宵闇のような黒い髪。
これが園城寺家のご嫡男にして、千歳様の兄君、園城寺衛嗣様。
大きく年齢が離れているのもあるのだろうが、兄妹ですと紹介されなければそうとは思えないほど似ていない。千歳様が風雪に怯える可憐な花であるならば、衛嗣様はそれらをものともしない剛健な巨木のように思える。
「仕事の最中にこうして時間を取らせしまって済まないな」
「お気になさらないでください、私としても一度ご挨拶をと思っておりましたので」
「そうか、そう言ってくれるとこちらとしても罪悪感を感じずに済む」
「……恐縮です」
関わり辛い印象があるのは事実。しかし、こうして話ながら私のことを気づかってくださったり、他家からの奉公人という立場とはいえ妹の側仕えの私に最初は敬語や敬称さえ使おうとしていた。それに千歳様のお話では当主様や奥様にもこまめに文を届けておられるという。私としては見た目等々は威圧感があるが、お優しそうな方というのがここまでの印象だ。
だからこそ、だからこそ解せない。なぜ千歳様にだけはあのような態度を取られるのかが。
「この家での生活はどうだ?何か不自由などしていないだろうか」
「お気遣いありがとうございます。しかし、そのようなことは何もございません。当主様を筆頭に皆さん本当によくして下っていますから」
「そうか…」
疑問符で満たされる私の心とは違い、会話は円滑に当たり障りなく進んでいく。向けられる言葉の多くは私を気づかってくださるものであり、それ以外のものも当主様や奥様、この家の他の使用人を気に掛けるものばかりだ。返答の多くがそうかのような簡素なものではあるし、やはりそっけなく感じる時もあるが、どうしても悪い方という印象は持てない。少なくともあのようなお体の千歳様に対して部屋の戸も開けず、一瞥することもなく自室に帰れなどと仰るような方ではないように思える。
千歳様は衛嗣様は自分のことを疎まれているのだと仰られていた。しかし、本当にそうなのだろうか?
衛嗣様は千歳様がお生まれになられてから少しして衛府に勤める衛士になられたという、その後に帰ってこられるのは今回のようなたまの帰省のみという話だ。そうであるなら、この兄妹はほとんど時間を一緒に過ごしていないということになる。衛嗣様がお家におられたのは千歳様の物心がつく前のことだ。その後の帰省でも毎度この有様なのだとしたら千歳様が衛嗣様の本心を本当に理解できていると言えるだろうか、この一年ともに過ごしただけの私より遥かに短い時間しか共にしていないというのに。
初対面のそれも立場が上の相手に何かを問うことが無礼だなどというのは承知している。しかし、私は千歳様のあのお顔を見てしまった。であるならば、であるのならば……!問わぬばならない、この方に、園城寺衛嗣様に私は問わぬばならない。私は園城寺千歳様の側仕え、ならばこそ問わぬばならない。──あの方の悲しい顔を一瞬でも減らすことが、私の務めなのだから。
「……衛嗣様。お伺いことがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「構わない、こちらばかり話すのも困っていたところだ」
「お気遣い感謝します。それでは伺いますが、なぜ千歳様とお会いになられないのですか?」
「……」
「無礼を承知で申しています。ここまでお話させていただいた私としては衛嗣様はお優しい方であると感じました。だからこそ、解せないのです。貴方様のような方が妹をそれもあのようなお体の千歳様を気にかけるならばまだしも、遠ざけるなど私にはどうにも得心が出来ません」
「……」
「何か理由があられるのではないのですが?どうかそれを教えてはいただけませんか?」
「……」
私の問いに帰ってくる言葉はない、ただでさえ少なかった口数は絶無となり私の声だけが部屋に響く。耳が痛くなるような沈黙、されどここで引くわけにはいかない。私は勝負の一手を繰り出した。
「……千歳様はあのような扱いを受けることを当然ですが悲しんでおられます」
「……ッ!」
今日初めて衛嗣様の表情が変わる、浮かび上がった表情は沈痛。思った通りだ。やはり、この方はお優しい。そこからしばしの沈黙の後、衛嗣様が口を重そうに開かれた。
「……俺の体を見てどう思った」
「ご立派なお体だと感じました。流石は衛府の衛士としてお勤めになられているだけはあるなと」
