TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
お医者様。
日々、大変な仕事を患者のために頑張ってくれている方々である。当たり前といえば当たり前だが、病弱という看板を背負って生きる病弱系ヒロインの物語には登場することが多い。その中で主人公にヒロインが置かれている現状を具体的に説明したり、場合によってはヒロインのためという前提はあるものの主人公とヒロインの関係を引き裂こうとするなんて役割を任せられることもある。
このように物語の方向性で様々な役割を担うお医者様であるが、多くの場合ヒロインを救えないことに苦悩し、ヒロインの幸せを願い主人公君に協力してくれる病弱系ヒロインにとっては心強い味方ともいえる存在だ。
知識として知っているからこそ、誰よりもヒロインの苦しみを具体的に理解できる。しかし、自分には何をしてあげることもできないという無力感を背負いがちな立場であり、そんな立場だからこそ彼らが放つセリフは重い。
彼らという存在が病弱系ヒロインを中心とした物語の大きな転機となることも多く、主人公が医者として登場することもあるなど病弱系ヒロインとお医者様は切っても切れない間柄であると言えるだろう。──お医者様が病弱系ヒロインちゃんの笑顔を見て涙する展開って良いよね……。
咲良ちゃんと兄様が何かを話し合ってから早数か月、兄様は以前では考えられないほどにお手紙を送ってくれるようになった。まあ、内容の方は『息災か?』とか『食事はとれているか?』みたいにお硬い上に手紙自体も短いものだが、それでもこうしてこまめに送ってきてくれるというのはとても嬉しいものだ。
そう嬉しい……嬉しいのだが……ほぼ日刊兄様からの手紙!みたいになってるのはどうかと思いますよ兄様ぁ!毎度、毎度そんなに書くことないんですよ兄様ぁ!それと確かに櫛や帯紐を送ってもらって嬉しかったけども、だからって頻繁に送られても困るんですよ兄様ぁ!咲良ちゃんが櫛とか帯紐の置き場所に困り始めてるんですよ兄様ぁ!!
そんな感じで新たな悩みが発生してはいるが、兄様シスコン化計画は順調に進行していると言えるだろう。
しかし、本当に咲良ちゃんはあの時、兄様と何を話したのだろうか。聞いても『千歳様について少しおはなしさせていただいただけです』としか答えてくれないし。
まあ、千歳ちゃんについて語った上でこれということは、ようやく兄上様も病弱系妹ヒロインたる千歳ちゃんの素晴らしさに気づいてくれたということだろう。こんなに儚くて透明感のある妹がいるのに溺愛しない兄なんているはずないからな……!むしろ、今までが可笑しかったと言える。
それにしても千歳ちゃんの素晴らしさを兄様に伝えてくれた咲良ちゃんにはもうほんと頭が上がらないよね、日々の生活での貢献と言い本当に最高の親友キャラ兼メイドキャラ的な存在だと思う。
いずれ現れる千歳ちゃんの主人公君に対しても期待してるよ咲良ちゃん!
こんな感じで主人公が見つからない以外は実に順風満帆な病弱系ヒロイン(健康体)生活を謳歌している俺だが、当然人間である以上は生活していて嫌だなーと思うことはある。
「千歳様、本日も先生が来られました」
「千歳ちゃん久しぶり、体の方はどうかな?」
「はい、最近は体の調子も良くて、こんな風に跳ねたりも出来ますよ!これも菖蒲先生のおかげですね」
「うん……嬉しいけど、急に飛んだり跳ねたりはやめてね!心臓に悪いから!本当に!」
この知的で涼やかな見た目とは裏腹に、キレよく、テンポよく実にいいリアクションを返してくれる女性は名を
この世界には陰陽の気という不思議パワーがあるが、それで全てが解決できるて医者いらず!となるかというと残念ながらそうではない。
先ずもって陰陽の気というものはこの世界の人間ならば全員が持っている。しかし、それを意識的に制御し、使うとなると全員が出来るわけでない。俺はこっちに生まれた瞬間なんとなくで掴めたが、普通はしっかり指導者がついて覚えるようなものらしい。
そうした指導を受けたとしてもその感覚を掴み切れない人というのもおり、ここら辺が陰陽師を家業とする家が立場を保てている大きな理由なのかもしれない。ノウハウがある家は強いというのは前世だろうが、今世だろうが変わらないということだろう。長くなったが、つまるところ気を使える存在、陰陽師というものはそれなりに希少なのだ。
