TS転生したし病弱系ヒロインになりてぇ!! なった!!! 作:燕目
主人公とヒロインの関係。
主人公とヒロインが出会ったとしても恋愛が直ぐに始まるわけではない。無論、一目惚れからどちらかが即告白という展開ならその限りではないが、それは少々どころではないレアケースだろう。ラブコメを筆頭とした凡その恋愛物というのは出会いからの紆余曲折を楽しむものであり、その過程にこそ重きを置くという人は多い。少なくとも俺はそうだった。
その過程を描くためには主人公とヒロインに定期的に出会ったり、行動を共にするような、そういう行動をしていても違和感を抱かれないような関係を生じさせなくてはならない。それは例えば仕事仲間だったり、幼馴染だったり、ライバルだったり、同級生だったり、家庭教師だったりする。ここに最初はいがみ合っていたりとか、最初からお互いのことを好く思っていたというような属性まで考え出すと本当に切りがない。
キャラクター同士の関係というものは多種多様であり俺のようなどこにでもいる病弱系ヒロインスキーでは思いつきもしないような関係というものが考えられ、今日もどこかで読者や視聴者を魅了していることだろう。
さて、過程を楽しむという性質である以上、その過程を生み出すきっかけとなる出会いと同じくらいに過程を続けていく理由となる関係というものは重要であるように俺は思う。そして出会いというものと同じくこの関係というものにも正解はないように思う。好ましいと思うものは人によって違うのは当然だからだ。
だが、あえて今回もその前提を理解した上で俺は叫ばせてもらいたいと思う。──主人公とヒロインの関係は互いがいなければ存在し得ないと思うほどに、重ければ重いほど良いよね……。
◇◇◇
既に主従にとって日常となった何気ない雑談。
「千歳様お体は冷えませんか?」
「大丈夫よ咲良。お屋敷の中は暖かいもの」
「そうですか。そうだまた衛嗣様からお手紙と、今回はお菓子が共に届いております」
「……兄様、色々と送ってくださるのはとても嬉しいのだけど。お金とか大丈夫なのかしら?」
「流石に衛嗣様と言えど、そこら辺の分別はつけられていると思いますが……」
しんしんと降り積もる雪の静けさに負けることなく、二人の少女の口から漏れ出る言葉が止まることはない。部屋の隅に置かれた火鉢は暖かく、その中で燃えている炭と共に未だ幼い少女達を静かに見守っているようでさえあった。
季節は園城寺千歳と鳳条咲良の二人が出会って二度目の冬になろうとしていた。
「それにしても今日は朝からよく降るわね」
「そうですね。外はもう真っ白です」
「私の髪みたいに?」
「千歳様の月光のような御髪の方がよほど真白でお綺麗です」
「……咲良も随分と私のお世話になれたものね。去年の冬に同じことを言ったら、何とも言えない顔で黙っていたのに」
悪戯が失敗した子供のようなふくれっ面を見せたかと思えば、次の瞬間には溢れんばかりの笑顔を浮かべて園城寺千歳は鳳条咲良の膝に頭を預ける。それに対して鳳条咲良が驚くことはない。この程度のじゃれ合いなどこの2人にとっては既に日常茶飯事のことだからだ。
「私は千歳様がただ哀れみを向けられるだけのか弱い存在ではないということをよく知っていますので」
「買い被りよ咲良。私は皆がいるからこうしていられるだけ。一人じゃ何もできないもの」
「それは誰でも同じことです。陰陽の気と同じように、私達は誰かがいるから健やかに生きられるのですから」
「……咲良は私がいることで、少しでも健やかに生きられているかしら?」
「無論です。そうでないなら今もこうしてお喋りなどいたしませんよ、千歳様」
「そう。……ありがとう咲良」
鳳条咲良の手が園城寺千歳の白髪に触れる。何の抵抗もなくスッと手指が通るのは普段の手入れの賜物か。持ち上げられた髪から手が離されると、はらはらとはらはらとまるで舞うようにあるべき場所へと落ちていった。
「髪かなりお伸びになられましたね」
「……ようやくここまでね。それでもまだまだ首にかかるかかからないかってところなのだけど」
「何事も一朝一夕には成りませんよ。奥様も一年や二年であのような長く美しい御髪になられたわけではありません」
「分っているのだけどね、それでも……ううん、何でもないわ。そうよねこういうものよね」
「はい、そうですよ千歳様。こういうものでございます」
膝に置かれた主の頭に従者の手が触れる。まるで触れれば壊れるガラス細工を扱うように慎重に、まるで触れれば溶けてしまう雪花を触るように優しく、優しくただ撫でつける。
気持ちよさそうに主が目を閉じると、それを察した従者もまた口を閉ざす。先ほどまでとは打って変わって静けさが部屋を包み、ただパチパチという火鉢の中で炭が燃える音だけが響いていた。
こうして今日もこの主従の一日は終わっていく。
(どうか、どうか今日も安らかに。今日も良き夢を千歳様)
そこにはいつもと同じく従者のひたすらな愛があった。
(病弱系ヒロインがこうして同性の相手に甘えてるシーンって良いよね……健康に良い……)
対して主人はこれであった。
◇◇◇
順風満帆な病弱系ヒロイン(健康体)生活を営んで早幾年。咲良ちゃんが俺の側についてくれるようになってから、あっという間に二年もの月日が経とうとしていた。病弱系ヒロインとしてとても順調な日々だったと思う。周りの人達は俺のことを思いやってくれるし、俺も良い感じに病弱系ヒロインスマイルを筆頭とした病弱系ヒロインムーブを堪能できている。咲良ちゃんや兄様、お父様、お母様、菖蒲先生といった人達には感謝してもしきれない。本当にいつもすいません、そしてありがとうございます。