「そうだ、俺は実に多くのものを与えられた。病知らずの肉体も陰陽が整った気も……澱みを知らぬ魂も。……俺は千歳が持たぬものを持ちすぎている、あいつが望んで手に入らぬものを当然のように手にしている。故に──俺は背を向けることでしかあいつの目を見つめることができない」
「……」
「怖いのだお兄ちゃんと呼んでくれたあの子に嫉妬の目を向けられるのが、あの小さな口からどうしてあなただけがという言葉が放たれるのが、俺はただ恐ろしいのだ。……妹に嫌われるのがたまらなく恐ろしいのだ」
「……」
「……我が家には千歳の前にも一人妹がいた。七つを迎える前に天に帰ってしまったがな。七つを超えぬ子どもが死んだときのことについては知っているか?」
「はい。服忌を定めた法令では七つまでは喪に服さずともよいとされています」
「そうだ。幼い子供は死にやすい、その度に喪に服していては仕方がないということなのだろう。理屈は分かる。しかし、心は別ということだ。……千歳が産まれた時、俺はああまたかと思った。しかし、あの子は生きてくれた。生きてくれた。それが一体どれほどの俺にとって、父上や母上にとってどれほど……!」
「だからこそ、大切だからこそ恐ろしいということでございますか?」
「あぁ、つまるところそういうことだ。我ながら情けない話だとは思うが、それでも俺は……」
大きな体が小さくなったように感じられる。その感情の重さを示すように、ゆっくり、ゆっくりと吐き出すように告げられた言葉には千歳様への愛に満ちていた。やはり、私の考えは間違ってなどいなかった。
しかし、この方は一つ大きな思い違いをしている。それも千歳様を乏しめるような決定的な間違いを、正さぬばならないそうでなくては私がいる意味がないのだから。
「衛嗣様のお気持ち、確かに拝聴いたしました。その上で千歳様のことを何も知らないのだなということが、よく分かりました。確かに千歳様は苦しい人生を歩まれております。しかし、千歳様はその上で『皆とこうして過ごせている私は恵まれている』と言える強さを持ったお方です。過ぎた物言いであると分かっております。その上で私の主への侮辱は今すぐ撤回していただきたく……!」
「兄である俺よりもよく知っているかのような物言いだな」
「その通りでございますので」
「そうか……そうだな……。咲良は一年を共に過ごし、俺は生まれてからの時間をただ逃げた。これでは勝てるはずもないか……父上や母上からも聞いているが、強く育っているのだな」
「はい。それはもう衛嗣様にも負けないほどに」
「……感謝する咲良。お前が千歳の側仕えであってくれてよかった」
「過分な評価痛み入ります。そして無礼な物言いをしてしまい申し訳ありません。処分はいかようにも」
「構わない。そんなことをしてしまったら、俺は本当に千歳に嫌われてしまうだろう?」
「そうでしょうか?」
「そうだとも。これからも千歳のことをよろしく頼む」
「承知いたしました。この身にかけても必ず」
「ありがとう。……ありがとうついでで悪いのだが、少しお願いをしても良いだろうか?」
「……勿論です。私は園城寺家に仕える身ですから」
(兄様の部屋から戻ってきた咲良ちゃんが、兄様からの手紙と櫛と帯紐を持って帰ってきた件について。……なんで?????急にどうしたの兄様?というかここまでするなら素直に一緒に話そうよ兄様ぁ!?)
なんかどんどんお気に入りが増えててありがたいのですが、見たことない数字過ぎてもはや怖いんですよね……!
夜勤前に書けたので投げておきます。明日は流石にないと思います。
ここから先は読まなくても良いです
園城寺 衛嗣
園城寺の嫡男であり千歳ちゃんの兄様。またの名を被害者その2。
妹を守らなければならない兄という立場でありながら、妹が持ちえぬものをすべて持っているという立場に苦悩している可哀そうな人。また、好きだからこそ妹に嫉妬や怨嗟の感情を向けられることを恐れており、そのために千歳ちゃんと向き合えずにいた。
しかし、その本性はお兄ちゃん呼びで完堕ちした超シスコンであり、亡くなった妹の分を含めた二人分の愛を抱えているスーパーお兄ちゃん。
そのため成長を祝うための櫛や帯紐というも準備していたが、なかなか送ることが出来ずにいた。
しかし、咲良ちゃんからの言葉を聞いたことで決心し、初めての手紙と共に千歳ちゃんに咲良ちゃんを通してであるが送るのだった。結構めんどくさい人。