そのため誰かが怪我をした、病気になったら陰陽の気の力だけで治そうなんてことをやっていると絶対的に人手が足りなくなる。そこで気を用いずに健康を保つための術、医術がこの世界でも生み出され、研鑽されているというわけだ。
もう一つ理由があるとすれば色々と便利な陰の気や陽の気であるが、完璧というわけではないというのもあるだろう。
例えば腕を切り落とされるような大けがをしたとする。優れた使い手であれば切り落とされた腕を繋いだり、術者によっては一から生やすという聞くだけだと本当に人間か?と疑うようなことまで可能とするのが陰陽の気である。実際、兄様に何か術を見せてと強請った際にいきなり自分の腕を軽くとはいえ切ったと思ったら、その瞬間には傷が跡形もなく消えていたなんてものを見せられたこともある。
余談だが、兄様はその時しっかりとお母様から怒られていたりする。あの人、最近は手紙だけでなく家に戻ってくることも激増しているので、仲良くなろうと話しかけたらこれである。本当に人としてどうかと思うよ?兄様。
ちなみに仕事中に腕や足が飛ぶことも多いので、これくらいならなんてことはないと平然と話していたことは忘れようもない。お父様も分かる分かる的な感じで隣で頷いていたのもあって、怖さが倍率ドンである。女性陣は全員引いていたと思う。
このように非常に便利な陰陽の気による治療だが、急速に直したり、無理やり血を止めたりしているのもあってやはり体に相応の負担がかかるらしい。そのため一刻の猶予を争うような事態でもない限りは気を用いずに治療することが推奨されているとのことだ。……そんなものを余興感覚でやったのか兄様は改めてちょっと引くわ。
そういった背景もあるためか国絡みで医師の育成には力を入れており、役所の一つとして医療やその人材の育成、薬草園の管理等を行う施薬府というものが存在している。ちなみに菖蒲先生は民間ではなく、その施薬府に所属しているお医者様だったりする。前世風に言えば親方日の丸、天下御免の国家資格持ちのちゃんとしたお医者様というわけだ。まだまだ若いのに凄いなぁと思うし、個人的に美しい女医さんというのは病弱系ヒロインポイントが高いので菖蒲先生のことは嫌いではないのだ。いや、むしろ好きとさえ言ってもいい。
「うん。気も含めて診させてもらったけど、特に問題はなさそうかな。いや、千歳ちゃんの場合は普通の状態が異常だから問題があるともいえるんだけど……。ま、まあ、とりあえず安定はしているようで安心したわ」
「菖蒲先生、今日もありがとうございました。それでは……」
「だーめ」
「千歳様お気持ちお察ししますが…お体のためです。頑張りましょう」
「咲良ぁ……」
そう菖蒲先生のことは嫌いではない、嫌いなのは菖蒲先生が持ってくるこれだ。
「はい。それじゃあ今日もグイっといってみましょうか!」
「はいぃ……」
それは
ちなみに原材料は聞かないようにしている。最初に出された時、興味本位で聞いたら蛇やら蜥蜴やら蚯蚓やらの名前が乱れ飛んだからである。この世界、陰陽の気を整えれば体が本当に健康になるということもあってか医食同源の考えが非常に強く、食べるものへの意識というのも必然的に高い。それはもう試せるものはなんでも試すといった感じである。そんな世界でわざわざ薬とつけられるものに入っているものが、普通なものであるはずもなく。どうせ逃げられないなら、聞かない方がマシということだ。
「今回は䗪虫や蜈虫を使ったものだから、精がつくはずよ」
菖蒲先生に以前教えてもらったが、䗪虫とはゴキブリ、蜈虫とはムカデのことである。
……分かっている。菖蒲先生は心の底から千歳ちゃんのことを思ってくれているということは。
しかし、あえてそれでも言わせてほしい、キツイって……!!!
あっ、でも本気で苦しいので自然に病弱系ヒロインムーブが出来るのはとても嬉しい。毎度、鏡に映るうえぇ……という顔をした千歳ちゃんを見ると興奮さえしてくる。…………菖蒲先生いつもありがとう!
うちの小説は大体こんな感じです。
これで良いのかと思いますが、書けるものしか書けないので仕方ないですね。