そう、本当に素晴らしい日々なのだ。出会いがないということを除けば……!散々、俺をヒロインにしてくれる主人公が欲しいと言っておいてこの体たらく。しかし、これには理由がある。病弱系ヒロインをやってるんだから当然といえば当然だが、周りの人が過保護でほとんど外に出してもらえないのだ。
まあ、これは当然といえば当然である。前世の世界で言えば生まれつきの難病を持っているのが俺こと千歳ちゃんなわけで、加えて千歳ちゃんは成長したとはいえまだまだ幼い。子供ってだけでもアレなのに、体が弱いなんて属性もあればそうそう外出許可が出るはずもなく。一応、無理を言えば出してもらえるのだろうが、俺の側仕えである咲良ちゃんもしっかりしているとはいえまだまだ子供の範疇。当然、外出するとなれば屋敷の誰かが俺達につくことになる。一回で済むのなら、ゴリ押ししちゃっても良いのだが……。
まだ見ぬ主人公を探すなんて目的である以上、一回で終わるはずもなく。何回も何回もあてもなくそこら中を歩き回るのに付き合わせるのは流石に申し訳ない。そもそもとしてお父様もお母様もかなり過保護な方である。軽々に外出許可を何度も何度も出してはくれまい。かといって勝手に屋敷から抜け出したりしたら、怒られるのは俺の側仕えである咲良ちゃんである。それだけは本当に避けたいので、お忍びヒロインムーブは未だにできていなかったりする。
外出してはしゃいじゃって、体調を崩すテンプレムーブをまだ出来ていないのが心底悔やまれるが、流石に咲良ちゃんを悪者にしてまでやりたくはないので自重している。
外に出られないんじゃ出会いも何もない、そういうわけで主人公君は未だに絵に描いた餅状態が続いている。まさか、あまりにも完璧に病弱系ヒロインムーブをしてきたことが裏目に出るとは俺も予想外である。千歳ちゃんが病弱系ヒロインとして可愛すぎてしまったことによって起こってしまった悲劇といったところだろう。
こうなったら徐々に体調が良くなってきたよー的なムーブを数年かけて続けることで、外出のハードルを下げるか?かなり長い時間がかかるだろうが仕方あるまい。咲良ちゃんが言うように何事も一朝一夕になるものじゃない。
それは病弱系ヒロインだって同じこと。病弱系ヒロイン一日にして成らずである。正直、個人的には幼馴染ヒロインも好きな属性なので、幼い頃から共に過ごしてきた的な相手が良かったが……。この際、それは仕方あるまい。待っていろよ、この世のどこかにいるであろう主人公君!必ず見つけ出してやるからなぁ!!!
◇◇◇
その日もまたしんしんと雪の降る夜であった。そこにはいつもと同じような主従の日常があった。いつもと同じようにそのまま何ごともなく終わる……はずであった。そこに異物が紛れ込む
「千歳様お下がりを!」
その日、降り積もる雪を見ようと庭に出ていた二人の前に現れたのは襤褸切れを身に纏った一目見ただけで尋常ではない少年であった。
「ウグゥ……ウガァ……!」
(なんだこの凄まじいほどの陽の気は……。いや、それよりも今は!)
従者は侵入者の素性よりも何もよりも主の無事を優先した。その身で庇った主を抱え、その場を離れようとしたその刹那。自身の前に出る、小さな白い背中を見た。
「千歳様!」
「ごめんなさいね咲良。けど、大丈夫よ。私、分かるもの」
従者の言葉を振り切り、伸ばされた手を掻い潜り小さな白い主は歩を進める。そして少年に向けて微笑みながら、あまりにも場違いなほど優しい声で言葉を紡ぐ。
「あなた大丈夫?凄く辛そうだけれど」
「ガァ……ガァ……!」
近づく少女を警戒したのか少年の陽の気がより一層に高まっていく。しかし、それを少女の陰の気が優しく包み込む。
「コホッ……大丈夫。もう大丈夫」
「ガァ…ガァ……あぁ……」
「千歳様……」
少年の陽の気と少女の陰の気が混ざり合い、打ち消し合い、調和していく。それはまるで2人で一つであるかのように。少年の口から苦悶の声が消えていく。理性の戻った瞳で少女を見つめる少年に少女は従者が見たこともないような顔でこう告げた。
「先ずは自己紹介よね。初めまして、私は園城寺千歳というの」
その日、少女は──対とであう。
(探し出すどころかあっちから来てくれたぜぇ!千歳ちゃんと対を成すような陽の気ムンムンの少年とか、これかなり主人公だよ!今、漫画やゲームだったら絶対ええ感じのBGMが流れて感動的なファーストコンタクトしてるよこれ!!!うっは!テンション上がってきた!お前のヒロインは千歳ちゃんだぁぁぁぁ!)
……その日、少女は──対とであう!
正直、一発ネタからの発進だったこともあり直ぐに飽きられると思っていたのですが、思った以上にご愛読を賜り大変驚いております。皆様いつも本当にありがとうございます。
さて、ここまで何とかほぼ毎日投稿してきましたが、ストックなしで始まったこともあり流石にそろそろ苦しくなってまいりました。
一応、主人公君と千歳ちゃんの出会いまでかけたのでここからは少し投稿ペースを落とそうと思います。
元々、拙文なものがより拙くなるもの恥ずかしいですし……。
皆様に忘れられないように週に一回から二回程度は投げたいと思っておりますので、良ければお付き合いただけると幸いです。