再度空気が張り詰める。
わずかばかりに時を置いたことで、一撃を振るうだけの余力は互いに回復した。
(だが、先手は取らん)
幾度にも渡る交錯を繰り返して理解したことがある。
奴ーー禪院扇よりも己の方が速い。
だが、禪院扇はそんな己を苦もなく捉える。
(奴自身が言っていたか。『自分より速い相手には慣れている』だとか)
その言葉が虚勢でもなんでもないことを、漏瑚は確信していた。
禪院扇が特に鋭い一撃を放ってきたのは、先手を打ってきた時ではなく、後手の返しの中でこそ。
漏瑚の思考をより確固たるものにするかのように、一歩踏み込むだけの体力は回復したはずの禪院扇は、打ち込んでくることなくひたすらに『待ち』の姿勢を崩さない。
(奴が焦れて一歩踏み込んきた瞬間ーーその瞬間を逃さず、狩る!)
「………………」
「………………」
お互いに相手が焦れて先手を打つ瞬間を待ち望む。
膠着は一瞬か、あるいは永遠か。疲弊した両者には正確に時の経過を測るだけの感覚も失くしていた。
「私の術式、流刃若火はな。順転においては炎熱を操る」
「!」
動きを見せることなく、しかし口を開いたのは禪院扇。
(術式の開示!?今更になって?……誘いか!?)
「反転においては氷結を。……熱気ではなく炎熱、冷気ではなく氷結というところがミソでな」
呪霊・漏瑚の直感は正しい。
『術師最速』との切磋琢磨によって、後の先を取ることに異常に長けた術師へと成長を遂げた禪院扇に対して、先手を取ることは愚策という他ない。
(踏み込めば取られる……今はまだ、待つ!……奴がこちらへと踏み込んでくる、そのときを!)
「生まれた炎熱と氷結は、呪力へと還り完全に大気に溶けるまで、自然現象としての炎と氷の性質を内包している。
ここ一帯には、元よりここにあった大気と、私が撒き散らした氷結が混ざりあって存在していた」
漏瑚の誤算……それは、『後手を取ることが得意』は、『先手を取る手段がない』と等しくはないということ。
「それらは私たちが放ちあった炎熱の衝突によって熱せられ、温められた大気は空へと上がりーー」
「雷雲を作る」
「!?」
術式の開示が完了したことで膨れ上がったのは、上空に滞留する雲と、それに纏わりつく呪力の存在感。
「きさっーー」
「術式廻転」
「麒麟」
空より落ちた雷が、呪霊・漏瑚の身を灼いた。
「……む、ねん」
力尽き、倒れ、塵となっていく呪霊・漏瑚に、術師・禪院扇は背を向ける。
「呪霊と人間ーー決着は、私の勝ちだ、漏瑚」
そうして歩き出した禪院扇の体が
「む、ぐっ……」
自然現象を用いて放つ、術式廻転・麒麟は、その効力に比すれば少ない呪力で発動することが可能である。
しかしそれでも、支払うべき呪力量は決して小さいとは言えないもの。
その消耗は、ただでさえ気力だけで立っていた禪院扇から、最後の余力を削り取るには十分だった。
「まだだ、まだ……真希……真依……」
「必ず、助け……だから……どうか……無事、に……」
そうして、禪院扇は深い眠りに付いた。
目覚めたときにいかなる景色が広がっているか、そも、次に目覚めるときは来るのか、否か。
答えは出ない。
今は、まだ。
最後はNARUTO要素で〆