「……」
斑目一角は、『刃禅』を組んでいた。
柄にもないと自分自身思いながらも、青空の元で一人…否、一人と一刀が悩みにふける。
大きな戦いを乗り越えて、世界には平和が訪れた。
現世で、あるいは尸魂界で、もしかしたら虚圏を含めても、生活を営む多くの者達が、喜び笑顔を浮かべていることだろう。
だが斑目一角の表情は優れなかった。
それは、自らが戦い方を指南した内の一人ーーー阿散井恋次の話を聞いたからである。
『卍解の名前の事ッスか?』
なんともなしに、顔を合わせたからと思いついた話題を振っただけのことだった。
卍解自体がそも珍しいものの為一概には言えないが、卍解の名前が変わることなどそうあるものなのかという疑問が、頭の片隅に引っかかっていたが故に口をついて出ただけの質問である。
『いやぁ、教えられた時ぁ正直ショックでしたよ』
そう言って告げられた内容は、『斬魄刀から半分しか認められていない故に、本来の名前の半分までしか教えられていなかった』という事実。
零番隊のーーー「真の名を呼ぶ」で『
自らの半身であり、命を預ける相棒たる斬魄刀から、『半分しか認められていない』など、まともな死神であれば自らの未熟を恥じ、落胆することを止められないだろう。
そのことへの同情と、しかしそれを乗り越えて見事自らを完全に認めさせ、いつしか自分よりも上の実力者となった一人の男へ向けての称賛、それを言葉にしようとして、しかし口をつぐむ。
その後、不審に思った阿散井恋次からの呼びかけにも答えず、その足でそのまま誰も居ないこの小高い丘まで来て、刃禅を組んでいる。
『しかし、どうにもらしくなさを感じるね』
思い出すのは、長年の腐れ縁であり友人でもある綾瀬川弓親から言われた言葉。
『自然美、心の平安、不思議、笑顔……あるいは偽り、ごまかし、半信半疑。
鬼灯の花言葉は、どれも一角への印象とはずれるな、と思ってさ』
当時はなんとも思わなかった。
『花言葉なんて洒落たもんを知ってるなんてコイツらしいな』程度の感想を抱いた程度だった。
だが今になって、阿散井恋次、綾瀬川弓親、二人の言葉は斑目一角の頭の中で線となって繋がる。
◆
「で? 態々こんなとこに呼び出して何の用だ、一角」
目の前に立つのは、自らの上官であり、憧れでもある、尸魂界最強の男ーーー更木剣八。
「更木隊長……いや、」
「更木剣八!俺と戦え!!」
「……ほぉ」
更木剣八はニィ、と好戦的な笑みを浮かべる。
「分かった、いいぜ」
細かいことなど一々聞こうなどと思わない。
戦えるのならばそれでいい。
その戦いが心躍るものであるのなら最上である。
それこそが更木剣八。
それでこそ、更木剣八だ。
(……それに比べて、俺は何だ?)
あの時。
初めて更木剣八に出会い、敗北を喫し、その上で生き残った時。
更木剣八はなんと言っただろうか。
『もう一度俺を殺しに来い』
そうだ。そう言っていた。今でも鮮明に思い出せる。
だが自分はどうだろうかと、阿散井恋次に告げた言葉を思い返す。
『俺の目標は、あの人の下で戦って死ぬことだ』
ーーーふざけるな
今更に思う。あれは侮辱以外の何物でもないと。
更木剣八と戦い生き延びた己への侮辱であり。
戦いを至極の喜びとする更木剣八への侮辱でもあった。
羨望、尊敬、憧憬……美しい"虚飾"で覆ったそれはーーーただの諦観であると。
ここまで強い男が居るという感動に打ちのめされ、しかし同時に『自分ではどうせここには辿り着けやしない』と妥協した結果、それが今の自分であると。
阿散井恋次は、尸魂界有数の大戦力となり、貴族である朽木白哉に勝ち星こそ上げられていないが匹敵するまでになった。
自らが戦った旅禍の少年黒崎一護は、数多の困難を乗り越え、世界を救った英雄となった。
(いや違う、そうじゃねぇだろ)
他人は関係ない。
今ここにいるのは、殺し合いに喜びを見出す獣二匹。
それでいい。
それ以外はいらない。
戦いの師匠、長年の友人、優秀な副官、どれもこれも下らない。
『目の前に立ちはだかる"最強"を超える』。
その目的に比すれば数多の肩書のなんと矮小なことかーーー!!
(そうだ、それが俺の本音、本心ーーー本能!!!)
「卍……解ッ!!!」
今こそ
声高らかに謳い上げよう。
今度の新作アプリで明らかになったりしないかな、鬼灯丸の本当の名前
あるかどうか知らないけど