「きぇい!!」
呪霊、漏瑚から放たれた炎熱が禪院扇を襲う。
が。
「流刃若火ーー天」
禪院扇が超高速で振り抜いた刃が、その炎熱の全てを斬り祓う。
簡易領域。
元はシン・陰流に一門相伝として受け継がれる、領域の必中効果を中和する為の領域対策である。
シン・陰流はそこから更に、居合の構えを取ることで簡易領域の範囲内に入ってきたものを自動で迎撃する技術として簡易領域を確立させてもいる。
落花の情。
御三家秘伝とされる、自らの呪力に触れたものを自動で迎撃するという、これもまた領域対策として編み出された技術の一つである。
元より領域対策という同一の目的のために開発された技術のためか、類似点を多く持つこの2つに着目し、相互に組み合わせ重ねることで相乗効果を生むことに成功した。
結果生まれたのが、流刃若火『天』。
周囲に術式・流刃若火によって生み出した炎を球形に展開し、展開した炎を境界線として領域を形成。
炎、即ち境界面に触れた物を落花の情の要領で迎撃し、更にそれを簡易領域の要領でプロセスを半自動化するとともに縛りを設けることで呪力効率の上昇をも可能とした。
これを生み出す原因として、禪院扇が今現在『術師最速』と呼ばれる男と生まれたときから切磋琢磨する関係にあったことが要因であることは間違いないだろう。
「死ね!」
「無駄だ」
左右から挟み込むように炎熱を這わせる。斬り落とされる。
火礫蟲を用いた時間差での波状攻撃。苦もなく対処される。
炎の波による広範囲での攻撃。炎の波は斬り拓かれ、その中心に剣を振り下ろした体勢の禪院扇は変わらず立つ。
「己より速い相手には慣れている。その程度では、我が身に貴様の炎が届くことなどないぞ」
「このっ……ならばこれはどうだっ!!」
形振り構わない、極めて純粋な暴の道を突き詰めた、広範囲・高威力の一撃。
「術式反転」
だが、それも、禪院扇は阻んでみせる。
「大紅蓮氷輪丸」
「氷結……!?」
「順転が炎熱ならば、反転は氷結。当然至極」
自らが十分に力を込めた一撃を、たかが人間風情に防がれた。
眼前の事実は呪霊としての誇りを強く持つ漏瑚に驚愕をもたらし、そしてその驚愕によって生まれた隙を見逃す禪院扇ではなかった。
「シン・陰流ーー簡易領域」
再度、簡易領域を展開する禪院扇。
しかし今展開したソレは、自らを守るためのものではなかった。
「流刃若火ーー翔」
「ぬぉぉぉぉぉおおおおお!?!?」
居合の構えを一切変えないまま超高速で突進してきた禪院扇の姿に、漏瑚は咄嗟に全力で仰け反り、バランスを崩した挙句無様に地を転がって距離を取った。
「なん、貴様、それは!?」
「フッ……随分な慌てようだな。ジェット噴射を見るのは初めてか?」
「ジェット噴射の要領ですっ飛ぶ人間を見ることなどそうそうあってたまるか!?」
思わず声を荒らげながらも、額(山頂?)付近に刻まれた斬り傷の痛みを感じながら、やってくれるな、と苦渋を飲む。
禪院扇は何も複雑なことはしていない。
ただ術式を用いて、自らの背から炎熱を噴射することによる超高速移動を可能にしただけだ。
本来の条件である『規定した二点から足を離さないこと』から、『下半身の状態を固定し、足を用いた移動行動をしない』という縛りへと簡易領域の条件を変え、その状態で背からジェット噴射を行うことで、『超高速で移動する自動迎撃機構』という少しばかり奇天烈な絵面が結果的に生まれてしまっただけである。
「しかし、今のも当たらんか」
「貴様の眼は腐っているのか?きっちり当たっておるわ」
「首を落とすつもりで振るった剣だ。その程度では当たった内には入らん」
「さて……伏せ札も見せた以上、ここからはこちらも攻勢に回らせてもらう」
「!」
今度は背に加えて両の踵から炎熱を噴射し、刃を振り上げた禪院扇は再度漏瑚へと迫る。
振り下ろされた刃を仰け反って避ける漏瑚だったが、禪院扇は刃を振り抜く勢いそのままに爪先から炎熱を噴射し前転、漏瑚の脳天へと踵落としを決める。
「ガッ……!」
脳天を揺らされた漏瑚は、混乱の只中へと叩き落とされ、さらに畳み掛けんとする禪院扇は刃の峰から炎熱を噴射し、独楽のごとく回転しながら漏瑚の首を今度こそ落とさんとする。
「ぬ、かぁ!!!」
すんでのところで両の手から『炎熱を噴射した』漏瑚は、辛うじて命の危機から脱することに成功した。
「む」
「く、はは……中々面白い曲芸だ、人間。だが、儂の前でそのように何度も手の内を見せてしまうのは迂闊だったな?」
「模倣されたか……厄介な」
「同じと思うなよ?力も!技も!人間の呪術師に劣る儂ではないわ!!」
超高速へと加速した両者は天へと昇り、閃光の尾を引きながら戦いを続けるーーー。
炎熱のジェット噴射による高速飛行、一番効率がいいのは身を丸めてケツの位置から噴射する体勢では?
というネタが頭を過ったけど本編に差し込むのは流石に控えた。